カミサマにお願いして人類を裏切った勇者に事の次第を問いただしにいったらTSしてるし何も憶えてないどころか時間が巻き戻ってるんだが?   作:覇王ドゥーチェ

6 / 13
ギシン問答

 ……ギシンの野郎、僕も行くよ、なんて格好つけて言ったくせにどこにもいねぇじゃねぇか。いや、あの巨体が教育隊に出た日には大騒ぎどころか即座に第一種戦闘配置が令されるだろう。今も教務が中断されていないという事は、あの巨体は教育隊の誰にも確認されていない、と言い換えてもいい。……学生は戦闘配置がかかったらどこへ行けばいいんだろう。分隊事務室前か、別に令されるまで大講堂か。まぁ、元十傑が教官にゴロゴロいるし、学生の出番はないな。

 あれやこれやと考えつつも教務は進む。どうやら今回の教務は飛び込みからのダッシュを主眼に置いているようだ。測定が近いのだろう。少しでもタイムを縮めようと同期達は頑張っている。一方の俺は、教育隊での成績になんの興味もなくなっていた。むしろ下手に好成績を残そうものなら、部隊配属後に期待され過ぎて動きづらくなるだろう。今俺がすべきなのは、女性陣の水着鑑賞……ではなく、ギシンがどこにいるのか考える事だろう。

 ギシンは自称神様だ。俺が他に見た事がある神様と言えば、俺とつながっている闇属性の女神様と、時属性の神様。そして……思い出すだけで身の毛がよだつ魔神。この中で実際に触れられたのは魔神の一柱だけ。後は謎空間で出会ったギシンと、俺の魔臓につながる先で出会える二柱……。

 俺は今一度胸に手を当て、魔臓に意識を集中する。俺の魔臓につながるリードを探す。俺の魔臓につながるリードは、一本。いやいや、そんなはずないじゃん。もう一本ある。あるはずだ。多分、こう、なんか見えにくいところとかにあるって。だってそうじゃなきゃこれ、俺の属性が闇と時からギに変わったって事だぞ。時属性は将来性に期待できるがぽっと出の属性だ。だが闇属性を持たない俺ってもう十傑の末席に食い込める気がしないんだが……。俺が十傑に入れたのは、闇属性魔法使いというぼちぼち希少な存在で、『勇者』の同期だった、という二点が大きかったはずだ。

 あぁ、属性確認するのやだなぁ、と思いつつ何度見ても一本しかないリードの先に意識を向ける。どうせこの先にいるのはギシンだ。俺の守護神でも気取るつもりなのだろうか。魔力の属性は神様の属性になる、というのがこれまでの通説で、俺もそれを支持していたが、これからは否定派に回りたいと思う。リードを辿った先にいたのは──いやギシンちゃうんかい。

 

 

 

 

 

 それは女神だった。美しくも恐ろしく、地母神を思わせる肉体と傲慢さを隠し切れない表情が共存している。というか闇属性の女神様だった。いつもの、やつだった。ギシン……どこ? 全部夢とかそういうオチか? やめてくれよ……俺、めちゃくちゃ痛いやつじゃん。

 女神様はいつも通り、腕を組みながら流し目でこちらを見下している。眼福です。ありがとうございます!

 女神様も鑑賞したし、そろそろ戻るか、と思ったところで気が付いた。女神様が組んだ腕。見えづらいがその指先が、こちらに向いている。ほわっつ? 何事だろう。こちらの身だしなみに粗相があったのだろうか。

 思わず確認するが、そもそも意識しかないのだから体なんてない。──意識しかないのだから体なんて、ない? 本当にそうだろうか。……ギシンと出会ったあの空間で経験した事を思い出せ。体の隅々まで意識を張り巡らせろ。俺の体は、ここにある。

 

「う、おっ……」

 

 急に感じた重力にたたらを踏んだ。だが、足裏から感じる床の硬い感触がある。声が出せる。息もできる。魔臓が魔力を生み出す。すると、急に視界が開けた。

 ダンジョンだ。壁も、床も、天井も、どこを見ても直感的にここがダンジョンだと理解できる。この感覚は、ダンジョンの中でしかありえない。ここは、女神様のダンジョン、なのか?

 せっかく声が出せるようになったので、女神様に聞いてみようと思い女神様を見やると──

 

「やっと会えたねぇ」

 

 ギシンがいた。貴様ぁ! 女神様をどこへやった!? 女神様を返せ! 返答次第では戦争だぞ!

 

「君の疑問に答えてあげようと思ってたけどぉ、そんな態度を取るならボクにも考えがあるよぉ?」

 

「すみませんでしたぁ!」

 

 食い気味で謝った。神様仏様ギシン様! どうかこの哀れな人間めに慈悲をお与えください!

 

「そこまでへりくだるのかい……先に断っておくとぉ、君の疑問の全てに答えを示せるわけではない、って事は理解して欲しいなぁ」

 

 なんだよ使えねぇなぁ。ちっ、女神様もいなくなるしツいてねぇぜ。

 

「君ぃ、情緒不安定すぎるねぇ。これも人間のもろさ、かぁ」

 

「今俺の事を面白いって嘲笑った?」

 

「してない。さてぇ、君の疑問を早速一つ解消しようかぁ」

 

 くっそ、ギシンと会えて躁鬱の躁になっている。浮かれているんだ。これまでの四年間が嘘じゃなかったと心底安心している。更に自称とはいえ神様が味方っぽい雰囲気だしているし。後はもうチート能力貰って魔神ぶっ倒して俺の物語は終わりだろう。で、何から教えてくれるんだ?

 

「君が崇めていたあの女神ぃ、実はボクなんだぁ」

 

「ダウト」

 

 嘘乙。これは流石に嘘。嘘松もいい加減にしろよ。

 

「君が崇めていた女神は僕の別側面だよ」

 

 マジトーンで言い直すのやめろや。認めたくねぇんだよこっちは。余りの衝撃に体を維持できてないの見れば分かるだろ。はいはい、この話はここで終了ね。そうでないと俺の自我が崩壊するぞ。これまで何度も鑑賞してお世話になってきた女神様が、一人称オデとか言ってそうな見た目のギシンと同一存在とか俺は信じない。

 

「ボクの見た目はぁ、見る者によって違うみたいなんだぁ。それも、固定されたものではなくて、イメージによって移り変わるぅ……水面みたいなものかなぁ」

 

 その話まだ続く? 俺は体を維持するのに集中してて聞こえてなかったわ。他の話をしてくれよ。

 

「それじゃあ……君の時魔法だけどぉ、この後でまた、使えるようになるから安心していいよぉ」

 

「後で、ってのはなんでだ? 神様とのつながりが切れた、なんて話聞いた事ないんだが」

 

「それはねぇ、そもそもこの時間軸ではまだつながってない、としか言えないねぇ」

 

 ……? 俺が時魔法を最初に使ったのは勇者に殺されて、溺れて、医務室に運ばれて、そこで初めて時属性の神様を見て、だったか。まだ時属性の神様は、俺とつながっていないという事は……時が巻き戻ったと判断すべき。だが、それなら勇上はどうなる? 時が巻き戻ったのなら、勇上が女になっているのはおかしい。

 

「君の知る『ユウシャ』が、女で『セイジョ』になっていたのはぁ……」

 

 やはり知っているのか雷電。

 

「僕にも分かんないや」

 

 FUCK YOU、ぶち殺すぞギシン。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。