カミサマにお願いして人類を裏切った勇者に事の次第を問いただしにいったらTSしてるし何も憶えてないどころか時間が巻き戻ってるんだが? 作:覇王ドゥーチェ
ギシンの言葉に俺は殺意を抑えきれなかった。というか、抑えるつもりもさらさらなかった。殺意だけで相手を殺せるなら殺せなければおかしい、というほど俺の殺意が高まった時、俺の殺意は発露した。空中に突如剣が現れたかと思うと、ギシンに向かってまっすぐ飛んで行ったのだ。ギシンの憎たらしいにやけづらにその剣が突き刺さり──
「これも教えようと思ってた事の一つだよ」
何事もなかったかのようにギシンは喋りだした。剣もいつの間にか消えている。いや、剣が刺さったはずの顔にはひびが入っていた。まるで仮面にひびが入ったようだった。そのひびの下に見えるのは……俺もよく知る、何度も見た顔だ。認めたくはなかったが、ギシンと女神様が同一存在だとストンと腑に落ちた。
ギシンの言葉は続く。
「意志の具現化。激情の刃。形を持った心器。……神を唯一傷つける、人だけに許されたモノ」
歌い上げるように朗々と喋るギシン。にやけづらが剥がれ落ちながらも意に介さない。これはそれほど重要な事なのだ、と言わんばかりに。
「神を唯一、傷付ける……?」
その言葉が本当なら、魔神を相手に武器や神器が通じなかったのも当然だ。たとえ魔法が使えていたとしても、まるで通用しなかっただろう。
「神はそれを真器と呼ぶ。神を真に滅ぼせる神殺しの器が故の、真器。──まぁ、使い勝手は心器とそう変わらないから、安心していいよぉ」
急に砕けた口調に戻るな。温度差で風邪ひくわ。しかし、
「ちょ、ちょっと待ってくれよ。そんな大層なシロモン、なんで俺が使えるんだ? 形のある心器なんて今まで見た事も聞いた事もねぇし、俺が人類初の真器の使い手なんてありえねぇ!」
俺の素質は言っちゃ悪いが並みよりちょっと上程度だ。闇属性魔法以外にパッとするところがない、十傑で唯一の未昇格者。歴代の十傑で、俺より優れた闇属性魔法使いなんていくらでもいたことだろう。そんな俺が神器通り越して真器が使えます、だなんていくらなんでも都合がよすぎる。
「真器を使うにはいくつか条件があってねぇ。全部をクリアする必要はないけど……君はすでに二つクリアしている。想像力がものをいうダンジョンの中でなら、君にだって使えるさぁ」
「条件を二つ……?」
魔神との遭遇、か? それならこれまでの人類が真器の存在にすら気が付かなかった、という事は理解できる。魔神と直接相対したのは、人類史上俺達が初めてだったからな。後の一つは……人の手で殺され、神の手で蘇った、ってところか。
「うーん、惜しいとこ突くねぇ。一応答え合わせをしておくと、神と直接対峙した事、そして真器をその目で見た事、この二つだねぇ」
真器を、見た? 一体どこで──ふと脳裏によぎったのは、俺の命を奪ったちゃちな短剣。俺の支援魔法をたやすく貫通した刃。『勇者』勇上は、あの男の本質は、神器である聖剣の使い手ではなく、真器である短剣の使い手だった?
「その通りだよぉ。あの時点の『ユウシャ』には、マジンを倒す手札が揃っていたぁ」
「……そして『聖女』勇上が真器使いでなかったから俺達は何もできず敗北した、ってか。ギシン、たしかお前、初めて会った時に……俺達十人なら魔神に勝てるって言ってたよな」
「そうだよぉ。真器使いがいれば、カミサマだってイチコロさぁ」
少しづつ、分かってきた。あの時の俺達は、本当に惜しいところまで行ったんだ、って。だからこそ、余計に分からない。何故勇上は俺達を裏切ったのか……。
「それを確かめる方法が、一つだけあるよぉ、って言ったら──乗るかい?」
いつの間にかギシンの顔は、ひび割れた仮面ではなく元のにやけづらに戻っている。だが、感じる雰囲気にふざけた様子が感じられなかった。ギシンはギシンなりに、本音で喋っているのだろう。
「乗るさ。……お前の思惑に乗ってやるさ」
ギシンが俺に、何かをさせたがっていたのは事実だろう。そしてそれは、勇上や魔神に関係がある。俺に何をさせたいのかは、重要ではない。重要なのは、俺の望みが叶うのかどうか、だ。
考えはまとまった。俺は意を決してギシンを睨み付けた。
「ギシン、お前が何を企んでるのかは知らねぇ。興味もねぇ。俺の望みを叶えてくれるってんなら、いくらでも崇めてやるよ」
これは嘘偽りない本心だ。だからこそ、俺の心に誓う。
「俺の望みが叶わねぇなら、俺の真器は魔神の前にお前を滅ぼす」
すでに一度、いや、二度も死んでいる身なんだ。こんな安い命でよければ、いくらだって賭けてやる。だがなぁ、
「俺はお前に全部賭けるんだから、お前も俺に全部賭けやがれ!」
賭け金が釣り合わねぇのは百も承知だ。だが、お前も俺に賭けざるを得ないんだろう? 隠しちゃいるが、切羽詰まってるんだろう? こっちだってお前に賭けざるを得ないし、お前以上に切羽詰まってんだよ!
「……どうやら時間切れみたいだねぇ。次は時間がある時においでよぉ。ここで待ってるから、さぁ」
ギシンの言葉を皮切りに、自分の意思とは関係なく周囲がぼやけ、あやふやになっていく。ここではないどこかで、誰かが俺の体を揺さぶっている。現実で、起こされている。
「最後にこれだけは言っておくねぇ。──もう全部賭けてるよ」
最後の最後、ギシンは苦虫を噛み潰したような顔をしていた、気がする……。そんな顔もできるのかよ……。俺の意識は、現実へ戻った。