迷宮異聞録~マヨナカダンジョン(ダンまち×PERSONA4)   作:37級建築士

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ボス戦です。BGMはお好きなものをイメージしてください




Day15~雪山の大化蜘蛛

 

 

 吹雪が吹き荒れて、辺り一面に霜が広がっていった。空気が冷たくて肺が痛い。身がすくんでしまう

 

 けど、この震える手足の理由は、きっと、この目の前に現れた怪異のせいだ。

 

 

『ベルくん、私の大事なベルくんにはサービスして・あ・げ・る♡ だから…………切り刻んで!!凍らして!!大事に箱に詰めて、大事に大事に……キャハハハハハハハッ!!!!』

 

 

 

 

 大口を開け、怪異は嘲り笑っている。蜘蛛の巨体に、一糸まとわぬ裸体の人型部分。その部分だけでも優に3mはあって、しかも認めたくないことにその姿はエイナさんそのものだ。

 

 エイナさんの姿をした化け物。見たくない、認めたくない姿、これがシャドウの行きつく先の姿だというのなら。

 倒さないといけない。救わないといけない。大事なエイナさんを失いたくないから、僕は、

 

 

 

…………叫べッ!!

 

 

 

「怪物を相手にするのは、冒険者なら当然ことだ!! 引く理由には、ならないッ!? 来い…………ッ」

 

 

 

 吹き荒れる突風、風を纏い風で薙ぎ払う。図体のでかい敵に対しペルソナ一体でどこまでできるか

 

 懸念は絶えない。持てる力をもってして、この敵相手に上手く立ち回れるのか、この巨大な怪物を相手に僕は戦う。戦うんだ

 

 

 

「風を起こせ!!フウキ!!!」

 

 

 

 虚ろな鬼が金棒を振るう。戦いの幕は、疾風のごとく急いて開かれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『教育!指導!支配!私はアドバイザーじゃない、あなた達冒険者の女王様! 鞭を、鞭を振るってあげるわッ! 氷漬けにして、一生管理してあげる! 誰も、わたしのもとから誰独り逃がしはしない!!』

 

 

 

「……ッ」

 

 

 眼前で暴れ狂う大蜘蛛。本体の人型部分が氷のスキルを使い僕を封じ込めようとしてくる。四角形の氷柱を造り、時にはそれを飛ばし、足元から発生させて来たり、うかつに足を止めればまず重傷は避けられない。

 

 裏門の広場、隠れる場所もなく正面から迫ってくる巨体はまさに脅威だ。ガルもミリオンシュートも決定打にならない。気力と体力を無駄に消費してしまう。

 

 

『嫌い!嫌い! 私の言う通りにしない君たちが、大っ嫌いなの!!』

 

 

「……エイナさんの顔で、止めろ!」

 

 

 糸の斬撃、氷のつぶて、大蜘蛛の激しい攻撃をかわしながら、僕はナイフを持たない手を突き出し、手の平にもう一枚のカードを出現させる。

 

 

 

「来い、イナバギ!」

 

 

 

 

[マハコウハ]

 

 

 

 

 攻撃も大蜘蛛も、全部まとめて光で吹き飛ばす。相手は魔性の怪異のごとき姿、その体に光の雨が降り注ぎ、炸裂すれば有効打

 断末魔が上がった。風の攻撃よりも、ただの物理攻撃よりも、光の攻撃は明らかに通じている。ここ、ダンジョンのシャドウ達と戦って得た知識、それは属性の耐性。地下でヴェルフ・シャドウを倒した時も、これを利用して倒せたけど、今回もきっと

 

 

『ギッギャァ――――ッ!?』

 

 

「!」

 

 怒り狂い、またも下半身の巨体から糸を放つ。天高く何本も放たれた糸が、投擲兵器のごとく頭上から襲ってくる。

 先端には氷の刃、当たれば体は切り裂かれ、よしんばかわしても地面を砕く衝撃で身を怯ませてしまう。

 

「フウキ!」

 

 呼び出すは虚ろの鬼、ペルソナチェンジの狙いはスキル氷雪見切り。氷属性の攻撃に対して、このペルソナであれば、ただ展開しているだけで回避率が上がるからだ。

 

 直観的に迫りくる氷を考えるよりも先に回避すれば、まず致命傷は避けられる。受け流すだけなら、この敵はどうにかなるかもしれない。

 

 でも、今できるのはそれだけだ

 

 

 

『どうしたのかしら? 攻撃が来ないじゃない、決め手がないみたいじゃないの? 情けないわねベル君……指導、してあげないといけないわね。いつも教えてあげてるでしょ、モンスターとの相性を考えなさいって!!』

 

 

 

「くっ……否定できない、ことを」

 

 

 

 エイナ・シャドウの余裕、それはまさしくその通りだ。

 

