見果てぬ宇宙(そら)の夢   作:亜空@UZUHA

50 / 105
時が経てば

 

「議長は『ロゴスを討つ』とおっしゃったはずです。それが何故、アークエンジェルを討つことになるんですか!?」

 

 艦長室で、アスランは叫んだ。こんな命令はおかしい。司令部に問いただせと詰め寄った。

 が、グラディス艦長も同じ声量で言い返す。

 何度問いただしても結果は同じ、これは本国の決定なのだ……と。

 すでにアークエンジェル撃墜作戦は始まっていた。このミネルバも、その作戦域に入ろうとしている。

 

「いい加減、過去に捕らわれるのはおよしなさい、アスラン! かつての戦友と戦いたくない気持ちはわかるわ。でも、時が経てば人の心なんていくらでも変わるのよ! あなただって変わったでしょ!」

 

 彼女のやけに実感の籠ったような言葉が、アスランの鬱屈とした胸に鋭く突き刺さった。

 

「ちゃんと“現実(いま)”を見て!!」

 

 変わった……。

 変わったのだろうか。最初から、何を目指していたのか。何のためにここに居るのか。その志は変わってしまったのか。

 変えたかったはずだった。

 が、変えられたのか。自分が変わってしまったのか。キラが、カガリが、みんなが変わってしまったのか……。

 現実は……。

 もう、アスランの目に導きの灯は見えなかった。

 

 

 

 現状、ミネルバから出撃できる機体は二機のみ。シンのインパルスと、セアのレジーナだけが損傷していなかった。

 だが、アークエンジェルに向けて出撃したのはインパルスのみ。レジーナは艦上で待機だった。

 それほど圧倒的な戦力差だったのだ。

 戦艦からの砲撃の他、バクゥやバビが艦隊を倒すほどの数でアークエンジェルに迫る。

 アークエンジェル側のMSはフリーダム一機のみ。

 そのフリーダムには、インパルスが一騎打ちを仕掛けに行った。

 シンとキラ、二人が戦っている。

 憎悪を込めた目で、シンがキラを睨みつけている。本気で撃とうと……殺そうとしている。

 キラはシンを殺さない。

 いや、殺すかもしれない。

 もう、アスランにはわからなかった。

 待機所でモニターを見つめながら、早く終わって欲しいと願った。

 が、終わらないで欲しくもあった。

 終わってしまえば……、決着がついてしまえば、どちらかが……。

 手に汗は握らなかった。声も出ない。何もない。

 ただ、嘘だ嘘だと頭の中でループしながら、燃える戦場を目に映すしかない。

 そうして、そう長くもない時間が経って、求めていないはずの決着の時が訪れた。

 アスランが見たのは、インパルスに撃破されるフリーダムと、海中で大破するアークエンジェルだった。

 

 

 

 帰還したシンは拍手と歓声に包まれていた。

 あの伝説のフリーダムを、最大の強敵を倒したと、クルーたちにもてはやされて、シンも晴れやかな表情をしている。

 それを、アスランは遠巻きに眺めた。

 言いたいことはあった。が、まとまりはしなかった。

 感情が渦巻いて、自分でも何を言い出すかわからないのだ。

 だから、黙って立ち去ろうとした。今彼と対峙しては、全てをぶちまけてしまうと思った。

 だが、シンがこちらに気がついた。

 得意げな顔で歩み寄り、「仇を討った」などと言って来る。

 思わず手が出た。

 仇……などと。

 キラのことを、アークエンジェルを、そしてナナを……。

 それが間違っていることはわかっている。だからそう主張した。

 「アークエンジェルは敵ではなかった」と。

 しかしそれは、とうてい()に、()()に通じる言葉ではなかった。

 全員が、アスランの言葉に困惑していた。

 アスランの言葉はその場で無様に歪んでいた。

 そして、レイの言葉だけが正しくそこに響いた。

 

「我々はザフトです」

 

 だから、議長と評議会の指令に従うのは当然だと。本国がアークエンジェルを“敵”とみなしたのなら、それに従うのがザフトの軍人として当然であると。その敵を討ったシンは称えられこそすれ、叱責されるのは甚だおかしい……と。

 至極まともで、単純で、あたりまえの言葉。それ以上でもそれ以下でもない、ザフトの軍人としての言葉。

 アスランは、急激に赤い軍服の着心地が悪くなるのを感じた。

 何故こんなものを着ているのか……。

 立ち去るレイとシンを追うことはできなかった。

 いくつもの困惑と、そして嫌悪の視線が、空気を重くしていた。

 一番遠くで、セアがヘルメットを抱えて怯えたように立っていた。

 

 

 もうここに……、この先に、ナナの描いた未来はひと粒も無かった。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。