地球軍の月面基地ダイダロスから、巨大ビームが放たれた。軌道間全方位戦略砲と呼ばれる戦略兵器システムだった。
その名は『レクイエム』。
放たれたビームは、いくつもの廃棄コロニーを経由して軌道を変え、プラントまで到達した。
これにより、ヤヌアリウス・ワンからヤヌリアウス・フォーの4基が直撃を受け全壊、さらにその残骸がディセンベル・セブンとディセンベル・エイトの2基を崩壊させた。
アークエンジェルにもこの一報が届いた。
彼らの誰も、予測できない事態であった。
すぐにブリッジでこのことが話し合われた。
自分はザフトだったから……という理由で遠慮するセアも、ラクスによって連れて来られていた。
「ジェネシスの時と同じだ……。もう止まらない……」
「プラントはもちろんだろうけど、こんなこと、きっと
アスランとキラがつぶやいた。
先の戦いを知る者は皆うなだれた。
「ですが……、撃たれては撃ち返し、また撃ち返されるという戦いの連鎖を、今のわたくしたちには終わらせるすべがありません」
ラクスが言った。
「議長は恐らく、そんなふうになってしまった世界に、“新しい答え”を示すつもりなのでしょう」
そして、彼女の考えるデュランダルの思惑を……。
「議長の言う『戦いの無い世界』とは……、遺伝子の操作によって人の全てを決めてしまう世界です」
重く漂っていた空気がいっせいに揺れた。
「遺伝子で?!」
「恐らくは」とラクスは付け加えたが、皆はそのまま受け止めた。
動揺は当然のことだった。
「それが『デスティニープラン』だよ」
キラがきっぱりと言う。
「遺伝子によって人の“役割”を決め、そぐわない者は淘汰、調整、管理する……。デュランダル議長はそういう世界を創ろうとしているということか……」
アスランは胸に溜まっていたどんよりとしたものを、言葉にして吐き出した。
身に覚えがあったのだ。
議長の意図に背いた途端、向けられた銃口。『ラクス』の名を与えられ、議長の意のままに歌うミーア。仲間だったはずのセアを躊躇いなく撃とうとしたレイ。
それらは全て、デュランダル議長が柔らかな物腰の裏に隠す刃だった……。
「そんな世界なら、確かに誰もが未来への不安から解放されて、悩み苦しむことなく生きられるのかもしれない」
隣でセアが息を呑んだ。
「そこに戦いは生まれないでしょう」
ラクスはセアを見つめて言う。
「皆、自身の“さだめ”を初めから決められて、戦っても『無駄』なのだと知りながら生きるのですから」
沈黙が流れた。
セアは両手を強く握りしめている。
「無駄か……」
アスランはそれを視界に見ながらつぶやいた。
「本当に無駄なのかな……」
キラがそう問いかける。
と。
「無駄なことはしないのか?」
ネオ、いや、ムウが以前のような軽口で言った。
いろいろな顔がアスランの脳裏をよぎった。
レイ、ルナマリア、シン。そして、ここにいる仲間たち。
彼らの様々な表情、言葉、生きる姿……。
それはまぎれもなく、自身の鼓動で生きている姿だ。迷いながら、苦しみながら、自分の意思で生きている。
「オレは……」
何かを探し続ける姿は、ナナによく似ている……。
セアに対して、そう思ったばかりだ。
「そんなに諦めが良くない……!」
言葉は自然と出た。思いのほか強く、はっきりと。
「そうだね」
友がすぐさま同意してくれた。
「私もだ!」
カガリも。
「オレも、かな」
「そうね、私も……」
ムウとマリューも。
皆もうなずき、顔を上げた。
「宇宙へ上がろう。僕たちも」
キラが言った。
「議長を止めなきゃ」
とても強い光がその瞳にあった。
「未来を造るのは運命じゃない」
自然と、彼と握手を交わした。友と……、親友と、心が繋がった気がして嬉しかった。
何度もすれ違い、殺し合い、怒りをぶつけ合ったけれど、それでも彼は親友でいてくれた。 またこうして、繋がることができた。
同じ方向を向いて。
その時……。
「あ、あの……!」
