アイツの距離が近すぎる   作:ぽむQ

15 / 31
スケジュールに追われ本編が間に合いませんでした。
自分で日曜に出すと言っておきながら約束を守れず、大変申し訳ありません。近日中(1,2日後)に公開できるよう急ピッチで進めて参ります。

 今回も短めの特別編、というか前回に入り切らなかった部分になります。本編の代わりというには力不足かもしれませんが、ご一読いただければ幸いです。

追記
キャラクターの学年に関してのミスがありましたので、前編、後編ともに修正します。ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。


#EX3 アイツの選曲がラブすぎる(後編)

 身構えている時には死神は来ないというが、ホントにどうしようもない時には女神が微笑んでくれる、らしい。中一の夏、人生初の美容院で見るからにチャラそうな第一印象(みため)とは裏腹にとんでもなく話しやすい美容師のお兄さんに聞いた話だ。

 なぜそんなことを思い返しているかというと、今この状況がまさに「それ」だからだ。  

 

「お〜い、少年少女はお帰りの時間だぞ〜〜」

 

上原(アイツ)のラブソング攻撃を過剰に喰らって理性をバラバラに砕かれ、230円のやっすいポテトに過剰なほどのマスタードをつけて口にねじ込み、そのスパイシーな刺激においてかろうじて自制心を保っていた俺を救ってくれた人。

 俺とアイツの2号室(スイートルーム)のドアを開いて上記の台詞を放った、店員さん——ふわっふわのウェーブがかったブラウンの髪に、吸い込まれそうなバイオレットの瞳を持った、「このえ」なる苗字が刻まれた従業員用名札(ネームプレート)を胸に携えたお姉さん—— 。

 彼女こそ、俺をこの天国(生殺し)から解放せんと天がつかわした女神。そう思えてならなかったのだ。

 

 

 

 

 

 

「お楽しみのところ悪いけどぉ〜…そろそろ中学生(きみたち)はおやすみの時間だから〜……ごめんねぇ〜………」

 

 

 お姉さん、いや「先輩」と言ったほうが適切だろうか。高校の制服(というかなんか見覚えがあると思っていたら虹ヶ咲高等部の制服だった。リボンの色から言って一年生のようだ。俺と上原の1つ上の先輩ということになる)の上に黒のユニフォーム(厳密にはエプロンだが)をまとうこの店の従業員(アルバイト)近江(このえ) 彼方(かなた)』先輩は、中学生が店に居られるリミットである午後6時を回ろうとした段階で声をかけてくれたのだ。

 義務教育を終えていない子供が自由に出歩ける時間は限られている。原則「午後6時」には殆どの娯楽施設から閉め出される。この時間になるとお酒(アルコール)の提供具合とそれを摂取する人種(リーマン)が爆増するため、よからぬことに巻き込まれないようにという措置だ。

 今日の目的(歌の練習)も果たした事だし、帰る以外の選択肢はなくなっていた。

 

「もう打ち止め(タイムリミット)だとよ。帰んぞ、上原」

 

「………はーい」

 

 この女まだ歌い足りないと言いたげな空気を醸し出してきやがるが、これ以上の理性破壊行為はご遠慮願いたい。それ以前に条例的にダメな時間帯で助かった。これが平日の9〜17(フリータイム)とかだったら耐えられなかった。

 近江さんの打つレジ(普段はセルフレジに任せてキッチン担当だが「少年少女はこういうところを狙われるから、夕方はレジに入って見守っている」とのことらしい)を済ませ店を出る。6時過ぎといえは空はなかなかに暗く、行き交う人の服装や年齢層から、着々と街が「夜のスタイル」に変わっていく様子が見てとれた。

 治安の心配はしていないが、いつもの通学路から外れて「街中」を通って帰る事はほとんどないため、若干の不安がつきまとう。上原の表情も若干強張っているように感じた。

 万が一という事もある。少し申し訳ないような気がするものの、母に迎えを頼もうとスマホを取り出そうとすると、

 

「ふっふっふー、心配するでな〜い」

 

と、先ほど世話になったばかりの近江先輩の声が聞こえる。その先輩はというとレジに自分の名札をスキャンし(あれが俗に言う「タイムカードを切る」という行為だろうか?)、裏のスタッフルームに戻ろうとしていたところだ。

 

「3分だけ待っておくれぇ……」

「お姉さんがぁ…送ってしんぜよ〜う」

 

 

 

 

「ほお〜っ。少年も『はるか』っていうんだ〜〜……彼方ちゃ、…わたしの世界一可愛い妹と同じじゃないかぁ〜〜。運命だねぇ…」

 

「偶然の一致ですよ、近江先輩」

 

「彼方でいいよぉ〜。少年〜〜」

 

「じゃあ、彼方先輩で」

 

「そちらの美少女ちゃんもよろしくぅ〜」

 

「びしょっ……!?……よろしくお願いします♪彼方先輩っ」

 

「2人とも真面目だねぇ〜……」

 

 暗くなりはじめた道に飲み屋を筆頭に「これから稼ぎどき」の店の明かりがギラギラと照る。そんな安全なんだか危ないんだかわからない帰路を俺、上原、彼方先輩と歩く。

 送ってもらえるのはとても心強いが、先輩もどちらかと言えば送られる側の人間(こんな美貌の女子高生が一人で出歩いてたらマジで危ないと思う)に感じるので、むしろ万一が起きれば俺の勇気の振り絞り具合がカギになりそうで気が気でない。

 

 だがそれも杞憂に終わりそうだ。何も起きるはずもなく(こんな近所で何か起きても困るが)俺と上原の住むマンションにたどり着くことができた。ここまで付き合ってくれた先輩にお礼を言い、ロビーへ向き直る。

 

「……あ。少年、少年っ」

 

 不意に先輩に呼び止められる。はて、と思いながらも耳を貸すと、先輩は「上原には聞こえない声」で、そっとつぶやいた。

 

「あの子が好きなら油断しちゃダメだぞ?あんまり奥手だとぉ……愛想尽かされちゃうぜ♡」

 

 それだけ言って、今度こそ先輩は帰って行った。俺はその後ろ姿を見送りながら、自らの恋愛事情が思いの外筒抜けだったことを恥じるのだった。

 

「なんの話してたの?」

 

「ああ、いや…その……『男は度胸が大切だ』ってよ」

 

「はぁ……?」

 

 上原はいまいち納得いってないようだが、正直に話したら俺が憤死してしまいそうだから黙っておこう。それからは特に、悲しいほどになんの進展もなくお互い家路に着いた。

 

 

 

 

 以上で、上原による可愛い攻撃を食らったというお話はおしまいだ。何も進展がなくてすまないが、今回俺を救ってくれた女神「彼方先輩」が、後々俺や上原にとって重要な人になってゆくことだけ…伝えておく。

 

次は現代(いま)の話でお会いしよう。あゆ…上原と高咲さんに書かせなければならない書類が山ほどあるから、な。

 

 

つづく

 

 

 

 




最後まで読んでいただきありがとうございます。

 評価数、お気に入り数も増えてきて感謝の気持ちでいっぱいです。多くの方に読んでもらえる以上は、投稿ペース、クオリティともに向上していきたいと思いますので、引き続きお付き合いいただけたらとても嬉しいです。

これからもよろしくお願い致します。ありがとうございました。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。