フリーダムを見た。
ムラサメとアストレイ……『オーブ軍』のMS隊と交戦中に。
ミネルバが主砲タンホイザーを起動していた。照準は『敵オーブ軍艦隊』だったはずだ。
が、粒子をため込んだ砲は空から光を打ち抜かれて損壊した。
ブリッジは無事のようだった。が、艦のダメージはひと目でわかった。
ミネルバは推力を失い、着水した。
それを見下ろすように空から現れたのは、フリーダムだった。
操縦するのはキラしかいなかった。それをナナに託されたのだから。
(何故、ここに……?)
フリーダムを認識し、キラの存在を意識する間もなく、その後方からアークエンジェルが姿を現した。
ナナの翼だった艦だ。いつか世界がこういう状況に陥った時、ナナが飛ぶはずだった翼だ。
だがそこに、ナナはいないことはわかっている。
(何故だ?)
まるで息切れがするようだった。じっとりと、手に汗が滲むのがわかった。
何の行動もとれずにいた。おそらくセアが戸惑いながら指示を求めてきたであろうが、耳に入らなかった。
また、目の前に知っている機体が現れた。
ストライクルージュだ。
それが誰の機体かも、アスランにはわかっていた。
≪私はオーブ首長国連合代表首長、カガリ・ユラ・アスハだ!≫
彼女の声に間違いはない。
とても落ち着いて、堂々として、以前よりいくぶん大人びた声に聞こえた。
彼女はオーブ軍に命じた。
ただちに戦闘を停止し、軍を引け……と。
オーブの代表としての風格を声にまとわせ、強く命じた。
だが……。
彼女を代表と仰ぐはずのオーブ軍は、信じられない行動をとった。戦艦から一斉に、ストライクルージュ目掛けて砲弾が飛んだのだ。
全く動けなかった。
オーブ軍のとる行動に対して予測ができなかった……というより、事態を呑み込めていなかった。
キラが再びフリーダムの操縦桿を握ると思わなかった。
ナナがいないのにアークエンジェルが飛ぶはずはないと思っていた。
カガリがまるで、ナナのようだった……。
全てのことがアスランの脳と心を激しく揺さぶっていた。
だから、半ば放心状態のまま、ストライクルージュに向けて放たれた砲が、フリーダムによって全て撃ち落とされる様を眺めていた。
≪来ます……! あ、アレが……!≫
セアのその声でようやく我に返った。
すぐ目の前までカオスが迫って来ていた。
疑念の塊を抱いたままどうにかできるほど、カオスはたやすくなかった。
戦闘能力はこちらがやや上……精神状態がすこぶる安定していればもっと離せただろうが、今はわずかに上回るのが精いっぱいだ。
執拗な攻撃を避けながら、ミネルバに向かうMSをけん制する。
迫り来る地球軍のウィンダム隊とオーブ軍のアストレイ隊から、シンもセアも懸命にミネルバを護ろうとしていた。
デッキにはレイとルナマリアのザクウォーリア、そしてハイネのグフイグナイテッドが応戦しているのが見える。
だが正直、戦況は俄然不利だった。
手負いのミネルバに、この状況を切り抜けられる力があるとは思えなかった。
「くそっ……!」
カオスの砲撃を避け、MA形態に変形する。そのまま空を突っ切ると、フリーダムが目視できた。
「キラ……!!」
無線のチャンネルが合わない。急いで調整するが、またもカオスが迫り来る。
それを横目に、フリーダムをメインモニターで追う。
と、インパルスがその行く手に立ちはだかった。
直感で、「危ない」……と思った。
キラとシン、二人の腕前は良く知っている。
勝負は一瞬だった。
フリーダムはすれ違いざまに、まるで“ついで”のようにインパルスの腕を払いのけて行った。
ビームライフルを持ったままの腕が一本、海に落ちて行く。
何が起こったのが、恐らくシンは理解できていないだろう。勝負になんてならなかったのだ。
「キラ、止めろ! なんでお前が……!」
突っ込んで来たガイアを薙ぎ払ったフリーダムに向かって、アスランは叫んだ。
衝撃と混乱をひと回りして湧いた感情は、まるで怒りに似ていた。
それをうっすらと認識した時、フリーダムはグフイグナイテッドの腕をいとも簡単に切り捨てていた。
「キラ……!」
まだ無線は通じていなかった。
だが、フリーダムが振り返ってこちらを見た。
キラと、目があったような気がした。
(戦うのか……?)
一瞬、そう思った。
(“また”キラと……)
その時、フリーダムの背後にグフイグナイテッドが迫った。
「よけろ!」と友に叫ぶ間は与えられなかった。
そのグフイグナイテッドのさらに後方からは、ガイアがMA形態のままビームサーベルを振りかざした。
またも声は出なかった。
フリーダムに意識を集中させていたグフイグナイテッドは、ガイアの剣に真っ二つに切り裂かれた。
「ハイネ……!!!!」
その状況を呑み込んだ時にはもう、グフイグナイテッドは激しく炎上していた。
木っ端微塵だ。
空に黒い煙を残し、残骸を海にまき散らしてハイネは散った。
なおもフリーダムに向かって行ったガイアは、フリーダムにあっさり蹴散らされて落下した。
それを見計らったかのように、敵軍から帰還信号が放たれる。
今にも攻撃を仕掛けようとしてきていたカオスが、方向を変えて去って行った。
それをモニターで追うことすらできなかった。
アスランは痛いほど強く操縦桿を握りしめながら、黒い煙の向こうにたたずむフリーダムを睨んだ。
「キラ……!」
眼下の青い海に、無数のオレンジ色の破片が浮かんでいる。
その光景と、アークエンジェルの方へ飛び去るフリーダムを、アスランは交互に何度も何度も見ていた。
戦闘終了を見届けて、アークエンジェルとフリーダムはどこかの空へ飛んで行く。
役目を終えたと、言わんばかりに……。
静けさを取り戻した空で、アスランは自身の胸に膨らむ怒りの塊をはっきりと感じていた。