アイツの距離が近すぎる   作:ぽむQ

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更新が遅れてしまい申し訳ありません。
今後、毎週日曜の投稿を途切れさせないよう頑張ります。


#5 ユーの進路とアイツの悩み

進路希望調査票(しんろきぼうちょうさひょう)』。

 読んで字の如く、学生が進みたいと願う未知(みち)なる(ミチ)を調査し、今後の進路指導に役立てるためのもの。学校側としても生徒の願いや目標は極力叶えてやりたいものだし、そのためのバックアップには「生徒側の具体的なビジョン」が不可欠だからだ。

 また学園の進学または就職希望者数などのデータは受験生や保護者の皆様にはとても重要なものであるから、全員からきっちりした回答を得なければならない。

 

 とは言っても、「自分のやりたいこと」が決まっている人間などごく僅か。だから一年生の時からガチガチに決めて書けというのも酷だと思うし、無理にそれらしい答えを書く必要もないだろう(無論2,3年生ともなれば「○○大学の××学部に進学」くらいの具体性はほしいものだが)。

 けどほんの少しだけ本音を言わせてもらえれば、漠然とでもいいから「進学」「就職」「その他」のどれかに当てはまることくらいは書いてもらえると助かる訳で。まあその辺の事情はともかくとしてだ。

 

「さすがにこれは書き直し案件と言わざるを得ないんだ、高咲さん」

 

 今俺の手元にある「それ」——向かいに座る高咲侑さんの書いた調査票——は、どっからどう見ても高校2年生が書いたものだとは思えない。

 

「うん……まぁ、ごもっともだね」 

 

 彼女本人にもある程度の自覚はあるようで、しょんぼりしつつ自らの書き綴ったものの異常さを認めるようにうなずく。

 

「底ついてどーする。せめて定めてくれ」

 

「うぅっ…ぐうの音もでない……」

 

 俺は彼女——高咲さんの第一から第三希望に至るまで「未」と書かれた破滅的にお粗末な調査票に対しての率直な感想を述べ、それを受けたツインテ美少女は自慢の色彩(グラデーション)仕立ての髪を申し訳なさそうにぴょこぴょこと揺らす。

 

 放課後の2年A組はまるで古いデパートの筐体が10年前で止まってるゲーセンの如く閑静としており、残っているのは上原と俺と今喋っているコイツ、衆人環視の中でスカートを平気で仰げるキュートロリカワ系童貞キラー(高咲侑)の3人だけ。俺と美少女コンビが向かい合って座り、彼女らの書いた調査票のよろしくない部分を指摘している状況だ。

 

 「で、でも一旦底をついたら後は上がるだけだしっ!!ほら、私は『高く咲き誇る女』だから?あえて底から這い上がるぞー!みたいな?」

 

「ほーん」

 

 しどろもどろに説明を繰り出してくる彼女。あからさまに苦しそうな言い訳を並べてくるが、この手の理屈は客観的事実の連打(ラッシュ)で完封できることは生徒会で学習済みだ。ひとまず軽め(ジャブ)からかましてみるか。

 

「常用漢字書けないやつが上いけると思う?」

 

「うわああああーーーん!歩夢助けてぇーーーー!!(ハル)が正論で殴ってくるよぉーーーーっ!!!」

 

「いや一発(ワンパン)で沈むなや!!」  

 

 高咲さん、精神的フィジカルが雑魚すぎる。反論のひとつもなく隣の上原(しんゆう)に抱きつく姿はあまりに情けなく思えるが、妙な可愛らしさを感じるのもまた事実。

 なんの恥じらいもなく自分の美少女レベルをかけらも理解せず、分け隔てない立ち振る舞いで健全な男子高校生に勘違い(サービス)を提供し、16,17歳になろうという男女の境界線がハッキリ分かれる年頃でも構わず異性(オレ)を「ハル(下の名前)」で呼べるフレンドリー(すぎて逆に心配になる)距離感を持つ、所謂「カッコ可愛い系女子」に該当するいつもの彼女からは想像もつかない弱々しさっぷり。

