カミサマにお願いして人類を裏切った勇者に事の次第を問いただしにいったらTSしてるし何も憶えてないどころか時間が巻き戻ってるんだが? 作:覇王ドゥーチェ
扉の先で待ち構えていたのは、巨大な球体だった。浮遊している。回転している。魔力が発せられている。だが、明らかに俺が前に見た魔神とは違っている点が一つ。……まぶたのように見える意匠が施されている。たった一つの違いだが、心理的圧迫は大違いだ。ただ浮遊し、回転しているだけなのに、睥睨されているように感じる。本当にあれがまぶたで、そして開いたら……目が合ってしまったら──
「喝ッ! 先手必勝じゃ! わしの魔法で滅びよ、魔神ッ!」
『賢者』の一喝で、やっと今すべき事を理解した。魔神を相手に怖気づいていた事を遅ればせながら反省し、相手の魔法抵抗を下げる弱体魔法を発動させるべく心器に魔力を流し──何の反応も帰ってこない事に愕然とした。
「な、何故じゃ!? 神器がわしの声に答えん! 皆はどうじゃ!?」
魔臓から生み出される魔力を、人の意志で武器とするための、心器。
「ボクが部屋に入る前にかけておいた強化魔法も、効果がなくなっているみたいだね……」
勇上が魔神を見据えながら言った。その手には『勇者』を『勇者』たらしめる神器、聖剣が──ない。背中にも、聖剣を吊るしていた形跡すらない。聖剣なしでどうやって戦うつもりだ? 心器は意志の武器、形を持たないんだぞ。武器も神器も持たずに戦えるのは……魔法使いだけだ。
もしかして、この、勇上は……『勇者』じゃ、ない?
「『金剛』! 『破天』! 私と共に前へ! 『百獣』と『光速』はかく乱! 魔法組は一旦距離を取って!」
ガワだけ椎堂に似た女は武器を手に叫ぶ。言われるがままに下がってしまったが、勇上も俺と同じく魔法組のラインまで下がってきた。俺の勇上に対する疑問をそのまま口にした。
「勇上、神器は……?」
俺の知らない勇上は、魔法使いと見るべきだろう。だが、何故昇格(クラスアップ)の証たる神器を持ってないんだ……?
「……拓也、流石にこの土壇場で昇格(クラスアップ)するなんて奇跡、起こらないよ。今は『聖女』として、なんとしてでも回復魔法を使えるようにしないと」
勇上が、『聖女』? じゃあ、あの椎堂によく似た……いや、俺が知らない椎堂は──
「くっ、かってぇ……っ! 神器でも傷一つ入りやしねぇって、こいつぁなにでできてるんですかい!?」
「私の神器ちゃん、貫通力には自信があったんだけど……っ! 『勇者』ちゃんの武器はどうかしら!?」
『破天』と『金剛』の猛攻が魔神を襲う。だが、魔神のゆっくりとした回転にすら影響は与えてない。『百獣』と『光速』も魔神を攻撃するが、魔神はただまぶたを閉じたまま回り続けている。
ただ一人、人の手によって鍛えられた武器を持った椎堂……『勇者』は、神器の攻撃になんら痛痒すら感じさせない魔神を相手に、鞘を捨てた。その手にある武器は刀。刃渡りは小柄な『勇者』の身の丈を軽く超えるそれを、『勇者』は大上段に構え──
「──チェストォォォッ!!」
力の限り振り下ろした。身の守りなど考慮しない全力の攻撃。人類が継承してきた叡智を形にした大太刀による攻撃は、『勇者』の技量により神器による攻撃と比しても見劣りしなかった。しかし、
「……これもダメ、と。神器や魔法だけが封じられた、というわけではなさそうですね」
無情にも、勇者の大太刀は魔神に触れた瞬間に砕けた。神器での攻撃と同じく、魔神には傷一つない。ただ純粋に、硬い。弱体魔法さえ刺されば、あの球体を豆腐のようにできるというのに。俺はただ、その魔法の発動すらできない現状に歯噛みし、いつ魔法が使えるようになってもいいように魔神を睨み付け──異変に気が付いた。
武器を失った『勇者』は魔法組と同じところまで下がってきている。剣士組は神器での攻撃を続けている。俺以外の魔法使い組と『勇者』は、魔法を発動させるべく、神器と心器に意識を集中させている。
魔神のまぶたはただの飾りや模様ではなかった。うっすらと開き、青色の魔力光を噴出させている。剣士組もそれに気が付き、開きつつあるまぶたの辺りを目掛けて攻撃を集中させるが、魔神の回転すら止めることはなかった。
魔神のまぶたが開ききった時、その場に立つ者は誰もいなかった。俺も例外ではなく、まぶたを開ききった魔神の眼球と目があった瞬間、体から力が……魔力が抜け、魔臓が止まった。
俺以外の十傑も、多少の差はあれど同じように死んだ事を上から見届けた俺は、二度目の死を迎え──ギシンと再会したのだった。