迷宮異聞録~マヨナカダンジョン(ダンまち×PERSONA4) 作:37級建築士
昔、ヴェルフからはその話を聞いたことがあった。いや、正確には酔っぱらっている時の独り言、その時に聞いた名前、フォボスという人物。そして、その名と一緒に繰り返してつぶやく謝罪の言葉を、である。
クロッゾの過去、それは聞き出したい気持ちもあったけど、傷がいっぱいあるであろう場所に土足で踏み込む真似を、僕は良しとは思えなかった。
でも、今思えば僕は、ヴェルフの傍にいる僕たちは踏み込むべきだったんだ。
人は誰しも痛みを、傷を、はては罪を、後ろ暗いものが無い人はそういないのだ。表と裏があるから人の心は心至らしむる。
だから、どんなに否定しても決して消えはしない。影を消そうと光を強めれば影はより大きく黒く広がるだけ。介入しない優しさは見殺しなんだ。だからこそ、時には覚悟も必要だ。
きっと色んなやり方があると思うし、自分が絶対だとは言い切れない。でも、ことこの場合なら僕は自身をもって言える。
例え傷をつけてでも、踏み込んで、陰に隠れた本当の顔を、人に見せない涙を思い切って見るべきだった。きっと、嫌がって、恥ずかしがって、喧嘩になるかもしれない。でも、ぶつかって、ぐちゃぐちゃになって、そうやって吐き出した後にはきっと、問題の解き方は変わっている。
ヴェルフが抱える物は、僕の手の届くものに変わる。一人では抜けられない闇も、二人なら光に手を届かせられる。
この一歩を、僕は躊躇しない。友達の為なら、僕はどこにだろうと土足で踏み入ろう。
例え、この身が炎に焦がされようと、肉を溶かされ骨だけになろうと
この歩みに一抹の後悔も無し。成し遂げるその時まで、刻む轍に転進は有り得ない。
〇
「来い、ペルソナ!」
手に浮かべるカードは星のアルカナ。淡い星の光を砕き、そして放つ。我は汝、汝は我、星の導きに立つは都にはびこる虚の悪鬼。眼光は不要、ただその手に握る金棒一振りで敵を薙ぎ払う。
「吹き飛ばせ、フウキ!」
『!?』
現れたのは鬼、顔にあたる部分に空洞がある武人の白装束を纏う鬼、ふるう金棒は周囲の空気をかっさらい、緑の色を染め辺り一帯に吹き荒れる。
[マハガル]
全方位攻撃、イナバギには無い疾風の力、クマ君との絆が作った新しい力。
そう、僕の力はきっとこういうものなのだ。
愚者の数字はワイルド、つまりは何にでもなれるのだ。繋げた絆の数だけ、僕には力が生まれてくる。フウキは、クマ君の絆から生まれた力だ。
「……クマ君、ありがとう」
「クマ!」
「下がっていてね、そして見ていて欲しい」
見据える先、新ペルソナに動揺するシャドウヴェルフの更に後ろ。
亡霊の体内に閉じ込められたヴェルフ本人を見て、今一度告げる。意識する。これからすること、己の正しさを信じて、命を懸ける戦いに挑む。リスキーで、だけど故に心が躍る。冒険者の本質、起源、それは冒険者の本分、それは英雄への憧れ。
見せるよ、挑戦し続けることこそ、冒険者の姿、生きざまだから!
「せ、先生……うぬぬ、クマ!」
「!」
後ろの墓石の陰から飛び出た。怯えて震えて、でもその眼には今まで見たことの無い真剣さを感じる。
「く、クマも手伝うクマ。あいつの怪しい動き、この目と鼻で教えますクマ!!」
「……そう、助かるよ、なら頼むッ」
邪魔と言わない。余計だなんて思いもしない。言葉にして深く解さずとも、それが瞬時に信頼を置いてよいものと心が判断した。これも、繋げた絆のおかげか
「大きいの、来るクマ!タイミングは任せてクマ!!」
「!!」
囲んで様子を伺う人形達、しびれを切らしたのか、後方の列から魔剣を振り放ち、自分を炎に変えて放つ焔の砲弾。しかし、僕はそれを見ることなく躱して突き進む。
驚き、身構えて遅いかかる人形達を武器で打ち払い、疾風の魔術で撃ち落とす。
炎が立ち上り、爆発の破裂音で耳がやられる。それでもかまわないと、僕はフウキと共に突き進む。
『な、なにをしているお前たち!打ち取れ、焼き殺せ!!』
「……もう、無駄だ」
フウキのスキル、それは疾風の攻撃だけじゃない。その都度使用するものじゃない、常時機能するそのスキルこそが仕掛けのタネ
スキル、真・火炎見切り。フウキを通じて、僕には火炎の攻撃がどこから来るか本能でわかる。火を纏ったこの人形たち自体火炎そのもの。数だけが取り柄で、実際の攻撃は単調なもの、つまり
見えない攻撃さえしのげば、こいつらは敵じゃない。
「行っけええぇええッ!!!!!」
『ーーーーッ!!?』
悪鬼の叫び、金棒の打撃と疾風の波で人形たちを寄せ付けない。砲撃も特効も裁ききってみせる。
あと少し、もう少しで懐に
『させるか!この下民がッ!!』
「上クマ!!」
「!」
敵軍を突き抜けて、懐までたどり着くまであと少し、けどそこで止まる。見上げた上には火を灯した魔剣を携えた貴族たち、赤髪の貴族服はおそらくクロッゾの一員に違いない。彼らの持つ剣のどれもが、雑兵の持つ剣よりも上回っている。
火を灯した魔剣で近距離の炸裂、大爆発覚悟の特攻、それが狙い。
いかに回避があるとはいえ広範囲にまき散らかされればさすがに逃げようがない。
ただし、それはこの攻撃が不意打ちになる時だけだ。身構えて選択肢があるなら、正解は導ける。
タイミングは掴めた。この一瞬、逃しはしない
[マハガル]
『無駄だ、その程度の風、雑魚には効いたとしてもッ』
あぁ、その通り、彼の言う通りこの風では倒しきれない。下手な風は火を煽るだけ。火に携わる鍛冶師なら、それはきっとわかる。
火を炎に変えるにはどうすればいいか、それは空気を送ることだ。酸素を燃やし、より大きな焔を立ち上らせればいい。
『としても……まさか、まさかッ!』
背後の亡霊に指示を出す。糸で剣を捨てろと指示を送ったのだろうが、もう遅い。
マハガルの疾風は火を炎に、臨海寸前の刃を灼熱の炉に変え、今この瞬間
――――――――ッ!!!!?!??
