転生者がトレーナーとしててえてえを拝みたい話   作:Siranui

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皐月賞はお疲れ様でした。 新衣装セイウンスカイを全距離で走れるように挑戦していたら色々と遅れました……すみません(新衣装セイちゃんマジかっこかわいい)


旧理科準備室でてえてえを拝みたい

 机に突っ伏し、お腹が空いたと訴えるウマ娘……アグネスタキオン。

ほぼ大多数の教員や生徒からも変わった研究者(極力好意的解釈)というのが評判だが、俺から見てタキオンは協力者であり方向性と過程が色々飛んでいる事もあるが少なくとも悪意を持って何かをする事は無いと確信している。

 

 さて、何故昼時に食堂やカフェテラスにも行かずにこうして俺が来るのを研究室という名の空き教室で待っていたのかというと……

 

 

「ほら、今日のお昼ご飯、リクエスト通りサンドイッチで甘めの卵焼きとハム・レタスを挟んだ物からツナときゅうり、サーモンのマリネを挟んだ物……まあ色々と作って来たからどうぞ」

 

 

 鞄の中から保冷袋を取り出し目の前に差し出す……が、タキオンはこの様に突っ伏してしまった場合は素直に受け取らない。 むしろ小鳥の様に口を開け食べさせろ と言わんばかりの姿勢を取り始める始末だ。

 

 まあ何時もの事だと適当に掴んだ卵サンドを目の前に持って行き、齧り付き咀嚼してる間はそのまま。また口を開けたら前に進める事をすれば良いだけだ。

 

 とりあえず1個食べさせれば満足するのか、それともそれ以上は自分で食べなさいと根気よく伝えた事によるものか(多分後者)、それ以降は普通に食べる様になるのでしばらくは付き合ってあげる。

 

 どうしても忙しくて仕事をしなければならない場合は代打がこの部屋には居るのでそちらにお願いするのだが……

 

 

「……貴方も、良く付き合えますね……」

 

「まあ、そういう約束だからね。 カフェも食べるだろ?」

 

 

 いただきます と珈琲カップを手に渡されたサンドイッチを食べるウマ娘 マンハッタンカフェ。 タキオンの友人兼被害者? 腐れ縁、保護者……言葉で表すのは難しいが、俺の仕事が忙しすぎる時に代わりにタキオンの面倒を見てくれる娘だ。

 

 ただお願いされる時少しだけ耳が垂れるので、あまり気乗りはしてないのだろう。

なのでその代わりと言ってはなんだがこうして昼食をカフェの分も作ってきているのだ。

 

 言葉は少なめで物静かな娘だが、その分彼女のお友達が返事をしてくれる事もある。 と言ってもそのお友達は俺には見えないのだが……誰もいない方向から押されたり、ガラス窓やドアが揺れたり鳴ったりするのでカフェの言うお友達というのはそういう存在なのだろう。

 

 意思も思考もある様で、こちらがモールス信号を理解出来ると知ると偶に机がトントン叩かれ何かを伝えようとしている事がこの頃確認出来た。

 

 伝えてくる事は≪こーひー は ぶらっく さとう いれる≫や≪あした は おにぎり が ほしい≫等……

何と言うか案外可愛いと言うか、恨みつらみとか伝えられるよりは良いけども伝える内容はもうちょっと何か無かったのだろうか……

 

 

「ふう……満足満足。 さてトレーナー君、とりあえずブルボン君の脚はどうだね?」

 

「問題無いよ、タキオンの理論通り」

 

「あっはっは、まあ私の理論もそうだが君の判断力もだろう。

 私が提案した事をただ何も考えずに受け入れるだけではなくちゃんと選別している。

 勿論私も考えて提案しているが、好奇心と最果てを見たいという意識の方が強いからね……」

 

 

 聞き取りしている事を手元のメモ帳へと書き込み、にやにやと楽しそうに何かの数式を書き込み続けている。 俺には何の計算式かは分からないが、タキオンが楽しそうなので良しとしよう。

 

 もし問題を起こしそうならばその時止めれば良いだけの話であるし、隣に居るカフェも手伝ってくれるだろう。

 

 

「まっ、その過程で出来た理論や成果の交換に食事等を提供してくれるのならありがたいものさ。

 ついでに理論の補強もしてくれるし、掃除もしてくれるし……うむ、持ちつ持たれつとはよく言ったものだよ」

 

「……どちらかというとタキオンさんの方がトレーナーさんに負担をかけている気がしますが……」

 

 

 ドヤ顔で胸を張っていたタキオンが、カフェからの突っ込みで固まり汗が一筋流れる。

無音の部屋にカフェの珈琲を啜る音が静かに響いた。

 

 

「まあそんな細かい事は置いておいてだ!」

 

「……細かい……?」

 

「いちいち良いじゃないか! トレーナー君だってそれに納得してくれているんだから……

 それにカフェだって利益はあるだろう? ならば細かい所は目を瞑るべきだよ!!」

 

 

 あー……2人の絡みはええなぁ……(絡みと言ってもタキオンの方から一方的に絡んでる様に見えるが、カフェだって本当に嫌ならば席に座っていないで自分のスペースへ戻れば良いのに、態々俺達の所にいるのだから本気で嫌がってはいないだろう。 多分、きっとそう……)

 

 タキオンに揺すられながらも器用に珈琲を飲んでいるカフェ……薄いレモン色の瞳がユラユラと左右に振れながらもじっ とこちらを見ている……と言うか観察していると言うか……

 

 むう、カフェはあまり表情に出ないタイプだから困って居るのか、それともただ無視しているのか、それともリラックスしているのかが分かり辛い。

 

