迷宮異聞録~マヨナカダンジョン(ダンまち×PERSONA4) 作:37級建築士
自分の体が燃え出した、そんな自覚が芽生えた頃には、俺の意識はよくわからないところへ吹き飛んでしまっていた。
暗く静かな、そう深い夢の中だ。そこは懐かしい、いや、この懐かしいってのはあまりいい意味じゃない。なんせ、俺が見たのはラキアの実家の風景だ。親父が、お袋が、爺が、そんで、まだクソガキだったころの俺。それに、あいつも
……フォボス
麗しい見た目と反する雑で下品な調子、人をからかうような笑い方が癖になっていて、いつものごとくガキの俺をからかっている。乱雑に頭を撫でてやがる、あぁこうして見るとあれだ……やっぱきついな
今更、クロッゾの過去に思う所はない。とはいえ、あの頃は嫌な記憶しかない。押さえつけられて、窮屈で、貴族も家も、自分にまとわりついて離れないものがウザったくて仕方なかった。
唯一の救いは鍛冶、剣の打ち方を学ぶときは充実していたし、あとはフォボスとバカ話をしてる時とか、まあこう並べて見れば何もかもが悪いってわけでもない。
……そうだ、あいつとの時間は悪くない。フォボスは、俺の
『は、何言ってんの……見殺しにしたくせに』
「!」
理解が追い付かなかった。目に映る記憶の映像、そこに映るガキの俺が口に出して言ったのだ。
見殺しだとこいつは……いや、ガキの俺はそう言った。確かに、俺の魔剣を狙うあいつらから逃げるために、フォボスは身代わりになった。ラキアから逃げ出した時、遠くの都市から伸びる光の柱は、間違いなくフォボスの最後だった。
「……あぁ、だな」
フォボスのことは忘れない。いや、忘れようがねえ。俺はあいつに背中を押された。だから今ここにいる。
クマ公が言っていた、シャドウってのは心の抑圧された部分だとか、あのエイナ嬢に比べれば図分マシだ。
「俺のシャドウってのはこんなガキだったのか。けどな、所詮ガキの言うことだ、俺はもう」
『もう、何も感じていない……フォボスは犠牲になった、俺のせいで、俺が夢を見たせいで』
「……るせえ、うじうじ言ってんじゃねえ! 手前が俺なら、あいつのことは一番わかってるはずだッ」
胸倉をつかむ、そのふてくされた自分の顔に嫌気がさす。やはり偽物だ、なら、ここで俺が本物と証明するだけだ。
『……ヴェルフ』
「……なっ」
『会いたかったな、ヴェルフ。本当はな……私はお前と一緒に』
「!」
突き放した。瞬きの一瞬、その刹那にそいつは現れた。
でかくなった今、見下ろす側になっても見間違えることは無い。目の前に現れたその顔は、艶のある黒髪も何もかも、鮮明なままにあいつの姿だ。フォボスが、俺を見ている。
『お前、でかくなったな……私がいない間に、大変だったろ』
「……やめろ」
「ギャハハ、照れる所も変わってないな……わりぃ、私があんなことを言ったから」
「やめろ、おい……こんな幻見せて、何も!」
変わらない。あいつは死んだ、あいつの想いは……俺の為に、犠牲になったことは
「……ッ」
考えるな。これ以上、罪を意識するな!
戻れなくなる、そう理解した。俺は何もわかっていなかったのだ。それは……違う、俺はフォボスを……フォボスを!!
『悪かった……私が唆したから、お前に背負わせた。ヴェルフ、お前は悪くない、悪くないんだ』
「!!……やめてくれッ、あんたが、そんなことを」
結果、これは結果の話だ。
俺はフォボスと自分の矜持を天秤にかけた。クロッゾに縛られない自由を、鍛冶としての誇りを、そのために捨てた。ずっとそばにいてくれた、最高の理解者を
『やっと理解したか……大人の俺』
「……ッ」
また、あいつが現れた。金色の眼光を放つ、ガキの姿の俺が。
よく見れば、その装いは俺の嫌う貴族の正装、しかも当主の身に着ける礼服を、よりにもよって俺が。つまり、このガキの俺はもう一つの未来。クロッゾの家に残り、魔剣を作り続ける忌まわしいクロッゾになった俺の……あったかもしれないもう一つの可能性
「認めろってか、こっちが正しいって……俺は、クロッゾを選ぶべきだったって……ふざけんな!!」
『ふざける? 鍛冶ごっこのために、あいつを殺したくせに……フォボスを見殺しにしたくせに』
「違う!あいつは、確かに俺の犠牲になった。俺の夢の為に、この世界から消えちまった!でも、それでも、俺はあいつの想いをッ、願いをッ!!」
『……や、……けて』
「!」
後ろで燃え上がる。炎が、群衆が囲む先、そこに
「……な、なんだよこれ」
問うまでもない、そこにあるのは処刑場だった。アレスの怒りを、国民の不満を一身に受けたフォボスの末路
あるはずがない、そんなこと。だって、もしそうなら、本当に俺の
『見ろ!!お前の選択を……お前のせいで、フォボスは!』
「やめろ、止めてくれッ!!」
手を伸ばす。群衆の壁の前ではあまりにも遠い。むなしく、ただ無慈悲に、フォボスは今業火の中にくべられた。
聞こえる、叫びが、苦痛と絶望が反響する。この世を呪う怨嗟の声が、残酷な大衆の嘲笑と誹りが
『見ろ、聞け……これが、お前の選んだ道だ。』
「……違う、こんなの、お前が」
『現実を見ろ、お前はフォボスを捨てた、犠牲の上で成り立つ道だ。ガキみたいに青臭い夢を垂れて、大事な人を火にくべる。お前の炎は罪だ、だから焼け死ね、苦しめ!!』
「……ざけんなッ」
肉体を焦がす炎がまた灯る。これが罪の炎だと、こいつは言ってのける。俺の選んだ道は、間違いだと……そうだ、こいつは俺の偽物だ、だから……
「ふざけんな、偽物がぁあッ!!!?!?!」
『……はは』
ああ、そうだ。さいしょっから、こうすればよかったんだ。まともに向き合う必要なんてない。偽物だ、偽物なんだッ、こいつはッ!!
