あの夢を見た日から、出久は自分の目標に向かって走り続けていた。
周りは「できっこない」と馬鹿にする者もたくさんいたが、出久は周りを気にしなかった。
今までしてこなかったトレーニングや、ヒーローの原点である奉仕活動のために近隣の公園のゴミ掃除。変わらずにヒーロー分析の毎日。
無個性なりに自分がヒーローになるための努力をして、身体的にも精神的にも成長した出久。
現在の身長は175センチ。体格もモヤシではなくガッチリと服の上からもわかるくらいには鍛えている。
そして何より、本来の物語のこの頃にはない自信が目に満ちていた。
「全く、かっちゃんもみんなも容赦ないなあ」
そんな出久は現在、幼馴染のかっちゃん……爆豪に爆破されたヒーロー分析ノートを回収しに鯉の水槽に来ていた。
鯉が餌だと勘違いしているノートを水槽から取り出し、バサバサと軽く振るう。
「あちゃー、これは新しいノートにしたほうがいいな……」
そう言いながらノートをリュックに入れる出久。
そもそもこうなったのは朝の出来事が原因だ。
中学3年生の春。個性のある超人社会のいまでも変わっていない。
ヒーローを目指すものは、ヒーロー科のある学校に進学するものがほとんどだ。
もちろん出久もヒーローを目指すために、ダイゴと夢の中で出会う前から尊敬してやまない
それが、担任の不注意で志望校を晒されてしまい、同じクラスの人達の侮蔑と嘲笑の的になっていた。そして幼馴染からは暴言を吐かれ、彼の個性によって威嚇されたのだ。
爆豪である。
彼は頭脳明晰、運動神経抜群にして『爆破』という優れた個性を持ち、幼いころから長年出久を『デク』や『クソナード』と虐げてきたヤツだった。昔はよく一緒に遊んだりしていたが、いつしか爆豪は出久を目の敵に、出久は爆豪が苦手に、そんな関係になっていた。
本来の物語なら、出久はその時に悔しさやいろんな感情がごちゃ混ぜになり言い返せなかったが、今回の出久は違う。
この物語の出久はもう『
「かっちゃん…僕は君に何を言われようと雄英を受けるよ。そもそも自分の人生なんだから君に決定権はないはずだ、僕も僕の道を行くんだから勝手にすればいい」
「んだとぉ…このクソナード!!」
出久の言葉が癪に触ったのかキレながら向かってきた爆豪。冷静な出久は向かってきた爆豪の”大振りの右手”を爆破される前に弾くと、そのまま隙だらけの左手を掴んでそのまま背中に回して締め上げる。ここ最近はいつもこうだ、馬鹿にしてくる爆豪に出久はあしらう毎日。正直うんざりしていた。だから面倒になって爆豪を離したタイミングで放課後のチャイムがなったので、出久はさっさとカバンを持って出ていったのだ。
机に普段はカバンに入れっぱなしのヒーロー分析ノートを、今日に限って学生机に入れたことを忘れて。
思い出し慌てて教室に戻ってきた時にはノートはなく、やっと見つけたのがこの水槽だった。
「自分のシナリオ通りの道を生きたいんだろうけど…僕を巻き込まないでほしいよ全く……」
出久は帰路につき歩きながらそうボヤく。
憂さ晴らしに買い食いでもしていこうと商店街に向かおうとした瞬間に不穏な気配を出久は感じ取った。
咄嗟にその場から飛び退くと、先ほどまでいた場所のマンホールの蓋が吹き飛ばされて異臭を放つヘドロがそこから出てきた。
「Mサイズの隠れ蓑ぉ~なぁボウヤ、ちょっとその身体貸してくれよぉ…大丈夫、大丈夫、苦しいのをたった45秒ガマンしてくれればあとは楽だからさぁ」
いきなり喋るヘドロ。言動から推測するに『ヘドロ』の個性を持ち、それを違法に扱う者『
いくら無個性とはいえ、仮免を取得していない学生がヴィランと戦うのはよろしくない。
出久はバックを道路の隅に放り投げて、関節をほぐしながら相手を躱し続けるための準備をする。
しばらくここで粘っていれば騒ぎを聞きつけたヒーロー来る。なら自分は時間稼ぎをしようと構えを取った。
「なんだ〜?俺とやるのか??」
ヘドロは構えを取った出久を見てニヤニヤ笑いながら見る。
出久が地面を蹴ろうとした瞬間に、出久とヘドロ以外の第三者の声が聞こえた。
「安心したまえ少年!」
その声は、出久が尊敬しているヒーローと同じもので。
「なぜって?」
ヘドロヴィランを爆散させるほどの拳圧の持ち主で、No. 1ヒーローの。
「私が来た!!」
「お、オールマイト……」
筋骨隆々でムキムキな体躯と不敵な笑顔が特徴のNo,1ヒーロー、オールマイトの姿がそこにあった。