カミサマにお願いして人類を裏切った勇者に事の次第を問いただしにいったらTSしてるし何も憶えてないどころか時間が巻き戻ってるんだが?   作:覇王ドゥーチェ

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完璧な計画

 俺は壇上で達成感に包まれていた。本来の計画ならここで無難に挨拶をこなし、機をうかがうつもりだったが少し、ほんの少し前倒しになった。言い換えれば、目標達成が近くなった。うん、何も問題ないな!

 墨田駐屯地での課業整列は、陸、海、空、魔の四自がそれぞれ整然と並ぶが、今は俺の自己紹介で一部列が乱れ、ざわめいている。壇上に立つ俺と橋口分隊長に対して、今の発言は何事か、という視線を向けている者も多い。まぁ、何事かと言われてもただの事実としか言いようがない。一部過少に言ったが、過大に言うよりかは可愛いものだろう。

 

「……えー、以上で初任戦士の紹介を終わる」

 

 橋口分隊長は場を収めるため、紹介を無理矢理終わらせた。俺は橋口分隊長に向き直り、敬礼をして、壇上を降り、すでに紹介を終えて壇上の横で待機していた勇上の横に並ぶ。後は勇上の号令通りに動き、司令に敬礼をして魔自の隊列の後ろに戻れば今日の課業整列は終了だ。……? 司令に敬礼する時、何か司令が呟いたような気がする。気のせいか……?

 

 

 

 

 

「では神之木二士、面談を、しよう」

 

 課業整列を終え、仮設分隊事務室の会議室に戻った俺と勇上は、休む間もなく橋口分隊長に捕まった。……いや、捕まったのは俺だけか。橋口分隊長の圧が、強い。

 

「勇上二士ともこの後面談を行う。神之木二士との面談が終わるまで、ここで待っていてくれ。では神之木二士、ついてきてくれ」

 

 訂正、一応勇上も捕まっていたらしい。勇上は不安そうにこちらを見やるが、俺にはどうすることもできない。許してくれ勇上……いや別に許さなくてもいいけど。

 橋口分隊長に連れられ会議室の外へ。少し歩き、司令公室の前で止まった。司令公室は俺と勇上が司令に着隊の挨拶を行った場所だ。客人用の良い椅子が置いてあったはずだが、まさかここで行うのだろうか。

 橋口分隊長は躊躇なく司令公室に入り、こちらに手招きをしている。司令公室を面談に使うなんて、まぎれもなくVIP待遇だ。俺が知っている限り、幹部に対する面談でも司令公室が使われる事は少なかったはずだ。ましてや二等戦士なんて、密室という条件さえクリアすれば良いというスタンスだった。うーん、これは怒られるわけではなさそうだな。

 橋口分隊長は先に座り、卓を挟んで向かいにある椅子に座るよう言った。さぁ、ここから口八丁手八丁で、うまいことあれやこれやしないといけない。人はそれを、ノープランと呼ぶ。

 橋口分隊長が聞き取り用紙を出し、面談が始まった。

 

「では神之木二士、まずは……先程の自己紹介はどういう事かな?」

 

「えーっと……自分なりに客観的事実を述べただけです。属性のところは、年齢を言った後だったので釣られて噛みました」

 

 橋口分隊長は、俺が喋った内容を素早く手元の用紙に記入していく。おそらくは司令、副長への報告に用いられるのだろう。

 

「なるほど。……では君は、五つの魔法属性を持ち、なおかつ神器も持っていると言うんだね?」

 

「そうです。闇、火、水、風、土の五属性が使えます。神器はこの……懐中時計型の神器で、闇属性のものです」

 

 指折り使える属性を数えた後、指を広げ、手のひらに何もない事を見せてから、神器を手のひらの上に出現させた。神器の特徴の一つとして、慣れれば持ち運ぶ必要がない、というのがある。神様とのつながりを意識すると、自然とその手に収まるようになるのだ。一部の剣士は戦闘中にもこれを行い、神器を投擲武器として扱う馬鹿もいる。元同僚の『百獣』っていう十傑なんですけどね……。

 

「──ッ!? そ、の……神器は、打撃武器として使えるのかな?」

 

 おお、流石の橋口分隊長も非武器型の神器には動揺が隠せないか。まぁ、無理もない。俺も時属性の神様に手渡された時、神器とは思ってなかった。神器とは神が人に与える奇跡。敵を打ち払う力の象徴。『勇者』勇上が持っていた剣型が圧倒的に多く、次点で『聖女』椎堂や『賢者』淡路が持っていた杖型が多い。まぁ、神器の形が剣士、魔法使いを区別するわけではのでややこしくもある。剣型と言っても実用性のない形をしたものや、杖型と言っても打撃武器にしか見えないもの。これまで確認された神器の共通点は、武器の形を取っている事ぐらいだ。

 

「これで殴れば痛いとは思いますが、魔物相手に使うには心許ないですね……」

 

 手のひらに伝わってくる、金属のひんやりとした感触。力を込めて握ってもきしんだりしないことから耐久力はありそうだが、攻撃力は腕力次第……というかただのパンチだ。

 橋口分隊長は俺の言葉を聞いて空を仰いでいる。初の闇属性神器が非武器型の、これまでの常識が通用しない神器で、神器かどうかすら怪しいがその特性は神器のそれ。どう報告すべきか悩んでいるようだ。

 

