カミサマにお願いして人類を裏切った勇者に事の次第を問いただしにいったらTSしてるし何も憶えてないどころか時間が巻き戻ってるんだが?   作:覇王ドゥーチェ

10 / 13
二度目の部隊実習

「二等戦士 神之木 拓也! 春鏡十五年二月一日付け、東部方面隊墨田駐屯地にて部隊実習を命ぜられ、高天原教育隊より本日着隊しました! よろしくお願いします!」

 

「二等戦士 勇上 ひじり! 春鏡十五年二月一日付け、東部方面隊墨田駐屯地にて部隊実習を命ぜられ、高天原教育隊より本日着隊しました! よろしくお願いします!」

 

 俺と共に墨田駐屯地で部隊実習を行うのは勇上だ。本来ならこの墨田駐屯地、初任戦士は受け入れていないのだが、俺と勇上は特例とされた。まぁ、特例と言っても俺にては二度目だが。俺達は既に十傑候補として期待されている、というよりは貴重な光属性と闇属性を育成するために最前線を経験させよう、という思惑だろう。今の十傑も、魔獣さえ現れなければ後数年は入れ替わらなかっただろうし、代替わりには早い。

 駐屯地司令への着隊挨拶を済ませた俺達は、教育分隊長に連れられ会議室へ向かった。そこで対番との面通しや駐屯地でのしつけ事項が達せられるらしい。すぐ横を歩く勇上とは、微妙な距離を取りながら歩いている。俺は勇上としっかり向き合うべきかどうか迷っていた。この勇上は、『勇者』勇上にはなりえない。なら、関わるだけ無駄ではないのか、と。しかし、『聖女』として十傑に名を連ねるだけの素質は感じる。ダンジョンへ挑むなら確保したい人材だ。

 実に、悩ましい。勇上の横顔を眺めた。切れ長の瞳にはまっすぐ前を歩く分隊長の背中が映っている。迷いなき戦士の瞳だった。というか普通に美人なんだよなぁ。礼装の上からでも分かる胸部装甲は圧巻の一言だ。それゆえに惜しい。これで勇上でなければ何も気にせず鑑賞できたのに、と。

 俺は二度目の魔神戦を思い返した。勇上の『聖女』としての活躍はあまり見れなかったが、ダンジョンの奥まで十傑全員を無事に運んだ実績は評価すべきだ。『勇者』椎堂が『勇者』勇上よりも有能だったという可能性はあるが、神器持ってなかったしな……。『聖女』椎堂が無能、というよりは『勇者』勇上と同じく人類を裏切っていた可能性もあるし、こっちの椎堂が『勇者』だろうが『聖女』だろうが教育隊を修業するのは来年の話だ。今は『聖女』勇上に期待する以外にないな。

 

 

 

 

 

「ではまず、恒例の自己紹介からさせて貰うよ」

 

 会議室にて分隊長お手製のパワーポイントで分隊長の自己紹介と経歴、今回の部隊実習における到達目標が知らされた。このパワーポイントを前回見た時は緊張でよく中身が入ってこなかったが、流石に二度目ともなると余裕を持って見る事ができた。一等陸尉、橋口(はしぐち) (とおる)、年齢は今年で四十二歳。家族構成は妻一人子一人の三人家族。子供は今年十二歳で妻ともども人工島の一つで暮らしており、現在単身赴任中で趣味はランニング。入隊理由は、魔物の脅威に怯える人々を少しでも減らすため、だそうだ。一見しただけでは柔和な笑顔がよく似合う人格者に見えるだろうが、その本性はサイコ腹黒へいわしゅぎしゃだ。普通に接する分には問題ないのだが、一度問題児や問題点を見つけた日には……。うーん、分隊長が俺が知らない人になっている可能性に期待してたところもあるし、ちょっと計画延長しようかねぇ……。

 今回は実習生が二人とも魔法使い候補なので、魔法使いとしての心得と運用、実戦における立ち位置や魔法を使う適切なタイミングなどを座学で学び、最後に実戦を経験する。これが今回の部隊実習の流れだ。この部隊実習で頭角を現せば墨田駐屯地にそのまま配属、前線向きではないとされれば東部方面隊の比較的前線から遠い駐屯地に配属されるだろう。

 

「君達に求められている事はそう多くない。教育隊で学んだ事を活かしながら生活して欲しい。では淡路(あわじ)士長、初任戦士達を隊舎まで案内してくれ」

 

「はい!」

 

 橋口分隊長はパワーポイントを閉じ、後ろに控えていた戦士長に声をかけた。彼女の名前は──

 

「戦士長 淡路(あわじ) (ひな)! お前達の一期先輩として、お前達を直接指導する対番です! 駐屯地内で分からない事があればまず私に聞きなひゃい!」

 

 まだキャラが固まっていない頃の『賢者』だった。というか気合が入りすぎて声は裏返り舌を嚙んでいた。そしてその胸は、どこまでも平坦だった。

 

 

 

 

 

「……ここが私達が生活する隊舎です。四階から上は女性専用区画となっているので、神之木二士は立ち入らないように」

 

 会議室での失敗を引きずりつつも、『賢者』……今はまだか。『賢者』改め淡路士長は俺達を隊舎まで案内してくれた。橋口分隊長が笑いをこらえながら何も言わず会議室から退室したのがメンタルに刺さったのでろう淡路士長は、橋口分隊長退出後にしばらくしゃがみ込みんでいたが、一分ほどで立ち上がり、何事もなかったかのよう振舞った。俺と勇上は何も触れず、ただ淡路士長に案内されるまま歩いた。

 

「勇上二士はこのまま私に付いてきてください。女性区画の案内をします。神之木二士は、ここで少し待っていてください。兵長……海老名(えびな)士長という人が男性区画の案内に来ますので」

 

 淡路士長と勇上は隊舎に備え付けられたエレベーターで女性区画へ向かった。俺はそれを見送ると、海老名士長を探しに隊舎の居住区画へ向かった。俺の記憶が正しければ、海老名士長は隊舎の自室で寝ているはずだ。なんせ前回の対番はその海老名士長で、橋口分隊長からの指示を忘れ、寝坊してのけるという衝撃の初対面だったから忘れようにも忘れられない。

 

「確か……二階の二一二号室だったような……」

 

 部屋の横にある名札入れには、海老名士長の名前があった。やはり俺の記憶の通りだ。勇上が関係しない範囲なら俺の記憶もまだあてにできる。まぁ、『賢者』が対番ってのは想定外だったが、世話焼きだったので違和感はない。というか、『破天』の性格でよく対番を任されたよな。対番という役割を通じて、成長する事でも期待されたのだろうか。あ、海老名士長は未来の『破天』である。言ってなかったっけ?

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。