「議長は『ロゴスを討つ』とおっしゃったはずです。それが何故、アークエンジェルを討つことになるんですか!?」
艦長室で、アスランは叫んだ。こんな命令はおかしい。司令部に問いただせと詰め寄った。
が、グラディス艦長も同じ声量で言い返す。
何度問いただしても結果は同じ、これは本国の決定なのだ……と。
すでにアークエンジェル撃墜作戦は始まっていた。このミネルバも、その作戦域に入ろうとしている。
「いい加減、過去に捕らわれるのはおよしなさい、アスラン! かつての戦友と戦いたくない気持ちはわかるわ。でも、時が経てば人の心なんていくらでも変わるのよ! あなただって変わったでしょ!」
彼女のやけに実感の籠ったような言葉が、アスランの鬱屈とした胸に鋭く突き刺さった。
「ちゃんと“
変わった……。
変わったのだろうか。最初から、何を目指していたのか。何のためにここに居るのか。その志は変わってしまったのか。
変えたかったはずだった。
が、変えられたのか。自分が変わってしまったのか。キラが、カガリが、みんなが変わってしまったのか……。
現実は……。
もう、アスランの目に導きの灯は見えなかった。
現状、ミネルバから出撃できる機体は二機のみ。シンのインパルスと、セアのレジーナだけが損傷していなかった。
だが、アークエンジェルに向けて出撃したのはインパルスのみ。レジーナは艦上で待機だった。
それほど圧倒的な戦力差だったのだ。
戦艦からの砲撃の他、バクゥやバビが艦隊を倒すほどの数でアークエンジェルに迫る。
アークエンジェル側のMSはフリーダム一機のみ。
そのフリーダムには、インパルスが一騎打ちを仕掛けに行った。
シンとキラ、二人が戦っている。
憎悪を込めた目で、シンがキラを睨みつけている。本気で撃とうと……殺そうとしている。
キラはシンを殺さない。
いや、殺すかもしれない。
もう、アスランにはわからなかった。
待機所でモニターを見つめながら、早く終わって欲しいと願った。
が、終わらないで欲しくもあった。
終わってしまえば……、決着がついてしまえば、どちらかが……。
手に汗は握らなかった。声も出ない。何もない。
ただ、嘘だ嘘だと頭の中でループしながら、燃える戦場を目に映すしかない。
そうして、そう長くもない時間が経って、求めていないはずの決着の時が訪れた。
アスランが見たのは、インパルスに撃破されるフリーダムと、海中で大破するアークエンジェルだった。
帰還したシンは拍手と歓声に包まれていた。
あの伝説のフリーダムを、最大の強敵を倒したと、クルーたちにもてはやされて、シンも晴れやかな表情をしている。
それを、アスランは遠巻きに眺めた。
言いたいことはあった。が、まとまりはしなかった。
感情が渦巻いて、自分でも何を言い出すかわからないのだ。
だから、黙って立ち去ろうとした。今彼と対峙しては、全てをぶちまけてしまうと思った。
だが、シンがこちらに気がついた。
得意げな顔で歩み寄り、「仇を討った」などと言って来る。
思わず手が出た。
仇……などと。
キラのことを、アークエンジェルを、そしてナナを……。
それが間違っていることはわかっている。だからそう主張した。
「アークエンジェルは敵ではなかった」と。
しかしそれは、とうてい
全員が、アスランの言葉に困惑していた。
アスランの言葉はその場で無様に歪んでいた。
そして、レイの言葉だけが正しくそこに響いた。
「我々はザフトです」
だから、議長と評議会の指令に従うのは当然だと。本国がアークエンジェルを“敵”とみなしたのなら、それに従うのがザフトの軍人として当然であると。その敵を討ったシンは称えられこそすれ、叱責されるのは甚だおかしい……と。
至極まともで、単純で、あたりまえの言葉。それ以上でもそれ以下でもない、ザフトの軍人としての言葉。
アスランは、急激に赤い軍服の着心地が悪くなるのを感じた。
何故こんなものを着ているのか……。
立ち去るレイとシンを追うことはできなかった。
いくつもの困惑と、そして嫌悪の視線が、空気を重くしていた。
一番遠くで、セアがヘルメットを抱えて怯えたように立っていた。
もうここに……、この先に、ナナの描いた未来はひと粒も無かった。