フリーダムとジャスティスのミーティアが、第一中継ステーションを攻撃した。
彼らを邪魔する者は、グレイスと
ゆっくりと壊れていく巨大な異物。
それを見届け、ナナは第一の目的が果たされたことにほっと息をついた。
同時に、もうひとつ嬉しいことが起きた。
≪やったな、ナナ、キラ! こっちも無事だ……!≫
ムウからの通信が入った。
「ムウさん……」
違う。いや、違わない……。
モニター越しに視線を合わせ、そう感じた。
「ムウさん?!」
彼は言った。
≪『ただいま』、だな!≫
軽くウィンクをしてみせる。
その仕草は見覚えがあった。
≪ムウさん! も、戻ったんですね!≫
いちはやく、キラが気づいた。
「戻った……?」
ナナはその言葉を小さく呟く。
まだ信じがたい。
自分が一番、この“奇跡”を受け入れやすい立場であるはずなのに。
≪さっき、ちょっといろいろあってな。なんか全部思い出したようだぜ!≫
戦場の真ん中で、まだ敵に囲まれていて……、今も降り注ぐ銃弾を避けている。
それでもナナは大きくため息をついた。
「よかった……!」
そして、強く言った。
「いろいろ」と彼は言ったが、何があったかはだいだい予想がつく。
こんな戦場の真ん中で記憶を取り戻したのだとしたら……それは決して良い方法ではないはずだ。
が、ムウは笑っている。キラも嬉しそうだ。そして自身の中からも喜びが湧き上がる。
きっと、マリューは……。
≪というわけでナナ。お前が“ネオ”に言ってた『記憶を操作されちゃった者どうし仲よくしよう』ってやつだが……≫
ムウはニヤリと笑った。
「『記憶喪失から復活した者どうし』に替えましょう!」
ナナはそう言った。
ムウは操縦桿から片手を放し、親指を立ててみせた。ナナも同じようにする。
前の戦争で、彼にずいぶんと助けられた……。改めて、彼が戦友であることの心強さを感じた。
ナナはそのまま、キラ、アスラン、そしてイザーク、ディアッカとともに、レクイエム本体へ向かった。
やるべきことはまだ終わっていない。時間との勝負も継続中だ。
一刻も早くレクイエム本体を落とさねばならない。もたもたしているうちに、中継点が復活しないとも限らないのだ。
アークエンジェル、エターナルも全速力でそこへ向かった。
ミネルバが当然のように追尾してくる。
だがそれを振り切って、オーブ軍本体と合流し、レクイエムとデュランダルが指揮を執る基地を、完全に打ち果たさねばならない。
「オーブ軍はどうなってるの? レクイエムへの攻撃は?」
彼らのことは良く知っている。
カガリがここへ送り込むだけあって、軍の中でも選りすぐりの精鋭たちだ。この作戦も、必ず遂行するという確信はあった。
が……。
≪レクイエム本体の背後に、巨大構造物出現……!≫
ミリアリアからそう通信が入る。
モニターの望遠を最大にして目視する。
「なに……あれ……」
≪まるで要塞だ……!≫
アスランが言った。
≪あんなもの……、知らんぞ……!?≫
イザークも憎々しげに言う。
が、その全容を観察している間はなかった。
その一部分に高エネルギー体が収束したかと思うと、そこから紅い稲妻が放たれた。
「あれは……!」
心臓がドクンと跳ねた。
知っている光だ。とても嫌な……。
≪まるで……、ジェネシスだ……!≫
アスランが低い声でそうつぶやいた。
そうだ、『ジェネシス』の光によく似ている。
そしてあの時と同じように、あれは射線上のものたちを跡形もなく消し去った。
ザフトの……味方であるはずの艦も。
「アークエンジェル! オーブ軍の状況は!?」
ミリアリアから、すぐに応えはなかった。
