カミサマにお願いして人類を裏切った勇者に事の次第を問いただしにいったらTSしてるし何も憶えてないどころか時間が巻き戻ってるんだが?   作:覇王ドゥーチェ

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新たな魔法

 せ、説明を……説明を要求する。医務室のベッドに身を預けながら俺はひたすら困惑していた。先ほど見た勇上の水着姿が原因だ。その胸部装甲は明らかに胸筋だけでは説明がつかない膨らみ方だったし、そもそも女性用水着を着用していた事から理解できていない。

 状況を整理すべきだ。まず現在地はおそらく……人工島ノアに作られた教育隊、その医務室だ。プールがあった水練館から医務室までの道のりは、かつて学生時代に教務を受けていた教育隊と一致している。まぁ、担架で運ばれたのは初めての経験だったが……。

 人工島ノアは太平洋に浮かぶ……メガフロート、とか言ったっけ? 人工的に作られた島、ってのは俺でも知ってるが、詳細は知ってるやつに聞いて欲しい。あれ、太平洋で合ってたか? それすらもあやふやだ……。この島で生まれて、育ってきたからか、ただ島としか認識していなかった……。今度改めて調べよう。

 教育隊は……教育隊だ。本土奪還を目指す戦士を育成している。この島で生まれた子供達は教育隊に入る事が決まっているが、時期はまちまちだ。理由は知らん。これも後で調べる。俺の場合は中等部卒業後、高等部へは進まず教育隊に入隊した。

 教育期間中は学生として扱われ、部隊実習終了後、正式に部隊へ配属される。教育期間は部隊実習も入れて大体一年。部隊実習が二か月だから、十か月ちょっとをこの教育隊で学生として過ごす事になる。

 俺は神之木 拓也、貴重な闇属性魔法使いとして支援魔法と弱体魔法を使いこなし、十傑の一人『自在』として名を馳せていた。……十傑の数合わせとは俺の事である。俺以外の十傑は昇格(クラスアップ)済みだったので、非常に肩身が狭い思いをした。仕方ないじゃん、闇属性魔法に攻撃魔法はなかったんだし……。強化魔法と回復魔法しかない光属性で昇格(クラスアップ)した『勇者』と『聖女』が例外中の例外なんだって。

 属性は魔臓が生み出す魔力がどんな性質を持っているか、という話だ。決して闇属性は陰キャ属性ではない。『聖女』の椎堂とか見てみろよ。あれは絶対陰キャだ。『勇者』の勇上も実は陰キャだったと俺は考えている。人を裏切るのは陰キャって相場は決まってるんだよなぁ。

 その点、闇属性はいいぞぉ。攻撃性能が無い代わりに支援と弱体に特化している。光属性の強化魔法も使い勝手いいけど、支援魔法の方が刺さる魔物は多い。弱体魔法? 知らない子ですね、と言いたいが……まぁ、うん。刺さる敵には刺さる。魔法抵抗を支援魔法で貫通させれば大体の魔物に弱体入るし。ただ、使い手が光属性よりよっぽど少なくて、昇格(クラスアップ)する事が絶望的ってところがちょっと……うーん、かなり、つらい。

 昇格(クラスアップ)は神から授けられた魔法で魔物を倒し、神に捧げるという儀式を経てようやく到達できる人類の限界点、である。教務でそう言ってた。ここで言う神は魔神ではなく人類を守護する神々ね。その神々に気に入られなければ昇格(クラスアップ)はありえない、らしい。まぁ、どかんと派手な攻撃魔法で魔物倒しまくれば強くなりますよ、って認識だ。光属性と闇属性に攻撃魔法は無いので、本来は昇格(クラスアップ)はできないんだが、『勇者』と『聖女』は神様の依怙贔屓で昇格(クラスアップ)した、らしい。らしいと言うのは、勇上がそう言ってた、ってだけなので、信憑性は今や地に落ちたと言っていいだろう。

 あ、自分の属性は胸に手を当てて魔臓に意識を集中させればなんとなく分かるぞ。うーん、言い方は悪いが、リードでも付けられている感覚で、そのリードを辿ればこっちを見ている神様に会えて、その属性がなんとなく分かる。例えば俺の場合は、それはもう地母神かと思わせるほど豊満で、ありとあらゆるところがでっかいお姉様的神様につながって──なんかリード二本あるな。

 魔臓は一人一個しかない臓器である。だから属性も一人一つ……と言いたいが、世の中には例外というものがあり、『賢者』とか四属性持ってる。魔臓は一個だが属性は四個。世の中不公平だ。

 まぁ、そこまでいかずとも属性二個持ちの二重属性(デュアル)はぼちぼちいる。光と闇のどちらかを含んだ複数属性持ちは聞いた事なかったが……。

 

「…………っ」

 

 固唾を呑んで属性を確認すべくリードの先に意識を向ける。火来い火来い火来い火来い。火属性が比較的昇格(クラスアップ)早くて最優秀な属性なので、火属性は剣士でも魔法使いでも引く手あまただ。まぁ、どうせギシンにつながってると見たがギシンって何属性──いやギシンちゃうんかい。

 リードの先に存在していたのはイケメンのあんちゃんだった。闇属性の神様ともギシンとも違って普通に人間サイズに見える。まぁ、縮尺が違い過ぎて遠近法的技法で小さく見えてる説は、ある。というか闇属性の神様と違ってめちゃくちゃフランクでこっちに手を振ってる。女神様は見下ろしてくるだけだったのに……。

