迷宮異聞録~マヨナカダンジョン(ダンまち×PERSONA4)   作:37級建築士

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2話同時投稿です、お間違えなく


Day10~真なる影

 ギルドの地下、そこでヘスティアは件の神物と面会を開いた。

 

 暗く静かな玉座、灯篭が照らす先に下の男はいた。まるで自分の来報を知っていたように、普段であれば案内を要する場所もこうして易くたどれるように道が開けていた。

 

「ウラノス、聞きたいことがある」

 

「……」

 

「ここ最近、各所起きている行方不明の事件、それについて君の見識を聞かせてはくれないか」

 

「聞いてどうする、お主たちは」

 

「関係者だよ。ベル君が、こことは違う別の世界を見つけた」

 

 表情が変わる。ウラノスの顔色から、ヘスティアは一つ安心を得る。

 

 ギルドの職員が関わる事件において、あまりにも本部の行動は乏しい。的外れな見解、何もない成果、それが作為的な者か、それとも知らぬゆえの限界か、その点はまず明らかにしたい。

 

 ことは不可解な事件、このオラリオにおいて異端ともいえる事象が働く。そして、その渦中にいるのが自分の愛する眷属であるなら、ことは慎重に運ばなくてはならない。つまり

 

 

「率直に聞くよ、ウラノス、君が僕たちの味方になるなら、ヘスティアファミリアは協力を惜しまない」

 

「……そうか、当事者だったか」

 

「あぁ、どうやらそっちも測りかねている事態みたいだしね。けど、エイナ君に関しては安心して欲しい」

 

「?」

 

「救出は現在進行形だ。朗報は近いと予想するぜ」

 

「……確証があるのか、ヘスティア、そちには」

 

「あぁ、あるともさ……もちろんそれは」

 

 胸をたたき、その豊かなふくらみを揺らす。

 

 

 

「僕の勘さ、女神の勘は当たる物さ!」

 

 

 

 

 

 

 男の尊厳を砕かれる気持ちよさを教えてあげるわ学園、入り口で見た時はそんな名前だったけどこんな名前をわざわざ復唱するのも馬鹿らしい、と言う訳でマヨナカダンジョンにかけて、この場所はエイナダンジョンとなった。

 

 エイナダンジョン、8階へ続く階段を上る。階層をつなぐ階段だけでも結構な登りの距離だ。

 

「こ、ここ……確か、4階ぐらいの建物じゃ」

 

「知るか、おいクマ公」

 

「ひぃ、ふひぃ……おんぶして欲しいクマ、ナイスバディちゃんねーのおんぶ、うひょひょひょひょ~」

 

 疲労がたまって幻覚を見ている。もうここに来て4時間は立っているし、さすがに僕も疲れて来た。

 

 ペルソナの使用を控え、戦闘を最小限にしてきたはずだけど、やはり主戦力が一人であることは厳しい。ヴェルフもそれを理解しているから、積極的に防壁になろうと前に出てくれる。その分、ダメージと疲労も大きい。

 

「ここが、8階」

 

 階段を抜ける。そこはいつものように教室が並ぶ廊下の迷宮ではなく。

 

 奥にガラスの扉が受け待つ。ただそれだけの部屋、つまり

 

「……ここ、もしかして」

 

「おい、待てって」

 

「いた、皆見て……あそこ」

 

 ガラス戸の奥に見えるのは屋上、そこは庭園になっていて植木や花のアーチで作られた本格的な庭がある。そして、その中央にそびえる鳥かごのような柵、そこにいるのは、いつもの制服を纏ったエイナ・チュールの姿であった。

 

「……クマ君」

 

「がってん……くん、くんくん」

 

 わずかに開けた扉の隙間から匂いを嗅ぐ。これで正解なら

 

「同じ、先生が持ってたハンカチと同じ匂いクマ」

 

「……ッ」

 

 屋上に出る。気配を探ってみるけど、周りには徘徊する敵もいない。奥にいるエイナさんは眠っているのか、それとも気絶か

 

 近づき、アーチが作る道を行くと、僕たちは鳥かごの前に至る。椅子に糸でくくられていて、これだけ近づいて声をかけても反応を示さない。

 

「おい、どうしたベル」

 

「……おかしい、何かが」

 