 

「まあそれはそれとしてだ、ほら早く出したまえよ」

 

「食事は全部出しているよ?」

 

「違う、とぼけなくても良いよ。

 食事だけなら保冷袋だけで良い筈だが今日の君は何時もの鞄を持ってきている。

 何かしらの相談事の為の資料があるんだろう? はやく見せたまえよ……私はこう見えても色々忙しいんだ」

 

 

 ちょいちょい と俺に白衣の袖を垂らした腕を振って催促するタキオン。 光沢のない紅い瞳が鈍く輝いているのは好奇心の表れか、それとも何かしら面白そうな物を見せて貰えるという期待か……

 

 こういう時のタキオンは勘が鋭いと言うか、観察眼が優れていると言うか……まあ、相談しに来た事は事実なのだから大人しく渡そう。

 

 鞄から資料を取り出し渡すと、受け取ったタキオンは資料に目を通し始める。

 

 

「ふむ……ああ、ライスシャワー君のか。 ふ~む……うんうん、まあ君ならそう考えるだろうね」

 

 

 書かれている物は俺から見たライスの走り方や脚質、向いている距離等の考察からレースの出走履歴、順位やレースの運び方、それから見える癖等の細かい所までを書き連ねたものだ。

 

 ブルボンの走るレースのライバルとして集めた情報等から、菊花賞以降の俺の担当バとなった今までの練習具合や並走から見える事等……そこからどうやればブルボンに勝てると思われるか等も書かれている。

 

 ……まあ、そりゃ担当バが仲間でライバルで友達な上に、トレーナーが俺のみっていう状態で、対策も何も手の内を全部知っている上で競い合うって時点で小細工はほぼ通用しないに等しいだろう。

 

 ブルボンは手心を加えられての勝利は喜ばないだろうし、ライスだって全力でブルボンを超えたいと願っているだろう。 そうなったら双方ともに全力で指導する事が俺の務めだ。

 

 間近でてえてえも拝めるしなっ! 曇り要素はノーセンキュー、お互いが称えあい認め合って勝利するのが健全なスポーツ興行であると私は断言する!! あえて言おう、まさしく青春だ!!

 

 

「ブルボン君は逃げ、ライスシャワー君は先行。

 最終コーナーまで引き離されずに追いかけ続け、直線勝負に持ち込めればライスシャワー君にも勝ちが見えてくる……スタミナ的には双方とも問題はない。

 後は……まあ、執念と気持ち、それと背負っている思いの力という奴かな」

 

「タキオンみたいな科学者でも精神論は持ち出すのかい?」

 

「う~ん……どう説明するべきかは悩むけどね。 私達が走っている時に聞こえてくる声援は力を最大限出し切る最後の一かけらになりうるものだよ。

 こればかりは走った事や声援を受ける立場にならなければ分から無いだろうけどね……君だって何かしらを見たい、得たいと思って色々とやる事はあるだろう。

 人間もウマ娘も、何時だって最初の一歩も最後の一歩を踏み出せるのは己の意志さ」

 

 

 こればっかりは科学と数式では計算しきれない と呟く様に漏れる言葉。

 

 

「まあ、先行ならば私の本分だから、逃げのウマを捕まえる事を教える事も出来るよ」

 

「まだ何も言って無いんだけど……」

 

「な~に、協力者として出来る事をしてあげようと思っているだけだよ。 断じてカフェに君への負担を掛け過ぎている、貴方は十分な対価や仕事をしているのか? という視線に対抗しようと言う訳では無いよ!」

 

 

 全部口に出してしまっては全く持って威厳も何もない、見事な自爆である。

 

 タキオンは見知らぬ他人、他のウマ娘や世間からどう言われ様が全くと言える程気にもしなければ顧みる事もしないのだが、一度でも信頼したウマ娘、人からの言葉は思いのほか気にしている様でこの様に盛大に自爆する事もある。 が、それが年相応の可愛い反応なんだろうとも思えるので俺的には微笑ましいと思っている。

 

 

「無理だけはしない様にね」

 

「問題無いよ、それにこれも実験の内さ」

 

「実験?」

 

「うむ、まあ私自身にもメリットがあると言う事さ。 君は気にせずライスシャワー君との並走や練習時期を予定してくれれば良い。

 それに練習は君が監督している時にやるのだから、万が一私か彼女に何かあったとしても即応出来るのならば問題無いだろう?」

 

 

 むう、そこまで言ってくれるのならばお言葉に甘えよう。 それにタキオンは一度言い出したら大体は止まらない頑固な所もある。 目の届く範囲で好きにやらせた方が良いだろう。

 

 

「なら近々予定を組んでみるよ。 タキオン的には何時が良いのかな」

 

「ならば早めの方が良いだろうし……明日かなっ!」

 

 

 まだ今日の放課後 と言い出さない辺り譲歩したんだと俺は考えておく。 ドヤ顔でこっちを見上げてくるタキオンは満面の笑みだし何時が良いかと聞いたのは自分の方だからタキオンはそれに答えただけなんだ。

 

 

「……では、私もそう予定しておきます」

 

 

 カチカチとスマートフォンを操作するカフェだが、何を予定するんだろうか と思っているとその視線に気が付いたのか、カフェは首を少し傾げながらタキオンを指差し

 

 

「……何かあったら一人で対応しきれますか?」

 

「宜しくお願い致します」

 

「それはどういう意味なんだい君たち??」

 

 

 日頃の行いは大切だという事だよ。

 

 




次回はタキオン達と並走する予定です。 ニシノフラワーを引けるようにお祈り下さい。
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