アイツの距離が近すぎる   作:ぽむQ

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#EX12かすみんのパンケーキ五番勝負(2戦目)

 みなさん、昨日ぶりですねっ。中須かすみです。本日はパンケーキ五番勝負の二日目、初戦を黒星で迎えた幸先の悪いスタートです………。

 しかしっ!スクールアイドルかすみんはそれぐらいじゃあめげませんっ!!今日こそはあの恐ろしい七色の魔物を駆逐し、勝利のレモンティーとしゃれこみましょう。

 

 

2戦目 通算戦績0勝1敗

 

「ふっふっふ、作戦開始です」

 

 昨日の敗因は単純明快、「お腹を空かせていなかったから」です。考えてみれば当たり前のことで、「めちゃくちゃ空いてるわけじゃないけどまあ普通に食べられるかな」なんて胃袋では当然普通の量しか食べられない訳です。

 しかし、だからといって空かせすぎると体調を崩してかえって食欲が減ってしまいます。

 そこでかすみんが編み出した攻略法、名付けて「究極のベスト腹ペコ作戦」ですっ!!

 『具合が悪くならないくらいにめちゃくちゃお腹すいた』状態に自分を持っていくことで、最高の食欲を持った状態で臨む方が可能になるのです。そのためにかすみんは昨日からごはんの量を少し減らして、腹八分目ならぬ六分目に抑えました。そのおかげで食欲を今この場まで持続することができています。

 これならいける、かすみん確信しています。パンケーキよ、食欲モンスターガールと化したかすみんのお口にご招待ですっ!!

 

 

「美味しい、美味しすぎる〜っ!!」

 

 気のせいじゃない。間違いなく昨日よりもフォークが進んでいるのがわかります。前回の到達点である2枚半を突破、3枚目のパンケーキも順調にさばき、今は4枚目に取り掛かっています。

 この調子ならクリアも夢じゃない、そう思っていた時期がかすみんにもありました。

 

「ううう…重いぃ……」

 

 4枚目のパンケーキを半分ほど食べ終えたあたりから風向きが変わってきました。もっと入ると思っていたのに凄まじい満腹感に襲われたのです。もう入りそうにないです。

 そもそもかすみんの腹ペコ作戦には致命的な弱点があったことに初めて気付かされたのもこの時でした。

 空腹、つまりお腹に何も入っていないという事は、かすみんの胃は朝起きた時と同じ、縮んだままだということ。そこにいきなり食べ物を突っ込み続ければ、膨らむ余地すら残さずいっぱいになってしまうのです。

 かすみんが浅はかでした。結局3枚と3分の1を食べたところでタイムアップ。2戦目も手痛い敗北を喫してしまいました……とほほ。

 

 「ごちそーさん」

 

 しょんぼりしていると、斜向かいのテーブルから従兄(はる助)の声が聞こえてきた。そういえば、知り合いと来るって言ってたっけ。視線の先には昨日と同じく空っぽの皿と、完食の余韻に浸っているはる助、そしてその向かいには金髪の……ギャル?どんな関係なんだろ…?

 ま、その辺りはおいおい本人に問いただしましょう。今日のところはもう帰って明日の作戦を決めましょう。ペナルティ料の600円、かすみんのお小遣いの貴重な5分の1を泣く泣く払い、お店を後にしました。

 

 

 カラン、コロン。

 

 ドアに取り付けられた客の出入りを示すベルが軽快に鳴り、ふとそちらを向くと、かす子……従妹の中須かすみが見るからに落ち込んだ面持ちで店を出るのを見た。あの様子じゃおそらくまた負けたのだろう。

 

「2連敗かぁ」

 

 勝負事において、同じ相手に二度負ける事ほど悔しいことはない。それに次は三戦目。本人が5番勝負とか言ってたが、明日負ければその時点で勝敗が決する。もう後がないのだ。

 

「はるぴょん何と戦ってんの?」

 

「え?ああ、悪い。従妹がパンケーキに負けたっぽくてさ」

「……というか宮下。ぴょんはやめろ、ぴょんは」

 

