みんなはこんな経験はないだろうか、「何気なく入った店で知り合いがバイトしていた」なんてこと。あの何とも言えない気まずさといったらない、なるたけ経験したくないものだ。しかしながら、どれだけ警戒しても回避できない場合もあるようで。
これはそんなお話。俺が図らずも彼女——いや、先輩のライフスタイルの一端に触れてしまった日の記録である。
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あれは2018年の年の瀬。当時中3だった俺は受験勉強(ニジガク高等部への進級試験対策)に勤しんでいた。
本来虹ヶ咲はエスカレーター式であるから、よほど成績が壊滅的でない限り、それこそ現代文で22点でにゃんにゃん、なんておバカかわいい点数でもとらない限り進級できるのだ。
しかし、あいにく部活一筋(というかその流れであわよくば推薦を狙っていた)の俺はその『壊滅的な側』の人間に属しており、皆が大晦日だの年越しそばだの初詣だのお雑煮だのを堪能しようって中、漢字と公式と英単語にまみれた生活を送っていた。
自業自得だということは重々承知しているが、それはそれとして勉強一色の日々はなかなかに厳しいものがある。せめて年の終わりと始まりくらいはゆっくりしてもバチは当たらんだろうと考えた俺は、夜食を買い込むべく近所にある24時間営業の業務スーパー「SAGARA」に足を運んだのだ。
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「ふぅ………まぁ、こんぐらいありゃあいいか」
午後9時過ぎ。店に着くやいなや、俺は三が日は持つであろう見るからに身体に悪そうな——炭水化物と糖分にまみれのカップ麺、ポテチ、チョコ、etc……を買い物カゴにぶち込み、とどめと言わんばかりにお気に入りのエナジードリンク——『モンスターチャージャーパイプライン』——を入れた。こいつは他のエナドリとは格が違う。程よく甘く、それでいてちゃんと炭酸していて、さらにもってカフェインもキメてくれる。あと色が好きだ。あの柔らかいライトピンク——それだけでなぜか安心するのだ。……幼馴染のアイツの髪色を連想してしまっただけかもしれないが。
この話はもうよそう。俺はもう上原との距離を縮めることはできない。叶わぬ恋なんて反復しても落ち込むばっかりだ。さっさと買って、さっさと帰って、さっさと勉強しよう。そうして俺は情けない決意を勝手に表明しつつレジに並んだ。
「いらっしゃいませぇ〜」
まるで日向ぼっこをするようなふんわりぽかぽかした声が聞こえる。……どこかで聞いたことあるような気が——。
「ん?…………おぉ〜、いつぞやの少年ではないかぁ〜」
「彼方……先輩」
そのレジに立っていたのは、かつて上原とのカラオケでお世話になった先輩、近江彼方先輩だったのだ。
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「少年は大晦日も勉強かぁ〜、精が出るねえ…………」
「まあ、受験生なもんで……てか先輩も大晦日にバイトしてるでしょ」
「奨学生なもんでねぇ〜……ま、もう慣れたけど」
「未知の世界だ……」
俺がそれなりの量を買ったおかげか、先輩がそれを捌き切るまでの間、彼女と言葉を交わすタイミングを得られた。と言っても、上記の通り挨拶程度のことでしかなかったが……。あと地味に先輩が奨学金制度を使っていることもここで初めて知った。
「さて……これ食いつつ過去問でもやるか」
「先輩、お疲れさまです。良いお年を」
「は〜い、良いお年を〜…………って少年、待った」
会計が終わり去ろうとする俺を先輩がそっと呼び止める。何か忘れものでもしたかと思い踵を返すと——。
「よしよし………」
ふんわりした手で、優しく頭を撫でられた。
その後の事はよく覚えていない。一応改めて挨拶をして、レジが込み入る前にそそくさ帰った事は記憶しているが。それと先輩がぼそりと告げた、俺を見透かしたようなフレーズは脳裏に焼き付いて離れなかった。
「恋も受験も頑張りたまえよ、少年」……と。
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以上でこの話は終わりだ。いや、正確にはここから始まるのだが……それはまた今度にしよう。今の俺と、俺の目の前で爆睡する彼方先輩との一番新しい絡みをお見せしようと思う。近いうちに現代で会おう。
【#8 スリーピーな先輩に惑わされるオレ】につづく……。
次回は本編8話と特別編(中川さん編)の二本立てでお送りします。
【年内には更新予定】
なお特別編は次回で一区切り、かすみん生誕祭までしばらくお休みします。当面は本編を最優先で進めていきますので、引き続きお付き合いいただけたらとても嬉しいです。今後ともよろしくお願いいたします。
☆彼方さんお誕生日おめでとう!☆