アイツの距離が近すぎる   作:ぽむQ

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今回から高校生編スタート、実質的な1話になります。
毎週投稿を継続させるため突貫工事になってしまいました。後日加筆修正予定です。


1st Season【#4〜連載中】
#4 ユーの親友はトキメキが足りない


虹ヶ咲学園(にじがさきがくえん)』。

 東京のお台場に存在する中高一貫校。自由な校風と豊富な専攻が注目を集め、全国から優秀な人材が集まるほどの人気高となっている。

 普通科、国際交流学科、ライフデザイン学科、情報処理学科、音楽科といったカリキュラムも豊富で、本校出身のプロフェッショナルの数は同地区の学校に比べても多く、それもまた人気のひとつだ。

 

 それだけにとどまらない。虹ヶ咲の特徴といえばなんといってもその先進的なシステムだ。全生徒にタブレット端末が配布され、連絡事項は全てデータ上でのやりとりで、原則プリント配布は無いほど。

 また学内の掲示板は全て電子化されているなど、そのハイスペックぶりには事欠かない。

 

 おおよそになるが男女比は2:8。一応共学といえるものの、男子生徒の半数近くは夜間の定時制に通っているため、実質的な女子校といって差し支えないレベルだ。

 そして驚くはその生徒数。学科によってムラが目立つものの、一学年に約1000人、全校生徒に至っては3000人を越えようというとんでもないマンモス校である。

 

——そして、そんな膨大な生徒たちの代表たる存在、それこそが我々「生徒会執行部」だ。生徒会選挙への厳しい出馬資格(直近の学内テスト順位が上位15位以内、問題行動、遅刻等なし)を得たうえで演説を行い、全生徒からの投票を経て選出される者たちだ。つまり名実ともに虹ヶ咲の顔と言って差し支えない存在である。

 

 

 「ですからその立場に責任を持ち、生徒の代表としてふさわしい立ち振る舞いをですね…………」

 

 

「………えーっと、会長?」

 

 

 ——いきなり学校の説明をされてなんじゃこりゃと思っている方も多いだろうが、俺もわからない。

 いや正確には「なぜ怒られているのか」は理解できる。俺が昼休みの生徒会室(ここ)お昼寝(すやぴ)スポットに(いつものように)利用していたからだ。

 ここは冷暖房の調整が絶妙で、会議に使う部屋だからかは知らんが防音がしっかりしていてとても静か。おまけに俺のような男子高校生の身体でさえ受け止めてくれる大きな、それでいてフカフカなソファ。課題や生徒会の仕事をするのにこれほど最適な、既に4時限の勉学を終えた食後の昼休みにこれほど睡眠欲を掻き立てる場所もそうそうないだろう。

 当然ながら生徒会室には原則として生徒会のメンバーしか入ることは許されない。会長にしてみれば、俺が生徒会特権を乱用しているように見えたのだろう。お叱りを受けるのは当然だと思う。

 

 だが、しかしだ。一体全体どうして俺はこの快適かつ静かな生徒会室で、まるで二次創作の始まりのようなもう読み飽きたよと言われんがばかりの「学校案内(チュートリアル)」を、彼女流にアレンジした文面と真剣な声色で美人すぎる生徒会長『中川 菜々(なかがわ なな)』から聞かされるという罰なのかご褒美なのかイマイチ反応に困る行為に晒されなければいけないのか。

 

「そもそも日頃から規則正しい生活習慣を身につけていればこのようなことには………」

 

 昼休みを丸々潰そうと言わんばかりの説教演説も佳境に入って行くのがわかった。

 会長のお叱りを受けるのは何度目だろうか。いやそんなには受けてないけど。一対一で話すこの状況ももうすっかり慣れた。

 

ドキドキする。相手の事を想い、真剣に怒ってくれるその姿に。もしかしたら心のどこかで「誰か」を重ねているのかもしれないけど。

 

ズキズキする。その誰かに俺が犯した消えない罪業が、閉じ込めていた心の檻をぶち壊して暴れているから。

 

会長…中川さんと向かいあうたびに、俺は罪を思い出す。そんな地獄はまっぴらごめんと言いたいところだが、会長とする仕事ややりとりを本心から楽しみ、望んでここにいる自分もいる。

 

生徒会に入ってもうすぐ一年。

中川さんと出会って、一年。

俺が望んで地獄を過ごし続けて、一年。

 

誤解のないように言っておくが、これは断じて恋心などではない。俺が彼女に「アイツ」を重ねている。ただそれだけの話だ。

 

 

 

 説明兼説教が終わり、俺は会長からある仕事を頼まれた。

 

「進路希望調査?」

 

「ええ。5月のはじめに書いていただいたものです」

 

「それは覚えてますけど……なぜ急に?」

 

