アイツの距離が近すぎる   作:ぽむQ

13 / 31
せつ菜ちゃんお誕生日おめでとう!!
今回は特別編です。「読み飛ばしてもOK、読めば本編の理解がより深まる」を目指して書きましたので、興味がありましたら見ていただけたらなと思います。


EXTRA Season【生誕祭・特別編】不定期更新
#EX1 庶務とクイーンの初チェイスfeat.はんぺん【2021.8/8 優木せつ菜&中川菜々生誕祭】


中川(なかがわ)菜々(なな)』。

 

 皆さんご存知の通り、ここ虹ヶ咲学園(にじがさきがくえん)生徒会長(クイーン)である。

 容姿端麗、文武両道、そして圧倒的なカリスマ性から彼女を慕う者は多い。生徒会(同僚)の俺から見ても、彼女がリーダーの素質を持ち合わせていることは容易にわかるほどだ。

 そんな「非の打ち所がない」を地で行くような存在として君臨している彼女——中川さんだが、その完璧さゆえにあらぬ誤解や一説を唱えられることも少なくなかった。

 俺が知っているものだけでも「全校生徒の顔と名前を覚えている説」「通知表で5以外取った事ない説」「生徒手帳の『長期休みでも外出時は制服着用』を律儀に守ってる説」などが挙げられる。生徒会長という肩書きも手伝ってか、中川菜々は住む世界が違う、ワンランク上の人間だ、と言った見方をされることもしばしばあるようで。

 

——だが俺の見る限り、中川さんは決して雲の上の存在などではなく、他の生徒と同じごく普通の女子高生だと感じている。というか、普通よりも女の子らしいというか……意外と可愛い所がある。

 

 これはそんな彼女の「可愛い」を目の当たりにした日。ちょうど一年前、俺と彼女が初めて共に仕事をした時のお話だ。

 

 

 

 

 

 

2019年、6月。

 虹ヶ咲学園高等部の生徒会室には、晴れて選挙で選ばれたばかりの新人生徒会役員が揃っていた。

 ……といっても、俺とその隣の「彼女」しかいないのだが。

 

 飾り気のない眼鏡をかけた三つ編みの彼女。制服のボタンをはじめとした至る部分をきっちり揃えて着こなしている。まさにこれから生徒会として皆の手本になろうという気概がこれでもかと伝わってくるのを感じる。それを受けた俺自身もまた、負けじと自らのネクタイを締め直す。

 

「よーし、みんな揃ったな」

 

 後方から響く快活な声色に振り向くと、その声の主——腰まで伸びつつウェーブを帯びて、所々深紅のメッシュが施された髪の3年生——が今しがた生徒会室に入ってきたところであった。その風貌からは皆の模範という雰囲気はカケラも感じられないが、どこか無意識に人を惹きつける空気、いわゆるカリスマ的なものをうっすらと感じた。

 

 「んじゃ、早速自己紹介から始めようか!最初は……そうだな、キミから」

 

 

「は、はい!……本日より生徒会庶務を務めさせていただきますっ……一年、高城 悠です。中等部では剣道部に所属していました。生徒会の仕事はまるっきり初めてですので、1日でも早く覚えて先輩方のお役に立てるよう頑張ります。よろしくお願いします」

 

カリスマメッシュに指名された俺は、当選時から考えていたある種定型文にも似た挨拶を緊張しつつもどうにかこなす。

 

「んー堅いっ!!けどそれも良しっ!!!さ、次は隣行ってみようか」

 

 的確なツッコミが入ると同時に俺の堅苦しい(らしい)挨拶が終わり、出番が彼女に移る。彼女は俺とは対照的に落ち着いていた。こういう現場は慣れている、と言わんばかりの佇まいだ。

 

「本日より生徒会副会長を務めさせていただきます。一年の中川 菜々です。中等部では生徒会長を務めていました。生徒会たるもの、常に皆の手本となる立ち振る舞いをすべきだと考えております。学園の秩序を保てるよう全力を尽くしますので、よろしくお願い致します。」

 

 

「いやキミも堅いなーオイっ!!せっかく可愛いのに」

 

「か、かわっ………!?」

 

 またもや彼女からのツッコミが決まり、たちまち顔を赤らめる副会長。いきなり可愛いなどと言われれば当然か。というか、この場面でそんなことを言われる想定などしてないだろうから、完全に不意打ちである。

 

「もっとリラーックス…ってキャラでもないか。真剣なのは好きだぞ?」

 

「っ……!つ、次は先輩方の番ですよっ!!」

 

 恥ずかしさを堪えきれそうもない彼女が先輩方に自己紹介の順番(パス)を渡す。

 

