迷宮異聞録~マヨナカダンジョン(ダンまち×PERSONA4) 作:37級建築士
学園の屋上、そこが今の私の居場所。柵が鳥かごのように包む場所で、私は見たくない光景を見せられている。
自分が苦手なハレンチで不潔極まりない光景、しかも口汚い言葉を発して、したくもない暴力を振るっているのがよりのも自分と同じ顔。
気が狂いそうになる。いったい何故、私が何をしたのかと
「……嫌、なんなのよ、ここ」
『だから言ってるでしょ、ここは貴方が望んだ場所』
「ちがう、私はこんなこと」
『嘘、あなたは傲慢で、支配的で……性根はただのエゴイスト』
「……違う、違う違うッ!!」
背後でささやく自分の声、自分と同じ顔をしたボンテージ姿の女王様、そんな私は私に何もしないけど、ただこうして言葉と言う真綿でじわじわと締め落とそうとしてくる。
どうしてか、彼女の吐く言葉の一つ一つが重く、そして鋭い。どんなに遮ろうとしても割って入ってきて、身構えていても心は少しずつ切り傷を受けていく。
否定したい、認めたくない、私にできるのはそんな言葉を吐くことだけだった。
「もう、やめて……あなたは、私じゃないッ」
『……あは、アハハッ!!』
歪に、私が吐く悪態を吸い取って彼女はその力と形を歪めていく。見たくない、だから目を背けていることしかできない。
『そう、あなたはそれでいいの……見たくないものは見ない、聞きたくないものは聞かない、私が代わりにあなたになってあげるから、だからそこであんたは蹲ってな……キャハハ』
「……ッ」
× × ×
学園の壁を飛び越え、道中の静けさが嘘のように沸き立つシャドウたちからも逃げ続け、ようやく後方からの追手がいないことを確認。教会の前で、僕は久しぶりに呼吸をした気すら感じている。
「……ッ、くは、はあぁ」
脱兎のごとく、僕たちは件の学園から逃れた。疲労困憊で、教会の前についた瞬間、イナバギは姿を消した。
膝をつく。正直、立っているだけでも限界だ。よくよく考えればそれも無理はないことで、僕は今日この世界に来るのは二度目なのだから。
ペルソナに覚醒してからこの歪な世界の空気にも慣れてはいるけど、それでも連戦はさすがに無理があった。道中何度も放った技と術で肉体も精神もボロボロだ
けど、それでも僕は良い……それよりも
「ヴェルフ……大丈夫?」
「……はは、やっぱバレてたな」
ふらっと、膝をつきそうになるところで肩を担ぐ。やはり無理があった、その上魔剣まで使って、わずかとはいえ戦闘の緊張感と世界の不快感で体力はほぼ切れかけ。
撤退するしかない。これ以上は、限界だ
「……クマ、もう今日は」
「うん、元の世界に帰るよ……出口、またお願いしていいかな」
「わかったクマ、ほい!」
クマ君が短い手を振る。すると、どういう原理なのか何もない空間から大きな姿見の鏡が
「?」
「向こうの世界にある物を出口にしたクマ。この鏡、先生の世界にも表れたから、そのままもらってください」
「わかった、じゃあヴェルフ」
「……おう」
ヴェルフの疲労具合がひどい。すぐにでも帰って休ませないと
「……クマ君」
足が止まる。最後にこれだけは、聞かないといけないことがある。
あの学園で姿を現したエイナさん、あれがいったいなんなのか、そもそもあの場所はいったい
「……クマにわかるのは少しクマ。まず、あのお嬢さんは人間じゃないクマ、きっとそのエイナって人のシャドウ、のはずクマ」
「……そう、なんだ」
「クマ、詳しいことは」
「いや、それはまた聞きに来るよ。だから、また明日」
「……うん、バイバイクマ」
別れの言葉、ヴェルフを抱えたまままたあの不可思議な感覚に見舞われる。力足らずだったことの口惜しさ、大事な人を助ける使命感、そしてなにより
……きっと、これができるのは
異世界を知り、新たな力に目覚めた自分が、きっとこれからの苦難に挑んでいく、その先陣を走る姿を想像した。心が浮かれたわけじゃない、でもそう感じるのだ。
真実はまだ見えない。今できる最善を貫くほどに、きっと答えは見えてくる。今この街に何が起きているのか、異世界とは、マヨナカダンジョンとは何か
……まだ、終わらない
〇
ホームにたどり着いてから、そこからがよく覚えていない。
