アイツの距離が近すぎる   作:ぽむQ

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 これからもより多くの方に読んでもらえるよう頑張りますので、引き続きお付き合いいただけたら嬉しいです。


#2 剣士とマドンナの家までの距離

 

 「あ"ー…暑っ」

 

 プールサイドでの喧嘩を経て数時間後。俺こと高城(たかぎ) (はるか)は剣道部の練習を経て、日も暮れた通学路(いつもの道)を歩いていた。

 みんなもそうだっただろうが、運動部の放課後練は日照時間と連動している学校が大半であり、俺とあゆ…上原の通っている『虹ヶ咲学園中等部』も例に漏れずその流れに該当している。

 その中でも、剣道部、弓道部、柔道部といった「道を極めし者たち」、所謂「武道館系」の部活はそれに輪をかけて長い。もっといえば剣道部が一番長い。屋内は電気さえつけばいつでも昼間だ。だから日が暮れようがなんだろうが練習練習…なんてことは日常茶飯事だ。

 それだけ心身を酷使して何を極めたかといえば、正直ピンとこない。いや剣道そのものは上達しているし、体力もついたと思う。だが極めたと言うには心許ない。極めたのはせいぜい「洗濯スキル」と「効き制汗剤」くらいだろうか。用具=着衣の部活はにおいがエグいことになるからな…夏場は特に。

 

 まあそんな修羅場(いつもの)を経て、さあようやく帰れるぞ、と行ったところだ。そんでもって代わり映えのない景色を見ながら、野良猫——この辺に生息している、俺と同じ亜麻色(ベージュ)の髪と(レッド)の瞳を持っていて妙な親近感を覚えたヤツ——の動きを観察したり、そういえば仮面ラ○ダーの夏映画の制作発表今日だったな、見てねえな……そうだ、今日親いねえんだった…などと帰宅後の計画を立てたり……ってな感じて家路に着こうとしていたのだが……。

 

 

「……ついてくんな」

 

「私の家もそっちだもん、ていうか隣だし」

 

 この女、俺の初恋相手かつ今でもほのかな千の歌を澁谷からカノンに乗せて放ちたいと心が叫びたがっている相手、弓道部に所属していて春の部活紹介では「なんかめちゃくちゃ可愛い先輩いる」と話題になったとかならなかったとかの彼女、上原(うえはら) 歩夢(あゆむ)は、なぜか毎日毎日俺の部活終わりを待っていて、帰り道を共にしているのだ。

 

「だからといって真隣を歩くな。それでいてあんまり寄るな。あわよくば適切な距離感(ソーシャルディスタンス)を保て」

 

「どうして…?」

 

「男だって自分のにおいは気にするんだよ察しろ」

 

 上原と帰れることは正直悪い気はしない。だが、死ぬほど汗をかいたこの身体で一緒に過ごすのはどうしても抵抗があるが……

 

「私は気にならないけどなぁ」

 

「気にされないぐらいにシー○リーズかけまくってんだよこっちは……」

 

「それに、わたし好きだよ?(ゆー)くんのにおい」

 

「は?え、ちょ……上は———」

 

 上原はそんなことお構いなしに距離を詰め、抱きついてくるのだ。

 

「だっ………!!おま、お前…ばか……上原……っ!!」

 

「ふふっ……♡このシトラス(制汗剤)の香り。部活頑張ったんだなぁ…って感じがして、大好きなの」

 

「ぐっ…!ぅ…」

 

 なんか俺の汗対策を褒められているような気がしたが、正直全く頭に入ってこない。それはなぜかなんてそんなの野暮だな、言わなくてもわかるだろう。上原の距離が近すぎる!!そして抱きつかれてる俺の右腕に伝わる感触、セーラー服の上からでもはっきりとわかる二つの…その……,さっきのプールの時も思ったが、柔らかい。こういう時普通の主人公なら「なにがとは言わないが」などと濁すんだろうが、俺はあえて、声を大にして言おう。上原のおっぱいが柔らかい!!そして風に揺れる、サラサラの桃色(ライトピンク)の髪。柔らかいかつしっとりとした手足。あーもうめっちゃいい匂いしそう。した。同じ武道館系だというのにこの差はなんなのだろうか…。

 さて、ここで問題だ。みんなは「距離が遠すぎる幼馴染」と「距離が近すぎる幼馴染」、どっちの隣にいるのがつらいと思う?意外だろうが、近すぎる幼馴染のほうがつらい。

 めちゃくちゃ優しくて、可愛くて、いつも側にいてくれて、料理上手で、勉強もしっかりやる真面目ちゃんで、なんだかんだ隣に住む異性(オレ)と仲良くしてくれる、全体的にむっちりした肉付きのよく柔らかくて健康的なエロスを振りまく女の子に抱きつかれた上におっぱい押し付けられている状況下で、「俺はお前を性的な(そういう)目で見てない」感出さなきゃいけない方が、人間つらいんだ。

