見果てぬ宇宙(そら)の夢   作:亜空@UZUHA

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思慕

 

「へぇ~! クルーたちの噂通り、ほんとにソックリだな!!」

 

 セアを紹介するなり、マードックは無遠慮にそう言って笑った。

 

「へ? あの、は、はぁ……」

 

 こういうリアクションは初めてだったのか、セアは珍妙な応対をする。

 

「マードックさん、セアにはジャスティスの整備を手伝ってもらいましょう」

「ああ、そうだな! そっちに人手が欲しかったところだったんだ。お前、パイロットなんだってな?」

「ふぁ、は、はい……!」

 

 セアは一生懸命に説明した。

 

「ミネルバの搭載機の『レジーナ』という機体のパイロットでした……!」

「ああ、あの『飛ぶ機体』な。『グレイス』の後継機みてぇな……」

「あ、は、はい……! レジーナはナナ様のグレイスをモデルに設計されたと聞いています!」

「ほぅほぅ」

「あの、よ、よろしくお願いします!」

 

 マードックは喉の奥でくっくと笑う。

 そして言った。

 

「しっかし、そういう腰の低いところは()()()にまったく似てねぇな! なぁ、キラ!」

「そうですね」

()()()は初っ端から生意気だったからな!」

 

 マードックがあまりに明け透けに言って笑うので、キラもつられて笑った。

 セアの様子をうかがう周囲も、不自然な緊張が解けたように感じた。

 

「そ、そうなんですか?!」

 

 セアの声がうわずった。

 

「そうさ。で、しょっちゅう無理な注文してきてよ、よくこき使ってくれたもんだぜ」

「へ、へぇ……」

「さっきのアンタみたいに90度に頭下げて頼んできたことなんか一回もないぜ。たいていニッコリわらって『できるでしょ?』って……。ありゃあ挑発! 挑発だ! まったく、かわいくないったらねぇよ。」

「は、はぁ……」

「お嬢ちゃん、戦後の『大使』としてのナナしかしらねぇんだろ?」

「は、はい……」

「『大使』としてのアイツはほんとに立派なもんだがよ、ここでのアイツは跳ねっ返りのじゃじゃ馬娘だ」

「じゃ、じゃじゃ……?」

「キラとなんて、初めの頃はしょっちゅうケンカしてたぜ!」

「そ、そうなんですか?!」

 

 さらに、セアの首がぐるんとこちらを向いた。

 先ほどまでと違い、熱のこもった目だった。

 

「あはは……」

 

 あの頃のことを言われるとばつが悪い。それに、マードックがセアに変なことを吹き込まないか心配になって、曖昧に笑った。

 すると。

 

「だがな……」

 

 マードックはひとつ息をついた。

 そして、宙を見てつぶやいた。

 

 

「アイツがいなきゃ、オレらはとっくに死んでた……」

 

 

 声に思慕が滲んでいた。

 キラの胸も、キリリと鳴った。

 

「恐らく、ひと月ともたずに全滅してたな……」

「そうですね……」

 

 その時の事情など知るはずもないセアが、キラとマードックを交互にうかがっている。

 

「オレたちは生かされたのさ、ナナに」

 

 マードックの言葉にキラもうなずいた。

 とても良い表現だと思った。

 あの時は自分の力で必死に生きているつもりでいて、本当はナナに生かされていた。

 ナナが「戦え」と言わなければ、みんな死んでいた。ナナが強くいてくれたから、みんな戦えた。

 あの時のクルーならば、誰もがそう言うだろう。

 

「そ、そうなんですか……」

 

 思い描いていた“ナナ像”と、マードックが言った“ナナ像”は、大きくかけ離れていたに違いない。

 セアは不思議そうな顔をしている。

 

「アイツはほんとにすげぇヤツだったよ……」

 

 怒って、悩んで、迷って、嘆いて、泣いて、悔やんで、苦しんで……、それでも足を止めずに進み続けたナナが、ここにいた……。

 マードックの明け透けな物言いのおかげで、素直な気持ちでナナを思い出していることに気づいた。

 ナナに対して抱いたことのある負の感情……、苛立ち、恐れ、憎しみ……、それら全てがはっきりと思い出せるのに、それでもナナが好きだった。

 尊敬とか、感謝とか、そんな簡単な言葉では表せない。

 もう一度、逢いたい……。

 

「そうだ、アンタ……」

 

 マードックが小さく鼻をすすって言った。

 彼も、自分から話し始めておいて懐かしさに負けたのだ。

 

「グレイス見るか?」

「え?!」

 

 セアは肩をビクンと震わせた。

 

「同型機に乗ってたんなら、アレも乗りこなせるだろ」

「え、で、でも……!!」

 

 前で手を交差し、首を振る。

 

「ナナ様の機体なんて……!」

 

 彼女はひどく恐縮している。

 無理もない。自分だって気が引けるのだ。

 だから、ストライクフリーダムが出られない時も、カガリのストライクルージュを借りた。

 グレイスはずっとアークエンジェルのドックで眠っていた。

 主を失ったまま……。

 だから、セアが違った意味で恐縮している気持ちも良くわかる。

 

「君ならグレイスとの相性もいいと思うよ」

 

 だから、背中を押す言葉を贈った。

 

「君にピッタリの機体だ」

 

 セアはとんでもないと首を振る。

 が、グレイスには彼女に乗って欲しいと思った。彼女を待っていたのかもしれないとも思った。

 

「で、でも……」

「いいからいいから、まぁ、見るだけ見てみろよ! 見学見学!」

 

 マードックがすっかり陽気さを取り戻して、セアの背中をバシバシと叩いた。

 

「あ、あの……」

 

 困った顔でこちらを見るので、

 

「大丈夫。艦長からの許可は下りるはずだから」

 

 敢えて事務的な台詞を言った。

 訓練を受けた兵士には、安心する言葉だと思った。

 

「は、はい……、では見学を……」

 

 セアはまだ遠慮していたが、グレイスの格納庫へとマードックに引っ張られて行った。

 キラは一度胸に問うた。

 本当に、あの機体……、グレイスをセアに託して良いのか……と。自分の意志と、ナナの遺志に。

 もちろん答えは決まっていた。

 

 

『何もしなければ、何も変えることができない……! 戦ってでも、歩み寄らなければ、わかりあえない……! そう思うから、私も……、私も戦います!』

 

 

 そうして力を手にしようとした彼女は、ナナと同じだから。

 グレイスの役目はかつても今も、何も変わらないのだと……、そう思えた。

 

 

 

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