「何がって、敵の隙を付いただけだろ。早くしようぜ……もううんざりだ」

 

「うんざりって、よく考えてよ。戦闘は避けたけど、倒した敵もいっぱいいる。前はあんなに侵入で騒いだのに、やっぱりおかしい……これまでいた徘徊するシャドウがこの場所にだけいないのも、やっぱりおかしいよ」

 

 警戒が妙に低い。まるで無抵抗を装っているほどの怪しさまである

 

「周囲を調べよう……なにか、あるかもしれない」

 

「はぁ、何言ってんだ……どうしてこんな場所に長居しなけりゃいけねえ」

 

「でも、僕たちの戦力は限られているから……だから」

 

「なんだよ、俺たちがお荷物だって言いてえのか」

 

「……ヴェルフ」

 

「そうだろうな、お前はペルソナが使えて、こっちは息をして歩くだけで気が変になりそうだってのに、ベル、お前は!!」

 

「!」

 

「もういいだろ、なあ…………クソ」

 

 悪態を吐き、不機嫌そうに、いや

 

 

……どうして、そんな苦しそうに

 

 

 急に、まるでため込んだ毒が一気に回ったような、どう見ても様子が普通じゃない。何かがおかしい

 

「……ヴェルフ、一回落ち着いて……冷静に」

 

「冷静? は、冷静……れい……くっ」

 

 

……がたッ

 

 

「!」

 

 膝をつくヴェルフを支えた。ひどく汗をかいていて、何かの熱にうなされている。

 

 片に置いた手はまるで火のように熱くて、というより

 

 

「……ッ」

 

「先生!離れるクマ!!ヴェル助のそれは、きっと」

 

 

 

 

『あら、なんだかおもしろいことになってるわね』

 

 

 

 

「!」

 

 声がした、それは上に、鳥かごの上の、何も無いはずの空間に急に現れた。

 

 大の大人を易々と背負う大蜘蛛、そこに跨る扇情的な女王の姿、華美なドレスで高貴さ淫靡さを兼ね備えてしまった夜の頂点の姿、間違いなくそれはエイナさんのシャドウだった。

 

 

……やっぱり、罠だった。でも、今はそれどころじゃ

 

 

「クソ! クッソォオオオ!!」

 

「ヴェルフ、なんで、火がッ!?」

 

 燃えている、その体から溢れる赤黒い何かが周囲の空気を焦がす。草木を灰にして、宙に陽炎を作り出す。

 

 近づけない、まるで鍛治場の炉の中にいるも同然、このままでは、篭の中のエイナさんも

 

 

「ふふ、ヴェルフさんも目覚めたみたいね」

 

「!」

 

 ヴェルフの意識が向いた一瞬、その隙に僕らの周りにはシャドウ達が包囲している。これまで倒してきた口だけの球体や怪魚、空洞の刑務官や篭付きの鳥に人型のように振舞う手の平、多種多様な敵達が姿を現した。

 

「でもね、私の庭にそんなものはいらない。シャドウ達!!」

 

 エイナさんが氷の鞭を振るう。尋常じゃない数、まず勝ち目は見えない。なにより、今は迎撃よりも

 

「ヴェルフ……ッ」

 

 ためらっている暇はなかった。イナバギを呼び出して、燃え盛るヴェルフを抱え出口を目指す。

 

 ペルソナ越しに伝わる火の痛みに耐えながら、アーチの草木を焦がし駆け抜ける。あと少し、だけど

 

 

 

[ブフダイン]

 

 

「!?」

 

 地面を砕く氷塊の爆発。もろに衝撃を受けて地面を転がる。すぐに態勢を直そうとした、その時

 

 

「……ッ」

 

 地に足がつかない。氷塊は文字通り足場事砕ききって、僕らは重力に引き込まれ下へ下へと落下していく。

 

 どこまで続くのか、終わりが見えない。ただ、黒い空間を過ぎていく。

 

 

「ぐあぁあああああああぁあああああッッ!!!??!?」

 

「!」

 

 電撃が脳裏に走った。夢の中、イゴールさんが僕に告げた言葉

 

 

 

……ヴェルフ・クロッゾを、救えッ

 

 

 

「そう、なら!」

 

 上から見下ろすエイナシャドウよりも、僕はヴェルフを見た。

 

