白露型といっしょ   作:雲色の銀

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ぽいぬといっしょ

 時刻は11時丁度(ヒトヒトマルマル)

 報告書をまとめ終えた提督が椅子に体重を預け、両腕と背筋を伸ばす。

 今朝は深海棲艦を見かけず、出撃要請もかかってこない。遠征組も今回の任務は長距離の為、まだ暫くは戻ってこないだろう。

 他の提督達からの演習の予定もない。つまりは、暇なのだった。

 唯一残っていた、書類作業も一通り終えてしまい、提督はやることがなくなっていた。新しい資材が届けば、艤装の開発も出来るのだが。

 

「たまにはゆっくりするのもいいか」

 

 呑気に思い返してみれば、着任以降ゆったりとした時間を取ることがなかった。

 続々と追加されてくる艦娘達とコミュニケーションを取りながら、攻め込んでくる深海棲艦を迎え撃ち、開発や資材の管理、書類作業もまだまだ手馴れず、多くの時間を費やしていた。

 ある程度の落ち着きを持った現在だからこそ、暇な時間も生み出せたと言うものだった。

 

「さて、昼飯でも」

 

 食べに行こうか、と彼は上着を取りに行こうとした。

 そこへ、提督室の扉がノックされる。漸く暇になったのに、また仕事が舞い込んできたのだろうか。

 

「どうぞ」

 

 提督は少し残念そうに、ドアの向こうへ返事を返す。するとドアは勢いよく開き、中へ1人の少女が入って来た。

 さらさらと揺れる薄い金色の長髪を持ち、少し跳ねた左右の癖毛は犬の耳を想像させる。

 黒いセーラー服の上から装備された艤装は、彼女が艦娘であることを証明している。

 本来ならば戦場に立つ少女のはずなのだが、とてもそんなイメージを抱かせない程活発な少女は、満面の笑顔で提督の元に駆け寄って行った。

 

「てーとくさん! お仕事終わりましたかっ!?」

 

 彼女は白露型駆逐艦の四番艦、夕立。現在はこの提督の秘書艦として働いている。

 炎のように紅い瞳をキラキラと輝かせ、提督の返答を待つ姿勢は、本当によく懐いている犬のようだった。

 

「あ、ああ。今終わったよ」

「じゃあ、もうお仕事ないっぽい!?」

「うん。今日はもう暇だね」

 

 秘書艦らしく、提督の仕事の有無を認識しているようだ。

 夕立は提督が現在暇であることを再確認すると、耳のような癖毛をぴょこぴょこと揺らしながら、ますますテンションを上げていった。

 

「じゃあじゃあ! 夕立とお散歩しましょ!」

 

 お散歩、と言う辺りもますます犬だな、と彼は思ってしまった。

 夕立は彼が着任した時から共に戦ってきており、当時から懐きっぱなしなのだ。

 元々人懐っこい性格ではあったが、上司である彼の為に強くなろうと積極的に近代化改修を受けたり、演習にも参加した。

 最近では、遂に二段階目の改造が可能な程の実力を身に着け、艤装も強化された。その時に前はなかった癖毛やマフラー、ハンモックのような帆が付いたのだが、瞳の色まで変わっていたのは夕立本人も驚いていたとか。

 

「いいけど、まずはお昼かな」

「はーい!」

 

 散歩に出る前にお昼ご飯を済ます為、2人は食堂に向かった。

 

「ごっはんー♪ ごっはんー♪ てーとくさんとごっはんー♪」

 

 彼とオフを過ごせるのが嬉しいのか、夕立は可愛らしく歌を歌っていた。

 そんな彼女だが、一度戦場へ出ると態度を一変させる。

 敵には容赦なく、「素敵なパーティ」と称して連装高角砲で破壊の限りを尽くしていくのだ。

 昼は重巡洋艦に匹敵する程の火力で暴れ、夜戦では酸素魚雷を用いて戦艦ですら容易く沈めてしまう。その活躍ぶりから、「ソロモンの悪夢」とまで呼ばれる程だ。

 最も、味方といる時は無邪気な犬そのものであるが。

 

 

◇◆◇◆

 

 

「お腹いっぱいっぽい!」

 

 給糧艦「間宮」の食堂で腹を満たすと、2人はそのまま鎮守府内を散歩することにした。

 今は工房の近くまで来ている。ここで艤装や新たな艦娘を建造・開発するのだ。

 艤装はまだ分かるのだが、夕立のような艦娘をどうやって建造するのかは、この提督もよく分かってはいないらしい。

 

「ぽい?」

 

 艦娘建造の謎について考えている提督に、夕立は首を傾げる。

 こんなに愛嬌のある娘を建造出来るとなると、帝国軍の技術は相当のものだ。

 これ以上考えると引き返せなくなりそうなので、彼は建造について頭から離すことにした。

 次に通りかかったのは、入渠ドックだ。ここで艦娘達は傷付いた船体を癒すのだ。

 中は銭湯のようなもので、当人達にとって風呂に入るような感覚なのだが。

 因みに、何故か男湯もあり、こちらは提督や工房の職人達が使用している。

 そして、近くには出撃ドックがあった。現在は出撃もなく、第二艦隊から第四艦隊までは遠征で出払っているので、機材の整備をしている班以外は誰もいない。

 

「皆、まだ帰って来ないっぽい?」

「今夜には時雨達が帰るそうだ」

 

 首を傾げる夕立の頭を、彼は撫でてやった。

 夕立は提督も好きだが、他の艦娘達も好きである。特に、白露型の姉妹とは部屋が同じなだけあってとても仲がいい。

 仕事の終わった提督の元に駆け寄ってきたのも、姉妹達が不在で寂しかったからかもしれない。

 

「じゃあ、皆が帰ってくるまで、夕立がてーとくさんを独り占めっぽい!」

 

 カチューシャのように付けたリボンが外れないよう優しく撫で回すと、夕立はまた無邪気な笑顔で提督に擦り寄った。

 

 

◇◆◇◆

 

 

 鎮守府内を練り歩き、提督室に戻ってくる頃には日が沈みかけていた。

 

「提督、第二艦隊戻って来たよ」

 

 提督室の扉が再びノックされ、本日二度目の来客が部屋に入ってくる。

 第二艦隊の旗艦を任されていた、白露型二番艦の時雨が遠征の大成功を報告しに来たのだ。

 今回手に入ったのは大量の燃料だ。これで、何時出撃になっても問題ないだろう。

 だが、入って来た時雨に提督は静かにするよう人差し指を立てた。しかも、普段は椅子に座って何かしているはずだが、今はソファーに座っている。

 

「あ」

 

 提督の様子をよく見て、時雨は納得した。

 本を読む提督の横では、散歩に満足した夕立がソファーの上で眠っていたのだ。艤装を外して提督の膝を枕にし、すやすやと寝ている姿は普通の少女と何の変わりもない。

 ぽいー、と寝息を立てる夕立に微笑みながら、時雨は隣の小さなソファーに座る。

 

「それで、今日は何があったんだい?」

「ただの散歩だよ」

 

 夕立の幸せそうな寝顔の理由を聞く時雨に、提督は軽く返す。

 戦闘も何もない、平和な鎮守府のそんな一日だった。




ウチの夕立を改二にした記念に書きました。
犬みたいな夕立が飼いたいです。

オンヅルボルモアギロメッツァポイポーイ!

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