アイツの距離が近すぎる   作:ぽむQ

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お久しぶりです。仕事が忙しく特別編の続きが間に合わず申し訳ありません。

本編の更新頻度も戻していきますので、来年もお付き合いいただければ幸いです。


#8 スリーピーな先輩に惑わされるオレ

近江(このえ)彼方(かなた) 先輩』。

 ライフデザイン学科に在籍している、かつて俺(と上原)を助けてくれたこともあるふんわりおっとり系お姉さんだ。

 桜坂後輩によると、先輩は当学園に特待生として入学したため、常に上位の成績を残さなければならない。おまけに家計を助けるために週5日のアルバイト、さらには別の学校でスクールアイドル活動を行っている妹の遥(はるか)さんの応援と、非常に忙しい生活を送っているそうだ。

 考えてみれば、初めて会ったときも妹さんの存在を仄めかしていたし、遭遇するのは決まって先輩がバイトに勤しんでいる時だったな。

 

 そんな並みの人間なら倒れてしまうようなスケジュールを毎日こなしている先輩の体力は当然大丈夫なはずもなく、桜坂いわく

 

「彼方さんが寝てしまうのはいつものことですから」

 

……らしい。

 

「寝るっつーか気絶だろそれ……」

 

「すやぁ………」

 

 あいも変わらずすやすやと寝息を立てている先輩。その貴重なすやぴタイムを邪魔するのは気がひけるが、教室で寝かせたままにする訳にはいくまい。

 俺は机に突っ伏したままの先輩に歩み寄り、その肩をそっと揺すった。

 

「あ……っと、彼方、先輩……?……おーい……」

 

「………んんっ〜?」

 

「ほら、こんな硬いとこで寝ないでください。身体痛めますよ……」

 

「むぅ……誰だね、お昼寝を邪魔するいけない子はぁ〜……?」

 

 眠そうな眼を擦りつつ、彼方先輩は無事に目覚めてくれたようだ。

 

「おお〜…………少年っ〜……大きくなったねえ………」

 

「そんな変わってないと思いますけど……」

 

「そうかもねぇ……おやぁ……?お団子の彼女は一緒じゃないのかい?」

 

「彼女じゃないしなんなら一緒でもない」

 

「奥手だねぇ……」

 

どうやら先輩の方も俺の事を覚えてくれていたみたいだ。上原との関係性を誤解されていた事は想定外だったが。

 

 

 

 

 

 まぁそれはともかく、先輩が起きてくれたのなら何よりだ。「かすみん3万円事件」の顛末を説明し、3人には練習に戻ってもらおう。……だがその前に色々聞きたいことがあるな。

 

「よし、じゃあ彼方先輩、桜坂後輩、そしてかすみ」

 

「かすみんだけ扱いが雑っ!?」

 

「じゃかあしい。……彼方先輩、桜坂後輩、そしてかわいいかわいいかすみん从cι˘σ ᴗ σ˘*に色々説明したり、してもらいたい事があるから——」

 

「少年〜」

 

「ん?」

 

 俺がかすみのためにわざわざ言い直している流れを彼方先輩の半ば寝ぼけた声が遮る。何事かと思って未だその席に座っているであろう先輩に向き直ると——。

 

「だっこ〜」

 

むにゅっ。

 

「あふっ」

 

 思わず情けない声が出る。俺の胸板に広がる柔らかな感触。肉と呼ぶにはあまりに柔らかく、しっとりとしている。そりゃあそうだ、これ肉じゃねえよ脂肪だよ。女体特有の男心を刺激する脂肪の塊がなぜか俺の胸に押しつけられ両肩は細くて柔らかい手で掴まれ眼前にはふんわりヘアーの美しい先輩の顔。

 

 

「何やってんすかあああああっ!?」

 

 

 自分の置かれている状況——彼方先輩が俺に身体を預けていてその体勢の都合上おっぱいが思いっきり当たっている——を理解するまでそう時間はかからなかった。

 

