歩夢ちゃんお誕生日特別編も執筆中、当日中に投稿できるよう気合を入れて書きます。
中川菜々さん改め優木せつ菜さんのおっぱいを不可抗力で揉んでしまった俺は、彼女のスカーレット級に力のこもったビンタを食らい床へ倒れこむ。
遠くで上原や高咲やかす子の声が聞こえたような気がしたが、それを理解する余力はない。だがせめて、やってしまったこと——胸を思いっきり掴んでしまったこと——は謝ら……なければ…………。『ごめん』の一言すら発することもなく、俺は意識を手放してしまった。
……気がつくと、俺は仰向けに寝かされていた。倒れたときはうつ伏せだったはずだから、きっと誰かが俺の身体を運んでくれたのだろう。ありがたい。
まだ目を閉じたままだから、ここがどこか見当もつかない。頭の後ろに弾力を感じる。これは枕か?ということは俺が今寝ているのは保健室あるいは医務室のベッドだろうか。いや、それにしては背中が硬い。この感触はフローリングの床だ。
俺は一体どういう状況にあるんだ?わからない。それに、他のみんなは一体どこに?ひとまず目を開けてみようか。
「………あ、起きました?」
その声の主に視線を移すと、いつも生徒会で一緒に仕事をしている生徒会長こと中川菜々さん……ではなく、彼女のもうひとつの顔、「優木せつ菜」さんの申し訳なさそうな表情が目に止まった。
そして、俺が今置かれている状況も把握する。どうやらせつ菜さんの膝枕によって介抱されていたみたいだ……なんか緊張するな。
「すみません、勢いよく叩きすぎちゃって」
「いや……大丈夫。俺のした事が原因だから……本当にごめん、なか——」
「……」
「なか……なかの美少女アイドル優木せつ菜さん」
「中川さん」と言いかけた瞬間に彼女が慌てた表情を見せ、その反応をもってやっと気づいた俺はなんとか誤魔化そうと努力した。だいぶ無理矢理だけど……。
かす子たち同好会メンバーにすら素性を明かせないほど……優木せつ菜の正体は秘密、なんだよな。
♪
「何やっているんですか!かすみさんっ!!」
俺が回復したかと思えば、中川さ…せつ菜さんは破竹の勢いでお説教を始めた。かす子の部費アップ作戦について。
「同好会の都合でお金が貰えるわけないでしょう!おまけに生徒会の方にまでご迷惑おかけして!」
「だってぇーーっ!!モテないはる助ならちょろいと思ったんですよぉーーっ!!」
生徒会長のときと同じかそれ以上の剣幕で怒るせつ菜さんに、かけらも反省の色を見せない中須。後で泣かす。
「せつ菜さんもかすみさんも落ち着いてっ!!」
ヒートアップするお説教を止めたのは桜坂後輩だった。こういう時冷静な人がチームにいると非常に助かるものだ。
「せつ菜さん、それくらいでおしまいにしましょう?幸い未遂ですみましたから」
「かすみさんも、あんまり先輩をばかにしちゃダメだよ?」
先輩と同級生相手に適切な応対をする桜坂。この分ならなんとか風呂敷畳めそうだな……。
「先輩にはちゃんと交際相手がいるんですから」
「ほら桜坂後輩もそう言って待ってどこ情報だそれ!?」
畳んだ風呂敷を爆破された。桜坂の言っていることがまったくわからない。交際相手?生まれて16年いたことないんだが??
「…桜坂後輩。一応聞くが、そのお相手は?」
「え、まさかバレてないと思っているわけじゃ」
「そもそも覚えがないのだが?」
「有名ですよ?生徒会の美男美女コンビって」
「俺が美男担当だと?」
「先輩黙ってればイケメンですからね、黙ってれば」
「は?喋ったほうがイケメンなんだが??」
「その発言がもうアウトですよ。アンケート取ります?」
桜坂はそう言ったあと、この教室に残っているメンバーたちに「あなたはどう思いますか?」といった類の視線を送る。その意図を察知した彼女ら(かす子、高咲、上原、彼方先輩)は、俺の容姿についての評価をつらつらと話始めたのだった。
「無駄にはる助無駄にイケメンだもんね無駄に……黙ってれば」
「まー私から見ても、ハルは結構イケてると思うよ。黙ってれば」
「………知らないもん、そんなの。弓道部の子には『顔だけ王子』って言われてたけど」
「すやぁ……」
「投票の結果、先輩は『黙っていれば無駄にイケメンな顔だけ王子永遠にすやぴしろ』という肩書きに決定ですね」
「お前さっきかす子に言ったこと忘れたの?」
人を無駄だの顔だけだの好き放題言いやがって……何故か上原は不機嫌だし彼方先輩は寝てるしもうめちゃくちゃじゃねえかこのアンケート。
「……まぁいいや、で?美女担当は誰なんだ?」
「はぁ-……?」
桜坂は「今更シラを切るつもりですか?」といわんばかりの呆れた視線を送ってくる。誰だ、一体誰だ、俺と付き合っている(ことにされている不幸な)人は……?
「生徒会長さんと付き合ってるんですよね?」
隣にいるんだけど。……だが、生徒会というワードが出た時点で予測はしていた。このままやんわりと否定しよう。
「……せん」
生徒会長との関係を否認する前に、その生徒会長……もといせつ菜さんの声が耳に入った。正体を隠している彼女から言及するのはリスクが高いのでは?……いや、ここまで隠し通せてる人だ、きっと上手く立ち回ってくれて、誤解を解きつつ「優木せつ菜=中川菜々」という図式も悟らさずに終わらせられるだろう……と思っていたのだが。
「付き合ってませんっ!!あくまで仕事上のパートナーでですね、もちろん信頼はしていますよ?一年以上一緒にやってきましたから!けど、そのっ……か、彼氏……とか、つ、付き合うとか、そういう関係ではなくてっ!!」
……せつ菜さん?
「……いや、高城くんは魅力的な男性だと思っていますけれど、……あっ!い、今のはその、人間力の評価でして!異性として好意を抱いているかと問われればまた別の話で!」
せつ菜さん!?
「いや、あの、お……男の子としても……かっこいい、かなぁ……とか、一緒にいたら守ってくれるんだろうなぁ……とか考えたりしますけれど」
ちょっと待てせつ菜さん!?
「ただ彼には少し変態チックな所があって、でもそれがあまり不快ではないというか、変なところ一生懸命なそのギャップがまた」
『なんでせつ菜先輩がテンパってんですかっ!!……それに、はる助のこと詳しくない?』
かす子がもっともなツッコミを入れてくれたおかげでなんとか冷静さを取り戻した。……危ない。てかせつ菜さん、というか中川さんってもしかして……慌てるとダメなやつ?
俺の心配をよそに、せつ菜さんはよく響く大きな声で弁明を再開した。
「せ、生徒会長が言っていたんです!ほら、同好会を承認してもらう際に生徒会長さんと会いまして!その時に軽ーくお話させていただいて!アイドルは恋愛禁止ですという話から彼の話になって、その時会長さんが言っていたことをそのまま話したんです!だから会長にも交際相手がいないことを知っていたというわけで……って余計なお世話ですっ!!……あ!いや、決して優木せつ菜の正体が生徒会長だという意味ではなくてですね!!」
「かす子、せつ菜さん借りるぞ!!」
まずい、このままでは何もかもバレかねない。目の前でボロを出し続ける中川さんの手を取り、俺たち2人は教室を飛び出した……やっぱり、彼女は危なっかしい。
つづく