ウマージャン娘~賢さトレーニングは麻雀で~   作:ベリーナイスメル/靴下香

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麻雀大会予選・セイウンスカイ

「よろしくおねがいします」

 

「はぁい、よろしくおねがいしまーす」

 

 さて、と。

 ネジは巻き直した、約束もした。

 なら、勝たないとね。

 

 お相手は……うん、まぁ不安な相手じゃない。

 けど、ただ勝つだけじゃ意味がないのも確かで。

 

 対面*1()はスペちゃん。

 上家*2の娘はキング。

 下家*3の娘はグラス。

 

 それぞれ、打ち筋*4がよく似ている。

 いわば今からやるのは実験だ、今日この日のために考え抜いた作戦が通用するのかどうかのシミュレート。

 

 はっきり言って。

 私はそれほど強くない。

 

 かつてレースの時だって思ってた、優秀なお家柄でも無ければ特筆した脚を持っているわけでもないって。

 同じだ。麻雀だって同じ。

 勝つためにはこの頭でやり方を考えに考え抜いて戦わなきゃならない。

 

 そうだよね、トレーナーさん。

 必死に考えたら、勝利って光は見えるもんだよね? 手を伸ばせば届く位置にやってくるもんだよね?

 

 そう、教えてくれたもんね。

 

「やだな、こういうキャラじゃないのにねセイちゃんってば」

 

「はい?」

 

「あ、ううん。なんでもない、それじゃサイコロボタン押すよ」

 

 やれやれだよ。

 これじゃやっぱりキングを誂えない、けど良いよね。

 

 滅多にやる気を出さない私だから、やる気を出す場所をいつだって選んでた私だから。

 

 今が、この大会が、やる気を出す場所だって決めても。

 

 さぁ、手を伸ばそうじゃないか。

 

 並んだ山から一つまみ、4牌を手元に。

 

「……っ」

 

 東が三枚。思わず顔に出ちゃったかも? バレてないよね? 

 やだなぁ、セイちゃんってば持ってるぅ。こんなの……どうにでも出来るじゃん。

 

 惜しむとすれば起親(チーチャ)*5じゃないことだけど、次は親だ。

 出来れば……ううん、上がって親を持ってきたい。別に流れだなんだっていうオカルトを信奉しているわけじゃないけど、気分の話。

 

 続く牌は……うーん、三向聴。

 無理をすれば三色を目指せなくもないもないけど……って、赤5萬持ってこられた。

 表示牌は4索か、残念。

 

 とりあえずこれで東、ドラ1の二翻は見込める。

 後は他の娘の動き次第、かな。

 

 よし、理牌(リーパイ)*6終わりっと。

 さぁ、仮想キングちゃん、第一打はなんですかってね。

 

 ――3萬。

 

 いきなりキー牌*7落としか。こりゃ決め打ちかな?

 さて、セイちゃんは……よし、嵌張(カンチャン)*8ずっぽし、いいヒキだねー。

 

 浮いている西を切り出して、さぁ仮想グラスちゃんは……東、ね。

 続いて仮想スペちゃんは1萬。

 

 とりあえず上家の動きは警戒しておこう。

 表情を見るにまだテンパイまでは遠そうだけど……腹芸は、どうだったかな。多分、キングと同じく下手な方だったはず。

 

 そしてキングと同じように、王道の役を絡めたがる傾向は知ってる。

 平和(ピンフ)*9、タンヤオ、イーペーコーは勿論、三色や一通も好きだったよね。

 なら3萬落としから見えるのは高めの三色、ってところかな。

 

 仮想グラスちゃんは東場を守勢に回る傾向にあるよね。やっぱりグラスちゃんと同じように。

 東を切り出してから手牌で必要にならなそうな2、8の各色を切り出して、誰かのテンパイ気配に合わせて端牌や字牌を切り出してある程度の安全性を確保する打ち回し*10

 

 グラスちゃんほど後半の気迫はないけど、切羽詰まればどうなるかわからない。

 とりあえず前半で稼げるだけ稼がせてもらおう。

 

 9巡目。

 ツモが好調だなぁ、ほんとに私はセイちゃん? これが決勝でもきてくれると良いんだけど。

 そんなわけでテンパイ。東、ドラドラの5200。リーチをかければ満貫になるけど……ここは黙聴(ダマテン)で。

 

 グラスちゃんを復活不可能なまでに潰しておかないと。

 待ちは1筒、端牌に安全性を見出している下家ちゃんだからリーチをかけても振ってくれそうだけど、そこまで甘く見ないほうが良いよね、上手く河*11も作れなかったし、テンパイと分かれば握り込む公算が高い。

 

