インターホンのモニターと壁にかかったモニターを交互に見た。ニュース映像の演説するナナと、ケーキの箱を掲げてニコニコ笑っているナナを見比べたのだ。
不覚にもわかり易い動揺をしてしまった。
≪ルナー。あーけーてー≫
「あ、ああ、うん……!」
そんな動揺が収まらないうちに、部屋のベルが鳴る。
ドアを開くと、そこにはやはり楽しげに笑うナナが立っていた。
「お邪魔しまーす」
ナナはニュース映像には目もくれず、ダイニングテーブルにケーキの箱をそっと置いた。
「シン、今起きたの?」
「さっきだよ。さっき」
「朝ごはん食べた?」
「うん。さっき」
「ケーキ食べない?」
「食べる」
シンはいたって普通だ。
“渦中の人物”が目の前に現れたことに、何の疑問も動揺もないらしい。
「ね、ねぇ、ナナ……」
「ルナ、おととい持って来た紅茶淹れていい?」
「え、も、もちろんいいけど……」
「やったー! このケーキに合うと思うんだよねー」
シンは黙ってポットにお湯を淹れ始めた。
ナナは楽しげに箱からケーキを取り出す。
「ルナはこれでしょう!? 桃のタルト! 期間限定!」
白い箱からおいしそうなケーキが現れた。
「え、うん、うん。ありがとう……って……!」
「シンはこれ! ガトーショコラ! 好きだったよね?」
「ああ、うん」
「ディオキア基地の食事会でいただいたの、ずいぶん気に入ってたもんね?」
「まぁね」
どうにかナナにこの状況を説明してもらおうとしたのだが、何と切り出せばよいのかわからぬうち、シンがボソリとつぶやいた。
「ていうか、そのこと覚えてるなんて、アンタほんとに“セア”で“ナナ”なんだな」
初めて、ナナの手が止まった。
そして。
「そうだよ」
モニターの中の姿と同じように、ナナは背筋を伸ばして言った。
「私はナナでセア。セアは今も私の一部だから」
シンは「ふーん」とだけ言って、皿とフォークを取りに行った。
「ルナ、ほら座って。おいしそうでしょう? ここのケーキが最近すごく人気らしくて、いつも行列ができててなかなか買えないらしいの」
「行列って……、並んだの?」
「ううん。今日はなんだかすいてた。ラッキーだったかな?」
ナナは「ラッキー」などと言ってあっけらかんと笑うが、ルナマリアはすぐにピンときた。
普通、世間で“こんなニュース”が流れている時に、ケーキ屋に並んでいる場合ではないだろう。
だが。
「だ、大丈夫なの?!」
ニュース映像に流れている本人が、出歩いて良いものか。
ルナマリアは改めて動揺をナナにぶつけた。
「ひとりで来た訳じゃないわよね? 朝からあなたのニュースでもちきりなのよ? 護衛は連れてるのよね? 騒ぎになったら大変じゃない!」
もちろん、ナナの身を案じてのことだ。まぁ、半分はナナの大胆さと突飛さに呆れていたが……。
が、ナナはシンが並べた皿にケーキを丁寧に乗せながら、なんでもないことのように言う。
「大丈夫大丈夫。騒ぎを起こして迷惑かけることはしないから!」
「こっちの心配じゃなくて……! あんたの心配をしてるの!」
だからつい、セアに対するように言ってしまう。
「ありがと、ルナ。大丈夫。ちゃんと護衛と一緒に来てるから。今はエレベーターホールとラウンジと駐車場で待機してもらってる」
「そう、よかった……」
そしてもう一つ、質問を重ねた。
「アスランは?」
ここへ来るのは、いつもナナひとりだった。
ずっと気になってはいたのだ。が、この質問をしたのは今日が初めてだった。
シンがチラリとナナの顔を見上げたのがわかった。彼も気にしているのだ。
もっとも……ナナがひとりなのは彼を気づかってのことであると、ルナマリアは薄々気づいているのだが。
「ああ。一緒に来たんだけど、ちょっと車のメンテナンスとか、用事を片付けてもらってて……。ごめんね」
「ごめんね」のタイミングでちょうどポットから湯が沸いたことを知らせるアラームが鳴ったため、ルナマリアはリアクションをしそびれた。