「少年〜、彼方ちゃんを部室まで連れてっておくれぇ〜」

 

「いや自分で歩くか同性に頼んでほしっ……うぐっ」

 

柔らかい、柔らかすぎる。女性に対してこんな煩悩にまみれた思考で向かい合うなどなんたる失礼か。わかってる、理屈ではわかっているのだが……みなさんはどうだ。彼方先輩に抱きつかれた状態で紳士的に振る舞う自信がおありだろうか。あったとしてそれを実行できる賢者はどれだけいるだろうか。

 

「……こら〜、おっぱいくらい慣れなきゃ恋愛なんてできないぞ〜っ」

 

 先輩は俺の反応などお見通しだと言わんばかりに痛いところを突いてくる。慣れってなんだよ慣れって、本能に慣れは関係ないっての!!

 

「ちょっ、やばい力抜けるっ」

 

 このままではまずい。腰が抜ける前にこのふわふわ羊をパスしなければ。そうだ、桜坂だ。桜坂後輩に頼もう。そうしよう。

 

「桜坂、桜坂助けてっ!」

 

「嫌です♡」

 

 俺の渾身の救援要請は満面の笑みで拒否られた。

 

「何故っ!?」

 

「先輩の慌てふためく様を見てる方が楽しいので♡」

 

「結構いい性格してんなお前なっ!!…っだーもう、正座!!同好会全員正座ーっ!!!

 

 

 

 

 散々俺を惑わせた彼方先輩と桜坂後輩を椅子に座らせ(かすみは正座)、今回の事件のまとめとその対応について話すことにした。

 

 「まずは部費の件だが、こればっかりは俺個人の判断ではどうにもならない。それにこれからすぐ使う予算を増やしてくれ……ってのも現実的には厳しいと思う」

 

「……やっぱり、簡単にはいかないですよね」

 

「お金の話だからねぇ〜……。くれと言って貰えるほど甘くはないよ……」

 

 先輩と後輩は納得、というか受け入れてくれたようだ。

 

「ところではる助ー。かすみんの初ライブはどうなっちゃうわけ?……ってかなんでかすみんだけ正座なのっ!!」

 

「なんとなく」

 

「きーっ!!」

 

 かすみだけはまだ諦めていない様子だったが。

 

「……まあ、一応俺から会長には取り次いでみるよ。もしかしたら、って事もあるかもしれないし」

 

「ホント!?さっすがはる助、話がわかるぅ〜っ!!」

 

「まあ確率的にはほぼ0だけどな。期待しないで待ってろ……予算の話はこれぐらいにして、3人に少し聞きたいことがあるんだが」

 

 そう、正直ここからが本題だ。俺の知らないところで承認された同好会。そしてその手続きに関わったとされる『優木せつ菜』さん。その正体を掴むべく、日頃からせつ菜さんと関わりのある3人からヒントをもらおうと考えたのだ。

 

「優木せつ菜さんについていろいろ教えてほしいんだ。見た目とか、性格とか」

 

「見た目?……んーとね、背はかすみんよりちっちゃくて、おっぱいはしず子よりおっきいよ」

 

「オイ待て誰がドスケベ論理パズルやれっつったよ」

 

 いきなりかすみから投下された情報が刺激的すぎて思わず突っ込んでしまった。かすみより小柄で胸があるとはなかなか……いや、黙ろう。

 

「髪が黒のロングで目がグレー、前髪はきっちり切り揃えられていますね」

 

「話し方は基本的に敬語だね。距離があるわけじゃなくて、そのほうがしっくりくるみたい」

 

 桜坂と彼方先輩の意見も合わさり、なんとなく見た目の全体像は掴めてきた。黒髪ロングでぱっつんで小柄巨乳の敬語キャラ……なんだこの全部盛り。

 

「あとは……良くも悪くも、……うるさい、かなぁ?」

 

「名付けのセンスが独特な人ですね」

 

「アイドルとしての鍛え方は同好会でも一番だと思うな」

 

 