 もう6月だ。今頃になってなぜそれが話題になるのかがわからない。やがて、会長がゆっくりと口を開く。

 

「……未提出者、空欄で出した方が残っていまして」

 

「ああ、なるほど」

 

 そこまで聞いて状況と、俺が任されるであろう事も理解した。

 最初の方に軽く触れていたと思うが、虹ヶ咲学園でのプリント配布は原則行われていない。タブレット端末で全て解決するからだ。

 ——だがあくまで「原則」であり、当然ながら「例外」もある。対象の生徒(あいて)からの反応(レスポンス)が確認できない場合や、生徒会名義でのメールに返信がない場合は、生徒会(こちら)側で書類を作成して直接渡しに行く、という措置を取っている。その渡す係も実働隊、つまり庶務(オレ)に回ってくる仕事だ。

 簡潔にまとめると「期限を守ってない生徒へ催促に行け、もしくはその場で書かせろ」という事だ。

 

「ちなみに、何人くらいですか?」

 

「各クラス2,3人ずつ。合わせて27名といったところでしょうか」

 

 その数字を聞いた途端一気に気が重くなるのを感じた。さっきも言ったが生徒のタブレットには生徒会からメールを送ることができる。何が言いたいかというと、俺がこれから会いにいかなければならない27人は、「生徒会の度重なる連絡をガン無視決め込む」ことのできる者ども、という事だ。少なくとも平和に終わる気はしない。

 

「では、よろしくお願いしますね」

 

「わかりました」

 

 だが俺に拒否権はない。会長から渡された書類の束をもって、俺は生徒会室を後にした。

 廊下を歩きながらリストをチェックしていると、見覚えがある、いやありすぎる名前が「2つ」見つかった。

 

「……まじか」

 

正直死ぬほど行きたくないが、責務は果たさねばなるまい。嫌な事から先にやれば気分も幾分か晴れるはず。そう自分に言い聞かせ、俺は放課後のシミュレーション、どういう順番で回ろうか、という事を考え始めた。

 

 

 

 

 帰りのHR(ホームルーム)が終わると、俺は例の仕事(ミッション)

をこなすべく目的地である2年A組へ向かった。

 

 「入りたくねぇ……」

 

 教室のドアとにらめっこしながら、つい本音が漏れたことと渡すべき書類(もの)に刻まれた生徒(ターゲット)の名前を確認する。そこに刻まれた狂おしいほどに馴染み深い四文字が、俺に先ほどの率直な気持ちをいわせやがったのだ。

 進路希望調査表。その第一希望から第三希望全てに「特になし」と書き連ねられた、『上原歩夢(会いたいけど会いたくない人)』の文字。それは俺に「あの日」の事を思い出させ、まるで先日めちゃくちゃ怒鳴られた先生に連絡事項を伝える時のような苦々しい緊張感を呼び起こさせるには十分すぎるほどだった。

 上原と気まずいのか?と聞かれれば勿論気まずいのだが、何も特別変わった訳ではない。一緒にいる時間は突然減ったが、会えば普通に話せるし、中学の時みたいなバカ言い合えるくらいの距離はキープできていると思う。 

 だが俺がやってしまった事がある以上、自分から会いにいく、という事はなんとなく避けてきたのだ。そこにきてこれである。書類を渡すためとはいえどうにも行きづらい。

 

 だが幸いにもそれは回避できそうだ。俺はこのクラスの未提出者、上原と「もう一人」の書類を見る。彼女に上原の分も渡して、上手いこと届けてもらおう。そう考えたのだ。

 しかしそれを実行するには、上原が既に帰っていて、もう一人が教室に残っているといシチュエーションが必要になってくる。実現する可能性はかなり低いだろう。

 だがグダグダ言っても仕方ない。俺は意を決してドアに手をかけ、ようとしたら———。

 

 

ぽむっ。

 

「え」

 

「は?」

 

 その瞬間、教室のドアがおっぱいになった。何を言っているかわからないと思うし、俺もわからない。けど一応説明できる範囲で説明しよう。

 ドアを開けるため取っ手に自らの右手を伸ばした瞬間に不意打ちでドアが開き、さっきまで取っ手だった空間が相手——扉を開けた張本人の胸部に書き換えられ、「過去(ドアノブ)」を掴もうとした俺の掌が「未来(胸肉)」を掴んでいるという状況。

 不思議と俺は冷静だった。なぜならもう終わっているからだ。故意にやったことでないにせよ、女の子の胸を触るという事は常識的に、倫理的に許されない行為だ。もう取り返しがつかない。

 だが、それでも謝ろう。誠意を込めて謝罪しなければならない。真剣に、相手の目を見て。———3秒。それだけ数えたのち、俺は目の前の女の子に目を通す。そこには……。

 

 

「………ゆー、くん」

 

「っ!上……原………」

 