 思わずツッコまずにはいられなかったし、笑ってしまいそうにもなるものだ。

 

「あーもう侑ちゃんったらぁ……ほら、よしよし」

 

 クソザコツインテールの頭を優しく撫で、ふんわりと抱きしめる上原。その姿はまるで天女のように美しく、全てを包み込むような柔らかさを醸し出していた。

 

「侑ちゃん……落ち着いた?」

 

「うん………もう最高……」

 

「ふふっ、なにそれ………よしよし、いい子いい子……」

 

ぽむ……ぽむんっ……!……ぽむっ……

 

あぁ^〜癒されるぅ〜〜〜

 

 柔らかなポムポムプリン(上原の胸)に顔を埋め、涅槃の表情を浮かべる高咲さん。これが同性故に許される距離感というやつかだろうか。俺がやったら殺されるであろうムーブを最も簡単に披露するその姿に嫉妬に狂いそうなドス黒い感情(さすがに少し盛った)が湧き上がる。なんとも羨まし…いやしか女。………羨ましい。死ぬほど羨ましい。

 

「……ふっ」

 

「は?」

 

 桃源郷改め上原の胸に顔をうずめつづける小悪魔と目が合ったかと思えば、彼女は勝ち誇ったような笑みを俺に向けてくる。その目からは『ハルにはこんなことできないでしょ〜』とでも言いたげな感じが滲み出まくっていて、余計に悔しさと羨ましさとウザさが込み上げてくるのだ。ガキがよ………!!

 

 ……いや、これは、あれだ。女の子同士、親友同士の絡みだ。そんな美しい流れに嫉妬し、あまつさえ間に挟まろうとは、俺が愚かだということに他ならない。女の子にヤキモチ妬くなんて大人がないぞ俺。

 仮にも生徒会、皆の模範たる存在なのだから、もっと適切な美しい対応を取らなければ……!!

 そう自分に言い聞かせ、目の前の美女2人が抱き合いぱふぱふし合う様をまじまじと見せつけられ続けるのだった。

 

 

 

 回復した高咲さんに調査票を書き直してもらいつつ、俺はもう1人の対象者である上原の面談(というほど大それたものでもないが)を始めていた。

 彼女の進路希望は全て「特になし」と記載されており、一年生の春ならギリギリ許させるだろうが、二年ともなれば「大学行くのかそうでないのか」くらいは書いてほしいもので。

 何も決まっていないとしても、「なし」と書くのは「無し」だということで、書き直しをお願いしているところだ。

 

「え、と……上原さんの進路希望だけど……」

 

「さん付けやめてよ……なんか変な感じ」

 

「いや、一応生徒会の仕事で来ているわけだからさ」

 

「じゃあ生徒からのお願い、いつもの話し方にして。ホントの悠くんじゃなきゃ……話したくないもんっ」

 

もんっ、じゃねーよ!可愛いなオイ!!と声を大にして言いたいところだが、今はそれどころじゃない。

 

「……わーったよ。普通にすればいいんだろワガママあざと系ラビット」

 

「いつも通りに口が悪いね」

 

「生まれつきだ」

 

「うん、知ってる」

 

「……ったく」

 

 生徒会腕章をつけておきながらこんな話し方、会長に見られたらおそらくぶん殴られるだろう。けどまぁ、生徒からの要望だしセーフだろう。勝手に納得し、上原の進路添削に取り掛かった。

 

 

 

 

「嘘書けとは言えねえけど、特になし……ってのはさすがになぁ」

 

「うん……」

 

「マジで全く決まってない感じか?」

 

「決まってないというか……わからないというか」

 

 自信がないのか段々と声が小さくなる上原。なんとか力になってやりたいが、心ときめかないものを無理に書かせたりやらせたりすることは絶対にしたくない。「何か」を見つけられないまでも、進路のヒントぐらいは掴んでほしい。

 

「なんだろな、その……シンプルでいいと思うぞ」

 