「どんだけ設定盛るんだよもうお腹いっぱいだわ!!……すげえな優木せつ菜。……ゆうき………せつな………」

 

「どうかしたのはる助?」

 

「ああ、いや…。どっかで聞いたフレーズなんだよなぁ……って」

 

 急に黙った俺を心配したくれたかすみに応えつつ、俺はその「どこか」を思い出そうとしていた。

 

「ハル」

 

 その思い出し作業を中断させようとばかりに、ツインテール——先程までかす子を懐柔していたコミュ強美女、高咲侑が話しかけてきた。

 

「歩夢、もうすぐ戻ってくるってさ」

 

「……ああ、了解。ってかどこまで飲み物買いに行ってんだアイツ」

 

「なんか購買のキャンペーンに当たったんだって、色々もらったみたい」

 

「ほーん」

 

そんなやりとりをしていると、教室のドアがガタンと音をたてた。

 

「誰かー……開けて………」

 

その向こうから聞こえてくる、聞き間違えるはずのない幼馴染の声。高咲の言っていた通り、色々もらったおかげで両手が塞がっているのだろう。俺はドアを開けるため立ち上がり、扉の取っ手を——。

 

 

むぎゅっ!

 

 

——掴んだと思ったら左手がおっぱいになった。そして目の前には両手に抱えた飲み物とおやつを落とさないよう、指で器用にドアを開けたかと思えば、無防備な胸を俺に掴まれている……という光景が広がっていた。

 

「な…」

 

 だが俺は不思議と冷静だった。彼方先輩のおかげか、おっぱい慣れしてしまったのかもしれない。この冷静さを保ったまま、真剣に謝罪しよう………。

 

「な……な……!」

 

この張りのあるおっぱいを持つ上原………張り?変だ、感触が違う。上原のはもっと「ぽむっ」って感じの柔らかいような……。

 

 俺は顔をあげ、その正体を確認する。切り揃えられた前髪、サラサラのロングヘア、そして『黒髪』。上原とは似て非なる特徴を持つ、顔を真っ赤にしている彼女。その顔をあらためてよく見てみると、幸か不幸か俺の知り合いである事が判明した。

 眼鏡と三つ編みこそ解いているものの、一年間ずっと一緒かつ教室では隣の席なんだ、間違えるはずもない。

 

「何やってんの中川さ……」

 

「何やってんですか貴方って人はあああああっ!!!」

 

 彼女の圧倒的な怒号、そして共に繰り出されるビンタ。散らばった菓子と一緒に俺は地に伏した。

 

()()()()()()、大丈夫!?」

 

「あーっ!()()()()()!!」

 

 黒髪の彼女の後ろから聞こえる、同じように菓子や飲み物を抱えた上原の声。そして教室内で驚くかすみの声。二人が「彼女」に向けて放った「名前」を聞いた途端、全ての謎が解けた。

 

 ——なるほど。どうりで承認が簡単にできたわけだ。冷静に考えれば、誰にもバレずに生徒会長の承認を得られる人物は一人しかいない。

 

そして、同好会の3人の言った「優木せつ菜」の特徴。脳が答え合わせをするかのように、俺はある人物との記憶を辿っていた。

 

「良くも悪くも、うるさい、かなぁ」

 

【すみません、私の声が大きいばかりに】

 

「名付けのセンスが独特です」

 

【白くてふわふわだから、はんぺん。なんてどうでしょう】

 

「鍛え方は同好会でも一番だね」

 

【トレーニングの成果、でしょうか】

 

「どっかで聞いたフレーズなんだよなぁ」

 

【刹那の勇気、いい言葉ですね】

 

そうだ……思えばヒントはそこらじゅうにあったんだ。

 

ビンタによるダメージで薄れゆく意識の中で、俺はひとつの確信を得ていた。

 

『優木せつ菜』の正体。まさかあなただったとはな。正直、すごくびっくりしてる。

 

何してんの——中川さん(生徒会長)

 

 

つづく

 

 

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