かつて俺が汚してしまった幼馴染が、かおを真っ赤にして立っていた。

 

謝らなければ。

 

ごめん。

 

申し訳ない。

 

許してくれ。

 

謝罪のフレーズが頭を駆け巡る。だが今の俺にそれを発声する発想は持てず、どこか昔のような、冗談言い合える幼馴染のように振る舞うことを優先してしまった。その結果どうなったかというと…….,

 

 

 

「生徒会の許可なく実らせてんじゃねえこの無自覚安産型ドスケベピンクラビット!!!!」

 

「逆ギレが理不尽だよぉ!!ばかぁっ!!!!」

 

渇いた平手(ビンタ)の音が廊下に響き渡る。……ああ、やっぱり。どこまでいってもこの罪からは逃れられないようだ。

 

上原(アイツ)の距離が、近すぎる——。

 

 

 

「……ふんっ」

 

「上原、すまん」

 

「……知らないっ!」

 

「ホント申し訳ない」

 

 

『歩夢ーっ!!』

 上原から(当然)のビンタを受け、謝罪を全力拒否されている途中、俺が呼べないその名前を響かせて走ってくる者の姿をを見た。

 そう。先程の「もう一人の未提出者」だ。

 

「大丈夫?すっごい声聞こえたけど」

 

「う、うん……大丈夫」

 

 こちらに来て早々に上原を気遣う彼女。当然と言えば当然か。二人は所謂親友というやつだ。

 

「そっか、良かった………ん、なんだ。ハルも居たんだ」

 

 その上原の親友さんは俺に気づくなり、いたずらっぽい笑みを浮かべる。

 

「……はは〜ん?さてはまーた歩夢にちょっかい出したんでしょ」

 

「別に。そこのエロうさぎが生徒会に許可なくバストアップしてたんで警告しただけですよ」

 

「悠くん」

 

「すみませんでした」

 

「あー、最低通り越して終わってんね。いつも通りだけど」

 

「じゃかあしい。風紀の乱れを抑制しただけです」

 

「一番風紀乱してるよね、生徒会なのに」

 

「聖人と性人は同居できるってことですよ」

 

「うっわ開き直った………てかさ、その喋り方やめたら?ハルらしくないよ、それ」

 

 彼女は俺を一通り軽蔑したあと、俺の一年かけてようやく慣れてきた仕事モードをばっさりと否定してくる。

 

「業務中は敬語って決まりがあるんだよお察ししろくださいネギガキお嬢様」

 

そんな彼女に対し俺は本人の髪型——綺麗な黒髪に緑のグラデーションが施された、元気溌溂を体現したかのようにぴょんぴょん揺れるツインテール——を交えて返す。

 

「はいはい、そーゆー事にしておくよ。………あーっ、ていうか最近暑すぎるってば、……ほっ」

 

「え?……ちょっ……おい」

 

ツインテール女は俺の反撃をあっさり交わし、火照った身体に涼を含ませたいのか、自らのスカートを掴み……ばっさばっさと仰ぐ。

 

「……っ!」

 

 たまらず目を逸らす俺。彼女は…俺が言うのもなんだが、客観的に見て美少女、てかすごく可愛い部類に入ると思う。上原とはベクトルが違うから比べられないが。

 だがこのツインテール本人が自分の魅力に気づいていやがらねえせいで、こういうデリカシー皆無なことができるのだろう。一応男がいる訳なんだし、その、……見えそうで怖い。

 

「……そういうところ、気にした方がいいんじゃないか?」

「そうだよっ!もう子どもじゃないんだからっ……」

 

「えー?大丈夫でしょ、私のことそんな目で見る人いないって!」

 

 俺と上原の即興連携プレーも気にするそぶりも見せないこの女。そういうのが異性や、何より身内にとってしんどい事をまだ理解しきれていないのか、それともマジで「自分はそんなんじゃない」なんて思っているのか……わからない。ほんと、相変わらずどこまでもたりない。

 

 

「その安直な謙遜をやめろ……高咲さん」

 

俺は彼女に向き直り、一言そう告げた。

 

彼女——高等部に上がって早々上原と意気投合し、俺の知らない「女子高生」としての上原を知っている、俺のライバルかつ 現在(いま)歩夢(アイツ)にとっての「あなた」。

 

———『高咲(たかさき) (ゆう)』。この女はどこまでもトキメキ(無自覚エロス)(を振りまいている自覚)が足りない。

 

つづく




最後まで読んでいただきありがとうございます。
世界観どうなってんだという指摘があるかと思いますが、基本的に「アニガサキ準拠のパラレル」のつもりです。その辺りも本編で描いていきますのでお楽しみに。
 また次回お会いしましょう。ここまで読んでいただき本当にありがとうございました。
せつ菜ちゃんお誕生日おめでとう!!(素振り)

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