カミサマにお願いして人類を裏切った勇者に事の次第を問いただしにいったらTSしてるし何も憶えてないどころか時間が巻き戻ってるんだが? 作:覇王ドゥーチェ
寝台のベッドメイクを終え、俺はそこに寝転がった。荷物の整理は既に終わり、残すは寝るのみだ。だが、寝る前に考えておく事がいくつかある。
この部隊実習期間でどう動くのか。
まず、後の『破天』である海老名士長とは賭けの約束を取り付けた。賭けの内容は、どちらが先に十傑入りするか。海老名士長は何事もなければ次の四月で十傑入りするだろうから、それまでの二か月で動く。今いる十傑と十傑候補達とは隔絶した何かを見せなければ、賭けに勝つ事は難しいだろう。一か月以内に何かしら結果を出さなければ四月の十傑入りには間に合わない。
海老名士長との賭けの報酬である『お願い』は、ダンジョンへの同行を頼むつもりだ。ダンジョンでの実習が不安なんですぅ、みたいな感じで言えば面倒くさがりつつも渋々着いてきてくれるだろう。まぁ、その同行に期限や回数を提示するつもりはないので、こちらが望む限りいつまでも何回でも着いてきて貰うとしよう。魔神を倒す、その日まで。
淡路士長も四月で十傑入りする可能性が非常に高い。後の『賢者』であり、人類唯一の四重属性魔法使いなのだから当然と言える。淡路士長にも四月までに何かしら手を打って、協力関係を築きたい。うーん、人が良くて扱いやすくはあるが、同期やライバルに対する敵愾心も強く持っているのが淡路士長だ。なんとかなると思う。アイデンティティを確立するとのじゃ口調になるのはよく分からんが。
十傑入りの一番の近道は、神器だろう。現十傑も、全員が神器を持っているわけではない。神器の取得が見込めるというだけで、十傑に入る資格はある。その判断基準は魔物の討伐数であったり、魔法の使用回数、熟練度などを総合的に加味する、らしい。十傑に選ばれた事はあっても選ぶ側になった事がないので詳細はわかりかねる。だが、神器を持っているのに十傑ではない、というのは引退した戦士以外にありえない。現十傑も引退が近い神器持ちが三人、神器を使いこなせるようになってきたのが二人、神器取得までもう少しというところの五人、といった構成だったはずだ。
『勇者』勇上を筆頭とした十傑は、俺以外が神器持ちという歴代最高戦力だった。『勇者』勇上の裏切りさえなければ、とは今でも思うが、真器持ちが一人いるだけで本当に魔神に勝てたのか、という疑いは未だに晴れていない。ギシンもあれから姿を見せないのだから、どこまでギシンの言葉を信じていいものか。
まぁ、俺が神器持ちとして名乗りを上げるのは必須事項として、時属性の存在は伏せた方がいいはずだ。もしも停止魔法が使えるのでは、などとあられもない疑いをかけられると、その時点で人類の裏切り者扱いされてもおかしくはない。時計型の神器は闇属性の神器とするのが無難だろう。
後は……『賢者』の対抗心を煽るため、四重属性……いや五重属性の魔法使いとして活動しよう。複数属性を持つと魔法を発動するために必要な魔力は跳ね上がる。二重なら通常の二倍、三重なら更に二倍、四重ならそのまた二倍と、一属性増えるたびにおおよそ二倍になる、らしい。その代わりに威力も倍に増える。魔力の制御に長じれば魔力を節約して使う事も可能だが、『賢者』は四重属性だったために他の多重属性持ちより文字通り倍以上の努力をしたらしい。
まぁ、俺はもう神器持ってるから何も考えずぶっ放して問題ない。神器を通して魔法を使うと、消費される魔力はゼロだ。つまり、本来なら七重属性持ちの俺は一般的な単一属性魔法使いの六十四倍燃費が悪く、まともに魔法の発動なんてできるわけがないレベルだが、神器を通すと全力の魔法を何度使っても疲れない。まぁ、今もしも加速魔法クイックをつい全力で使ってしまったら、という恐怖にかられてこの一か月は魔法制御力の訓練に専念したが、それも神器があったおかげで通常の何十倍、いや何百倍ものスピードで進んだ。今なら最低出力まで絞れば普通の倍ぐらいの魔力消費で済む。
そういえば、多重属性持ちが光属性、闇属性も使えるというのは恐らく人類で俺が初だろう。これまで『賢者』も含め、多重属性とは火、水、風、土からの複合であり、光と闇は多重属性に混じらず
時属性を除いた六重属性魔法使いと名乗る事も一瞬考えたが、やめた。万が一の可能性だが、俺が光属性も使えると知った勇上が、役割をなくして去っていく姿を想像してしまったからだ。勇上ぃ……『聖女』としてのお前に対する期待はウナギ登りの滝登りで天元突破だぞぉ……。
色々と考えたが、重要なのはタイミングだ。必要な場面で都度小出しにするか、適切な場面でどかんとぶちまけるか。慎重に慎重を重ねて公表するタイミングを計ろう。
今日はもう遅いし、寝よう。
「二等戦士 神之木 拓也! 春鏡十五年二月一日付け、東部方面隊墨田駐屯地にて部隊実習を命ぜられ、高天原教育隊より過日着隊しました! よろしくお願いします!」
課業整列で駐屯地内のほとんどの隊員が整列する中、俺達の紹介が行われた。ここまではよかった。
「では神之木二士、簡単な自己紹介と部隊実習の抱負をお願いしますね」
壇上で橋口分隊長にマイクを手渡され、ふと整列している隊員達を見た。皆こちらを見ている。こちらの一挙手一投足を見ている。足元がゆがむ感覚。緊張、している。何を言おうとしていたのか頭から飛ぶ。
「…………」
あ、これはまずい。何かを言わなければならない。橋口分隊長も勇上もこちらを見ている。課業整列の音響を担当している隊員が、スピーカーかマイクの不具合かと気にしている。何か、何か言わねば。
「あー……」
と、とりあえず自己紹介からだ。
「二等戦士 神之木 拓也」
名前は言えた。後は年齢、出身地、属性、趣味か。
「歳は今年で十七で、出身地は人工島ノア。属性は七重属性で、趣味は──」
あれ、俺今なんて言った?
「神之木君、今なんて?」
橋口分隊長から横やりが入った。まだごまかせる。年齢の十七に引っ張られて噛んでしまった、で行こう。
「すみません、噛みました。属性は五重属性で趣味は神器の時計磨きです。よろしくお願いします!」
うむ、これなら問題ない。完璧な自己紹介だ。うん、ここで言うべき事だったか怪しい発言があった事以外は完璧だろう。もういいや。
「私は!」
あ、声を張りすぎてマイクがハウリングしてしまった。一度、大きく深呼吸してから続ける。
「……魔神討伐のため、一年以内にダンジョンへ挑みます!」
なんでこうなったか分からんが、言いたい事は言えたから、ヨシッ!