急に飛び出して、その上ヴェルフと一緒にボロボロで帰宅したから、きっとすごく怒っていたに違いない。正直、疲労と眠気で禄に聞き取れなかったし、気づけば床に伏してそのまま眠りに落ちたことだけだ。
そして今、僕はすっかり目が覚めている。でも、目にしたのは天井でも心配そうに見つめる皆の顔でもない
「……また」
「ええ、ようこそベルベットルームへ」
また同じ、そこはオラリオ外の草原。時刻は前と変わらず夜更けで、暖かい焚火の明かりがイゴールさんとマーガレットさんを照らしている。
「主様、料理の方が」
「うむ、あなた様もご一緒に興じませう。キャンプ料理は嫌いですかな?」
「……じゃあ、頂きます」
ここは確か夢の中で、でも机に置かれた取り皿の料理は湯気が立ち上っていて、中身は海鮮をふんだんに使用したアヒージョだから、ニンニクも効いていてすごく胃に来る。貰ったパンと一緒に僕は料理にがっつく。
「ふふ、お腹を空かせていたのね……可愛い子」
「……」
「いいわ、気にしないで……ずいぶん、現実では頑張ったと聞きました。二度も異世界に挑むとは、まったく無茶な人」
「左様、だがそれこそがこの世界のならわし、迷い人が冒険者である故なのでしょう。……ですが」
「?」
三人を囲む机で、イゴールさんは懐からあの占いに使ったカードを取り出す。
適当にシャッフルし、そして一枚目をめくる。そこにあったのは
……うん、読めない
「魔術師、1番目をつかさどるタロットにございます。しかし、これは運命を示す占いではございません……しいていうなら、確定事項、というものでしょうな」
「……?」
「あなた様の力は一人だけにあらず。大事なお方を救うためにも、その力の使い道、今一度お考えになさい……と、お節介なことは言うものの、それは老人の過度な心配というもの。すでに、あなた様は答えを得ています。」
「……あの、なにを」
抽象的な言い回し。だけど、それをただわからないで済ますことができない。
感じる。この人の言葉の重みが、これから僕に起きることに、確かな見識を持っているのだと、そう思わざるを得ない。
「……此度の件、救うのは一人ではない。エイナ・チュールを救うために、あなたさまは彼を」
……ヴェルフ・クロッゾを救わなければなりません故に
「!」
〇次回に続く
『うひひっ、ほんとお前はおもしろいやつだなーっ、なあ……ヴェルフ』
「!?」
突然の声、忘れ去ったわけではないが、記憶の録音にしては妙に生気が色濃い。夢見が悪いとか、そう言う次元じゃない。あまりにも、その声が鮮明に過ぎた。故に、動揺している。
黒髪のストレート、露出を気にしない飄々とした振る舞い、人を食ったようないい性格のあの神が夢枕に立った。
「……なんだよ、ざけんな」
時刻は昼頃、随分と贅沢な時間に目を覚ましたものだ。猛暑の熱気で嫌な汗がまとわりつく。熱の記憶、思い返す幼少の記憶はいつも鉄火場の映像ばかり
懐かしくも疎ましい、幼いころの、クロッゾの家の記憶。彼女を思い起こせばこそ、当時の記憶はつられて呼び覚ます。
「……ッ」
親父の妄執も、貴族狂いの縁者の浅ましさも、ラキアでのことはもうどうでもいい。少なくとも、親父とは過去の決別を、親子のけじめをつけている。終わった過去、だからこの話はここまで
ここまでのはずだったのに、どうして俺は
……ヴェルフ
「くそ、なんだってんだ……あの世界のせいかよ」
肌にまとわりつく不快感は真夏の熱気か、それともやはり異世界の歪な空気が抜け切れてないのか
…………ヴェルフ
悪友ならぬ、悪神の記憶。俺をクロッゾから逃がし、代わりに世界から放たれた亡き恩人
未練はない、後悔はない。背中を押してくれたあの神のためにも、俺は後ろを向くわけにはいかない。だから、こんな感傷は消し去るべきだ。堂々としていればいい、それこそあいつに尻を蹴られて爆笑されかねない。
夢枕に立った彼女は今もなお、俺の視界に移らないどこかの場所にいるのだろうか。
「……クソが」
これが幻覚か、それともまだ冷めない夢の中なのか、らしくない二元論で息が苦しい。どちらにせよ今の俺は気が気ではなく、夏の暑さにやられて思いもしないことに考えを巡らしている。夢枕に立つ相手がよりにもよってあの神であること、それこそが証拠だ。
「……たく、言いたいことがあるならはっきり言えよ。からかってんのか?……なあ」
……フォボス
今回はここまで、次回少し空きます。プロット煮詰めます