見果てぬ宇宙(そら)の夢   作:亜空@UZUHA

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追憶5「逸れていく」

 

「今はカガリに付いててほしいの」

 

 あの夜からしばらくして、ナナはそう言うようになった。

 アスランを、自身の護衛から外すようになったのだ。

 理由を何度も尋ねたし、異も唱えた。

 だがナナは、一貫してこう言った。

 

「今、カガリは難しい立場に立たされて、精神的にとても不安定になっている。私は出張でなかなか側に居られないから、アスランがあのコの側にいてあげてほしいの」

 

 今までカガリのことを一番に案じて来たナナの、もっともらしい願いだった。

 が、アスランは腑に落ちなかった。

 自分自身が、ナナの側を離れたくないのもあった。

 他国の人間と接する機会が多いナナのほうが、身の安全が脅かされる危険性が高いこともわかっていた。

 が、そんな理由じゃない何かが、アスランの中に渦巻いていた。

 確かに、近頃のカガリは、慣れない政務や首長、議員らとの関係に、神経をすり減らしている。何もかもが思い通りにいかないようで、朝食をともにするときでも、イライラしていて口数が少ない。

 彼女は努力家だから、夜も遅くまで資料とにらめっこをしている。彼女なりに誠心誠意、がむしゃらに向き合っているのに、報われない……。

 そんな状況を、ナナも、アスランも、良くわかっていた。

 

 ナナは時折、子供の頃二人でモルゲンレーテ社の研究所に忍び込んだ時の冒険譚を、懐かしそうにカガリと話す。それはきっと、二人にとって最も幸せな時間だったはずだ。

 が、カガリは疲れた顔で曖昧に返事をするだけであった。

 固い絆で結ばれたはずの姉妹の、どこかぎくしゃくした関係は、アスランの目にも明らかだった。

 ナナもよくため息を漏らすようになった。

 その原因が過密スケジュールに対する不満であったなら、ナナはアスランの前で愚痴をこぼす。

 そんな時、本当は全てが必要なことであるとナナ自身もわかっているから、ただ言いたいことをぶちまけて、次の日には涼しい顔でスケジュールをこなすのだ。

 また、首長や議会の連中や、他国の要人に対する不満であったなら、秘書官にさえ聞かせられないようなユニークな悪口を、アスランに披露する。

 だが、ため息の原因がカガリのこととなると、ナナは決して口を開かなかった。

 恐らく行政府の内部では、またあの“不穏な動き”が見られるのだろう。

 それはアスランの耳にまでは入って来ないが、カガリやナナは敏感に察知しているようだった。

 

 だからナナは、少しでもカガリの心痛を減らそうと、気心の知れた護衛をひとり、付けようとしているのだけなのだ。

 ナナの側にいて思い知ったのは、ナナは常にカガリのことを一番に考えるということだ。

 実の母親から手紙が来ても会おうとしないくせに、カガリのこととなると全てを優先させてきた。「たったひとりの家族」と公言するくらいに、年の違わぬ妹をとても大切にしている。

 アスランも、そんなナナの想いをよく理解していた。

 ナナと二人で、カガリのことを見守ろうと誓ったこともあった。

 が、それでも……ナナの意見に素直にうなずけない引っ掛かりがある。

 それが無ければ、心配ではあるがナナの護衛は警護部隊に任せて、ナナが安心するようにカガリの側に付いていようと割り切れるのだ。

 だが、何度考えてみても、やはり引っ掛かりは存在した。

 それはまるで、ナナが自分を避けているような……ただカガリとナナの問題ではない何かを感じていたからだった。

 

 理由はどうしてもわからなかった。 

 ナナがはっきりとそう言ったわけでも、そうした態度をとったわけでもない。

 ナナが言っていることはまともで、素直に受け取らないアスラン自身に問題があるようなものだった。

 が……あの夜に深め合った絆が、少しずつ薄れていくような……言い知れぬ不安を、アスランは感じていた。

 

『ナナは本当に、カガリさんのことが心配なだけですわ』

 

 自分ではどうしようもなくなって、キラとラクスに会いに行った。

 勝手に思いこんでいるだけかもしれないことでも、それが真実かもしれないと思うと、とてつもなく怖かった。

 こんなことを相談するのは照れくさかった。

 が、誰かに気のせいだと言ってほしかった。

 

『ナナはカガリのことになると、眼の色変えちゃうところがあるからね』

 

 苦笑して、流してほしかった。

 

『逆なんじゃないの? 逆に、君とナナとの絆が深まったから、ナナは君との関係に安心してるんじゃないのかな』

『そうですわね。心で繋がっていれば、たとえ離れていたとしても、不安にはなりませんもの』

 

 二人には“あの夜”のことを言ってなどいないのだが、二人は思わずくすぐったくなってしまうような視線を向けてきた。

 その時は、表情を誤魔化すのに必死になって、少しだけ不安が薄れた。

 ちょうどナナからラクスに、『最近の調子はどう?』というご機嫌うかがいのメッセージが来た。

 ナナは忙しいさ中でも、こうして二人のことを気遣っていた。

 ラクスはすぐに、自分が来ていることを伝えた。

 すると、すぐに返信があった。

 

『「私も行きたかった!」だそうですわ。あらあら、この顔は……アスランに怒ってるんですわね』

 

 ラクスはタブレットを見せてくれた。

 確かに、わざわざ太字でひと言書かれており、最後には怒った顔のスタンプがついていた。

 

『これって、アスランと一緒に行きたかったのに……! って意味だよね』

 

 キラが、彼らしくなくちゃかすように笑ったから、アスランも久しぶりに笑えた気がした。

 

 

 

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