それにどこかホッとして、それ以上はアスランについて何も聞かなかった。
シンも特に何も気にした様子もなく、マグカップ三つと、二日前にナナが持って来た紅茶のティーバッグを持って来た。
「さ、食べよ! 私のは一番人気のスペシャルいちごショート!」
“お茶会”はいたって普通だった。
いつもどおりナナが「他にはこんなケーキがあった」とか、「海岸通りの方にも人気のケーキ屋があるらしい」とか、「今度は別のお気に入りの紅茶を持って来る」とか、楽しそうに話す。
ルナマリアはごく普通に会話に乗り、興味があることは積極的に掘り下げた。シンは相変わらず、口を挟まずにもくもくとケーキを食べている。かといって、特段、不機嫌な様子でもない。
が、それぞれの皿が綺麗になる頃、ルナマリアはとうとうナナの話を遮った。
セアとは違いナナは自分のペースでしゃべり続けるので、こちらのターンにするのは少し難しい。だから、ぶっつり、バッサリと遮った。
「ねぇ、ナナ。こんなところに来ていて大丈夫なの?!」
ナナは最後に残した大きないちごを頬張りながら、大きく瞬きする。
「見てよ、あれ。大変なことになってるじゃない!」
その姿と、指さしたモニターの中の姿があまりにかけ離れていて、不覚にも稚拙な表現しかできなかった。
「ああ……」
ナナは呑気にうなずくと、静かに紅茶をすすった。
そして。
「ごめん、びっくりしたでしょう?」
そう言う。
「そりゃあそうよ! あなたの顔がずーっとエンドレスで大画面で映し出されてるってときに本物が現れるんだから!」
「そうじゃなくて。あのニュース自体、びっくりさせちゃったよね?」
それはまるで、ナナが初めからあのニュースが流れることを……つまり、プラントが『プロジェクト・バハローグ』について発表することを知っていたようだった。
そしてルナマリアはようやく気がついた。
こんな“大事”を、プラント側が一方的に発表したわけではないことを。発表の前に、プラントとオーブ間で、裏方の打ち合わせがあったのだろう。
「ナナは知ってたの?」
「うん。プラント側といろいろと相談してたの。ごめんね、黙ってて。びっくりさせちゃったね」
それで「ごめん」だったのだ。
「私たちに謝ることないじゃない! 国家レベルの話し合いなんだから……!」
再び呆れた。が、“この感覚”に慣れつつある自分もいる。
「それがね……」
ナナは困ったように笑いながらも、いきさつを話し始めた。
「“私”の戦場での目撃証言がけっこう出て来ちゃって、フェイクニュースとかも出始めたでしょう?」
「う、うん……」
ザフト、地球軍、そしてオーブ軍……。どこから漏れたのかはわからないが、停戦後まもなく……シンとルナマリアがこの住居に落ち着いた頃、『ナナ・リラ・アスハが戦場に現れた』というニュースが出始めた。
オーブから、というよりナナから情報制限を掛けられていなかったから、そういったニュースも自由に閲覧することができた。
中には事実に近い内容のものもあり、確実に“あの場”にいた者がマスコミにリークしたのだとわかった。
オーブ軍にはかん口令が敷かれているとナナが言っていたから、それに背いたものか、対戦したザフトか、それとも……。
いずれにせよ、時間が経てば単純に『都市伝説』と化するような内容ではなかった。むしろ情報が錯綜し、人々の疑惑を増幅させ、混乱を避けられない状況だとルナマリアは案じていた。
シンとその話をしたとき、シンは「ナナ自身がどうにかするだろう」とぶっきらぼうに言っていたのを思い出す。
が、ナナは今日まで一度も、自身のことについて話すことはなかった。
「いつかは状況を説明しなくちゃならなかったからね、プラントと公表のやり方をいろいろ相談したの」
「相談?」
「そう。ずっと“私のこと”を調べてくれてたジャーナリストに仲介をお願いして」
「そんな人いたんだ」
「うん。ミリアリアの知り合いだったから、こっちの条件も呑んでくれて」
