☆ランジュちゃんお誕生日おめでとう!☆
「さすがに4日連続は堪えるな……」
いよいよ佳境に差し掛かったパンケーキ勝負。かす子が作戦をミスって4敗目を迎えたのと日を同じくして、俺は幼馴染の
事の発端はまぁなんとなく予想できていると思うが、高咲の突然の思いつきである。『トキメキ』なるものを感じとったらすぐ実践、をモットーとする彼女は七色パンケーキをみるや否や
「パンケーキ女王に、私はなるっ!!」
などと息巻いて先週単独で挑んだものの見事に惨敗したのだという。このチャレンジは複数人での参加が認められているため、高咲の交友関係の中でも『無茶に付き合ってくれそうな人』に該当する数少ない人間、つまり上原と俺が駆り出されたという訳。
「ごちそう……さまでした…………」
とまぁ、そんなこころ温まる友情ストーリーを経て、俺はこのカロリーと糖質の集合体を4日連続で摂取する羽目になったのだ。
正直めちゃくちゃキツかったけど、なんとか完食することができた。けどもう限界、しばらくパンケーキは見たくねえな……。
「ごちそうさまでした」
俺が生クリームを処理し終えたのと同時に、向かいに座るライトピンク級ドスケベ兎こと上原もフォークを置く。上段の2枚と半分くらいをゆっくり、ぽむぽむと咀嚼しながら嗜んでいた。その食べっぷりの可愛さについ目がいってしまい、前回よりもペースが落ちたことは内緒だ。
「ごちそーさまー!いやー完食、だねっ!!お疲れ様、歩夢っ、そしてハル。私たちの勝利!!私がM・V・P!!!」
そして最後に、全体の1%も食べずに降伏したハイテンション系ツインテール、高咲の勝利宣言をもって、挑戦は終わったのだった。
「正確には俺と上原の勝利な」
「えーっ、なんで!?私も頑張ったじゃん!!」
「オメー開始2分でダウンしただろうが!4口くらいしか食ってねえぞ多分!!」
「私は高く咲き誇る女だからガツガツ食べないのっ!!」
「そのフレーズ使いたいだけだろ!」
「むむっ、バレたか……。まぁ、だから甘党のハルを呼んで勝てたんだからさ、結果オーライだよっ、セクハラヘタレ童貞子供舌くんっ♡」
ブチ犯したろかコイツ。
ツインテをぴょこぴょこ揺らしながら意地悪フェイスで煽り散らかすメスガキモードの高咲。だがここで煽りに乗ったらより面倒な方向に行くのが目に見えている。華麗にスルーしよう。
「もうっ、侑ちゃんってば言いすぎだよっ!」
「上原……?」
予想外なことに上原がフォローしてくれるようだ、ありがたい。好きな人に助けられるというのも男として情けない気もするが、今はそんな事は言うまい。
「悠くんは…悠くんは……!!」
期待半分恐怖半分でその言葉の続きを待つ。せめてまともな評価であってほしい、頼むから……。
「ムッツリスケベでヘタレで甲斐性がなくて幼稚園の頃からずっと味覚のレベルが赤ちゃんなだけなんだからっ!!」
「ヴッッッッッッッ」
わりぃ、おれ死んだ。
「歩夢、やめたげて。ハルが死んじゃうから」
一周回って高咲がフォローしてくれるものの、俺のダメージはもう限界を超越してしまってどんな回復呪文も受けつける気がしない。てかこれもう普通にフラれてるのでは……。
「ハル……大丈夫?」
「……無問題、ギリ生きてる」
「ダメじゃん」
「じゃかあしい……」
まさかパンケーキ食って精神的ダメージを負うことになるとは想定外だった。早急に回復しないとマジで心病んじまう。何かないか、この気持ちが過去のものになるようなインパクトは……。
「何やってんだ栞子ぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!」
その瞬間、これまで食らった傷を忘れた。斜向かいのテーブルから響く絶叫と聞いた事のある名前。それがただならぬ事態を招いてあることは容易に想像できる。
恐る恐る視線を移すと、先程の絶叫の主——煌びやかな
そして彼女らのテーブルには……七色マウンテンパンケーキが、3つ。
♪
「なんでだっ!なんでランジュにオーダーを任せたんだ!!『こう』なるのは目に見えていただろっ!!」
「すみません……薄々やるだろうとは思っていましたがまさか本当にやるなんて………」
「どう考えても1つを3人で攻略する流れだろっ!!なんで1人1マウンテンなんだ!!ボクに来日早々リバースしろっていうのか!!ある意味一番の思い出になるねっ!!」
「ツッコミがくどいですよ、ミア」
「シャラップ!!」
なんとなく話に聞き耳を立てていたが、あの金髪の……「ミア」さんと言うのだろうか、によると、どうやら「ランジュ」という人がパンケーキを人数分注文してしまい収拾つかない状態のようだ。