 厳しい敗北を味わったかす子の事を考えていた(オレ)を、向かいの席に座る眩しい笑顔のヒーロー系金髪ギャル、宮下 愛(みやした あい)の声が呼び戻した。

 

「えー、可愛いじゃん?」

 

「俺には『ぴょん』で表せるほどの可愛げはない」

 

「あはっ、それは言えてるかも!」

 

「はっ倒すぞ」

 

「無理だね、君は女の子相手にそんなことしないでしょ?」

 

「褒め言葉と受け取っておく」

 

「うむっ、よろしい」

 

 説明が遅れてしまったが、俺こと高城悠は、同学年の宮下愛とパンケーキチャレンジに来ていた。

 

「今日はありがとね、はるぴょん」

 

「ここのパンケーキずっと食べてみたかったんだけどさ、……結構、量、あるじゃん?」

 

 彼女が言うように、ここのパンケーキは特別にボリュームがある。女友達数人でかかっても、標準的な胃袋ではなかなかのハードルだと思う。残すのも申し訳ないと言う事で、絶対食べ切れるであろう人間についてきて欲しいと。それで俺に白羽の矢がたったって訳だ。

 

「けど無事に完食っ!はるぴょんが大食いで助かったよ」

 

「甘いもの限定だけどな。それに、宮下だってすげえよ。あの生クリームと苺を引き受けてくれなかったら負けてた」

 

「ふふーん、愛さんに感謝したまえよ〜」

 

「いや本当に助かったよ、ありがとう」

 

「おお、急に真面目なトーンされると愛さん恥ずかしいな……」

 

「俺がいつも不真面目みたいじゃねえか」

 

 ところでなぜ俺と宮下が平然と放課後2人でパンケーキつついているのか、不思議に思った方もいるだろう。実際彼女とは学部はもちろんクラスも違うため、修学生活で顔を合わす機会はほぼない。

 「あるもの」がなければ、卒業までろくに話すこともなかっただろう。

 

「あ、そうだ。これ、はるぴょんに渡しておきたくて」

 

 そう言って彼女が取り出した4枚の紙。

 

「いつもの助っ人な、了解」

 

 これこそ俺と宮下を繋ぐ書類、「部活動代替参加許可申請書」。大層な名前だが、ざっくり言うと「助っ人許可証」だ。

 

 「部室棟のヒーロー」と呼ばれる彼女の運動神経は素晴らしく、数多の運動部から出場の依頼が舞い込んでくる。しかし実際の大会では当然ながら「その部に所属している選手」しか出られない。そりゃあそうだ、いきなりリストにない人物がユニフォーム着てコート立ってたら「誰だ!?」「素性を隠したプロか?きたないぞ!!」なんてことになりかねない。

 

 そこで「この選手は今回の公式戦に限り○○部として参加します」という届け出をしなくてはならない。突然手続きは生徒会の仕事、突き詰めれば庶務、つまり俺の仕事。書類を出す側と受け取る側、そんな奇妙な縁が今まで続いていると言う訳だ。

 

「ヒーローは大変だな、休む暇もねえ」

 

「だーいじょーぶ!ヒーローには疲労(ひろう)は無縁、華麗な技術を披ー露(ひーろう)ってね!!」

 

「今のはヒーローと疲労と披露のトリプルミーニングな……」

 

「はるぴょーんっ!ギャグを説明しないでぇーっ!!」

 

 

 

 互いの用事が済んだところでお開きとなった。

 

「はるぴょんの従妹、勝てるといいね」

 

「大丈夫だ、あいつは絶対にやり遂げる」

 

 かす子が勝利の栄光を手にする事を願って、俺たちはそれぞれの帰路へ着いた。明日に備えて身体を休めなければ……またもやパンケーキに挑む約束があるからな。 

 

今日はありがとう、宮下。

明日は頑張れよ、かすみ。

 

☆かすみんのパンケーキ五番勝負☆

1戦目 ✖️

2戦目 ✖️

通算戦績 0勝2敗

 

第3戦へつづく

 

 

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