「オーケー了解。会長(ワタシ)は大トリがいいから……書記からお願いね」

 

 

「「はい」」

 

 書記—返事がハモるのを感じた。はて、と思いながら俺たちは彼女「たち」に目を向ける。

 

「書記を務めさせていただきます、空賀(くが) 右月(うづき)です」

 

「同じく書記の空賀(くが) 左月(さつき)です」

 

「「よろしくお願いします」」

 まるで鏡合わせのような双子の丸メガネな先輩方の丁寧な挨拶を経て、ついにメインに順番が渡る。

 

「そして最後に。ワタシが現生徒会長の『三船(みふね) 薫子(かおるこ)』だ。高校生活の最終学年(ラストシーズン)をこのメンバーで駆け抜けられる事をとても嬉しく思っている。ま、君たち一年生(新顔)とは数ヶ月の付き合いかもしれんが、よろしく頼むよ。」

 

 たちまち顔を見合わせる俺と中川さん。多分同じこと考えてると思う。この人この見た目で生徒会長なんだ———って。

 

「あ、それともうひとつ。君らと同じ一年生なんだが、もう一人副会長がいる。『杉本(すぎもと)美穂(みほ)』って子なんだが、今日は風邪ひいちまって休みだそうだ。本人が来たらまた紹介するよ」

 

 その名前には(当然ながら)聞き覚えがあった。生徒会選挙の時、中川さんばりに熱い演説をかましていた人だ。栗色の髪に眼鏡をかけていて、そのクールな佇まいと熱意のギャップに驚かされ、印象に強く残っていた。

 

 杉本さん(あの人)も受かったんだなぁ…などと思っていると、薫子先輩(生徒会長)が網——どっからどう見ても生き物を捕まえるアレ——を人数分(ふたつ)持って、俺たち一年生ズに差し出す。

 

「新副会長、中川菜々さん。新庶務、高城悠くん。さっそくだが、君たちに生徒会としての初仕事をしてもらう………まずジャージに着替えてもらおう」

 

「「……は?」」

 

 俺と中川さんの困惑の声が重なった。それを意に介さず、生徒会長は俺たちにミッションを下すのだ。……あまりに予想外なものを。

 

「君たちの仕事は………猫探しだっ!!」

 

 

 

 

「ヴォルデモート!!どこだーっ!?おーい!!ヴォルデモートーーッ!!!」

 

 「どこにいるんですかぁーーー!!出てきてくださぁーーい!!」

    

 青と黒の一年生カラーで構成された体操服(ジャージ)に着替えた俺たち二人は、先程渡された網を片手にターゲット——この学校に住み着いた白猫——の捜索にあたっていた。

 会長によると、もう2年ほど前から学校の敷地内に居着いており、生徒会と「動物愛護同好会」の連携でなんとか世話をしている状況らしい。

 

 そしてなんとこの猫、名前が安定していないというのだ。先述の通り、飼うというよりは死なないように頑張っていた、という感じらしく、名付けるという責任行為に踏み切れなかったり……だとか。

 

 そんな状況を打破するべく、会長は本年度よりその猫を生徒会の管轄に置き、正式に癒し枠(マスコット)として迎えることを決定した。

 よってその白猫改め「ヴォルデモート」(命名 三船薫子)を探し出し、生徒会室へ引き渡す。それが俺たち新人に課せられた初仕事だ。

 

「つーかどんな発想(センス)してんだよあの生徒会長……っ」

 

「私もそこに関しては概ね同意です……」

 

「呼べない名前付けんなっての……俺が呪われそうだ」

 

「その時は私が祓ってあげますよ」

 

「助かります……えっと、副会長」

 

「どういたしまして。とにかく早く見つけますよ、庶務さん」

 

 

 そんなこんなで猫がいそうなだだっ広い中庭を探していると、ぴくん、と動く白い影を捉えた。まちがいない。アイツだ。

 

「よっしゃ見つけたっ!………-よし、このまま確実に——」

 

俺がヤツに悟られないよう、息を殺してにじり寄ろうとした、その瞬間———。

 

 

「こらああああああああっ!!待ちさあああああああああい!!!」

 

「副会長ぉぉぉぉぉぉっ!?」

 

 凄まじいシャウトと共に標的に飛びかかる副会長、それに恐れ慄き退散する名前を言ってはいけない猫。そして完璧に出遅れた俺は、全力疾走する一人と一匹を必死で追うのだった。……少しだけ、右足を引きずりながら。

 

庶務と副会長と白猫のデッドヒートは無駄に長く続き、気がつけば校舎をぐるりと周り、反対側まで出てきてしまった。

 