 

「いいからっ………!離れて、くれっ!!」

 

 俺はどうにか上原を引っ剥がし、呼吸を整える。

 

「あ……ごめん。わたしも汗かいてたんだった……っ」

 

 離れて早々に恥ずかしがる上原。羞恥心の感覚がイマイチわからないが、ようやくまともな反応が返ってきて正直ホッとしてる。

 

「ごめんね、嫌だったよね…」

 

「いや、別に……それはいいんだが……」

 

 わりかし嬉しかったとか口が裂けても言えない。ともかく、彼女の距離感は正さねばなるまい。俺の理性が死ぬ前に。

 

「それよりもひとつ」

 

「何?」

 

「あれだ、毎回待つな。付き合ってると思われんだろ」

 

「………嫌なの?」

 

「C組のマドンナ上原さんと付き合ってる事にされてクラスの女子から『アンタらどこまで進んでんの?』ってキャピキャピされたり男共に『もうヤったの?』って興味と殺意向けられる俺の気持ちを考えろと言っているっ…………ふう」

 

「長いね」

 

「オメーが言わせてんだろ!!つーか、実際マジで待たなくてもいいぞ。初夏っつっても暗えし、色々危ねえからさ」

 

 紛れもなく本心だ。もう時刻は7時をとうに過ぎ、8時に差し掛かっている。少なくとも、塾通いでもない中三の女の子が歩いていい時間とも思えないから。

 

「平気だよ?暗いの怖くないし」

 

「襲われるからはよ帰れっつってんだけど?」

 

「その時は(ゆー)くんが倒してくれるでしょ?ロッキーみたいにさ」

 

「部活帰りの疲労困憊(グロッキー)になに期待してんだバカ」

 

「助けてくれないの?」

 

「一緒に逃げるくらいならできる」

 

「ふふっ、ありがと」

 

 コイツはなんだかんだと俺から離れようとはしない。自分が襲われるリスクを背負っていること、俺も広い意味では(それ)に該当することに気づいているのかいやがらねえのか……。ついでに素朴な疑問も聞いておこう。

 

「それはいいけどよ………なぜに俺を待つ?」

 

ずっと疑問なのだ。弓道部は剣道部より早く終わるケースが大半だ。ついでといっても俺が終わるまで30分ほどはかかる。そこまでして俺を待つのにはいったいなんのわけが……好意を向けられているから、なんて発想を持てるほど俺はモテない誰が童貞だぶっ飛ばすぞ。いや今は上原の回答を待とう。きっと笑顔で答えてくれる。俺はそんな上原の笑顔が、笑顔が———。

 

「……は?」

 

きえていた。怖い怖い怖い上原マジで怖い。そんな恐ろしい顔は一瞬でなりをひそめ、またいつもの上原に戻る。

 

「一緒に帰りたいからだよ、ばかっ」

 

「……そういうもんなのか?」

 

「そういうものなのっ!」

 

 女心というのはよくわからない。だが正直ファイナリスト級の美少女に「一緒に帰りたい」と呼ばれて嬉しいのも事実であって……。とりあえず幼馴染という義務感でなく自分の意思でやっている、ということ(と願いたい)がわかっただけ収穫だろうか。

 ……この際だ、今日のことも聞いておくか。

 

 

「そういや今日のアレ、結局なんだったんだよ」

 

「あれって?」

 

「ほら、お前の……性的魅力…的な話」

 

「あっ……」

 

 たちまち彼女の顔が赤くなる。そりゃそうだ、今思い返しても恥ずかしい要素しかない。こんな辱めみたいなことはしたくなかったが、真意を問いたださないことには俺も気になって眠れないのだ。

 

「ほら、なんであんな事聞いてきたんだっ…つーか……。なんか嫌なこと言われたりがあったのかなっ……て」

 

「……ううん、別にそういう訳じゃないけど、なんていうか、怖くなったの」

 

「……怖い?」

 

「うん。みんなの……特に男の子が、わたしに対する接し方が変わってきて…わたし、何か悪いことしちゃったのかなって」

 

「わたしに原因があるなら、直さなきゃって思ったの、それで友達に聞いたら…」

 

「………歩夢はえっちだから、って返された訳だ」

 

「……うん。だから、わたしのどこら辺が、その、えっちなのかを知れば、直せるかなって」

 