ミリアリアとはアークエンジェルのCICだった少女だ。アークエンジェルに収容された時に、多忙なナナに代わっていろいろと世話をしてくれたのが彼女だった。
自分たちと年はそう変わらないが、先の戦争も経験したためか、とてもしっかりした印象だった。
それに、ナナが言っていた。
『ルナとミリって、強くて優しくてカッコイイところが似てる気がするの。ナナの初めての親友はミリで、セアの初めての親友がルナだから、“私”って好みのタイプが一致してたんだなって……』
本人たちを差し置いて、ナナは心底嬉しそうに笑っていたのだ。
「その人は戦争中にあの事故の真相をつかんで、『プロジェクト・バハローグ』のことも知ったらしいの。だから私が生きてるってことも確証を得ていたらしいんだけど……。本当は自分が真っ先に全世界に公表したかったと思うの、ジャーナリストとして。だけど世界を混乱させたくないっていうこっちのお願いを聞いてくれて、協力してくれることになったの」
ナナはチラリとモニターを見やりながら続けた。
「まずはプラントに、『プロジェクト・バハローグ』のことを発表してもらう。そこは誠意を見せてくださいって、新議長にちょっと強めに交渉してね。むこうの条件は『全て前議長が独断で進めたこと』っていう体で話すっていうことだったから、『それで良いです』ってことにしたの」
「それは本当なの? 『前議長の独断』って……」
「それはどうかな……。今の最高評議会は誰も関わってなかったって言ってる。誰も知らなかったし、みんなが議長の説明を信じてたって」
「みんな」の中に自分たちも含まれていたから、ルナマリアは無意識のうちに口を引き結んだ。
「今後も調査するって言ってくれたから、今はそれを信じることにしたの」
「そ、それでいいの? あなたはその……当事者なのに」
ナナはまたひと口紅茶をすすった。上げた顔はとても晴れやかだった。
「まぁね。今は深く追求しても何も出てこないだろうし……。それを今やったら、世界が最悪の方向に向かうことはさすがに良くわかってるから」
「最悪の方向」がわかるからこそ、自身の感情は押しやるのだ……。いとも簡単に。
そしてきっと、周囲の感情をもなだめてしまったのだろう。その“意志”で。
それが“ナナ”なのだと、ルナマリアは改めて実感した。
「今一番大切なものは、“真相”より“平和”だからね」
思わず出たため息に、ナナは笑った。
そして、
「それで、“次の手”なんだけど……」
何故だか得意げにこう言った。
「今日これから、プラントの発表を受けた形でカガリが……アスハ代表が議会で演説を行うの。もちろんマスコミを入れてね。『オーブはプラントに報復するつもりはない』ってはっきり言う。『停戦の意思は変わらない』ってね。その場で私も自分の口から語らせてもらうことになってるの」
先ほど吐いた息を、今度は大きく吸い込んだ。
「え? あんた自身が出て行くの?!」
「うん、そうだよ。そうしないと収集つかなくなるでしょう?」
「そ、そうかもしれないけど……!」
ナナは声を出して笑った。
「それそれ!」
「な、なにが……?!」
何を呑気に笑っているのかと眉をひそめると、ナナは落ち着いた表情で答えた。
「急に私が画面に出てきてしゃべりだしたらびっくりするでしょう? だから前もって知らせておこうと思って」
つまりは、『ここへ来た理由』だ。
「そ、そんな……、わざわざ?」
どこかで自分たちは“捕虜”とは言わないまでも“居候”という立場で、ナナの厚意にすがっている状態だと思っていた。
だから、そんな立場の自分たちをナナが気に掛ける必要はないと思ったのだ。
「友達には話しておこうと思って」
ナナはさも当然のことであるかのように、さらりとそう言った。
「他のみんなにはもう話したんだ。二人にも直接話しておきたかったの」
『友達』……。ナナが言った言葉を心の中で繰り返す。
「私、全部本当のことを話そうと思う」