「もうランジュの胃袋に賭けましょう」
「……それしかないようだね」
栞子さん、ミアさん共々諦めの境地に達している。それにしてもランジュという人、なかなかの大物っぷりだ。いったいどんな人なんだろう。
「待たせたわね。ミア、栞子」
そうこうしているうちにランジュさんと思われる人がドリンクバーから戻ってきた。一糸乱れぬ銀髪と優雅に輝く瞳。完璧なプロポーション。まるで全てを虜にし、支配しようと言わんばかりの存在感だ。
「……あ!来たのね、虹色マウンテンパンケーキ!!ずっと楽しみにしてたの……☆さぁ、いただくわよっ!二人とも」
「……ランジュ。一応聞いておくが、これを食べきる算段があって注文したんだよね?」
「ふふっ、無問題ラ。私を誰だと思っているの?」
「ランジュ」
「そう、ランジュよ。アタシが考えなしに『こんなこと』する訳ないじゃない。楽勝よ、楽勝」
「……まあ、それならいいよ」
「決まりね、いただきますっ!!」
テーブルに聳え立つ3つの山脈を前に満面の笑みで立ちはだかるランジュさん、
「それでは、いただきます」
覚悟を決めてフォークを掴む栞子さん。
「……やるしかない、か。いただきます」
最後にミアさんが上段の一枚目を切り始め、ついに3人の挑戦が始まったようだ……。覗き見なんて趣味が悪いと思うが、どうしても見届けずにはいられない。さあ、どこまでやれるか見せてくれ。
♪
1分後。
「ミア、栞子、アタシもうギブ」
「ちょっとマジふざけんなよマジで!何が楽勝だ!楽勝を広辞苑で引いてきなよ頭ベイビーちゃんかっ!!」
「落ち着いてくださいミア!!ランジュももう少し頑張れませんかっ!?」
「だってえーー……量が多いんだもん……」
「当たり前だろ大食いチャレンジなんだからっ!!そもそもランジュが『このパンケーキすっごく美味しそう!3人なら楽勝よ♡』って言ったんだろ!!」
「それはそれ、これはこれ、ランジュはランジュよ♡」
「××××××××〜!!(すっげえきたない英語)」
「ミア!公衆の面前で国辱ものの暴言はやめてください!!」
どうやらランジュさんは胃袋のレベルが赤ちゃん、ミアさんがそれにキレ、栞子さんがなだめる。このトリオいつもこんな感じなんだろうな。
「どうすんだよこれトータル20枚はあるぞ、ボクたちだけじゃ絶対無理だ!」
「無問題ラ」
「諸悪の根源が何言ってんだぁぁぁぁぁっ!!!」
「落ち着いてくださいミア!!!!」
「だーかーらー、本当に無問題よ。ほら、ルールをちゃーんと呼んで?」
そう言ってランジュさんはミアさんにメニュー表を改めて見せた。
「このパンケーキチャレンジは複数人での参加を認める。……上限についての記載がないってわけ。つまり」
「つまり……?」
そこまで言うとランジュさんは俺たちの座るテーブルをチラリと見て、既に空となったマウンテンの皿と、それを食べ切った者——つまり俺に視線を向けて、こう続けた。
「後出しの助っ人もOKってこと。例えば甘党で大食いのジェントルマンとか」
それを聞いた途端、全身に悪寒が走った。身体の震えを止めようとしている俺の前にミアさんと栞子さんが歩み寄ってくる。
「Hey guys.金は言い値で払う、助けてくれ」
「すみません高城先輩。運がなかったと諦めてください」
「俺の意志は?」
後ろを振り向くと俺のツレ2人は目で「行ってこい」と合図してきやがる。…‥ああわかったよ、食うよ!!
こうして半ば強制的に連行された俺は、パンケーキ×3の討伐に付き合わされ、10枚とちょっとくらい食う羽目になったのである。
♪
一時間後、結論から言うと食べ切った。俺たちは勝ったんだ。
「ありがとう、とってもいい体験をさせてもらったわ。ハルカ、
「本当にありがとう、マイヒーロー。お礼は必ずするよ」
「高城先輩、いろいろ巻き込んでごめんなさい……それと、ありがとうございました」
全てが終わり、例の3人は店を後にした。俺はというと、胃袋が極限を超えたためもう歩くとこすらままならなかったのでタクシーを呼んで帰ることにしたのだ。
最初は面白がっていた高咲も流石に笑えなくなってきたようで、スマホに一言「ごめん」というメッセージが送られてきた。
上原は終始心配してくれたが、それなら止めてくれりゃあ……いや、そんな事は言うまい。
こうして俺の地獄は終わりを告げた訳だが……正直一番記憶に残ったのはパンケーキの味でもなく、上原&高咲の言葉でもなく、ミアさんのツッコミでもなく……。
「ランジュやべえ……」
これにつきる。
おしまい