光の巨人を目指す   作:目指せ焼豚

6 / 9
示せ!光の力

 入試から数日後…出久にも合否判定の手紙が来ていた。

 とりあえず母親の引子に一人で確認したいといって自室にこもり手紙の封を開けた。

 

 中に入っていたのは小さな機械。

 何かと思ってしばらくいじっていると急に起動してホログラムを映す。出久はそのホログラムに映っている人物に目を見開く。

 

 『私が投影された!』

 

 「オールマイト?!」

 

 思わず驚きの声を上げた出久。

 そこからオールマイト自らのが写っている説明と入試の結果を伝えられた。どうやらオールマイトは今年度から雄英高校で教鞭を取るようで、今回の合否発表で合格者に伝えるサプライズらしい。そして出久の試験結果は筆記試験は余裕を持って合格、そして肝心の実技試験の好評になった。

 

 仮想ヴィランロボを撃破することで得られる『敵ヴィランポイント』の他にもヒーローの重要な素質をそこでは測っていた。

 それは守るべき一般市民を、そして同じ仲間ヒーローを助けようとする行動。それは『救助活動レスキューポイント』としてカウントされていた。

 

 『『人助け』を、『正しい事』をする人間を排斥するヒーロー科などあっていい筈が無い!綺麗事? 大いに結構!綺麗事を実践するのがヒーローのお仕事さ!ちなみにこれは厳粛な審査制!そして……君のレスキューポイントは72ポイント!おめでとう!首席合格だってさ!』 

 

 その言葉を聞いて出久は鼻の奥がツンとなり、少し瞳が潤う。

 

 『こいよ少年!ここが君のヒーローアカデミアだ!!』

 

 「はい!!」

 

 その言葉に、録画映像であったが精一杯大きな声でこの映像の向こう側にいるオールマイトに返事をする。

 こうして数年後、華々しく活躍する出久のヒーローとしての物語の1ページが、進む。

 

 

 ♢♢♢

 

 「出久!大丈夫?忘れ物ない?」

 

 「大丈夫だってお母さん。昨日も散々確認したでしょ?」

 

 四月某日、出久は自宅の玄関で母である引子とそんなやりとりをしていた。若干、出久の顔は疲れているようにも見える。

 実は先ほどの出久の言葉通り、昨日も同じやりとりをずっとしていたのだ。今日は入学式とガイダンスだけだから大丈夫だと何度出久は引子に説明したことか。出久は現在玄関で雄英高校の制服に身を包み、お気に入りの赤い靴を履いてその場に立っている。もちろん、ペンダントはちゃんと首にかけている。

 

 出久は玄関近くに置いておいたリュックを取り、そろそろ時間だからと玄関を出ようとした。

 だが、そこでまた引子に引き止められる。今度はなんだと出久は振り返ったが、今度の引き止めた理由は心配ではなくーー

 

 「出久、頑張って。今の出久ちょーカッコいいよ!」

 

 引子なりの声援だった。

 

 「ーーうん、いってきます!」

 

 

 

 

 少し時間は進んで雄英高校。

 出久は自分のクラスである『一年A組』のドアの前で立ち止まっていた。

 

 (流石に、変な人はいないといいなぁ…)

 

 今出久の頭の中にあるのそのことだけである。

 そもそも生来内気な出久からしたら基本的に正確に難があるような人種とは関わりたくないと考えてしまうのは仕方のないことかもしれない。だが、ここから自分のヒーローとしての物語が始まるのだからこんなところで足踏みはしていられない。出久は意を決してその扉を開けた。

 

 扉を開けた先には、同じく雄英に進学してきた爆豪と、どこか見たことがあるメガネ男子が言い合っているところだった。

 

 

 「机に足をかけるな!雄英の先輩方や机の製作者の方に申し訳ないと思わないのか!?」

 

 「思わねぇよ!テメェどこ中の端役だ!?」

 

 「俺は聡明中の飯田天哉だ!」

 

 「聡明中? エリートってヤツか、ブッ殺し甲斐がありそうだなぁ!!」

 