 今だ炎が絶えないその身に、イナバギの手を伸ばす。爛れた皮膚の体は火炎を受け付けない。触れるだけで、僕自身にまでもひどい激痛が走ってくる。

 

 

「離さない、この手は、仲間の手は!!」

 

「……ッ!」

 

「ヴェルフは、死なせない!! イナバギ!!」

 

 

  ×  ×  ×

 

 

 穴に落ちて数分、上からの光が見えなくなってなお僕たちは落下を続けている。ただ、建物の下に空いた穴じゃない。眼を開けばそこはまるで万華鏡のように乱雑で不安定だ。これまで見て来た建物の中の絵が細かに叩き割って繋ぎ直したような 

 

 そして、そんな光景も消えていき穴はただの暗闇に、だけど灯はある、それは

 

「……まだ、燃えて」

 

 イナバギが抱えているヴェルフが燃えている。けど、ヴェルフ自身に外傷はない、まるで魔法で纏った炎のように灯されている。

 

 抱きかかえたイナバギの体が炎にやられる。火の熱さと痛みが僕の方にも伝わって、このままでは落下よりも先にヴェルフの炎で

 

「……まだ、まだ耐えて……見えたッ!」

 

 灯す光の先、地表が見えた。燃えるイナバギの手を取り、心の声で技を放つ。 

 

 

 

[烈風破]

 

 

 

 地に背を向け、僕とヴェルフをイナバギは抱える。その状態で、イナバギの背後、乙る地面に向けて衝撃を放った。落下の速度が減衰し、地面にぶつかる衝撃は比較的抑えられた。

 

 2~3、地面をはねて勢いよく体は転がる。鈍い痛みと落下の影響で気分は最悪だけど、まだ体は動く

 

「……ヴェルフ」

 

 灯す光を見る。気を失っているのか、でも体の炎は消えていて、受け止めたイナバギにもダメージは無い。

 

 あと少し、火を浴び続けていたら持たなかった。ペルソナの弱点、イナバギは火炎に脆い。その爛れた皮膚を隠す包帯から見て明らかな弱点だ。

 

 

 

 

 

……ぷぎゃッ

 

 

 

 

「?」

 

 音がした、それはまるで高所から人形でも落としたような。

 

 そう、例えるなら着ぐるみのような大きいものを落としたような

 

「あ」

 

 忘れていた。あの場で地面に穴が開いたから、一緒に落ちるのが当たり前だ。

 

「よよよ~、クマは、クマはどうして……およよよ~」

 

 うん、クマ君だった。そうか、あの時一緒に、ヴェルフのことに気が回ってて完全に忘れてた。

 

 しかし、中身が無い着ぐるみだったおかげか、汚れているだけで依然無事のようだ。なら、問題は無い、はず

 

 

「……先生、クマにも、痛みを感じる心はあるクマよ」

 

「……」

 

 こんな時に、どう言葉をかければいいものか

 

 

1.ごめん、次からは受け止めるよ

2.着ぐるみだから大丈夫かと

3.唾でもつけておけば直る

 

 

 3はあり得ない、3はナンセンスだ。だから

 

 

「唾でもつけておけば……あ」

 

「およ!?……心が、冷えてくクマ、ぐすん」

 

 うん、なんでか間違えてしまった。テンパりすぎて勢いでボタンを押したような、僕は何を考えているのだろうか

 

「ごめん、言い間違えで……でも、おかしいな、あれ」

 

 頭が妙に重い、濁った空気が肺に入ってくる不快感、まるで最初にこの世界へ来た時みたいに

 

 

……ここは、いったい

 

 

 どこを見ても黒い、薄暗くてだだっ広い、やけに大きい空間だということは伝わる。

 

「クマ君、匂いで何かわからないかな?」

 

「ムチャ振りクマね……ん、スンスン……う~ん、ダメクマ。シャドウの残り香がひどいクマ」

 

「残り香って、それ、まずいんじゃ!」

 

 こんな暗闇で、しかも倒れたベルやクマ君を庇いながら戦闘なんて、これ以上ペルソナを使う精神力は持つのだろうか

 

 警戒する。聞き耳を立て、周囲に敵はいないか

 

「……そうだ、ヴェルフは!」

 

 いた場所を探す。でも、こうも暗くては方向感覚はマヒしてしまう。

 

「ヴェル助!いるクマか~!」

 