「はーっ……はぁ………っ!!!」

 

「副か……中川さん、大丈夫?」

 

「ええ……なんとかっ……ぜぇ、ぜぇっ………!!」

 

「まったく大丈夫には見えねえよ……少し休もう」

 

 一応提案してみたが、彼女の性格(を把握できるほど一緒にいたわけではないが)からして「大丈夫ですっ!!」とか言いそうだけど……

 

「……そう、ですねっ……お言葉に甘えて……すみません……高城くんっ……」

 

……思いの外素直だった。

 

 

 

 

 先ほどとは真反対の中庭、教室棟(この呼び方でいいのかわからないけど)、普通科に面した中庭の木陰で、俺と中川さんは小休止を決め込んでいた。

 その10メートルほど先で俺らが追っているニャン公はのんびりと日向ぼっこと洒落込んでいるが癪に触る。

 

「完っ全にナメられてんな……」

 

「すみません……私の声が大きいばかりに」

 

「その声で捕まえられる可能性もあったんだ。中川さんは悪くないよ」

「俺が決めきれなかったのが悪かったんだ」

 

「高城くん……」

 

 俺は先程から使いどころがなくずっと背負いっぱなしのバックパックを下ろし、その中身を広げる。

 

「それは?」

 

「会長から預かったんだ。なんか秘密兵器だと」

 

「秘密兵器…!!」

 

 そのロマン溢れたフレーズに瞳を輝かせる中川さん。もしかしたら……

 

「……こういうヒーロー系の空気(ノリ)好きなタイプ?」

 

「…‥っ!! ……まあ、それなりに。…高城くんはどうなんですか?」

 

「あー…ニチアサは10年近くの付き合いだけど」

 

「奇遇ですね……私もです」

 

「マジか……マジで……?」

 

「マジですし、ショータイムですよ」

 

 顔を赤らめつつ話す彼女にどこか庶民的な気持ちを覚える。副会長といっても普通の人間なんだなぁ、普通にテレビを見て、サブカルチャーに触れているんだなぁ、と。

 

「……そ、それはともかくっ!開けてみましょう!!」

 

「お、おう……」

 

言われるがままにその包みを解く。待望の秘密兵器の中身は………。

 

・カゴ(購買に売ってる216円のやつ)

・添木(とそれに括り付けられたロープ)

・ピーナッツ(購買に売ってる108円のやつ)

 

以上である。

 

ゴミじゃねーか……

ゴミですね……

 

 俺たち二人の絶望がハモる。どうやら秘密兵器というのは、俺たちのやる気を削ぐための兵器だったようだ。

 

 

『あらあら、イタズラしちゃダメよ?』

 

 

 

「……ん?」

 

兵器の使えなさっぷりに打ちひしがれていると、例の猫が女生徒——リボンの色からして二年生だろうか。青い髪に、あれは……なんだっけ、雑誌で読んだ……そうだ、ウルフカットだ。そんなモデル級に整ったプロポーションの先輩—— と共にじゃれて……いるというよりは猫が一方的に襲いかかっている光景が見てとれた。

 

「ライフデザイン学科2年 朝香 果林先輩」

 

「え、知り合い?」

 

「いいえ、全校生徒の顔と名前は徹夜で覚えたので」

 

「……すげえな」

 

「生徒会たるもの当然です」

 

「なるほど。……で、なんでライフデザイン学科がここにいるんだよ。真反対だぞ?」

 

「道に迷っているのではないでしょうか」

 

「1年3ヶ月通ってる場所で迷うか普通…?」

 

目の前の「朝香先輩は迷っているのか否か」を議論していた、その時だ。

 

 

「きゃっ……♡」

 

——その先輩の口から発された喘ぎ声(セクシーボイス)が、俺を現実へ引き戻す。

 そして見る。憎き白猫が——先輩のスカートの中に顔を突っ込んでいるのを。

 

「やっ、ちょっ……はぁぁんっ……!!!だ、めぇ……っ!!」

 

「はぁ、はぁ、……♡、こら、ぁっ……いくら、子猫ちゃんでも……あっ……やっていいこと、と……わるい、こと、が……ひゃあああんっ!!♡♡」

 

「あっ♡……んあ、……っ、は、あああんっっ!!」

 

 顔を上気させて悶える先輩の痴態は完全にr-18である。幸い俺たちにも気づいていないらしい。他に人が居なくて本当によかった。

 

「……なに見とれているんですか?」

 

「……別に何も」

 

中川さんのどす黒いオーラを交わし、俺は頭の中で対策を練る。あの変態をどうにか捕獲しなければ。何か囮になるもの、奴が食いつきそうなエサは何だ…?