 見た目通り氷の耐性持ち。おまけに疾風も耐えてくるし、さらに厄介なことに物理攻撃が効かない。

 

 

……手数が、足りない

 

 

 

「イナバギ!!」

 

 

[コウハ]

 

 

 

『……——――ッ』

 

 

 

 耐える。当たってダメージは通っているけど、有効打にはならない。怯まないのだ

 

 デカい敵を相手に、このままではなし崩し的に押し倒されてしまう。気力も尽きてしまえばペルソナが使えても

 

 

 

「ベル!?」

 

 

「!」

 

 

 声がした、と同時に僕目掛けて何かが投擲された。それを咄嗟にペルソナでつかみ取る。

 

 熱い、炎のように熱い剣だ

 

 

「……ありがとう、ヴェルフ!」

 

 

 意図を察して、僕はすぐに剣を振るった。魔剣の炎、ペルソナを使う僕が使えば、その炎は

 

 

 

『アァアアアアアアッ!!?!? よくも、女の肌を焼いてッ……悪い子には、お仕置きッ!!!』

 

 

 

「……通った、イケる」

 

 

 

 炎が蜘蛛の表面を焼き焦がす。雪のように白く覆われた殻が、焼け焦げて真っ黒になっていく。いや、表面の氷が解けたのだろう

 

 物理が効かない。それはきっと、表面の氷の鎧の影響だったのか

 

 

……これなら、物理攻撃が通る

 

 

 

「イナバギ!!」

 

 

『図に乗るなァアアァアアアッ!!?!?』

 

 

 錫杖を振るい、穂先の刃で足を、お腹を、人型の本体を切りつける。五月雨切り、幾重にも切るつける斬撃の剣閃が届く。効いている

 

 畳みかけるなら今、五月雨切りでこのまま

 

 

「ベル!!」

 

『乗るなって、言ってんでしょうがァアァアアアアアアアッ!!!?』

 

 けど、そうことは思い通りには進まない。

 

「くっ!」

 

 弾かれる。またも蜘蛛糸で振り放たれた氷のフレイル。ペルソナを通じてダメージが肉体に響く。すぐにフウキに切り替えて、ダメージを避けんとする

 

 

……反撃が早い、怯み切っていないんだッ

 

 

「火力が足りないからッ!」

 

 

 クロッゾの魔剣を使ったとしても、シャドウ相手には少し怯ませる程度にしかならない。その事実に戦意を折られかけそうになる。

 

 頼みの綱は数に限りがある。炎が、もっと強い炎が必要だ

 

 手持ちのペルソナは3体。この状況で打開できるペルソナを呼び出すには

 

 

 

[マハブフーラ]

 

 

 

「!」

 

 

 スキル、広範囲の氷結攻撃は僕じゃない。大蜘蛛は牙をむいた。人型の本体が術を唱えて来た。

 

 地面の霜が一層濃くなって、辺り一面に氷柱が発生していく。回避するには飛ぶしかないけど、それでは無防備になる。

 

 攻撃を防ぐために使うしかない。魔剣を、数少ない攻め手を消耗するしか

 

 

 

……駄目だ、それじゃあ駄目なんだ。考えろ、考えるんだッ

 

 

 

 

 

 

   ×   ×   ×

 

 

 

 

 

 

 

……駄目だ、これじゃあ駄目だ。見ているだけじゃあ、何も

 

 

 

 

 鳴りやまぬ戦闘音、氷のと瓦礫の隙間に身を隠し、ヴェルフは悔しさに歯ぎしりを鳴らす。

 

 無力、冒険者としてレベルの差はあれ度これまでは共に戦っているという自覚は持てていたが、ことペルソナを用いた戦闘において、自分は何の役にも立たない

 

 ただ魔剣を渡しただけ、それ以上にできることはない。自分から示してしまったのだ、己の無力と限界を

 

「ヴェル助」

 

「わかってる、俺が行っても何もできないってぐらい」

 

 

 感情を氷に叩きつけた。内出血でにじむような痛みも、自分の苦しみを晴らす贖罪にはならない。

 

 重ねた失態、露呈した己の弱さ、この世界で気づいてしまったのだ。深く、奥底にしまっていた想い。

 

 

……そうだ、俺が一番わかってんだッ

 

 

 シャドウと対面して気づいた。自分はまだ、あの時の痛みと向き合いきれていない。フォボスを失った悲しみを、納得しきれていない自分がいたのだ。

 

 自分は弱い。イグニスの名が廃る。どうしようもない傷が心で浮かんで今も消えずにいるのだ

 

 

……だけどな、それでも

 

 

 

「……ッ」

 

 

 見ている。こんなにも打ちひしがれてなお、俺は戦場に目をそむくことを嫌っている。したくないのだと心が叫んでいる。

 

