カミサマにお願いして人類を裏切った勇者に事の次第を問いただしにいったらTSしてるし何も憶えてないどころか時間が巻き戻ってるんだが?   作:覇王ドゥーチェ

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実際豊満だった

 ふと気が付けば、先程までのどこまでも落ちていく感覚はなく、今はまるで母の羊水の中にいるかのようだった。ま、そんな赤ん坊の時の記憶なんて残っちゃいねぇけど。……そう感じさせる程の安心感があった。生きている。魔臓が血液と魔力を体中に送り込んでいる感覚は、ギシンと相対している間には感じなかったものだ。あの時は混乱していて……錯乱していた。あの空間に妙な効果があったかギシンによって正常な判断が妨げられていたのかは判別できないが、今はただ本能のまま生を喜び叫ぼう!

 

がぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼ(生きてるって素晴らしい!)──んごご(んんん?)?」

 

 塩素臭い水が口と鼻から入ってきた。この感覚は……プールで溺れた時にそっくりだ。いやぁ、懐かしいなぁ。四年ぶりぐらいか? 部隊実習の一か月前にようやく泳げるようになるまで、水泳の教務では毎回のように味わった感覚だ。

 というか……俺、マジで溺れてね?

 

が、がぼぼぼぼぼぼぼぼぼ!(だ、誰かたすけてくれぇ!)

 

 や、やばい。慌てて水面へ上がろうとするが、がむしゃらに手足を動かしても水面までが遠すぎる。指先が水面へ届いたが、それが限界だった。沈む。死の気配が近づく。体は間違いなく沈んでいるのに、それを上から眺めている俺がいる。おいおい、死んだわ、俺……。

 やっちまった。せっかく生き返ったのに、秒で死ぬとか……。いや、そもそも本当に生き返ってたのか? てっきり死後の世界的なところで勇上と話せると思っていたんだが……。ギシンに感謝すべきか恨むべきか迷いどころだなぁ。沈んでいく俺の体を眺めながら、益体もない事を考えつつ二度目の死を──

 迎える前に、俺の体は助け出された。俺の助けを求める声を聞きつけたわけではないだろう。いつもはポニーテールにしている燃えるような赤い髪を、今は水泳帽子の中に引き詰めて、競泳水着では到底隠し切れない豊満な体で俺の体を水面まで、いや、プールサイドまで引き上げた。もう会えないと思っていた人だった。

 現役時代に『紅蓮』の二つ名で呼ばれた彼女は、火属性剣士で初めて昇格(クラスアップ)した元十傑の一人だ。現役引退後、後続の育成のため教育隊で体育教官として勤め、人工島ノアに攻め込んだ魔獣から生徒達を守るために戦い、散った。

 

「回復持ちは集合! 走らず急げ! 各自、準備でき次第回復魔法を使え! 戻ってこい神之木ィ!」

 

 懐かしい顔ぶれが俺を囲む。どうやらここは死後の世界だったのか、どいつもこいつも死んだやつばかりだ。死んでも魔法って使えるんだなぁ。いや、魔臓が動いてりゃ魔力はあるんだし、当たり前か。死後の世界で魔臓が動いてるのはよく分からんが。

 回復魔法のおかげか、さっきまで俯瞰で見ていたはずの俺の視界に、(あかつき)教官の泣きそうな顔が入ってきた。

 

「気付いたか神之木! 自分の名前は言えるか!? まだ立ち上がらんでいいからな!」

 

 とっさに起き上がろうとした体を押しとどめられた。背中にプールサイドのざらつきを感じながら自分の名前を答える事にした。

 

「おろ、おろろろろろろ」

 

 やぁ、俺の名前はおろおろろろろろろ……すんません、ちょっと口から水が出ただけなんです。俺の名前は神之木 拓也なんです。せめて俺の名前だけは憶えて帰って下さい……。

 暁教官は俺の肩と腕を素早く引き、回復体位を取らせた。優しく俺の背中を撫でる暁教官の手に、俺はバブみを感じ……てる場合じゃないよな、流石に。

 

「……ありがとうございます、暁教官。神之木学生、異常ありません」

 

 つい学生時代の癖が出た。教育期間中はともかく、部隊配属後に自分の名前の後に学生を付けるなんて許されない。やばい、怒られる──

 

「……まだしばらく寝転がっておけ神之木学生。まったく、少しは泳力を身に付けたと思えばすぐにこれだ。溺れる前に溺れますと言っておけ……」

 

 どうやら暁教官は乗っかってくれたみたいで助かった。溺れる前に、とは無茶ぶりも無茶ぶりだが、暁教官のあんな顔を見た後では茶化す気にもなれない。

 

「すみませんでした……」

 

 俺は素直に謝った。状況はまだ理解できていないが、暁教官がいなければ二度目の死を経験していたのは間違いないだろう。

 

「次はないぞ、神之木学生。私の教務中に事故を起こされては、私の評価に関わるからな」

 

 評価なんて毛ほども気にしてないでしょうに……。暁教官は俺を医務室へ運ぶべく、剣士系から三人ほど選び、俺を担架に乗せさせた。むくつけき野郎どもに運ばれるのはいつもなら誠に遺憾だが、今は素直に感謝する。

 しかし、こんな時には勇上が率先して担架を用意していそうなものだが、あの野郎、人を裏切ったばかりか救助活動すらしないってか。そりゃ死後の世界でそんな事してどうなる、って話だが……。

 医務室へ担架で運ばれながら、なんとはなしに俺を遠巻きに見ているやつらの顔を見る。どいつもこいつも俺より先に戦場で散ったやつらばっかりだ。ただただ懐かしくて、なんだか叫びたいような、泣き出したいような感覚に陥る。そんな事を考えながら──

 水練館から運び出される間際、俺はとんでもないものを目にした。

 

「勇上……?」

 

 元からむかつくほどには顔が良かった。『勇者』と呼ばれるのも顔だけで納得できた。そりゃ勿論、強さもとんでもなかったが。ただ、顔はそこまで中性的ではなかったはずだし、何より──

 

「なんで女性用水着を着てんのさ……」

 

 ここ、死後の世界じゃねぇな、ってのは……勇上の胸部装甲と俺の魔臓が刻むビートでなんとなく理解した。

 

「なんでやねん……」

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