カガリがアカツキを駆って戦場に現れたことにより、情勢は変化した。
カガリの言葉を信じた兵士たちがユウナ・ロマ・セイランを拘束し、事実上、カガリがオーブ軍の最高権力者の立場に舞い戻ったのだ。
彼女が国防本部を制圧したことで、崩壊寸前だった防衛ラインの立て直しに成功した。
が、ロード・ジブリールを発見することができないまま、戦闘は続いた。
この戦闘にはミネルバも現れた。シンのデスティニーも出撃した。
彼はやはり戦場を圧倒的強さで制圧したが、宇宙から帰ったキラのストライクフリーダムが立ちはだかった。
二機は激しく交戦した。
そして、ミネルバとアークエンジェルも。
そのさ中、フリーダムと共に降りた機体、インフィニットジャスティスがアークエンジェルに着艦した。
乗っていたのはラクス。
彼女はその機体をアスランに授けた。
再び戦士となることを、アスランは迷った。
が、それはほんの一瞬のことだった。セアの言葉が、今の彼を導いていた。
アスランはジャスティスに乗り、戦場に向かった。
そして、フリーダムとともに、シンのデスティニー、レイのレジェンドと合いまみえる。
アスランは必死の思いでシンに訴えかけた。
「何を討とうとしているか本当にわかっているのか」と。「君がオーブを討ってはだめだ」と。「君は何が欲しかったのか」……と。
そんな中、1機のシャトルが宇宙へ飛んだ。
セイラン家のシャトルだった。
搭乗者はジブリールだと、ザフト側もオーブ側もすぐに察知した。
双方とも、シャトルを追撃した。指揮官は撃墜も許可した。
が、シャトルは宙の彼方に消えてしまった。
それを見届けると、ザフトと反ロゴス連合艦隊はオーブ領海からの撤退を始めた。
旗艦撃沈により指揮を引き継いだミネルバ艦長、タリア・グラディスの判断だった。
ミネルバから帰還信号が放たれ、デスティニーとレジェンドは帰っていた。
アスランはそれを見送るなり、コックピットで意識を失った。怪我が完治していない状態でMSに乗った身体が悲鳴を上げたのだ。
彼は再び医務室に運ばれた。
そして治療を終えた頃……、セアが目を覚ました。
今度ははっきりと……。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
傷口が開き、臓器の一部が弱っている状態だが、アスランの容体はどうにか安定した。
そうドクターに告げられ、キラは安堵してラクスと共に部屋を出た。
ラクスを引き合わせたかった。ナナの面影のある少女と。
「ミリアリアさんからお話は聞いておりますわ」
ラクスの中に「覚悟」があるようで、キラは少し安心した。自分たちと同じ衝撃を、ラクスは受けずに済むようだ。
彼女が何を感じるのか不安はあった。
だが、期待のほうが大きかった。
彼女はきっと、“道具”をくれるはずだった。
セアという少女にナナの面影を見てしまう、未練がましい自分を掃いて捨てる“道具”を。自分よりも割り切れない想いでいる、ミリアリアやマリューの心を一刀両断する“道具”を。皆の動揺を静める“道具”を……。
いつも彼女に救いを求めるのは不甲斐ない。
が、このことはもう、彼女の言葉がなければ気が晴れないとわかっていた。
二人で部屋に入った。
ミリアリアとマリューが、ベッドサイドに立っていた。セアと話しをしている。
「……よかった、目を覚ましたんだね……!」
キラもすぐに歩み寄る。
ラクスもほんの一瞬だけ遅れてから隣に並んだ。
「キラ、ラクス……」
ミリアリアがこちらを見た。とても顔色が悪い。マリューもだ。
やはり、二人も“幻像”に囚われているのだ……。
「え……?」
セアの視線がこちらを捉えた。
いや、ラクスを捉えた。
「ラ、ラ、ラクスさま……?!」
反射的に身体を起こそうとしたので、慌ててミリアリアが制した。
「ちょっと! そんなに急に起きちゃだめよ!」
セアはラクスを凝視して固まる。
「な、なんで……ここに……」
ラクスは彼女に微笑みかけた。
そして、手をとった。
「セアさん、はじめまして。ラクス・クラインです」
「え? は、はじめまして……?」
セアは何度も瞬きをし、頬を赤らめた。
セアが目を開いているところをキラは初めて見た。声も初めて聞いた。
それで、少し安心した。