しっかりと合わされた二人の手を見つめ、セアが言った。
「わ、私も……、一緒に連れて行っていただけませんか……?!」
よほど必死なのだろうか、声が裏返っている。
だが、その言葉はブリッジ全体によく響き渡った。
「私っ……、“ナナ様の翼”に憧れてるとか、この艦にいたらナナ様が目指した道が見えそうとか、ナナ様と思いを同じくしていた皆さんとお話したら自分の進むべき道に向かえそうとか……、そんな、なんていうか、ただの憧れやわがままで中途半端に見えるかもしれませんけど……」
彼女は半分泣いていた。
が、一気に想いをさらけ出した。
「でも、本当に、今はっ……、ナナ様がどうとか……ではなくて、私自身が、議長の造ろうとしている未来は『嫌だ』と思っています。議長を『止めたい』と思っています。未来は、自分たちでつくりたいと……! あの、だから……」
誰も、何も言わなかった。
セア自身は気づかないかもしれないが、まっすぐに突きつけられる彼女の想いに、皆は圧倒されているのだ。
「だが……」
だから、アスランが口を開いた。
皆がセアを気づかってこそ懸念しているであろうことを、突きつけるべく。
「セア、この艦にいれば、きっとまたミネルバと戦うことになる」
セアが唇を引き結んだ。
「シンやレイ、ルナマリアと戦うことになるかもしれないんだぞ?」
意地の悪い問いだという自覚はある。
が、当然確かめておかなければならない“覚悟”だ。
自分も散々、友と戦う覚悟をしてきた身だからわかる。それが中途半端では、自分も、友も、想いも、未来も護れないということを。
「ラクス様からお聞きしました。前回、この艦がミネルバと戦ったって。アスランもシンたちと戦ったって……。それから……」
少しだけ声が小さくなった。
だが、セアはアスランの目を見て言った。
「以前、ナナ様とキラさんが、アスランと……戦ったことも……」
声を震わせながらも、彼女は続ける。
「わ、私も戦います……! ミネルバの、みんなと……!」
それがどういうことか、どんなに辛いことなのか……、問いたださねばと思うのに、アスランに口を挟む間はなかった。
「倒すため、殺すためじゃなくて……、わかり合うために……!」
セアは肩を上下させながら、想いを吐き出す。
「何もしなければ、何も変えることができない……! 戦ってでも、歩み寄らなければわかりあえない……! そう思うから、私も……、私も戦います!」
悲痛な叫びのようで、明確な主張。
それを噛みしめる余裕など、アスランは持ち合わせてはいなかった。
そんな場所など少しもないほどに、何かが胸を満たしていた。
熱くて、少しだけ寂しい風……。
「シンたちにも、わかってもらいたいんです……!」
ブリッジに、同じ風が吹いていた。
その証拠に、まだ誰も口を開かない。皆ピクリとも動かずその場に立ち尽くしている。
「あ、あの……」
それを吹かせたセアが、自らそれを揺らした。
「す、すみません。こんなの、やっぱりただのわがままですよね……! わ、私、ザフトのスパイかもって疑いをかけられても仕方がない立場なのに……。す、すみま……」
だが、彼女の弁解は最後の文字まで到達しなかった。ラクスが、唐突に彼女を抱きしめたのである。
「え? ラ、ラクス様……!?」
戸惑うセアに、一呼吸置いてからラクスは言った。
「嬉しいのです、とっても……!」
彼女の声は震えていた。
が、誰の耳にも、心にも、届いた。
「あなたが、ここにいてくれて……、本当に嬉しいですわ……!!」
自分が言って、キラも言った言葉。それを重ねたラクスの目には涙があった。
そんなラクスを目の前にして、セアは硬直している。
ミリアリアも泣いていた。マリューも。アーノルドたちも顔を見合わせ、微笑した。
カガリはアスランの肩をポンと叩いた。
キラは、ラクスの背にそっと手を添えた。
「行こう、みんなで」
彼がそう言った時、セアと目が合った。
まだ戸惑っている彼女に向かって、アスランは大きくうなずいた。