 

「あ、ぁん……もう、はなれな、さいっ!!!」

 

 先輩が白猫を放し、その場から退散していくのと同時に、ある秘策が頭をよぎった。あくまで仮説だが、もしこれが正しければヴォルデモートを誘き寄せられる。それにさっきの秘密兵器を使って捕らえことも不可能じゃない。

 

 

「中川さん、ちょっと耳かして」

 

「何かいいアイデアでも?」

 

「ああ。ひとまず聞いてほしい……」

 

そうして俺は彼女に「秘策」を耳打ちした。

 

 

 

 

 

「なに考えてんですか貴方って人はあああああっ!!!!」

 

 ——その結果盛大にビンタされた。当たり前だ。俺がそっちの立場でもビンタする。俺の秘策というのはそれだけ恥ずかしいものなのだ。

 

「冗談じゃありませんっ!!!私は絶対にやりませんから!!」

 

「頼むっ!!!確信っ、ではないけどそれに近いものがあるっ!!」

 

「何なんですかそれはぁ!?」

 

「さっきのヴォルデモート見たろ?あれはきっと朝香先輩、というよりも女性の匂い(フェロモン)に引き寄せられている可能性が高い。その習性とさっきの秘密兵器を組み合わせれば……きっと!」

 

「だからって……そんなことできるわけ………」

 

「当然()()()()から!!頼むっ!!!」

 

「……うぅ〜」

 

 どうにか彼女を説き伏せ、その秘策を実行するに至った。

 

 

 

 

「かかってくれよヴォルデモートぉ……中川さんの貞操が賭かってんだよこっちは……」

 

「貴方が勝手にかけたんでんしょう………ううっ」

 

 

 先程の秘密兵器(といっても紐引っ張ったらカゴが落ちて捕まえられるっていう古典的なアレだが)をセッティングし、「上半身裸」になって待ち伏せる俺。その網の下に置かれたエサ、というにはなかなかショッキングはピンク色のそれ……女性のフェロモン改め、中川菜々の下着(パンツ)である。

 

ぐすっ………これで逃したら一生恨みますよぅ…………

 

「俺も脱いでるからおあいこだろ…」

 

「重みが違いますっ…!!」

 

「悪かったって………意外とエグいの履いてんな

 

もう黙ってください…

 

 半泣き状態のノーパン副会長に謝罪を決め込みつつ、俺は奴がかかるのをじっと待つ……まもなくかかった。

 

 「よっしゃっ!!」

 

 俺は早速その網のいる方へ歩み寄る、が……

 

「うぉっ!?」

 

 エロ猫はその身体能力で罠を抜け出し、数メートル先の木、その1番上へ軽々と登っていった。

 周囲がざわつき始めているのがわかる。そりゃそうだ。謎のパンツ装置を使ってる上裸の男が猫と格闘してりゃ、誰だって「何やってんだあいつら」ってなるだろう。

 

 その主犯であるヴォルデモートはというと、何をとち狂ったか1番か細い枝に陣取って昼寝し始めやがったのだ。当然、ミシミシと音が響き——。

 

———へし折れた。

 

 衆人環視(ギャラリー)のなかから悲鳴が聞こえてくる。あの猫はまだ小さい。こんな高さから落ちたら最悪の事態だ。

 助けなければ。だが、間に合うか?前の話でちょろっと触れたが、俺はアキレス腱を切って剣道を辞めている。つまり走るのが難しい、という事だ。どうする?行くか、行かないか……?

 

「高城くん!!」

 

 ——中川さんの声が届いた瞬間、俺は無我夢中で走り始めていた。

間に合うかじゃない、間に合わせるんだ。

 

「届けぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

 今まで出したことのないような、シンプルな叫び。ただ、ひたすらに。「助けたい」と願い、俺は手を伸ばした。

 

——結果は、ギリギリセーフ。ヴォルデモートはかすり傷一つ負う事なく、奴が追うはずだった傷は俺の膝に回された。

 

 

『ニャー』

 

 その要救助者が生還の雄叫びを挙げると同時に、周りは歓喜の渦に沸いた。もう俺たち生徒会のことなど目に入っていないようだ。

 

「ったく、猫にあるまじき愛され属性だなオマエは。『かすみ』と名付けよう」

 

 俺たちを散々引っ掻き回した可愛らしい猫をそっと撫でていると、目の前に白く細く綺麗な手が伸ばされていることに気がついた。

 

「いつまで黄昏ているんですか。……行きましょう、高城くん」

 

「……おう」

 