 それに上家も露骨にテンパイ気配だ。待ちは河から考えるに索子の高め。

 それくらいは下家ちゃんも、対面ちゃんもわかってるよね。上家ちゃんもロンは出来ないって思ってるみたいだし、ツモにかけるってことは両面待ち。

 

 巡が回っていく。

 下家はとうとう抱えていた字牌を切りきったみたいで、1索子を切り出した。対面は降り気配。

 さて、私がツモるか上家が先にツモるか。そろそろ私もテンパイ気配を殺しながら回すのも厳しくなってきた――っと。

 

「ロン。東、ドラドラは5200」

 

「あ……」

 

 ふぅ、なんとか上がり。

 予想通り予定通り、下家から1筒が溢れてきた。

 

 とりあえず、先制。

 ここからが、策士セイちゃんの見せ場、始まるよってね。

 

 

 

 南場*12にはいった。

 

 43000の持ち点とかなり優位に立っているのは良いんだけど、ここからだね。

 下家を狙い撃ちしすぎたかな、残り3000点とハコワレが見えてるしやっぱりグラスちゃんと違って完全に戦意を失ってる。

 

 あの娘なら、ここでむしろ燃えてるところなんだけどな、まぁ良いや。

 

 このままリードを保って逃げ切りと行きたいところだけど、私は南場が極端に弱い。

 現に配牌が東場の時と一変して嫌な感じ。二向聴って言葉は悪くないけど露骨に対子*13で纏まってる。

 

 要するにここから。

 得た点数をどうやって使うか。

 

 やっぱりツモも悪いし、上家が切ったからと同じ牌を切ってみれば直後に切った牌を持ってくるなんてわかりやすく裏目に出る*14

 

 いつもの調子で打つなら、私の勝ちパターンはここから安手に差し込んだり、無理やり喰いタン*15したりで自分のリードを最後まで保つってスタイルだけど……。

 

「リーチ」

 

 さて、対面からリーチが入った。

 やっぱり仮想スペちゃんと言うべきかな、浮いている端牌を切っていったらテンパイしたからリーチしたみたいな河*16

 横にした牌が4索ってこと以外にほぼ情報がない、こういうのが一番読みにくい。そのくせリーチだ、下家のハコワレが見えてる状況でかけるってことは逆転に届く内容なんだろうさ。やんなっちゃうね。

 

 上家はツモってきた牌をそのまま河へ、4索。

 うん、一発も嫌だしとりあえず対面が二巡目で切った西を切っておこう。

 

 順当に読むなら么九牌を切っていっての4索なら、中張牌(チュンチャンパイ)*17で待ってる可能性が高い。スジを絡めて考えるのなら1索、7索あたりは切れるかも?

 下家も同じく対面が切っていた北を出した。

 

 対面ツモは……よし、切って1索。

 んー他の色を切って欲しかったな、まだわからない。

 

「リーチ!」

 

 っと? 上家からもリーチ。おー強いね、ドラの3萬切っていくかー。

 でも、ロンの声は上がらない。

 

 この局面で強打するんだ、いい手が入っているんだろうね……対面と同じ理由もあるし。

 

「ごめん、ちょっと待ってね」

 

 一言断ってから長考*18に。

 ツモってきたのは2萬。これで重なって9萬を切れば七対子(チートイツ)*19テンパイ。

 待ちは6萬だけど場に2枚、手持ちの1枚とありかが三枚見えてて和了の目は薄い。

 

 上家の河から見えるのは……難しいな、染め手の気配があるくらいしかわからない。高い手で逆転をと考えるなら、王道好きなら一通と絡めてるのかも知れない。

 場に字牌の生牌(ションパイ)*20は東。上家が持ってる公算大。

 なら最悪から考えれば、役牌、混一色、一通の跳満。親だから18000の逆転手。清一色(チンイツ)*21もあるか。

 

 絶対に振れないね。

 調子が悪くなる南場だもん、ここでやらかしたら予選落ち待ったなし。

 

 もう少し、待つしかない。

 

 とりあえずテンパイ崩して安牌から――いや、待て待て。

 上家のリーチ、横にした牌は手出しじゃなかった。ツモってテンパイしたからリーチしたんじゃない。

 なんで? なんで今リーチをかけたの? それもドラを強打してまで。

 

 やけっぱち? この局面で?

 そんなわけない、何か理由があったんだ、この娘なりの。

 

 思い出せ、思い出せ。

 いつから上家はツモ切りしていた? どうしてドラが通ると判断した?

 

 ツモ切りは確か、4巡前から。そこでリーチを掛けなかったのは……手替わりを待っていたから。

 そこから手は動いていない、それでも今リーチしたのは……手替わりの可能性が無くなったから?