 「なっ……君は本当にヒーロー志望なのかい?!」

 

 (やってるよかっちゃん……)

 

 出久はヒーロー志望らしからぬ言動をする爆豪に内心ため息をしながら黒板を見て、自分の席が番号順的に爆豪の後ろだとわかると今度ははっきりとため息が出てしまった。しばらく言い合いを教室の教卓のあたりから見守っていると、教室に入ってきた女子が出久に話しかけてきた。

 

 「あ!君は試験会場で助けてくれた人!」

 

 出久は話しかけてきた女子の方を向き、その女子が自分が実技試験の時に助けた女子だと言うことに気がついた。

 

 「やっぱり合格してたんだね〜!すごかったもんあのビーム!!」

 

 ぶんぶんと手を振るって興奮気味に話しかけてくる女子に思わずクスリと笑うと、出久はその女子に自己紹介を始めた。

 

 「ありがとう褒めてくれて…僕は緑谷出久です。君は?」

 

 「私麗日お茶子、よろしくね!……いやー知ってるいて助かったー。今日は入学式とガイダンスだけなのかな?担任どんな人なんだろうね?」

 

 思いの外ぐいぐいくる麗日に若干出久が引き気味でいると、出久の視界に寝袋が映った。中には人がいる。

 

 「お友達ごっこがしたいなら他所でやれ。ここはヒーロー科だ」

 

 寝袋の人物が喋った。

 これからの入学式やガイダンスに夢を膨らませている麗日や、話していたクラスメイトのテンションが一気に下がるのを出久は感じた。

 

 「ハイ、静かになるまで8秒掛かりました。時間は有限、君達は合理性に欠けるね」

 

 謎の寝袋の人物は教卓に立つと、出久達の疑問に答えるように自ら正体を明かす。

 

 「担任の相澤消太だ、よろしくね。早速だが、これに着替えてグラウンドに出ろ」

 

 そう言うと、担任の相澤は寝袋から学校指定の青いジャージを取り出した。

 何か早々、厄介ごとの匂いがして出久は顔がひくつくのが分かった。

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 「これから個性把握テストを行う」

 

 「いきなりですか!? それに入学式は!? ガイダンスは!?」

 

 「プロになるならそんなモノ出てるヒマはない。時間の無駄だ」

 

 突然の発言にクラスを代表するように麗日が質問する。しかし、けんもほろろ。そのまま相澤教諭によるこのテストの説明が始まった。

 

 「君たちも中学までやっていた体力テスト、それに個性の使用を許可した状態で行って貰う」

 

 

 

 手本として指名されたのは出久……ではなく、爆豪。

 爆豪の『死ねェ!!!』と物騒な掛け声とともに投げられたボールは爆破の勢いと爆風、そして持前の強肩により700メートル越えの記録を叩き出した。

 

 「なにこれ、楽しそう!」

 

 「個性を思いっきり使えんのか!さっすが雄英ヒーロー科!」

 

 早速の好記録と個性の使用が解禁されたことに沸き立つ生徒たち。しかしその雰囲気に水を差す一言が相澤教諭から告げられた。

 

 「楽しそう、か……これからの三年間でそんな腹づもりでいく気なら……そうだな、こうしよう。トータル成績最下位の生徒は見込みなしと判断して除籍処分としよう」

 

 その一言で一気に緊張感が高まる。『理不尽だ』と抗議の声が上がるも、出久はそうは思わなかった。

 平和はいつも続くとは限らない。いつ何が起こるかわからないのだから常にそのことを

 

 「世の中は理不尽に溢れてる…自然災害やヴィランの事件。この程度の理不尽を簡単に乗り越えないとヒーローにはなれない。放課後とかに遊びたいなら諦めろ。これから三年間、俺達教師陣はお前たちに様々な苦難を与えて行く。入試でも言われただろ、Plus Ultra。その精神で乗り越えろ」 

 

 そして雄英最初の体力試験という”試練”が始まった。

 

 最初は五十メートル走で、次々と個性をうまく使って好成績を出していくクラスメイト達。

 

 「んじゃ次、緑谷準備しな」

 