 呼び声は、遠くこだまするだけ。すぐ近くにいたはずなのに、よくよく考えるとおかしい。

 

 これじゃあ、人知れず消えたみたいに

 

 

「ヴェルフ!ヴェル……」

 

  

 あたりを見渡す中、それは

 

 

「ヴェル……いや、あれは」

 

 

 それは、火を灯しているナニカはヴェルフの姿をしている、そう、ヴェルフの姿をしている人形が燃えていた。

 

「!」

 

 背が凍った。熱気が肌を焼き焦がしてくるのに、僕は恐怖の冷えを真っ先に感じた。

 

 日が灯る、それは辺り一面に、いつからあったのか人形が転がっていて、どれも激しく火が灯されている。男、女、ヒューマンもエルフも獣人もドワーフも、それは見たことのある人物に似ていたり、そうでなかったり

 

 

『いらない』

 

「!」

 

 声の方向、そこにも人形があった。磔に火をくべられたそれは、その女性は、眼帯をして赤い髪をしていた。

 

 ヘファイストス様、かの女神に酷似した人形までもが燃やされている。こんな悪意に満ちた形で、一体だれが

 

 

『こいつらは、いらない……高貴な俺達には、いらない』

 

 

「ヴェルフ、じゃない……お前は!」

 

 磔の後ろから姿を現した。赤髪の男、いや少年が

 

 ヴェルフと似た顔で、少し幼い顔立ち、でも間違えるはずがない。あれは、あれはヴェルフなのだ

 

『お前も、俺にはいらない……クロッゾの頭首である俺に、お前らは不要だ!』

 

「!?」

 

 炎が舞い上がる。周囲を照らす赤い光が、この場所が墓地であることを明らかにする。

 

 墓石に腰掛け、どこかふてぶてしい態度で僕を見下ろしている。その姿は、まさしく悪い意味で貴族らしかった。

 

 

「君は、ヴェルフなのか」

 

 

『……無礼』

 

 

「!」

 

 手をかざした瞬間、とっさに背後に跳んだ。僕のいる位置に、貴族の服をまとった人形が大剣を振り下ろしていた。その姿、年をめしても酷似した特徴から、すぐに同じ続柄の人間とわかる。

 

 しかも、それだけではない。ヴェルフと同じ髪色の男や女、それに全身を鎧に包んだ兵士や、数多くの武装した人形たちが宙に、地に、燃え盛る墓地に姿を現したせいか、まるでここは地獄の釜の底だ。

 

   

「ヴぇ、ヴェル助の……ヴェル助のシャドウクマ!!」

 

「……そうか、そうだとは思ったけど……くっ」

 

 燃え盛る日の中、人形たちは行軍を続ける。大剣、長剣、槍、戦斧、鍛冶らしく多様な武器を構えて迫ってくる。

 

 

「ヴェルフは、本物のヴェルフはどこだ!」  

  

『……ふっ』

 

「!」

 

 偽のヴェルフの背後から、それは姿を現した。火を灯した髑髏、上半身だけで、貴族のマントを身に着けたそれはいくつもの糸を引いている。火の糸に繋がれたのは人形だけじゃない、あの偽の少年ヴェルフも、そして

 

「ヴェルフ……そこに」

 

 糸に縛られ、気を失ったままのヴェルフが奴のあばら骨の内側に、まるで火を灯し続ける燃料のように、その火を使って、人形たちは力を、狂暴性を帯びていく。刃を振りかざし、頭首の敵を討たんと、行軍は止まらない。

 

 

「クマ君、下がって!」

 

「もう下がってるクマ、でも先生もダメクマ!!焼け死ぬぅううう!!?!?」

 

「死なない、死なせない! ヴェルフも、誰も死なせはしないッ、ペルソナ!!」

 

 ポーチから取り出すデュアルポーションで傷を、疲れを強引に癒す。

 

 研ぎ澄ませ、集中しろ、刃を振るえ、術を放て!

 

 

……シャドウを倒す、倒して、僕は

 

 

 ベルベットルームで告げられた言葉、その意味は、今ここに

 

 

 

「僕が、ヴェルフ・クロッゾを、助けるッ……跳べ、イナバギ!!」

 

 

 

 




今回はここまで、試験を乗り越えたら続きを書きます。
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