見果てぬ宇宙(そら)の夢   作:亜空@UZUHA

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帰郷

 地球に降りたミネルバは、その後、無事にオーブへと辿り着いた。

 受け入れられたのは、オーブ領オノゴロ島だった。

 ミネルバはそこで、モルゲンレーテ社の全面協力のもと、艦の修理をすることとなった。

 

 カガリは、到着後、息つく暇もなく行政府で幹部たちの報告を受けた。

 地球の被害状況はもちろん、彼女の居ぬ間にオーブ政府内で動き始めた“ある計画”についても聞かされた。

 それは、大西洋連邦との新たな同盟締結のことであった。

 新たな火種……。

 それは確実に、オーブ国内にも燻り始めている。

 カガリはそれを改めて実感した。

 ナナが命を削って、荒れた地面を均そうとしてきたのに……それを、幹部たちも眼にしてきたはずなのに。

 また、オーブは敵と味方を作ろうとしている。

 カガリはいっそう強い覚悟を持って、オーブの理念と父の意志。そしてナナの願いを背負わねばならなかった。

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 カガリが行政府で幹部たちとの会議に出席している間、アスランはキラとラクスの元を訪れていた。

 今、彼らがいるのは、市街地から離れた海沿いに建つ、アスハ家の別邸だった。

 もともとは、同じ海岸線のコテージに、導師マルキオと、彼が保護した身寄りのない幼い子供らと、それにキラの母親と共に暮らしていたのだが、ユニウスセブンの件でその家は津波に襲われてしまったという。

 だから今は、ナナがマリューとバルトフェルドに宛がったその別邸に、皆が身を寄せているという連絡を受けていた。

 

 オーブ国内の被害は、他国のそれよりも小規模だったと、帰国後に聞かされていた。

 だがこうして親しい者たちが被害を被ったことを考えると、己の無力さが身に染みる。

 無事ではいてくれたが、彼らはまた多くのものを失ったのだ。せっかく一から築き上げてきた穏やかな暮らしを、奪われたのだ。

 

 マニュアル車を飛ばしてそこへ向かうと、二人は子供たちとともに波打ち際で楽しそうに戯れていた。

 楽しそう……といっても、二人が、特にキラが楽しそうに笑う顔など、もうずっと見たことはない。

 戦争が彼につけた傷跡は深く、その傷口はまだ完全には塞がっていないのだ。

 さらに、また多くを失ってしまった。

 が、二人は子供たちに笑いかけ、その姿は美しい浜辺の景色に綺麗に溶け込んでいた。

 二人と言葉を交わして、ほんのわずかにほっとした。

 二人と、子供らの無事な姿を見て、そして、まだ彼らが笑えていることに改めて安堵した。

 

 ラクスが気を効かせて、アスランとキラを二人にしてくれた。

 キラを車に乗せて屋敷に向かう途中、ますます重くなった心を、キラに少しだけ吐き出した。

 プラントで、思いがけず戦闘に巻き込まれたこと。

 カガリに怪我を負わせてしまったこと。

 乗り込んだ艦が、戦闘になったこと。

 “敵”が何なのか、まだわからないこと。

 そして、ユニウスセブンの降下と、その犯人と合いまみえたこと……。

 

「戦ったの?」

「ユニウスセブンの破砕作業に出たら、彼らがいたんだ……」

 

 キラは不安げな顔をした。

 だが、それは再び進んで戦場に躍り出たことを責めたのではなかった。

 ただただ、アスランの心中を気遣ってくれていた。

 が、その友の優しさにも、心は少しも軽くはならない。

 

「連中のひとりが言ったんだ。撃たれた者たちの嘆きを忘れて、何故撃った者たちと偽りの世界で笑うんだ……って」

 

 穏やかな波音にかき消されそうなほど、情けない声しか出ては来なかった。

 

「でも……アスラン」

 

 少しの沈黙の後、キラは静かに問いかけた。

 

「君は……ナナならきっとそうすると思ったから、そうしたんだよね?」

 

 曖昧な表現は、アスランを気遣うものだった。

 

「ただ……見ていることなんてできなかったんだ」

 

 だから、アスランは素直な気持ちを零した。

 

「立場や名前に捕らわれず……自分にできることを。自分がやるべきことを……。ナナはいつも、そうやって進んでいた……」

「うん、そうだね」

 

 キラの肯定の声だけは、やけにきっぱりと聞こえた。

 

「そんなふうには、考えないようにしていたんだけどな……」

 

 少し、肩の力が抜けた気がして、アスランは息を吐くように笑った。

 自嘲だった。

 が、キラはそれを咎めることなく、まっすぐ向こうの海を見つめながら、つぶやいた。

 

「こんなふうにナナのことを話すのは……あれ以来、初めてだね」

 

 おそらく、ラクスも気がついている。意識してそうしてきた。

 ナナのことを考えないようにしていたから、当然、二人ともナナの話をしなかった。

 二人とナナのことを話せば、より深い虚無感に浸ることは必然だった。

 誰かの口からナナの名を聞くたびに、彼女が過去の人間で、今はもう存在しないことを思い知らされるのに、共通の友である彼らとなど話せるはずもなかった。

 だが今日は、キラの前でその名を口にした。

 ナナならどうするか……そう考えたことを明かした。

 今は……この虚無感すら惑わせる迷いや葛藤を、言葉にして出さずにいられなかった。

 美しい景色と優しい友に、受け止めてもらいたかった。

 キラはまだ、夕日に照らされた海を眺めていた。

 その視線に促されるように、アスランも同じ景色をみつめた。

 そして……あれから初めて、ナナとの時間に思いを馳せた。

 

 

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