 

「――っ」

 

 電流が、奔った。

 対面のリーチに追っかけリーチ*22をかけたわけじゃない。

 つまり、対面リーチからもう一巡する間に手替わりの可能性が無くなったんだ。

 私が西、下家が北、対面が1索、そしてドラ切りリーチ。

 

 西、北はまだ二枚行方がわからない。

 1索は対面が1枚切って、私が二枚持っている。

 

 上家が逆転するための手替わりを待っていたのなら、そして捨て牌から見える染め手の気配。

 

 リーチ、七対子、混一色の跳満。

 これだ、この跳満だ。さっきまでリーチをかけなかったのは、字牌を引くのを待っていたんだ。

 役牌、混一色、三暗刻*23の跳満を目指していたんだ、それを字牌の在り処がわかって、鳴いてしまえば混一色は二翻になるから、リーチでしか跳満に届かせることが出来なかったんだ。七対子なら裏ドラが乗れば絶対二つ、倍満まであるし。

 対々和*24の手段もあった……? いや、対々和、役牌、混一色じゃ満貫止まり、三暗刻の可能性はあるけど、和了の可能性はぐっと低くなる。

 

「……よし」

 

 なら索子と筒子は切れない。

 むしろ萬子で当たられる方がラッキーとすら言えるね。混一色が消えるならリーチ、七対子だけだもん、安い。満遍なく切られてる萬子の上で、まだ萬子の染め手が維持出来てるなら、もう白旗を上げるしか無いけど。

 

「――っ」

 

 下家へ目線を送ってみれば、慌てて自分の手牌へ目を落とす。

 そうだよね、散々東場で么九牌を私に討ち取られたもんね。

 

 この牌は通る、安牌だ。

 なら、行け。行くんだ私、ここが切所で勝負所、ここで引いちゃ決勝でもズタボロだぞ……!

 

「待たせてごめんね……リーチ」

 

 打、9萬。七対子、ラス牌の6萬待ち。

 対面の河にも上家の河にも見えている牌。

 

 何をこんなに悩んだんだと思われちゃうかも? セイちゃんってば臆病者だからさ、ごめんねー。

 

 でもさ……。

 

「くっ……」

 

 上家がドラの3萬強打、私が9萬。

 ねぇ下家ちゃん? 安全であると思っていた么九牌は、嫌だよね? 私が端っこ切って、同じように端を切ったら当たられるなんて、東場で沢山経験したもんね?

 

 この9萬、美味しいよ? 上家のドラ3萬と合わせて、3-6-9のスジ、安全だと思わない? しかもラス牌だよ? 大丈夫大丈夫、通るって。

 字牌、索子、筒子は上家に怖いよね、萬子の他スジはまだ見えてないもん、対面に怖いよね?

 

 だったらさ、食いついちゃおうよ。

 

「――ロン。リーチ、七対子、3200。トビ、だね」

 

「あ、う……」

 

 ごちそうさまでした。

 

*1
正面に座ってる人

*2
左手に座ってる人、チーは上家からしか出来ない

*3
右手に座ってる人

*4
どういう打ち方をするか、好んでいるか

*5
東一局で親のこと

*6
自分が把握しやすいように手牌を並び替えること

*7
3、7の数牌は受け入れ枚数が多い、両面待ちになったときあがりやすい端っこ待ちになりやすいことからそう呼ばれている

*8
順子になる一歩手前で真ん中の牌を待っている状態、引けば幸せな気分になる

*9
ポン、チーせずに4つの順子を揃えて両面待ちすること

*10
安牌をテンパイギリギリまで抱えながら打つことを、女流打ちと言ったりする

*11
捨て牌を並べるところ

*12
半荘戦では東場、南場の計8局行う。なお、親の時に上がれば一本場と言って同じ局が継続される

*13
同じ牌が二枚重なっていること

*14
人によっては発狂する

*15
鳴いてタンヤオを作ること

*16
棒テン即リーとも言う

*17
2から8の数牌のこと

*18
じっくり考えること。雀荘では事前に一言入れるのはマナー

*19
対子を7組揃えると成立する役。二翻だけど符計算がややこしくなるので注意

*20
まだ一枚も河に見えていない牌

*21
全て同じ色の数牌で手牌を作る役。六翻だけど鳴けば五翻

*22
あ、じゃあ私もリーチしますね……のこと

*23
手のなかで暗刻(ポンせずに同じ数字を3枚揃える)を3つ作ると成立する役。二翻

*24
ポンを使用し、暗刻で手牌を揃える役。四暗刻残念賞扱いされがち、二翻




注釈、始めました。一話からにもつけてます。
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