『……ッ!?』
そう、燃える。疾風は炎上している対象ほど良く効くのだ。宙で弾けた人形達は四散し、黒い煙だけが辺りを包む。
……もらったッ
狙う対象は亡霊の心臓、ヴェルフを閉じたその骨の袋に金棒を全力で放つ。
[ミリオンシュート]
『ーーーーッ!!???』
「取り返すッ……ヴェルフ!!」
打突による連撃、拘束を砕き割り中に手を、ヴェルフを抱え、そのまま走り抜けるように距離をとる。
『貴様!おのれ、おのれッ!! 歯向かうとは許さんぞ、俺を誰だと思っているッ、鍛冶貴族!頭首のヴェルフ・クロッゾだッ!!』
「知ってるよ。でも、今は僕たちの、ヘスティアファミリアの鍛冶師、それがヴェルフ・クロッゾだ!!!」
『否定するのか、貴様も!!』
「……そうだよ。僕は、君を否定するッ」
手に浮かべるアルカナのカード。そこには星のアルカナと隣り合うように、愚者のアルカナも並ぶ。力を交差させ、最後の一撃を作りながら、思考を彼に寄せる。
……そうだ、僕は君を否定する。それは仕方のないことだけど、でも、本当は救うべきだ。救われるべきだ
僕にはシャドウとして敵になった君を受け入れることはできない。真にそれを行うべきなのは、この世でただ一人。その役目はヴェルフの物だから、だから
「……きっと、君も救われる。だから」
砕く、一つになった星の光は折り重なり、新たな光を生み出す。それは魔術師のアルカナ。二つを重ね、生み出した新たな一ページ。
「今は、その矛を納めるんだ。そして、少し眠って欲しい。」
呼び出す。我は汝、汝は我、悪戯好みし雪原の幼子よ、魔術師の示す可能性の道に、どうか導を見せてくれ
「頭を冷やして、話し合って、そうすればきっと、わかり合えるはずだから……ジャックフロスト!」
『!? ふ、ふざけるなッ、やめ、やめろ……オォ』
[マハブフーラ]
大地が一瞬で凍てつく。辺りを氷で覆いつくし、人形達はもちろん、骨だけの亡霊も大きな結晶に閉じ込められる。唯一、凍らず無事のシャドウヴェルフもその活動を止め、瞼を閉じて氷の上に倒れた。
「クマ君!」
「ほいさっ」
倒れ、地に落ちそうなところをクマ君がファインプレー、チャックを開けてそのまま着ぐるみの中へ収納してしまった。
「ふぃー、ぎりセーフクマね。およ、先生どうしたクマ?」
「いや、何もないよ。うん、とにかく、終わったね」
手段はともあれ、ひとまずシャドウは鎮圧。あたりを見渡して、そこは氷漬けになった人形に、未だ燃え続ける炎の残骸と、戦闘の激しさが生々しく残るその場で、僕は腰を下ろした。
ヴェルフもそっと寝かせ、ペルソナも一度消す。どっと脳や肉体の疲労が積み重なって、しばらくはまともに動ける気がしない。
「先生」
「……」
心配そうに見てくる。今の僕はよほどひどい顔色をしているのか。だけど無理もない
仲間の異変、未知の強敵、そして力の芽生えと連鎖立て続けのことで頭はどうにも回ってくれない。休息が必要だ。
ひとまず動けるうちにどこか安全な場所を、ここだっていつ他の敵が出てくるかわからない。
「行こう、クマ君」
「わかったクマ…………あ、肩お貸しするクマ」
次回に続く
今回はここまで、ペルソナチェンジと合体でした。ここら辺の雰囲気はアニメテイストで行きます