アイツの距離が近すぎる   作:ぽむQ

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#12 アナタの本音が聞きたくて

 せつ菜さんの正体を隠しつつ同好会を継続するための策として「監視委員」を設ける作戦を実行することとなった。その第一歩として、全容を他の同好会メンバーに伝えるため、彼女らのいる教室へ戻らねばならない。それに俺の仕事(進路希望調査)の件で上原と高咲を待たせているから、急がないと。

 

「よし。じゃあ行きますか、せつ菜さん」

 

「ヤダ」

 

「【わがままきままありのまま】の権化か」

 

 てっきり「はいっ!!!!」ってな感じのめっちゃ大きい声の返事がくると身構えていたから、予想外の返しにびっくりしてしまう。

 

「まだ解決してない事がありますので」

 

「解決してないこと?……ああ、会場の設営ならボランティアを募って……」

 

「いえ、同好会の事でなく。……私たち2人の問題でして」

 

「俺たちの?」

 

「はい……その、私……この場合中川菜々ですけれど……あなたと……高城庶務とお付き合いしている、という共通認識を持たれているらしい……という話で」

 

「あ」

 

 せつ菜さんのインパクトが強すぎて完全に忘れていた。そうだ、桜坂後輩も言っていたように、なぜか俺と中川さんが付き合っているという噂、というか「そういうこと」にされているらしい。

 

「……正直、どう思いました?私と、中川菜々と付き合ってると言われて」

 

「どう、って言われてもな……」

 

 あまりに直球な質問に思わず身がすくみ、それと同時に上原の顔が頭をよぎった。どう答えるのが正解なのかはわからない。だから、わからないなりに正直に、俺の気持ちそのものを答えよう。

 

「……びっくりした。けど、嫌だとは思わなかったよ」

 

「そうですか……良かったです。私と同じで」

 

「私も……ヤじゃない、ですよ?」

 

 せつ菜さんはそう答えると同時に、朗らかな笑顔を俺に向ける。その頬が夕陽に照らされ、ほんのり赤くなっているように見えた。

 

「それだけ確認したかったんです。……さぁ、そろそろ戻りましょう。かすみさんたちが待っています」

 

「ああ、そうだな……。行こう、せつ菜さん」

 

「はい。行きましょう、(はるか)くん!」

 

「なっ…!?」

 

 せつ菜さん得意の不意打ち(2回目)をくらう。周囲の人は「高城」か「はる+○○」みたいな感じで呼んでくるから、しっかり本名で呼ばれる事はほとんどない俺に「女の子からの名前呼び」は凄まじい破壊力を秘めているのだ。

 

「優木せつ菜のマイルールなんです。男女問わず下の名前で呼ぶ、って。……すみません、嫌でしたか?」

 

「急すぎて驚いただけだ……ヤじゃない、よ」

 

「ふふっ、それならよかったです」

 

 これがスクールアイドル優木せつ菜の力か……と一人で勝手に感心してしまう。こんなん勘違い男を大量生産してしまうだろ、高咲とは別の意味で無自覚で小悪魔かもしれんなこの子。……まあそれはともかく、今は元の教室へ帰ろう。みんな待っている。

 そうして俺は会議室のドアを開け廊下へ出ようとした……とき。小さな黒いものがせつ菜さんの練習着にぽとっ、と落ちた。

 

「あ、クモ」

 

 人が住むところには必ずと言っていいほどいる、好き嫌いの分かれる益虫だ。そしてせつ菜さん自身がそれを感知した瞬間——。

 

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

「防犯ブザー並にうるさっ!!」

 

 3000デシベルはありそうな絶叫が響き、俺の鼓膜がまたしても虐待される。それだけならまだいいのだが、

 

「だっ……!せつ菜さん落ち着けあと急に脱ぐな!!」

 

 テンパりまくったせつ菜さんはクモを引き剥がそうと服を脱ぎ、洗濯物のごとくばっさばっさと仰ぎまくるものの、クモはなかなか剥がれない。どころか服を伝って彼女の腕に移動したのだ。

 