「そう、か。……すまない。今、私は冷静さを欠こうとしている。面談はここで中断とさせてくれないか。君という貴重な戦力を、今後どう扱うか。こちらである程度目途を立ててから再開したいと思う」

 

「……分かりました」

 

「会議室に、分隊事務室に戻ってくれていい。……ああ、勇上二士に、この司令公室まで来るよう伝えて貰っていいかな?」

 

「了解しました。戻り次第勇上に伝えます」

 

「お願いするよ」

 

 

 

 

 

 仮設分隊事務室に戻った俺は、勇上に司令公室で橋口分隊長が待っていることを伝え、軽く道順を教えて送り出した。少し恨みがましく見られた気がするが気のせいだろう。分隊長との面談なんていつかするもんだし、多少早まっただけだからな。

 さて、これで勇上の面談が終わるまでは手すきになった。橋口分隊長の言う目途とやらも、今日中にどうこうなることはなかろう。俺は部屋に一人きりなのを確認してから、大きくため息を吐いた。

 やっちゃった。やっちゃったよ。大いにやらかしたよ。課業整列でもそうだけど面談でもやってるよ。なーにが自分なりに客観的事実を述べただけです、だってよ。ごまかそうとしてより痛い方向に向かってるじゃねぇか。

 

「うぐ……腹が痛くなってきた気がする……」

 

 トイレ行こうかな……いや、行っても無駄か。少しは自分をほめてストレスを軽減しよう。えーと、なんかほめるところあったかな……。あ、あれだ。属性を光以外の五属性だと言ったのは結構良かったはずだ。光属性も使えるという事にしてしまうと、光と闇が合わさり最強に見えるが勇上のアイデンティティである光属性の役割を俺が奪ってしまい、『聖女』勇上を仲間にするどころか勇上が『聖女』を目指すかどうかすら怪しくなるところだった。

 闇属性の神器持ち、というだけで人類史上初の快挙であり十傑入りも狙えたが、複数属性持ち、という事にしたのは『賢者』に対する煽りだ。『賢者』なら、淡路士長ならこれを挑戦と捉えて勝手に動いて勝手に自爆してくれることだろう。そうなれば仲間に引き込むのは簡単だ。落ち込んだところをなだめすかして神器を獲得する手助けを行えば、後は親カルガモの後ろをついていく子カルガモのように何も言わずともついてきてくれるようになるだろう。雛だけに。

 我ながら完璧な計画(パーフェクトプラン)だ……ほれぼれする。教育隊で考えた計画は忘れて、この完璧な計画(パーフェクトプラン)で行こう。ちなみに、教育隊で考えた計画とは、はじめ強く当たって後は流れで、高度な柔軟性を維持したまま臨機応変に対応するという非常に画期的で有能な計画だ。俺の頭脳が火を噴いたぜ。

 

「神之木二士いますか!?」

 

 今後の計画を練り終わったところで淡路士長の声が仮設分隊事務室に響いた。部屋の入口には対番である淡路士長と、兵長の海老名士長の姿があった。淡路士長が来るのは予想通りだが、海老名士長が来るのは意外だ。面倒ごとを嫌う海老名士長は、他人に興味を持たないよう努めている印象だったのだが。

 

「どうされましたか、淡路士長」

 

「どうされましたか、じゃないわよ! あの自己紹介、どういう事!? ど、どこまで本当なの!?」

 

 怒りと焦りと不安と期待が入り混じった良い顔ですなぁ、淡路士長。早速完璧な計画(パーフェクトプラン)をの締めに入るべきか考えたが、まだ焦らした方が効果も高まろう。

 今は煙に巻かせていただこうか。

 

「どこまで、というと……五属性使える事も、神器を磨くのが趣味なのも本当ですよ」

 

 ほら、と言って手のひらに懐中時計型の神器を出す。淡路士長は先程まで何もなかった手のひらに懐中時計が現れたのを見て、神器だと認識して腰が抜けたようにへたり込んだ。

 

「そ、そんなぁ……人類史上唯一の四重属性として、十傑入りする私の完璧な計画(パーフェクトプラン)がぁ……」

 

 ……ひょっとして、俺の思考回路って──これ以上いけない。

 

「神之木、その神器って……打撃武器じゃねーだろ」

 

「はい。これは武器としては使えない神器になります。珍しいみたいですね、こういう神器」

 

「珍しい、って……そりゃ珍しいけどよ」

 

 海老名士長は、違うそうじゃない、という表情だ。神器を武器として使えないのは大きなデメリットだが、手のひらサイズの神器というのは大きなメリットだ。まぁ、どっちもどっちだな。俺が剣士なら自分の神器が武器型じゃなかったらショックだろうなぁ。剣道が得意なのに打撃武器が出たりしてもショックだろう。

 うーん、なんとか煙に巻けたかな──と思った瞬間、突如後ろから肩を組まれた。何事、というか何やつ!?

 

「ツれねェなァ、神之木二士ィ。おじさんにィ、もちっと話聞かせてくれやァ」

 

 この顔、声、喋り方の癖……全てが一致する人物は俺が知る限り一人だけ。墨田駐屯地司令 一等戦佐 鷲尾(わしお) (そら)。魔臓を持たぬ身でありながら、魔物との戦いに身を投じた現代の英雄。

 いつからいたんだこのおっさん……。




非AT0ポチ編成のせいで古戦場が忙しすぎて更に投稿遅れます……申し訳ありません……。

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