その手の主——中川菜々からの笑顔混じりの手引き(アシスト)を受けて立ち上がり、俺たちは帰路につくのだった。

 

 

 

 

 

「いやーよく頑張ったよお二人さん!もう最っ高!!」

 

「「素晴らしいです、まさに生徒会!!」」

 

 無事に生徒会室にたどり着いた俺たちは会長たちからの労いを受けつつ、疲れ果てた身体をソファに預けた。もう全身ボロボロの俺たち2人に対して演説を始める会長は元気に溢れていた。

 

「君たちは生徒会にとって最も重要な適性を持っている。それを今回の件で証明した。素晴らしいよ!!」

 

「適性って………なんすか……?」

 

 息も絶え絶えな状態で聞いてみると、会長はまたもや笑顔で続ける。

 

「生徒会にとって、いや、何かを目指す者にとって最も重要なこと。それは刹那(せつな)勇気(ゆうき)に向き合えること』だっ!!」

 

 

「せつなの……ゆうき?」

 

「そうだ。『やってみたい』『やらなくちゃ』と思うことは誰でもできる。しかし、ほんの一瞬、ほんの刹那、『やってみる』と言える人、動ける人は少ない。その刹那に勇気を振り絞れるもの、一歩を踏み出せるものこそが、強い人間だと私は思う」

 

「中川さんは恥ずかしい作戦を勇気を出して完遂した。高城くんは間に合うかどうかギリギリのところを覚悟決めて走った。どちらも刹那の勇気を出した結果だろ?素晴らしいってことさ!!」

 

 

「……良かった、のか?」

「そういうことにしておきましょう……疲れちゃいました」

 

 

 会長に認められたことは素直に嬉しい。このまま満足感の中で眠ってしまいたいが、あと一つだけ、やらなければいけないことがあった。

 

「会長」

 

「む、なんだ高城くん」

 

「ヴォルデモートって名前……変えません?」

「そうですね……もっと可愛い名前を……」

 

……そう。この子猫にはもっとふさわしい名前があるはずだ。こんな仰々しい読んではいけない名前のまま放ってはおけまい。中川さんも同じ意見のようだ。

 

「えーダメか?カッコいいと思うけどなーーー」

 

「キラキラネームつけるDQNの発想っすよそれ……」

「全くです…」

 

 

「ゔ……そこまで言われたら仕方ない。……よし、中川さん。君にはこの子の名付け親になってもらう」

 

「え、私……ですか?」

 

 中川さんは猫用の名札(ネームプレート)とマジックペンを渡され、しばし考える。

 

「そうですね……この子は白いから……」

 

 やがて彼女の右手がゆっくりと文字を刻んでゆき、俺たちはそれを眺める。猫の名前が決まる瞬間を固唾を飲んで見守っていた。

 

「できました」

 

中川さんが決めた名前は———『はんぺん』

 

「白くてふわふわしてましたから……ダメですか?」

 

 なんだろう。自然と笑みが溢れてくる。会長も、書記の双子先輩もおんなじだ。

 

「え、ちょ、なんで……?そんなに変ですか?」

 

 自分のネーミングセンスを疑い始めた副会長さんに、俺はそっと、率直な感想を告げた。

 

「可愛いと思うよ。名前も、中川さんも」

 

 そういった瞬間、ほんのりを越えてトマトの如く身体をまっかっかに染める彼女。その生真面目でいじらしくて女の子らしい姿を、俺は本気で愛おしく思った。

 

 

 

 

 

全ての仕事を終えて、俺たち2人は生徒会室を出た。会長の言葉がまだ頭の中に響いていた。

 

「刹那の勇気、いい言葉ですね」

 

「…ああ、久しぶりに感動した」

 

 刹那の勇気に向き合える者。俺たちは生徒会としても、一人の人間としても、それを目指していこうと思った。

 きっととんでも無く辛い道のりかもしれんが、同じ志を持った仲間が隣にいれば、きっと大丈夫。そんな気がした。

 

「これからよろしくお願いしますね?高城くん」

 

「ああ、こちらこそよろしく。中川さん」

 

 そうして俺たちは固い握手を交わし、これから共に頑張ることを誓い合ったのだった。

 

 

 

「ゆうき」、「せつな」。

 

 その言葉(フレーズ)が俺や彼女にとってとてつもなく大きな意味を持つことになるのは———。

 

もう少し、未来(さき)の話だ。




ここまで読んでいただきありがとうございます。
来週からはいつも通り本編を進めていきますので、お楽しみに。

最後に、改めて。
せつ菜ちゃん、菜々ちゃん、お誕生日おめでとう!!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。