寄り添うような彼女笑みは、とても綺麗だった。
「あれは本当に事故だったこと。オーブの人だけじゃなく、プラントの人たちも私を護ってくれたこと。その後は“セア”になってたこと。あなたたちと一緒にザフトとして過ごしたこと。オーブ軍とも戦ったこと……」
「ナナ……」
ナナは本当に、真実を語るつもりのようだった。
それはつまり、オーブ国民の反感を買うようなことも含まれている。それでもナナに迷いは少しも無かった。
「見た目がちょっと変わっちゃったから、ちゃんと本当のことを話さないと、みんなは信じてくれないと思うの」
今まで、ナナの言葉に嘘はなかった。
“大使”としても、“セア”としても、その言葉にはいつも誠意があった。だからこそ信頼できたのだ。皆も……。
それはルナマリアも感じていた。だから本当に、ナナの言葉がまたこの混乱を収めるのではないかという気がしてきた。
「もちろん納得してくれるかはわからないけど……。ほら、私、自分で言うのも何だけど、前はちょっとした“人気者”だったでしょう? でも、何よりもまた戦争にならないように繰り返し話をしていくしかないんじゃないかって……」
“アスハ大使”の熱狂的支持者がいたことはルナマリアも知っている。オーブだけでなく、全世界に存在していたのだ。もちろん、プラントにもそういう者たちはいた。
中には“アスハ大使”の言葉を自分たちの都合の良いように変換して、『平和主義』を暴走させていた者たちもいたようだが……。
当然、彼らはあの事故の時、真っ先に『プラント陰謀説』を叫んだ。
プラントの支持者の中には、評議会に抗議する者やオーブに亡命する者もいたと聞いている。
そういう彼らを、ルナマリアたちはただの『陰謀論者』と思っていた。プラントで事故後に公表されたアスハ大使の演説を聞いたし、オーブがプラントを攻撃するようなことはいっさいなかったため、あれは“事故”だったと信じていたのだ。
何より、同胞もたくさん死んだ。それも、同年代の未来ある若者がたくさん死んだのだ。
だから、あれは不幸な“事故”だとして疑わなかった。周りの仲間たちも……。
だが、『プラント陰謀説』をずっと信じていた者たちは、この発表にどう思っているのか。
『納得しない』どころではないだろう。そらみたことか……と、今にその怒りを爆発させるに違いない。先ほどのインタビューで困惑していた者たちが、それに同調する可能性だってあるのだ。
その目と鼻の先に在る火種を、ナナは自身の言葉で消そうというのか。
そもそもオーブの議会は説得できたのだろうか。いや……アスハ代表も。
「オーブは大丈夫なの?」
疑問を曖昧な表現でぶつけた。
「まぁ、なんとか。議員のオジさんたちをなだめるのは大変だったけど、結局、もう戦争したくないのはみんな同じだからね」
「アスハ代表も?」
「うん、もちろん。カガリは……妹としてはものすごく怒ってたけど、オーブの代表首長としてやらなくちゃならないことはわかってるからね。今日は最高に冷静な演説をしてくれるはず」
ナナは誇らしげに“妹”を語った。
かつてミネルバでアスハ代表と過ごした時間は良く覚えている。シンが突っかかっていくからヒヤヒヤしていたものだ。
もともと、年も変わらないのに一国の代表を務め、毅然とした態度で公務に当たる姿を見て憧れていた。
何より彼女は、“アスハ大使死亡後”の混乱を収めて見せた。あの時の涙……いや、怒りを堪えながら『プラントの“事故”という調査結果を信じる』と断言した様は立派だった。
あの姿を、もう一度世界に見せることになるのか。もう一度、怒りと涙を心に押し込めて……。
「本当に……、混乱は収まる?」
ナナの“力”を疑う訳ではない。だが、逆に彼女の存在は自身が思っているよりずっと大きいから不安なのだ。
「わかんない」
ナナは答えた。
「けど、絶対に戦争を繰り返すわけにはいかないから」
瞳の中に、とても強い光があった。