「偽物が、知った口きやがるッ!! てめえは俺じゃねえ、偽物がッ!!!!」
……ドクン
……ドクン……ドクンッ!
『あぁ、そうだな……けど、偽物は俺じゃないね、手前の方だッ!?』
「……なにを、お前」
取り返しのつかないことをした。それだけは嫌でも理解させられる。目の前のただのガキが、まったく別の生き物へと変わっていく。
『『我は影、真なる我…………ギャハハ、ギャハハハハハッ!!』』
二人の笑い声、業火の中から姿を現す髑髏の亡霊、一人と一体は宙を浮き、つがいがそろうように今一つに
深層世界の中、今一体のシャドウが開花した。
〇
奈落の墓地、今はその全貌が明らかになっている。あたりに散らばるのは壊れた人形達。それにその燃えカスと、周りは焼け焦げた跡ばかりでまさに焦土。ここが地のそこならまさに地獄の底と言うべきか
そんな場所で、僕は今だ戦闘を続けている。向かってくるのは火を灯した人形の兵士、錫杖の刃で首をはね、光の弾丸をばらまいても人形たちの特攻は尽きない。クロッゾの武器を持つ人形、その特徴は数だけじゃない。なぜなら、こいつらの握る武器は皆
「先生! 避けるクマ!!」
「!?」
背後から迫る貴婦人、ハルバードの振り下ろしをイナバギの防御でしのぐ。だが、これは悪手だ。この人形達の接近を許してはいけない。
「イナバギ!」
叫ぶ、同時にイナバギは婦人を蹴り飛ばし遠くの人形達の固まる場所に飛ばす。二~三体とぶつかった瞬間、ハルバードは盛大に爆発した。
同時に、巻き込まれた人形達の武器にも引火し、合計三体分の爆発が起こる。並々と注いだ油樽を着火したような、まるで戦場の攻城兵器の破壊力だ。
『ギャハハ! 惜しかったな、あとちょっとで巻き添えだったのにッ!!』
「!」
ヴェルフのシャドウがあざ笑う。遠く、人形の壁に挟まれた先、髑髏の亡霊を背に立たせ、炎の操り糸で大軍を奏ずる。イナバギには全体攻撃能力はあるけど、倒す数と追加するペースが釣り合わない。
「……ッ」
でも、一番きついのは数よりも相性だ。人形全てが炎を纏い、そして広範囲の自爆でこれまた炎をばらまく。
そう、イナバギは火炎が弱点だ。
「どうする、このままじゃ」
今でこそ敵の攻撃をしのげているけど、それもいつまで続くのか。ペルソナの力は有限だし、技を放つにも体力が奪われる。
かといって、ペルソナなしにこの状況を超えることも難しい。
「……ピンチ、なのかな」
口に出してしまった。だが実際にこうなのだ、今の手数では状況は変えられない。
……でも、そうだとしても
『はは、まだ頑張るのか? 近づけもしない、その上焼かれてボロボロだぞ、諦めて灰になれ。クロッゾの炎に焼かれて消えるんだ! これは、名誉ある死だぞ! ハハハッ!!』
「……」
ナイフを構える僕にシャドウはあざ笑う。でも今はいい、これでいい、大事なのは、折れないことだ。精神論と言われれば詮無いことだけど、それさえ折れてしまったら何もしようがない。
それに、この力は……まだ、完成していない。つながる絆が道を、先へ続く、ずっと成長を続けるから
……感じる。何か、まだ出来ることが
根拠は無い。けど、そう気づいたのだ。頭ではなく、心で
「……来い」
愚者のアルカナが示す可能性、その意味は、もうこの手の中に。つないだ絆は星、アルカナがつなぐ力の連鎖の先に、彼はいた。
我は汝、汝は我、その名を
「来い、ペルソナ……ッ」
次回、ペルソナチェンジ