懇談後、議長と二人きりで話す機会があった。
話の内容はアスランの予想通り、アークエンジェルのことだった。
議長にこう問われた。
アークエンジェルの行き先に、心当たりはないか……と。
カガリをさらってオーブを出て以来、消息は全くの不明とのことだった。
だが、アスランには彼に対して有益な回答を持ち合わせていなかった。逆に、アスランのほうが議長から情報を得たいくらいだった。
ナナがあの艦を蘇らせたのは、こんなふうに世界が歪んだ時のためだった。
世界が平和への道を踏み外しそうになり、オーブがそのひずみに引きずり込まれそうになったら、あの艦で発つと……。
その決意と意志は彼女の口から何度も聞かされていたし、アスランはそれを支持していた。
もちろん、どこまでも共に行くつもりだった。
それなのに……翼を広げた後で向かう先や成し遂げることについては、何も聞かされていなかった。
状況が予測不能なだけに、細かい計画など立てられなかったのも事実。
だが、今さらながらに思う。
ナナは……アークエンジェルで飛び立った後、どうするつもりだったのか……
その時の勢いで動いているように見えて、実は先の先まで冷静に考えて行動していたナナだ。全く考えがなかったとは思えない。
が、自分は聞かされていないし、そもそもアークエンジェルの存在自体を伏せられていたカガリが知るはずもない。
キラとラクスは知っていたのだろうか……。
困惑するアスランに、議長は困ったようにため息をついた。
彼は本物のラクスの行方を探していた。
プラントに戻って、以前のように平和を訴えて欲しいと。彼女自身が戦禍に巻き込まれる前、そうしていたように。
「こんなことばかり繰り返す我々は、もう彼女に見放されてしまったのだろうか」
窓辺から遠くの空を見ながら、議長はそうつぶやいた。
じっと天井を眺めていた。
艦のベッドよりふかふかで、布団も肌触りが良いはずなのに、なかなか寝付けなかった。
議長の厚意で、今日は皆で宿舎に泊まることになった。
基地にミサイルがぶち込まれでもしない限り、ゆっくり眠れるはずだった。
が、何度寝返りをうっても瞼が勝手に持ち上がってしまう。
基地に入港しただけというのに、今日は色々ありすぎた……。
到着するなり、ミーアに驚かされた。
互いに距離を置いていればよいものの、彼女は本物のラクスでもないのに、「自分は婚約者」だと主張して何かとまとわりついて来た。それも皆のいる前で抱き着いたり腕を組んだりするものだから、奇妙な空気に耐えなければならなかった。
ルナマリアはなぜか不機嫌そうに睨んでくるし、シンは目を丸くして驚いた顔をしていた。セアはミーアの存在自体に怯えていたし、グラディス艦長はなかば呆れたような表情を浮かべていた。
レイだけが平素どおりだったように思う。
とにかく気まずさを感じた。
それに、思いがけない議長との再会があった。
特別に用意された懇談は決して和やかなものではなく、アスランにとっては居心地が悪いものだった。
議長が兵士と懇談する内容としては、不自然なところはなかった。
世界の情勢の話と……『ロゴス』の名前。アークエンジェルの行方と……そして、ナナのこと。
ただ、アスランの息が詰まっただけだ。
ザフトに復隊して以来、ナナのことを思い出すことが多くなったから……。
戦争に加わってしまったのだから、戦いの中で出会った彼女との思い出が多いのは当然だった。
だがそれよりも、ナナならばこんな時どうするか……と、つい考えてしまうのだ。
それだけならば前向きなだけましだ。
最近は、今この世界にナナがいたならば……などと、情けなく不毛なことを思ってしまうのだ。
「ナナ……」
護り石を見つめて、呟いた。
「ナナがいたら……世界はこんなふうにはなっていなかった……」
我ながら乾ききった情けない声に、少し笑った。
「それだけは間違いないと……そう思う……」
議長が口にした『ロゴス』の問題。
そこまでの深い闇を、ナナがひとりで照らすことはできなかっただろう。
が、少なくとも今この世界にナナが存在していたならば……開戦はしなかった。戦渦はこうも広がることはなく、少なくともザフトやオーブが下り坂を転げ落ちるような感覚を覚えることもなかったはずだ。
それは断言できた。
不毛だ……
わかってはいるが、思わざるを得ない。
無念、喪失感、後悔……戦場に深く踏み込むにつれて、それらが強くなっていくのをひしひしと感じていた。
それに、アスランには悔やんでも悔やみきれないことがある。
永遠に解けずに残った“疑問”も……。
たとえナナのことを思い出して喪失感に捕らわれたとしても、この悔恨と困惑だけは封印するつもりだった。
今はまだ、封は解けていない。
油断したら溢れ出て来そうで……アスランは護り石を襟の中にしまい込んだ。