「あ、あの……」
激しく動揺し、怯えたような恐縮したような様は、
「ど、どうして、こちらに……?」
「ここがどこだかおわかりですか?」
「は、はい……。あの、アークエンジェル……だと、い、今、ミ、ミリアリアさんに聞きました……」
「そうです。そして、ここは……オーブです」
「オ、オーブ……ですか……?!」
立て続けに入る情報に、彼女は戸惑っていた。
「ラクス、あの……」
ミリアリアが遠慮がちに口を挟んだ。
「アスランとこのコがアークエンジェルに収容されたことと、アスランが無事なことは伝えたんだけど……、“今回のこと”はまだ……」
“今回のこと”……つまり、オーブがザフトと戦ったことを、セアはまだ知らないのだ。
彼女の仲間だった者たちが、この艦の敵として現れたことを。
「でも、大丈夫です。どうか安心してください、セア」
ラクスはミリアリアにうなずいてから、セアに優しく語りかける。
「あ、は、はい。あの、でも……、どうしてラクス様が……、オーブに……」
セアの視線が彷徨った。
無理もないことだと、ようやくキラは気がついた。
プラントで育った人間にとって、ラクスは特別な存在であることは知っている。彼女を心から慕い、崇拝する人間は何人も見てきたし、彼らには共感できた。
が、それに加えてセアはすでに“偽物”を見ているのだ。
いや、この同様の仕方だと、直接会ったことがあるのかもしれない。ザフトの施設やプラントで。
であれば、“あちら側”で皆を鼓舞していた憧れの存在が、アークエンジェルにいるはずがないと思うのは当たり前のことである。彼女の動揺はもっともだった。
「そうですね。それをあなたにちゃんとお話ししなければなりませんね」
アスランが連れて来た人だから……か、ラクスはセアに真実を告げる意思を示した。
真実を知ったセアはますます混乱するだろう。それを思うと気の毒だった。
が、彼女が己の意志でもってザフトを出たのなら……、やはり真実を知るべきだった。
「今何が起きているのかも、ちゃんとお話ししますわ」
そして、この艦が少し前まで仲間だった者たちと戦った事実を知れば、彼女はさらに心を乱すことになるだろう。
それでも、ラクスは全てを告げるつもりだった。
そのうえで、選ばせようとするのだろう。セア自身に、これから進む道を。
「その前に、あなたはご自分の身になにが起こったか、覚えていることはありますか?」
ラクスの問いに、セアは視線を彷徨わせた。
「アスランと、グフで基地を出て……、追撃されて……、シン……、な、仲間に……、撃墜されました……」
ラクスはゆっくりとうなずいた。
ミリアリアとマリューは心配そうな顔でセアを見つめている。
「ア、アスランが私を守ってくれたと思うのですが……、すみません……、よく、覚えてないんです……」
話ながらしぼんでいくセアの背を、ラクスはゆっくりとさすった。
「では、それからのことは覚えていないのですね?」
「は、はい……。なんだか、長い夢をみていたような感じで……」
「そうですか」
「す、すみません……。まだ、頭がぼーっとしてるみたいで……」
「大丈夫です。もう、大丈夫ですよ」
ラクスは彼女を安心させようと、何度も「大丈夫」を繰り返した。
そして。
「私からセアさんにご説明しますわ」
こちらを向いて言った。
「みなさんお疲れでしょうから、お休みになっていてください」
全ての「宣告」は自分が引き受けると、ラクスはそう言っている。
ミリアリアとマリューはそれを感じたのか、そっと顔を見合わせてから同意した。
キラは残ろうと思った。ラクス一人に任せるのは酷だと、すがっておいてそう思った。
が、ラクスが強い瞳でこちらを見ていた。
きっと、ラクスはセアを気遣っているのだ。彼女を落ち着かせるには二人のほうが良いと。
それに、ミリアリアとマリューと自分のことも……。
セアの怯えたような目と視線が合った。
当然、知らない人間を見つめる視線だ。いや、こちらの視線が彼女にとって“毒”なのだろう。
キラはラクスに小さくうなずいて、ミリアリア、マリューと共に部屋を出た。
きっと、ラクスはセアという少女を導いてやれるだろう。
そして、自分たちも……。
己の無力さをわかっていて、そう信じるしかなかった。