 肝心要の属性は──時属性だ。時? 時ってなんだ? 時属性魔法? ……一度も聞いた事がない属性だ。当たりか外れかすら分からん。困惑していると時属性の神様はポケットから懐中時計を取り出し、こちらに差し出してきた。え、くれんの? 貰えるものは病気と仕事以外は貰うのが俺の主義なのでありがたく手を伸ばし──

 スカった。どうやら触れないようだ。そりゃ触れるもんならまず女神様から──あ、この思考、不敬だな? ぎりぎりのラインで踏みとどまった気がする。危うくよく分からん時属性魔法しか使えなくなるところだった……。

 時属性の神様は、こちらが懐中時計を触れなかった事がたいそう残念なのか、落ち込んでしまった。とりあえず属性さえ分かれば初歩的な魔法は使える。俺は医務室のベッドで寝ている俺を強くイメージした。神様につながるリードを辿り、属性を確認した後戻れなくなるやつが一定数いるらしく、無理矢理叩き起こされるところを見た事がある。まぁ、俺の事なんだけど……。そりゃあんな女神様、たっぷりねっとり眺めなきゃ損でしょ。

 しかし俺は反省した。いつでもどこでも女神様を観賞するためには自力で戻れなきゃまずい、と。俺は何度も失敗を繰り返しながら自力で復帰する事ができるようになった。無だ。心を無にして現実の自分の状況を強くイメージすれば戻れる。たまに煩悩で心があふれて失敗するが、時属性の神様は野郎だから問題ねぇや。

 

「……お、戻った」

 

 首尾よく戻れたようだ。では続いて時属性魔法の性能チェックだ。使えるのは……加速魔法と減速魔法? おい、闇属性と役割かぶってないか? 俺の気のせいならいいんだが。まずは加速魔法から試すか。

 

「加速魔法……クイック」

 

 魔法の発動は声に出す必要はない。必要はないが、声に出してはいけないという決まり事もない。まぁ、声に出さず発動できるようにしろ、と教育はされるが。さて、加速魔法クイックの効果は──

 

 

 

 

 

「拓也? 急にボーっとして、どうしたの?」

 

 目の前に勇上がいた。その胸部装甲は厚かった。というかここ魔神のダンジョンやん。感覚的にはついさっき見た巨大な扉の前だ。変わらず人が一人通れるだけの隙間が空いており、冷気のようなもやと青白い光が漏れ出ている。あれ、今こいつ俺の事を下の名前で呼んだ?

 

「拓也さんの事だから、緊張して自分の神様を視姦しに行ってたんでしょう。いつもの事です」

 

 いやいつも人が女神様を視線で犯してると思うなよ。緊張すると金玉触りたくなるとのは訳が違うぞ。ってかこの失礼な物言いの女は誰だ。椎堂に姉妹とかいたか?

 

「『自在』のは支援魔法を掛け終われば、やる事はほとんどなくなるからのう。わしらがよほどの無能でなければ、じゃが」

 

 このわざとらしい言葉遣いは『賢者』ぁ!? なんとおいたわしい。自慢の胸は激戦の最中にえぐられてしまったようだ……。あ、元からパッドか。……なんで睨むんだよ。

 

「ま、やる事やって、さっさと帰りましょーや」

 

 『破天』! 『破天』じゃないか! そのやる気のなさを戦闘中に出すなよ! 生きる事を諦めるな!

 

「……茶番は終わった? とりあえず『自在』の謝罪を聞いてから進みましょう」

 

 このクソアマお前に謝るのは癪だが一個だけ謝ってやんよお前の特攻のおかげで進めたのに魔神を倒せず無駄死にさせて悪かったな『霹靂』!

 

「こんなとこまで来て喧嘩ふっかけんのやめましょうよマジで。空気悪いっすよ『自在』さん」

 

 さらっと俺に責任押し付けんのやめーや『波濤』。そういうとこやぞ。死ぬ理由を他人に求めるな。

 

「…………」

 

 いやなんか喋れよ『光速』。あ、いたんだ、って言われる事を持ちネタにするんじゃねぇよ。だからしれっと殿から消えてもしばらく気付かれねぇんだよ。

 

「突撃! 突撃だな!? もう突撃していいんだな!?」

 

 お前はちょっとは他の人の話に耳を傾けなさい『百獣』。お兄ちゃん付き合いきれませんよ。お前のが年上だけど。でもお前のおかげで先に進めたのも事実だ。

 

「あらあら……」

 

 お姉さんぶって余裕っぽく見せてるが、十傑で一番若い『金剛』は、ここで死んでいいようなやつじゃなかった。

 いや、俺以外のみんながみんなそうだった。十傑として名前負けなんてしていなかった。十人そろえば、いや、俺以外の九人がそろえば魔神なんて瞬殺だっただろう。『勇者』さえ、裏切らなければ。なんで、なんでだ勇上……。

 

「勇上……」

 

「ここまで来てなんで苗字で呼ぶのさ。いつもみたいに、ひじりって呼びなよ。ちょーし狂うなぁ」

 

 ──こいつは、俺の知ってる勇上じゃない。俺も、こいつの知ってる俺じゃない。これは、夢だ。俺に都合の良いように進む夢。十傑が全員そろって魔神と戦い、勝利するだけの夢なんだ。

 なんて、なんて都合の良い夢なんだ。現実も、こうなっていれば……。

 

「改めて言うけど、魔神はこの先だよ。準備はいい?」

 

 俺達は無言でうなづき、魔神へと挑んだ。十傑全員そろっての戦いだ。ギシンの言葉が脳裏をよぎる。十人で魔神に挑み、勝つ。それはただの事実だと。ギシンの言う通りになるのはどこか引っかかるが、このメンツならただ戦って勝つだろう。

 

 

 

 

 

 そして俺達は、何もできず魔神に敗北した。

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