 出久の番がやってきた。同じように並んでいる爆豪などは両腕を後ろに回して個性の爆風で飛ぶようだ。出久はペンダントからいつでも『光』を引き出せるように準備してからスタート位置に着く。

 

 そしてスタートと同時に足に『光』を引き出し、集中させてゴールまで一気に駆け抜けた。

 結果は2.25秒……先ほど三秒台を出していたメガネ男子が目に見えて落ち込んだ。

 

 そこからは驚異的な記録の連続だった。

 握力では腕に『光』を集中させて測定ギリギリを記録し、立ち幅跳びでは実技試験でも行った『光』のエネルギーを放出して空を飛んでクラスメイトの度肝を抜いた。そうして全種目でかなりの好成績を記録し続けた。ただ、ハンドボール投げで出久は爆豪に声をかけられた。

 

 「おいデク、いい加減本気出せや」

 

 「え?」

 

 「さっきから見てりゃあ、あのヘドロの時ほどお前…力出してねえだろ」

 

 その爆豪の言葉に内心ドキリとする出久。

 確かに、今までのテストの中で使っている『光』は入試の時と同じぐらいのもので、ヘドロヴィランの時に比べて力は使っていない。否、使えないのだ。確かにあのヘドロの後に訓練をしてある程度の『光』コントロールを可能にはできたが、正直まだまだうまくいっていない。

 

 ゼペリオン光線などの光の巨人が使っていた技は何個か再現できるし、身体能力の強化も順調にできるようになっている。だが、『光』を引き出すときに自分が扱える程度の%に感覚的に抑えているのだ。

 

 現在扱える程度は……3%。

 と言っても、本来は50メートル級の巨人が使う力の一部なので3%でも安定して扱える分だけマシである。

 

 「爆豪の言っていることは本当か?緑谷」

 

 相澤が爆豪の言葉を聞いて緑谷に問う。

 

 「まあ…はい、今以上に力を引き出そうとすると正直扱い切れないので……今自分が安定して扱うことができる全力でやっていました」

 

 「ほう……確かに合理的だ。テストを見た感じ、自分の個性をある程度コントロールできてるみたいだしな。だがな、『全力』と『本気』は違う、除籍になりたくないならどっちも出してやれ」

 

 そう言って相澤は出久にボールを投げる。

 ボールをキャッチした出久はボールを見たまま少し考える素振りをした後、ボールを投げる位置についた。

 

 そして、出久がボールを投げる前に水晶を掴んだ瞬間に…一気に今までより強い光がクラスメイトと相澤の視界を染め上げた。

 

 「なんだあ!?」

 

 「眩しー!!」

 

 金髪のチャラそうな男子とピンク肌の女子が騒いでいる。

 他のクラスメイトもいきなりの光の強さに似たような反応をして手を目の当たりに持っていき視界を遮っている。

 

 そして光は金の粒子になって出久に集まっていき、バチバチと紫電を放ちながらオーラのような状態に収まる。

 今までのテストで見た出久の『光』は部分的なものばかりだったのでその状態の出久を見てクラスメイトは息を呑む。

 

 そして出久はオーラを纏った状態でボールを振りかぶり、叫んだ。

 叫んだ掛け声は尊敬のヒーローと同じもの。

 

 

 「スマァァァァアアッシュ!」

 

 そう叫んで投げたボールは周りに衝撃波を放ちながら飛んどん飛距離を伸ばしていく。見えなくなる程飛んでいった後最終的に相澤の持つ端末に出た距離は2589メートル、無限を記録した生徒以外の記録を霞ませるほどの距離を出久は投げた。

 

 投げた出久は少し動きずらそうにしているものの、平気そうな顔をしながらボールを投げた方向を見て、うまくいったことに安堵する。

 正直、今の『光』を使った『全身強化』は賭けに近かった。

 

 今までやった強化は四肢に光を集中させて、部分強化を行うもの。1箇所に集中させることで扱うエネルギーを操作しやすく、かつ低コストで使えると言う点が利点だ。エネルギーを操作しやすいので光線技も出しやすい。現在出久が一番使うことの多い強化の仕方でもある。