 変えたい、乗り越えたい。

 

「……欲しい」

 

 

 心のそこから願う。あの戦場に自分も身を置きたい。そのための力が欲しい

 

 ペルソナが、俺だけのペルソナが

 

 

「力が、欲しいッ…………俺に力を、あいつの側に立てるだけの力が、欲しいッ」

 

「…………必要、なんだね」

 

「あぁ、力がいる…………って、お前語尾忘れてねえか」

 

「いや、なんかシリアスですし…………クマもそうしたほうがいいのかな定期」

 

 熱が冷める。間の抜けた今、自分の心情を独り語る心の中の台詞、鼻先が痒く頭髪もがしがしとかきむしる。

 

「ヴェル助は格好つけすぎクマ」

 

「いや、だってよ」

 

「言い訳しないでいいクマね

 

 

 

 

 

 

 

…………お前は、お前のままでちゃんと格好いいんだよ。

 

 

 

 

 

 

「!!」

 

「ちゃんと、ヴェル助は暑苦しくてやたら暑くて、損でおまけに、くそ暑な…………って、どうしたクマ」

 

「…………いや」

 

 聞き間違い、幻聴、どうしてかわからないが、今確かにあいつの声がした

 

 いつかに言われた気もする。古い、とても古い思い出。あのシャドウのようなクソガキだった頃に、そう何度も言い聞かされていた

 

 フォボス、かの女神は既にいない。目をこすり、もう一度見ればその姿はない。

 

 

「…………ッ」

 

 胸を裂く痛み、その痛みは間違いなく古傷だ。ずっと、あのときからか変え続けていた痛み

 

 

「…………くそ、そういうことかよ。」

 

 何かの得心が得られた。ヴェルフは、己の問題に対する答えを理解した。

 

 そんな、絶好とといえるタイミングを計ったように

 

 

「…………戦いたい、クマ?」

 

 

「そ、そりゃ当たり前だ…………って、お前それ」

 

 

 クマが取り出したもの。首のチャックを外してキグルミの中から取り出したもの。

 

 それは、一目見て理解できた。クマが手にしている小さな短刀。簡素な作りで、一応の鞘に納めている、なんとも不格好な剣。間違いなく、それは

 

 

「俺の…………ガキの時に」

 

 

 初めて作った武器。皆が辛口な評価を言い渡すなか、親しんでいた祖父と、そしてフォボスだけが見事だといってくれた。だが、どうしてそれが

 

 

「これ、ヴェル助のシャドウですクマ」

 

「!」

 

「危険はないクマ。弱ってたから、今はこんなアイテムになってるクマね……でも、お話ならいつでもできるクマ」

 

「話、またあいつとか」

 

「そうクマ。シャドウと会ってしまうのはとても危険だけど、でも……可能性があるクマ」

 

「……それ、まさか」

 

「決めるのは、ヴェル助クマ……」

 

 

 手渡された短剣、ヴェルフもさすがに息をのんでしまう。トラウマを呼び起こし、自分の弱さを露呈させた忌まわしい記憶。

 

 これを使えば、またも自分はあいつと

 

 

「……ハハ」

 

 

 口の端が引きつる。心臓は穏やかではない感情で鼓動が早く、手の震えを収めようと体を抱きしめ抑え込む。

 

 戦場は今もなお現在進行形、決断を下せるのは自分だけ

 

 

 

……道は、一つ

 

 

「……ヴェル助?」

 

「あぁ、心配すんな……もう、迷わねえ」

 

 

 だから、そう言い短剣を抜いた。抜き身の刃、逆手に持った剣を

 

 

「な、何するクマ!!」

 

 

「あぁ、シャドウに会うに決まってんだろ。けど、やり方がわかんねえからな、こうするさ」

 

 

 

……ベルは、あいつの腹は据わってる。だから、俺も同じだ

 

 

 

「覚悟を決める。極東式のハラキリ何とかだ……ってなッ!!!?」

 

 

 

「ヒギャァアアア!!!」

 

 

 

 

 振り下ろされる切っ先、弧を描き胸を貫かんとする。

 

 一切ためらいなく、全力で放たれた刃が胸の皮を切り裂いた、その瞬間

 

 

 

 

 世界は、裏側に覆った。

 

 

 

 

 

『……おまえ』

 

 

 

 

「ほら、出来たぜ……また会えたな、俺のシャドウ」

 

 

 

 

次回に続く

 

 

 




次回、内なる自分との対話です。戦闘中に覚醒するペルソナっていいよね


・エイナ・シャドウ=節制

物理弱点、氷結無効、疾風耐性、火炎弱点


特殊スキル「大雪の怪異」

常時物理攻撃無効、火炎弱点を受けた際に耐性が消える



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