 彼女も彼女なりに悩んだのだろう。この時期、思春期というのはそういうものだ……と俺は思う。男と女が明確に分かれていく時期、どうしてもその距離感がわからなくなることはあるだろう。だから———

 

「無理して直すものじゃねえよ、そういうの」

 

 俺は俺の持論を展開するしかできない。それで救えるかは知らん、ともかく、俺にできるのはそれだけだ。

 

「ほら、あれだ。えっちだから……っつーか、単純にお前が、その……なんだ、女の子として?魅力的に写る、的な?要はモテてるってことだろ」

 

「そう、なのかな」

 

「おそらく多分絶対そうだ。素直に喜んどけ」

 

「……ちなみに、悠くんから見て、わたしってどこらへんがモテると思う?」

 

いつもの調子で聞いてくる彼女。俺を知恵袋か何かだと思っているのだろうか。……とりあえず、最初っから気になっていたところを指摘しておこう。

 

「そうだな……可愛くて、優しくて、成績良くて……透けブラしてんのに気づかないところ」

 

「え、あっ」

 

たちまち先程より一層、顔の赤みが増していく上原。……やっぱり教えなければ良かっただろうか。

 

「……えっち」

 

「お前がえっちすぎるのも2割ぐらい悪い」

 

「ばか…」

 

「……悪かったよ」

 

 そんなやりとりをしていると不意に上原のスマホが鳴る。

 

「もうっ……!……あ、ごめん。お母さんから電話……もしもし、……うん、うん………えっ!?、ちょっと、ええ……でも迷惑じゃ、大丈夫って、ええっ……」

 

 通話中もちょくちょく俺の方を見てくるのはなんなのだろうか。会話は聞き取れないが、なにが俺に関する話でもしているのか…?

 

「……うん、わかった。とりあえず聞いてみるから……」

 

 やがて通話が終わり、彼女は改めて俺に向き直る。

 

「おばさん、何だって?」

 

「うん……わたしの家、お風呂壊れちゃったみたい」

 

「マジか」

 

「シャワーも出ないんだって…」

 

「詰みかよ。どんな壊れ方してんだ」

 

「水道管が、パーンって」

 

「水道管がパーン、か。おじさんおばさんはどうするって?」

 

「うん、二人とも今日夜勤だから、病院(向こう)のシャワー室で済ませるっていってた」

 

「ああ、そういやどっちも病院勤めだったな。………で、お前は?」

 

「うん、………それなんだけどさ」

 

 僅かな沈黙のあと、上原がゆっくりと、もじもじと、その口を開く。

 

「悠くんの家で……入らせてもらいなさい…………って」

 

「俺の理性に恨みでもあんの?」

 

「悠くんなら安心して任せられる……って」

 

「ダメな方にすげえ信用されてんな俺」

 

「あのね、そういう訳でね?」

 

「どういう訳で?」

 

「お風呂……借りてもいい?」

 

「貸さない選択肢が死んでんだけど……わかったよ、来い」

 

「うん………ありがと」

 

「お、おう…」

 

 こういった経緯で(どういった経緯だ)、俺は誰もいない家に5年ぶりくらいに幼馴染を上げ、お風呂を貸すこととなった。

 

 この選択を、現在(高校2年生)の俺は今でも悔やんでいる。銭湯のクーポンでも渡して、強引に引き離せばよかったと幾度となく思った。

 

……ああ、思い出した。この日だ。

 

俺が歩夢(キミ)を名前で呼んだ、最後の日。

 

俺が彼女と適切な距離を保てた、最後の日。

 

俺がお前を「幼馴染」として見れた、最後の日。

 

そして俺が、歩夢に———。

 

 この続きは次回、憎いほど詳細に描くつもりだ。本来伝えるべき所まで行き着かなかったことは本当に申し訳ない。だがこの息苦しい回想(むかしばなし)も次回で最後。もし興味が残っているのならば、もう少しだけお付き合い願いたい。

 では、今回もまた俺の経歴(プロフィール)更新(アップデート)して終わりにしよう。

 俺の名前は高城(たかぎ) (はるか)。髪色はワンダーランド級のベージュ、瞳はダイアモンド級のレッド。所属している部活、それでいて得意なことは剣道だ。引き続き、よろしく。

 

つづく

 




ここまでお読みいただき本当にありがとうございます。
 そして、長いプロローグでごめんなさい。次が最後の回想、その次第4話から本格的なスタートです。なかなかのスロースタートとなってしまいましたがもし興味を持っていただけたなら、引き続きお読みいただければ幸いです。
 更新はおそらくまた来週になると思いますので、暫しお待ちを。ありがとうございました。

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