「それだけは“絶対”。だから、いくら私のために怒ってくれていても、その怒りを私は……なんていうか……捻じ伏せる?」
それでいて、ナナにしては下手くそな言葉選びだった。
「捻じ伏せるって……」
「だってほら、暴走しちゃったら止めなきゃならないし、同調する人たちも引き留めなきゃいけないし」
「何としても止めるってこと?」
「そうそう。血を流すのだけは絶対に止める」
強い意志、響く声、粗削りな言葉……。側にいる者は、爽快ではあるが肝も冷える。
なんだか、アスランの気持ちが少しだけわかるような気がした。
「アスラン……は? それで納得してるの?」
なんとなく控え目にそう尋ねた。
が、ナナは躊躇なくうなずいた。
「もちろん。アスランは私が何を一番大切にしてるか、よくわかってくれてるから」
そう。二人はわかり合っているのだ。自分たちなど想像もできないくらい、深いところで……。
ちらりとシンを見た。まるで話に興味がないかのように、ぼーっと手元のマグカップを眺めている。
「そういうことだから、二人とも、私が急にでしゃばって出てきても、ヘラヘラしてても、何を言っても、驚かないでね」
本当に、わざわざこれだけを言いに来てくれたのだ……。
ふざけた口調でも真剣なその目に、ルナマリアはまた小さくため息をついた。
「ルナ……」
「わかったわよ」
自分も、自分らしく“ナナ”に接しようと思った。
「あんたがどんなスピーチをするか、じっくり見させてもらうわ」
ナナはどこかホッとしたように笑う。
「うん! カッコよくキメてみせるから!」
それがあの強気な笑みに変わった時、ナナのポケットから端末の着信音が鳴った。
「あ! もうこんな時間?!」
ルナマリアも壁の時計を見た。13時半に差し掛かろうとしている。
「ね、ねぇ。議会の演説って17時よね?」
「うん。私の出番は……17時半くらいからかな」
「準備はできてるの?! 全然時間ないじゃない!」
ナナは皿やマグカップを片付けようとするので、慌ててそれを制した。
「原稿はできてるから大丈夫!」
「そういう問題じゃないでしょう!? 早く行って!」
「ああ、うん。ごめんねバタバタしちゃって」
「いいからいいから!」
まだ何か気にしている素振りを見せるので、なかば強引に玄関へと押しやった。
これから本部へ戻って着替えをしてメイクをして代表らと打ち合わせをして原稿を読み直して……、とても余裕があるとは思えないのだ。
「アスランは? 下に来てる?」
「うん、もう来てると思う」
「そう……、よかった」
よろしく言ってくれと言おうか一瞬迷った隙に、ローヒールのパンプスを履いたナナが振り返った。
「あ、二人とも」
ちゃんとシンも見送りに来ている。
シンとルナマリアの目を見ながら、ナナは言った。
「これからどうしたいのか、そろそろ考えておいてね」
まっすぐな瞳に、思わず答えを躊躇った。
「私としては、あなたたちにはこのままオーブで暮らして欲しいけど……。でも、プラントに戻るならちゃんと送り届けるから。ザフトに戻るにしても……。必ず二人の希望を叶えるから。約束する!」
実直だが、声はとても軽やかだ。
その『約束』が、まるで当然のことのように……。
「時間かかってもいいから、ちゃんと二人で話し合って、考えておいてね!」
安心とか、感謝ではない。不思議な感情が体内を駆け巡った。
うなずくことさえ忘れたルナマリアに変わって、
「うん、わかった」
はっきりした口調で答えたのはシンだった。
「考えとく」
その声もまた実直で……ルナマリアは視線を交わす二人を交互に見た。
「それじゃ、また来るね!」
ナナは爽快に笑って、ドアの向こうに消えて行った。
「シン……」
シンはあくびをしながら、のんびりと言った。
「アイツのスピーチが始まるまでもうひと眠りしようかな」
「ちょっと、シン!」
そう言いつつもシンクに向かう後姿は、いつもと少しだけ違って見えた。
あの日以来止まっていた時間がかすかに動き始めたのを、ルナマリアは強く感じた。