無人の孤島で、再会を果たした。
夕日に染まった海。乾いた土。潮の風。
まるで、オーブでキラと再会した時の光景に似ていた。
フリーダムから降りたキラと、ジャスティスから降りたアスラン。そして、グレイスから降りたナナ……。
オーブ軍が自分に向けて銃を構える中、ぎこちなくキラに歩み寄って、間抜けな挨拶を交わした。
ナナは、それを見て泣いていた。まるで小さな少女のように、立ち尽くして泣いていた……。
「どういうことだ、アスラン!」
が、あの時に比べても、互いの感情はさらに大きくすれ違っていた。
「なんで、なんでまたザフトになんか戻ったりしたんだ!」
ミリアリアから今聞かされたばかりなのか、カガリは激しく動揺していた。
「その方がいいと思ったからだ。自分のためにも、オーブのためにも」
アスランの心は落ち着いていた。
自分はちゃんと、意思を掲げて進んで来た。ナナを想い、ナナのようにと選んできた。
ただ理想だけで動く彼らとは違うと思っていた。
「何故あんな馬鹿なことをしたんだ?!」
それをキラに向かって問いただした。
「おかげで戦場は混乱し、お前のせいで犠牲も出た。死ななくていい奴が死んだんだ!」
キラを傷つけることはわかっていた。
が、どうしても彼らの答えが欲しかった。
いや、そうではない……彼らの行動を正したかった。
だから、突っかかるカガリにも至極まともな台詞を返した。
「あそこで君が出て行って、素直にオーブ軍が撤退するとでも思ったのか?」
カガリを傷つけることもわかっていた。
「君がしなけくちゃいけなかったのはそんなことじゃないだろう? 戦場に出て行ってあんなことを言う前に、オーブを同盟になんか参加させるべきじゃなかったんだ!」
カガリはうつむいた。
ナナを悲しませることだということもわかっていた。
が……。
「でも、君が今はまたザフトの人間だっていうなら、これからどうするの? どうして僕たちを探してたの?」
キラの問いに対し、きっぱりと己の意思を告げた。
「やめさせたいと思ったからだ。もう、あんな馬鹿なマネを……」
ユニウスセブン落下事件のことはあるが、その後の混乱はどう考えても連合に非がある。 それでもプラントは、一日でも早くこの混乱を鎮めようと努力し続けている。
キラたちはただ、状況を混乱させているだけだ……。
そう訴えた。
「本当にそう?」
だがキラは、プラントの真意を……デュランダル議長を疑っていた。
そんないわれはないはずだった。
議長は自分のよき理解者で、正しく力が使えるように道を示してくれた。
戦乱を憂慮し、早期の解決のために己の危険も省みず行動を続けている。平和を願い、それを実現しようと……ナナの遺志さえ受け継いでプラントを導いている。
それは、プラントのみならず、地球でもわかり得ることのはず。彼の演説や行動は、キラも知っているはずなのだ。
が、キラは疑念を顔に浮かべ、低い声でこう言った。
「じゃあ、あのラクス・クラインは? 今、プラントにいるあのラクスはなんなの?」
ニセモノのラクスのことを指摘して、さらに、驚愕の事実を突き付けた。
「なんで本物のラクスが、コーディネーターに殺されそうになるの?」
キラはオーブでコーディネーターの特殊部隊とMSに襲撃されたことを明かした。
そして、そのために自分は再びフリーダムに乗る決意をしたのだと。
「ラクスは誰に狙われてるの? なんで狙われなきゃならないの?」
訴えとも問いかけともとれる口調でキラは言った。
「それがはっきりしないうちは、僕はプラントを信じられない」
目の前に線を引かれた。
だがアスランに、用意した答えは無かった。
うっすらと心の隅に存在していた疑問がキラから明確に吐き出されて……答えられるはずもなかった。
議長が偽のラクスを世間に見せる理由は直接聞いている。
ナナを失った世界には、彼女の影響力が必要だと……。彼女が平和を訴えることこそが重要なことなのだと。
その考えは理解できた。
偽者の……ミーア自身も、自分に与えられた役割を理解し、懸命に努めようとしていることも知った。
むろん、いささか滑稽だとは思った。世間を欺いていることに変わりはなく、完全に正しい方法であるとは言い切れなかった。
それが、ずっと抱えていた疑問の正体だ。
が、議長が本当に平和を願っていることもまた知っている。
そんな方法をとってまで、ナナが願った未来を実現させようとしている姿を見てきた。
だから、それでプラントや議長を信じられないというのは早計すぎるとキラに言った。
プラントにだって色々な人間がいる。