「かすみさんっ!助けてくださいかすみさん!!かすみさあああああああんっ!!!!」

 

「いま取るから落ち着けっての!!」

 

「うるさいですよせつ菜先輩!!フロア中に声が響きまくっ……て………」

 

 下着の色スカーレットストーム女を宥めているうちにドアが開き、彼女のSOS(うるさい)を聞いたかす子が駆けつけて来てくれた。が、目の前の光景に絶句しているようだ……当然か。

 

 

 

 

「空き教室で何やってるんですかぁ2人とも!!」

 

 誰も来ない会議室でみだらな行為に及んだ疑いをかす子にかけられ、必死に弁明するはめになってしまった。

 

「違う!誤解だかす子!!」

 

「ここ2階ですぅー!そしてかすみんですぅーー!!ってそんなのどうでもいいっ!せつ菜先輩、はる助に何されたんですか?痴漢されてない?純潔は無事?」

 

「い、いかがわしい事は何も無いですよ!?ただ『せつ菜さんのすべてが知りたい』と言われてスリーサイズは答えましたけど!」

 

「言い方ァ!!」

 

 間違ってないけど言葉が足らねえ、誤解というのはこうやって生まれるんだなぁ、と思いつつ今は俺の社会的信用が危ねえ。

 

「やっぱりいやらしい事してるじゃん!このどーていはる助!!」

 

「誰が童貞だすり潰すぞかすかすうどん!!!!」

 

「落ち着いてください(はるか)くん!」

 

「だーれがかすかすうどんですかあー!かすうどんだし、てゆうかかすみんだしぃー!」

 

「かすもかすかすも変わんねえだろカスガキ!!」

 

(ゆう)くん」

 

「じゃかあしい!!いま取り込み中……………だ…………」

 

 俺を「ゆう」と呼ぶ人間はこの世に一人しかいない。その声を聞き恐る恐る振り向くと……最悪なことに全員集合していた。

 

先ほどから俺と舌戦を繰り広げているかす子。

 

やれやれ、と言った表情の彼方先輩。

 

修羅場に目をキラッキラ輝かせている桜坂後輩。

 

あからさまにドン引いている高咲。

 

緋色の下着にショートパンツ姿のせつ菜さん。

 

そして……眼からハイライトが消えた上原。

 

「かすみちゃん、どいて」

 

 その上原はかす子のポジションを一瞬で奪い取り、突き刺すような冷たい視線を俺に向ける。

 

「ずっと不思議だったの。なんでわざわざ男の子の少ない虹ヶ咲に残ったんだろう、って」

 

「女の子とそういう事したかったわけ?」

 

「いや、そんなつもりは………」

 

 言い終わる前に、上原は止めの一撃を繰り出す。

 

「お幸せに」

 

 俺に事実上の死刑宣告をかました上原は、そのまま足早に帰ってしまった。

 

「え、ちょっと待ってよ歩夢っ……もうっ、ハルのバカっ!!」

 

 高咲もまた、彼女を追ってその場から去った。

 

 

 

 

 上原と高咲がその場を後にしてすぐ、同好会の面々も練習に戻ることになった。もうひとりのメンバー、エマ・ヴェルデ先輩の用事が済んだらしく、これから合流するらしい。

 

「今度かすみんボックスあげるから元気出しなよ、はる助」

 

「三角関係って燃えますよね、先輩。四角かもしれませんけどっ♡」

 

「浮気は感心しないぞ、少年っ。しっかり謝んなよ〜」

 

「監視委員の件は私から伝えておきますので……また明日、生徒会で会いましょう。()()()()

 

 各メンバーの挨拶兼慰めを受けつつ彼女たちを見送るが、何を言われたのかは全く頭に入ってこなかった。先ほどの上原の表情と言葉が離れなかったからだ。

 

「あとは……俺だけか」

 

全員がその場を去って残っているのは俺ひとり。さっきまであんなに騒がしかったのが嘘のように静かだ。放課後の、普段使われない教室の前なのだから当然か。

 

「帰ろう」

 

