アークエンジェルはエターナルとの合流を果たした。
ラクスたちの移動とMSの移送を開始する前、アークエンジェルのブリッジで作戦会議が開かれた。
ナナ、ラクス、マリュー、ムウ、そしてモニター越しのバルトフェルドが中心となって話が進んだ。
まずどこに向かうべきか、どこを攻めるべきか……。
容易に決められることではなかった。
不意に、アスランも意見を求められた。ナナのまっすぐな視線が心地よかったから、臆せず話した。
要は第一中継ステーションであると考える……と。あれを即刻落とさねば、またいつどこが狙われてもおかしくはない状況であることを進言した。
それで、作戦は決まった。レクイエム本体の破壊と、第一中継点を同時に叩くという作戦だ。
足の速いアークエンジェルとエターナルが先行して第一中継ステーションを落とす。その間に、オーブ軍本隊とエターナルに追随してきた艦隊がレクイエム本体を攻撃する。
近くにはザフトの月軌道艦隊が集結している。どちらもそう簡単に遂行できる作戦ではなかった。
が、やるしかなかないことは、誰もがわかっていた。
キラはラクスを連れてさっさとフリーダムでエターナルへ行ってしまった。
置いて行かれたアスランは、アークエンジェルのロッカールームでパイロットスーツに着替える。
隣ではナナが着替えているはずだ……。
ナナはまた、戦うのだ。“ナナ”として。あの時と同じように。
先の激戦が蘇る。
一瞬でも何かがずれていたら、死……だった。
そしてあの時、ナナが迎えに来てくれなければ、自分はここにはいない。とっくにジェネシスと一緒に宇宙の塵となっていて、ナナと心を通わすことはできなかった。
今回も同じだ。
生きて戻れる保証はない。ナナも、キラも、自分も……、アークエンジェルもエターナルも。
それでも、行かなければならない。戦わなくても、待つのは“死”なのだから。
どれだけ決意を確認しても、ため息が出た。
戦闘への恐怖ではない。怯んでいるわけではない。
ただ……、またナナを失うかもしれないという恐怖が胸を絞めつけている。
しかし、ここにナナを繋ぎ止めておくことなどできはしないのだ。
この艦も決して安全ではない。が、MSで飛び出すよりはまだ良いはずだ。
わかっていても……言葉にすることは許されない。
ナナはまた、戦うのだ。グレイスのパイロットとして。
ナナの背にある翼は、今、羽ばたこうとしている。
それを止めることはできない。止めても、ナナはこの手を振り払う。
だから、覚悟を決めるしかなかった。
その覚悟を確かめるように、ゆっくりとロッカーの扉を閉めた。
パタン……と、味気ない音が響く。深く息を吐いて、ドアへと向いた。
ナナに、この覚悟を見せて安心させなければならない。
が、アスランが一歩踏み出す前に、ドアがノックされた。
こちらの返事を待たずに、そこから顔をのぞかせたのはナナだった。
「準備できた?」
「ああ」
ナナはこれから戦闘に向かう者とは思えないほど、穏やかな顔で歩み寄る。
パイロットスーツを着ていなければ、散歩にでも誘いに来たような雰囲気だ。
「アスラン、
「そうか……?」
そういうナナも、オーブ軍のパイロットスーツだ。そう……、前とは違う。
が、ナナはこう言った。
「前にもこんなことがあったって、私の脳はちゃんと覚えてるんですけど」
「ああ、そうだな。オレもはっきり覚えてる……」
ナナの独特の言い回しに同調すると同時に、あの瞬間の想い出が蘇る。
「あの時はエターナルだったね」
「ああ」
「アナタが私を見送る立場だった」
「今回は逆だな」
「お互い、着てるものも違うしね」
そう遠い昔ではない。
「それに……あの時は、綺麗な地球が見えてたけど、ここは殺風景だね」
「そうだな」
二人して笑った。
ここはアークエンジェルのロッカールームで、窓はない。ナナが言うように、同じ形の扉が並んでいるだけでとても殺風景だ。
何もかも違うのに、二人の間にはあの時と同じ綺麗な想いが溢れている。
「ナナ」
「アスラン」
言葉を繰り返すのは省略して、あの時のように抱き合った。今度は二人で同時に。
少しの間、静かに、温もりを確かめ合って……アスランはつぶやいた。
「やっぱり、あの時とは少し違うな……」
「なにが……?」
ナナが微かに不安げな顔をする。
うまく伝える自信はなかった。が、全てを差し出すつもりだった。
「あの時のオレは、この先もお前といたい……、お前を護りたいと思っていた……」
「今は? 違うの?」
ナナの頬に手を添えた。相変わらず、肌は冷たい。
この温度にこみ上げる感情は同じだった。
だが、やはり違うのだ。あの時とは。
「もっと欲が出た」
「欲……?」
ナナの瞳が大きく瞬いたので、少し笑った。
色は違っても、光は同じ。そして、そこにはちゃんと自分が映っている。
それが嬉しかった。
「『一緒にいたい』じゃない、『絶対に一緒にいる』んだ……。何があっても」
ナナにしては、理解するのに時間がかかった。
だが、アスランの想いをしっかりと受け止めてくれた。
「うん、そうだね!」
笑みが咲いた。
触れるのは少し勿体なかったが、その花に口づけた。
懐かしい温度に、頭の奥が痺れた。が、身体じゅうに力が巡った。
「アスラン」
ナナは何も言わなかった。ただただ、幸福そうに笑っていてくれた。
「未来を、一緒に……」
アスランはそう誓いを囁いて、もう一度キスをした。
そしてまた、強く抱きしめ会った時。
「アスラン……、あの約束、覚えてる……?」
くぐもった声でナナがささやいた。
「あたりまえだ」
忘れたことはなかった。
ナナを失った心の穴埋めをするように、
何度か……、何度も、そうした。
が、座標を割り出そうとするたびに、強烈な虚しさが穴を吹き抜けて、できなかった……。
「行こうね、“あの島”……」
「ああ……。必ず……」
しばらく褪せていたあの約束も、今は再び輝き出そうとしていた。