「どういうことなんだ?! 国家元首をさらうなんて!」
暗黒の海底に身を隠したアークエンジェルのブリッジに、カガリの声が響く。
「国際手配級の犯罪だぞ!?」
彼女は怒りに震えていた。
「こんなことをしてくれと頼んだ覚えはない!」
適切な答えが得られないまま面々を睨みつけるカガリに、静かに話しかけたのはキラだった。
「でも、仕方なかったんだ」
カガリは彼に鋭い視線を向ける。
「世界がこんな状況で、カガリにまで馬鹿なことをされたら、もう本当にどうしようもなくなっちゃうから……」
「馬鹿なことだと……?」
キラの言葉に、カガリの怒りは沸点に達する。
ラクスがキラを止めようとするが、キラに前言を撤回する意思は見られなかった。
「なにが馬鹿なことだっ! 私はオーブの代表として決めたんだ! いろいろ悩んで、考えて……それでっ……!」
「本当に思ってる?」
「なっ……!」
「大西洋連邦との同盟やセイランさんとの結婚が、本当にオーブのためになると、本気で思ってるの?」
力の限りに叫ぶカガリの言葉を、キラは静かに遮った。
「あ、あたりまえだ!」
ほんの一瞬だけひるんだカガリだったが、すぐに拳を握り直した。
「そう思ってなきゃ結婚なんかするわけないだろう! どうしようもないんだ……! ユウナやウナトや首長たちの言う通り、オーブは再び戦渦に巻き込まれるわけにはいかないんだ!」
彼女の脳裏に浮かぶのは、焼かれた国の犠牲になったシンの顔。オーブという国を憎む、シンの目であった。
「そのためには、今はこうするしか道はないじゃないか!!」
自身に深く刻み込まれたシンの怒りと憎しみが、皮肉にも今、カガリの行く先を照らしていたのだ。
だが。
「でも、今オーブが焼かれなければ他の国はいいの? もしもいつか、オーブがプラントや他の国を焼くことになっても、それはいいの?」
キラは穏やかに、だが残酷に言葉を並べ続ける。
「いや、それは……」
カガリはうつむいた。
「そういうことだよね? 君が選んだ道は」
「キラ……!」
ラクスがたまりかねたようにキラの腕を掴んだが、キラは鋭い言葉を止めなかった。
「今、目の前にある問題を横に避けただけで、その先に待っているものは何も変わらない。カガリにだって本当はわかってるんだよね?」
「でも……!」
カガリにだってわかっていること。カガリだって考えていたこと。
それでも仕方がなかったから、彼女は悩み抜いた末に道を選んだ。それは、キラもラクスも、マリーたちもわかっているのだ。
「ウズミさんの言ったことは忘れられるの?」
それでも、キラはカガリをたしなめるように言う。
「ナナの意志は?」
カガリは声をなくし、唇を噛みしめた。
「カガリが大変な道を歩いていることは僕たちもわかってる。今まで助けてあげられなくて本当にごめん……」
キラの労りの言葉を聞いたカガリの目には涙が浮かんだ。
「でも、今ならまだ間に合うと思ったから……」
懸命に堪えてはいるが、唇は震えている。
「僕たちにも、まだ色々なことがわからない。導いてくれていたナナもいない。でも……今ならまだ間に合うと思ったんだ」
キラは優しい笑みを浮かべて、カガリに寄り添った。
「選ぶ道を間違えたら、行きたいところへは行けない。だけど、今ならきっとまだ選べるはずだよ」
カガリの頬に、とうとう涙がつたった。
「僕たちは今度こそ、自分たちで正しい答えを見つけなきゃならないんだ。もう、逃げずに……」
「ううっ……!」
嗚咽が漏れた。もうとっくに限界だった。
「そうすれば、きっとナナが歩こうとした道を、僕たちで歩けると思うから……」
「キラ……!」
カガリはその場に崩れ落ち、声をあげて泣いた。
キラはその震える肩を抱き、そっと頭を撫ぜる。
そして、彼も自身に言い聞かせるように言った。
「みんなで行こう。ナナ行きたかった場所へ……」
カガリの嗚咽が漏れる中、皆、キラの言葉に静かにうなずいた。