アスラン。本当にごめんなさい。
側にいてと、願っておきながら、先に居なくなることを、どうか許してください。
あなたと過ごした時間は、とてもとても幸せでした。
振り返れば短かった気もするけど、それでも、一瞬一瞬が大切だった気がします。
たとえ苦しかった時のことでも、あなたが側にいてくれた事実のおかげで、今へと繋がる大切な『想い出』になりました。
あなたはいつも優しかった。
私はそれに対する応えが下手くそだったけど、心からあなたに感謝をし、あなたを大切に想っていました。
うまく伝えられなくてごめんね。
でも、本当のことです。
できることなら、ずっと、ずっと、一緒にいたかった。
もっとあなたのことを知りたかったし、私の話も聞いて欲しかった。
おじいちゃんとおばあちゃんになるまで、争いの無い平和な世界で生きてみたかった。
だけど、私は先に逝きます。
あなたと離れることはとても悲しいけれど、映像の中の私が言った通り、進んで来た道に後悔はしていません。
あなたやカガリ、キラ、ラクス、マリューさん……大切なみんなと歩こうとした道も、間違っていなかったと思っています。
私なりによくやったと、あなたは褒めてくれるでしょうか?
もしそうなら、それはあなたのおかげです。
あなたが側に居なければ、私はここまで迷わずに進んでは来られなかった。
振り返るといつもあなたが、穏やかな顔で私を見つめてくれていたからこそ、まっすぐに歩いてこられたのだと思います。
この道が、途中で途切れてしまうのはとても残念だけど、私は精一杯足を動かして、ここまで辿り着きました。
ここから先は、あなたたちを見送ることにします。
私が願った未来へ進む、あなたたちの背中を、ずっと見送り続けます。
だからどうか、痛みを超えて、憎しみを乗り越えて、先へと進んでください。
私が行きたかった場所へ、私の魂を連れて行ってください。
それと、カガリのことをくれぐれもよろしくお願いします。
あの子はまだ純粋なだけに、とても傷つきやすい子です。
それでもあの子の真っ直ぐさや強さは、オーブにとって必要なものだと確信しています。
だから、アスラン。あの子を護ってください。
これは、あなたにしか頼めないことです。
カガリの側に居て、支えてあげてください。
どうか、お願いします。
最後にもう一度、「ごめん」と「ありがとう」を……。
あの島に行く約束を、守れなくてごめんね。
それと、私にこんな気持ちをくれてありがとう。
いつか、あなたが心から笑える日がきますように。
さようなら。
ナナ
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なんだ……これは。
読み終えて、込み上げたのは涙と怒りだった。
初めて涙が目に浮かび、はっきりと感情が動いた。
こんなもの、いつ書き残した?
どんな思いで、すらすらと流れる文字を書き記した?
どうしてこんなにも、清廉な言葉が連ねられた?
どうして自分だけ、心の整理がついていたんだ?
ナナの両肩をつかんで、問いただしたい気分だった。
こんなのはずるい。ずるすぎる……。
紙をぐしゃぐしゃにしようという衝動を抑え込んでいたら、涙が落ちてナナの文字を滲ませた。
歪んだ言葉。
全てがぼやける。
が、今なお怒りをぶちまけられないのは、このたった二枚の紙に、ナナの愛情が込められていることが伝わって来てしまうからだった。
自分に対する愛。
カガリに対する愛。
国や仲間たちに対する愛。
くどくどと書かれているわけではないのがまた、ナナらしい。
こざっぱりとまとめられていて、それでも強い想いを言葉の中に秘めている。
まぎれもなく、これはナナがありったけの想いを込めて書いた文章なのだ。
綺麗に整頓された心で、それでも溢れそうな想いを静かに、文字にしたためたのだ。
よくわかる。
ナナを深く想えばこそ、それはよくわかってしまった。
だから、大きく息を吐き出した。
腹の底から溢れそうな憤りを、体内から排出するように。
何度かそれを、繰り返した。
それでも心は震えていた。
納得などしていなかった。
が……やるべきことはすでに決まっていた。
歩くべき道は、ナナが作った道でしかなかったのだから。
袖で涙を拭い、長いこと椅子に沈めていた腰を浮かせた。
膝から力が抜けそうになるのをこらえ、敢えて目を見開いた。
すすり泣く音だけがする部屋を横切って、カガリの側に立った。
「カガリ……」
震える声を誤魔化すように、彼女の肩に手を置いた。
「アスラン……」
哀れにも、彼女は己を支えていた憤りさえナナの遺書に吸い取られたかのように、弱々しく突っ立っていた。
ナナが彼女にどんな言葉を送ったのかは知らない。
が、きっと愛情たっぷりの、“姉”としての言葉なのだろう。
「ナナの意志を、受け継ごう」
それを感じながら、そう言った。
己自身の意志で。
「アスラン……」
カガリは、同じく二枚の紙を胸に抱えながら、諦めたようにうなずいた。
そして、アスランの胸に顔をうずめ、声を殺して泣いた。
不意に、涙は止まった。
今度はしっかりとした動作で、カガリを抱きしめてやれた。
「アスラン……」
涙声のキラが側に来て、肩に手を置いた。
ラクスもキラの腕にしがみつきながら、強い眼差しをくれていた。
ナナ……。
心の中で、つぶやいた。
わかった。
約束する。
ナナの居ない未来を進む道しるべは、ナナとの約束だけだと、そう思った。