「シンプル?」

 

「そ。大学だの専門だのに縛られずさ。なんかこれやってみたい!とか、こうなるのが夢です!みたいな、さ」

 

現実味(リアリティ)なんてなくなっていいんだ。まずゴールだけ決めてさ、それに近づくための行くべき場所(進路)なら考えられるだろ?」

 

 でまかせ、とは言わんまでもかなり独りよがりな意見だと思う。だけど、俺の16年とちょっとの人生経験から言えるのはこれぐらいなのだ。少しでも役に立てば嬉しいが…。

 

 

「夢……か。ねえ、悠くん」

 

「…どうした?」

 

 少しだけ篭った後、上原が重い口を開く。俺はそこから発せられる彼女の想い(本音)を聞き逃さないよう集中力を高める。

 

「私、私ね?……夢っていうか、なりたいものがあるの」

 

「良いじゃねーか。……でもそれって調査書(コレ)に書けないタイプの話、か?」

 

「……うん。多分、『もっとちゃんと書け』って突っぱねられちゃうと思う。だから書けなかったの……」

 

「……そうか」

 

俺が見誤っていた。上原は何も決まってないわけじゃない。自分の目指すところに自信がなかっただけなのだ。となると、俺にできる事はひとつ。

 

「試しに書いてみるか、それ」

 

 その気持ちを承認する事だ。

 

「ええっ!?…で、でもホント恥ずかしいっていうか、笑われちゃいそうで」

 

「誰も笑わねえよ。真面目に書いてくれれば、さ」

 

「………不真面目だとも思われそうかも」

 

「不真面目なわけないだろ。本人が本気で書いたんなら、それは100%大真面目だ」

 

「そう、かな……」

 

「そう、だと思うぞ俺は」

 

「……わかった、書いてみるね」

 

「おう」

 

 何故かほんのり顔を赤らめながら調査票に修正の二重線を走らせ、自ら夢を書き綴る上原。たとえどんな事が書かれていようと受け入れよう。そんな心の準備をしていると——。

 

「悠くん」

 

「書けたから……見てもらえないかな」

 

 どうやら上原の作業は完了したらしい。あとは俺がそれを承認するだけだ。

 

「……OK。見させてもらう」

 

「絶対笑わないでね?」

 

「真面目に書いたもの笑うわけねえよ」

 

「うん……ありがと」

 

 俺は一度だけ深呼吸し、上原の書いた本気、心からの進路に目を通す———。

 

第1希望可愛いお嫁さん
第2希望同上
第3希望同上

 

 

「真面目に書けっつっただろうがこの無計画ドスケベラビットォォォォォォォ!!!!」

 

みゃひめにひゃいはんひゃひょ(真面目に書いたんだよ)ぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」

 

 俺は全く想定外の答えをぶち込んで来やがった上原歩夢(アホうさぎ)の表頬を(痛くしないように最大限配慮しながら)思いっきりつねり、当の本人はまるで不等号><のごとき顔で必死に抗議する。

ったく、お嫁さんって何だお嫁さんって!しかもちゃっかり「可愛い」とか付け足しやがってふざけんなお前は元々可愛いよっ!!

 

……懐かしいな、この感じ。まだほんの二年ぶりくらいだけど、上原とこの距離で話すのはとてつもなく久しぶりに思えた。

 異性としてはあまりに近く、その代償としてこれ以上近づく事は永遠にない。歩み寄るための橋を俺が壊してしまったから。

 けど、それでもいい。それだけでもいい。『アイツの距離が近すぎる』今を楽しみことが許されるのであれば。俺はそれで十分満足なのだ。

——ただ一つだけ気がかりだったのは。

 

『……』

 

高咲さんが俺に向ける視線。それがやけに冷ややかだったことだ。

 

つづく

 

 

 

 

 

 




ここまで読んでいただきありがとうございます。次回でこのパートは一区切りになると思いますのでお楽しみに。他のニジガクメンバーも登場するかも……?

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