ユニウスセブン落下の事件だって、ごく一部の人間が暴走しただけかもしれないのだ。議長が知り得る範囲内の出来事でなかった可能性だって十分にある。
少し稚拙な考えだと……、ラクスの命が狙われて頭に血が上っているだけだと……。そう思った。
キラは納得しなかった。カガリは驚いた顔をしている。ミリアリアは残念そうにうつむいていた。
「その件はオレも艦に戻ったら調べてみる。だからお前たちはオーブに戻れ」
カガリはますます目を見開いた。
が、彼女の言葉を遮った。
「戦争を止めたい。オーブを戦わせたくないというんなら、まずオーブと連合との条約からなんとかしろ。軍が戦場に出て行ってからじゃ遅いんだ」
まっとうなことを言っているつもりだった。
きっと、ナナもカガリにそう言うはずだった。
「お前は戻らないのか? アークエンジェルにも、オーブにも……!」
そのはずなのに、そう問われて一瞬息が止まった。
戻るつもりがないことに、自分自身でも今さら気がついたのだ。
「オーブが……今まで通りの国であってくれさえすれば……行く道は同じはずだ……」
言い訳のような台詞になった自分に嫌気がさした。
「オレは復隊したんだ! 今さら
だから、唯一の支えである「己の意志」を吐き出した。
ナナのように……と決めた意志。
それだけは、失くしたくはなかった。
「それじゃあ……君はこれからもザフトで、また連合と戦っていくっていうの?」
キラがカガリを抑え、わかりきったことを口にした。
「戦争が終わるまでは、仕方ない……」
誰かがため息をついた。
「じゃあ、この前みたいにオーブとも戦う?」
キラが続けた。
「オレだってできれば撃ちたくはない。でも、あれじゃあ戦うしかないじゃないか!」
そう返した。
ずっと淡々としていたキラまでも、今さら驚いた顔をした。
「連合が何をしているかお前たちだって知っているはずだ! 誰かがそれを止めなくちゃならないだろう!?」
間違ったことを言っているつもりは無い。
いたずらに戦渦を拡大し、いや、相手を滅ぼそうと平和の道を断っているのは連合の方だ。
あれほどナナにすり寄って、過去を忘れ未来のことを考えていると主張していたくせに、全てが口先だけだった。
その怒りは、消せるものではなかった。
「だから条約を早くなんとかして、オーブを下がらせろと言っているんだ」
そんな連合に組したオーブもまた、怒りの対象でしかないのだ。
「でも、アスラン。それはわかってるけど……」
うつむいたカガリの隣で、キラは静かに言った。
「それでも僕たちは、オーブを撃たせたくないんだ」
綺麗な理想……それは、アスランの中にだって存在するものだ。
「オーブだけじゃない。戦って、撃たれて失ったものは、もう二度と戻らないから……」
そしてそれは、今となっては簡単に口にできるようなものではないはずだ。
この混乱した世界で、混乱を巻き起こした本人が、口にしていいものではないはずだ。
「今さら……そんな綺麗ごとを言うな!」
何故、彼らは学ばなかったのか。
ナナを見て、一緒に居て、ナナの見ていたものを見て、知って、考えて、変わったはずなのに……何故また、理想に逃げているのか。
そう、思った。
「お前の手だって、すでに何人もの命を奪ってるだろう!」
キラは瞳を震わせた。
が、しっかりとした声で言った。
「うん、わかってる……。だからもう本当に嫌なんだ、こんなこと……」
そこには強い意志が垣間見えた。
「撃ちたくない。撃たせないで」
やはり、キラは変わっていた。
彼に昔のような迷いはなかった。彼もナナに出会って変わったのだ。
だから、なおのこと……だった。
「ならばなおのこと戦う理由は無い。あんなことはもう止めて、オーブへ戻れ」
誰も答えなかった。
「いいな」
強くそう言い残し、アスランは彼らに背を向けた。
「あ、アスラン……!」
カガリが声を上げた。
立ち止まり、肩越しに振り返る。悲しげに揺れる瞳を見つめた。
ナナが悲しんでいる……。
強くそう思った。
カガリを護って欲しいと、あんなにも願って逝ったのに、自分はそれを叶えてやれなかった。
自分に失望した。
だが、そんなことしか遺さなかったナナにも失望した。
「理解できても、納得はできないていなんだ……」
カガリから視線を外し、そう吐き出した。
アスランは彼らを残し、セイバーで飛び立った。
カガリは絶望した目でこちらを見上げていた。ミリアリアも苦しげな視線を向けている。
キラだけは、じっとうつむいたままだった。
「ナナ……すまない……」
アスランは操縦桿を握りしめ、己への絶望を口にした。