レクイエム本体に最も接近していたのは、オーブ軍本隊のはずだった。
あのジェネシスのような攻撃が、彼らを薙ぎ払うためのものであることは頭でわかっていた。
だが、彼らの全てが一瞬で消し飛んでしまったことなど信じたくはなかった。
≪スサノオ、クサナギ、ツクヨミはシグナルを確認……。あとはダメです! 状況が混乱していて……!≫
ややあって、そう通信が入った。
主力隊のほとんどを失っている……。
ナナはそれぞれの指揮官の顔を知っていた。だから誰を失ったのかがすぐにわかった。
が、彼らの顔を思い浮かべるのは止めた。
あの得体の知れない要塞から、無数のMSがこちらへ向かって来ている。
その中に、レジェンドとデスティニーのシグナルを捉えた。
「アスラン……」
≪ああ……、行くしかない……!≫
わかっていたのに確認した。彼の覚悟でなく、自分の覚悟を。
ナナは一瞬だけ手を止め、目を閉じた。そして大きく深呼吸をした。
初めて、“以前の自分”と“今の自分”を比べる。
かつての自分はどうだったのか。
あの時の自分には何ができただろうか。
あの時の自分と、今の自分は何も変わらないのか。
あの時より、セアの分だけ強くなれてはいないだろうか……。
答えなど不要だった。
ただ、あの時と同じように進もうと思った。
「マリューさん、ラクス、バルトフェルドさん……!」
ナナは操縦桿を握り直しながら言った。
「オーブ軍には私が話します……!」
両艦とも、すぐに了承してくれた。
大きく息を吸い、ナナは同郷の者たちへ叫ぶ。
「スサノオ、クサナギ、ツクヨミ! こちら、ナナ・リラ・アスハ、聞こえたら応答を……!」
≪ナナ様……!≫
ややあって、彼らから返信が入る。
声が震えている。
彼らほどの兵でも、あれだけ一瞬で仲間を奪われてしまっては絶望するのも無理はない。
≪申し訳ありません……! 我ら以外は……≫
絶望の中に、悔しさが滲んでいるのもわかる。
「みんな……、よくあれを回避してくれました」
ナナは感情を押し殺し、彼らをねぎらった。
それで彼らが落ち着くとは思わなかった。
いや、彼らは軍人だ。彼らの多くは先の戦争も経験している。自分よりもずっと、軍人としての覚悟があるだろう。
だから少し時間が経てば、ナナの言葉などなくとも自身を奮い立たせることができるはずである。
が……、今は少しの時間も無かった。
「ソガ一佐、アマギ一尉」
ナナは言った。
この作戦において、ナナに指揮権など無い。正式にオーブの人間として認められたわけでもない。
ナナ・リラ・アスハであることを、皆がただ信じてくれているだけの関係だ。
そもそも、ナナにオーブ軍への命令権など無いのだ。
が、ナナは言った。
「すぐに3艦で連携して態勢を整えてください」
言われずともわかることを、敢えて言う。
「私たちにはまだ、やらなければならないことがあるはずです」
あの時の姿でなくとも。この声が届かなくとも。
「私たちの手で、オーブを守りましょう……!」
祈りは届くはずだった。
≪ナナ様……!≫
アークエンジェルで、少しの間共に過ごしたアマギが立ち上がった。
≪すぐに態勢を整え、レクイエムの破壊活動を再開します!≫
痛手は大きい。再び立ち上がることが困難なほど。力も削がれた。もう、思うように力を振るえない。
それでも、彼らは立ち上がった。
「第二派に十分気をつけて……」
≪了解しました!≫
≪ナナ様も、どうぞお気をつけて……!≫
≪御武運を……!≫
彼らから、逆に力をもらう。
「みんな……」
アマギが涙声で言った。
≪祖国でお会いしましょう……!!≫
祖国……オーブでの再会を。
「うん、必ず……!」
かの地が、ひどく懐かしく思えた。