 

 今回行ったのは『全身強化』、四肢以外にも強化をするため扱うエネルギーも多く、操作が難しい。下手な強化をしてしまうとエネルギーがコントロールを離れて暴発をしてしまう可能性があり、成功した回数は失敗した回数より少ない。

 

 「けっ……やりゃあできんじゃねえか」

 

 「すげー!!約2.5キロ以上ってどんだけだよ!?」

 

 「……超サイ●人見てぇ」

 

 出久の結果にクラスメイトも沸き立つ。

 相澤は出久の様子を見た後に、すぐに次の番の生徒にやるように促した。

 

 それから数種目のテストをやって、個性把握テストは終了。

 出久の結果は総合成績一位の実績を見せた。

 

 そしてそのま個性把握テストで一人の除籍を出すことなく終了した。

 

 「ちなみに『最下位は除籍』というのは、君ら生徒を焚き付けるための合理的虚偽ね」

 

 「あんなの嘘に決まってるじゃない。ちょっと考えれば分かりますわ」

 

 茫然自失とする飯田たちを他所に一位を勝ち取った八百万は呆れていた。

 だが、そんな中一人相澤がついていた嘘に気がついていた人間がいた。出久である。

 

 彼は相澤の目を見て、テストを始める前に行っていた除籍すると言うことが本気だと気がついていた。そして、先ほどの合理的虚偽と行っていた時の目もその時と変わっていなかった。

 

 「(相澤先生は多分本気だった……全員がボーダーラインを超えたからたまたま除籍者が出なかっただけで…それに、その候補者の中に僕も入ってた……)」

 

 

 後に知ったことだが、相手の個性を消す『抹消』の個性を持つヒーロー・イレイザーヘッドの名を持つ相澤は過去に154回、昨年に至ってはクラス全員を除籍処分にしている。

 

 その彼にこの場で除籍を言い渡されなかったということは、基準点ボーダーラインをクリアできたのだろう。最下位だった故に安堵の涙を流す峰田実と同様に、出久の背中にも冷たいモノが伝った。

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 「おーい、緑谷くん!一緒に帰ろー!!」

 

 「あ、う、うん…麗日さん」

 

 あの個性把握テストが終わり、帰路に着こうとした出久に声を掛ける女子生徒、麗日お茶子である。

 なんとか返事した出久だが、少し吃ってしまった。朝の時の自己紹介では吃らず返事ができた出久だが、基本的に異性への耐性はあんまりない。何分小さい頃からずっとトレーニングをしていた本の虫ならぬトレーニングの虫であった出久は小中学時代は最低限しか異性と関わりを持たなかったために異性への耐性が本当に最低限しかない。

 

 なので正直麗日と話すのも一杯一杯なのである。

 

 「今日は大変だったねー!いきなりテストなんかあるんだもん」

 

 「そ、そうだね…」

 

 そう言いながら駅まで歩いていく二人、そんな二人に後ろから追う形で近寄る男子…朝爆豪と口論になっていたメガネ男子・飯田である。

 

 「お二人とも!ぼ…俺も一緒にいいかい?」

 

 「あっメガネ君だ!いいよー」

 

 「あ、うん。大丈夫だよ」

 

 話を聞けば、出久が『あの試験の全貌を見抜いていたのでは?』と感心していて話をしてみたかったらしい。しかし出久が正直にそうではないことを伝えても『君の行動は紛れもなく尊敬に値すると』感心した様子だった。

 

 それから三人で帰りながら入試のことや個性把握テストの内容を話しながら駅まで歩く。

 ヒーローになるために幼少期からあまり友人と話しながら帰ることや遊ぶことをせずにトレーニングの毎日だった。そのことに出久は後悔はない…だが、学生になって初めてのクラスメイトとの穏やかな、楽しい時間を過ごし…これからの生活に楽しみができる出久だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今回使った出久の全身強化のイメージはドラゴン●ールの人たちの溢れる気みたいな感じでいいっす。
こんなんでいいのかな?と思いながら書いている今日この頃(´・ω・)

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。