 力なく一階へ続く階段へと向かう。先ほどの上原の表情と声が忘れられない。もしかしたら俺は、俺が思っている以上に取り返しのつかない事をしたのかもしれない。

 このままではいけない。そう思った俺は上原に連絡を入れるべくスマホを取り出す。すると、高咲からのメッセージが2件ほど届いていた。

 

《歩夢つかまえた。バス停に集合》

 

《まかせてよ、私がうまくやったげるから》

 

 高咲からの気遣いを目の当たりにした瞬間、俺は卑屈にも少しだけほっとしていた。

 

 

 

 

 第三会議室でのいざこざが終わってから十数分後。高咲と上原と(強制的に連れて来られた)俺は、お台場一大きいショッピングモールに赴くため虹ヶ咲学園発のバスに揺られている。

 高咲のいう「上手いこと」とは、どうやら一緒に買い物に行くことで仲を修復しようという作戦のようだ。俺たちのためにセッティングしてくれるフォローはとても嬉しいが、ほんと申し訳ないがそれどころじゃない。

何故かというと、俺は人生最大級の理性の危機に直面しているからだ。

 

 もう放課後、というか陽も傾きかけた頃のバスともなれば当然家に帰る生徒の乗車が多くなる。座席なぞ足りるわけもなく、俺を含めた3人全員が立ち乗りになってしまっている。……まあ、それはいい。

 バスが混んでいると言ったな?要はすし詰め状態というわけで、各々の身体が密着してしまう、ということなのだ。つまり……。

 

ふにゅぅ……

 

「あはは……結構恥ずかしいね、これ」

 

「すまねぇ高咲、乗る順番ミスった」

 

 上原、俺、高咲の順で乗り込んだ影響で例のツインテールが俺の背後にいて密着状態——高咲の…む、胸が背中に思いっきり当たっているわけだ。

 

「てか、なんで背中合わせにならんのだおのれは」

 

「しょうがないじゃん、向き変えらんないんだから…」

 

「ならカバン咬ましたりやりようは………ぐっ」

 

「ハル、大丈夫?」

 

「全然だいじょばない」

 

 都会の入り組んだ道を進みたびにバスが揺れ、それに伴い高咲の柔らかな理性破壊兵器が強く押し付けられる。正直めっちゃ恥ずかしいわ彼女にも申し訳ないわでいっぱいいっぱいなのだが……それも、まだいい。

 じゃあ俺が直面している危機とは何なのか。無自覚ナイスバディーイケメンツインテール美女高咲侑のボディすら凌駕するほどのものとは一体なんぞや、という話だが……。

 

「上原さんよぉ……」

 

「……何?」

 

「わざとやってんのかお前……」

 

「倒れないようにしてるだけ……ばか」

 

俺の前に乗っているのは「高咲じゃない方」な訳で、そして密着状態な訳で、何故か「アイツの向き」もおかしい訳で…‥要するに………。

 

ぽむっ……!!

 

上原に抱きつかれる

顔が近い

おっぱい当たってる

 

という童貞瞬殺三段コンボを決められている最中なのだ。

 

 バスに響く振動に合わせぽむ、ぽむんっ、ぽむっと押し付けられまくりないい匂いのするアレやらこれやらの破壊力を前に、俺は過去の罪を思い出すことで相殺しようとした。かつて純粋無垢な上原歩夢に欲情し、結ばれる未来を壊してしまった事実を脳内に思い描き、辛うじて理性を保つことができると考えたんだ。

 今回の話はここまでだ。俺が自制心を保っているうちに終わりにしようと思う。最後にいつも通り、と言ってもなんだが、俺のプロフィールと状況を更新しておこう。

 

 俺の名前は上原のおっぱい。じゃなかった高城悠。生徒会にて上原、じゃない庶務を務めさせてもらい、ドスケベラビット同好会……ではなくスクールアイドル同好会の上原、いや監視委員をすることになり、現在バス行きのモールに向かうため上原に乗ってああもう上原のおっぱい!!!

 

つづく

 

 




来週から歩夢ちゃんのターン

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