個性把握テストから翌日、すぐに学校の授業が始まった。
ヒーローを育成する学校なだけあり、他の普通校に比べて科目数も多いこともあり授業の進行スピードはかなり早い。だが、雄英の高倍率を抜けてきたもの達であるクラスメイト達も苦戦はしているものの、授業にはついていけていた。
そして昼食は食堂でランチラッシュの料理を安価でいただき、午後から『ヒーロー基礎学』が始まる。
「わーたーしーがー……普通にドアから来た!」
ヒーロー基礎学を担当するのはオールマイト、No. 1ヒーローの登場にクラスメイトが沸き立つ。
「オールマイトだ!!?」
「本当に雄英の先生やってるんだ!?」
「1人だけ画風違うよ。思わず鳥肌たった」
それから今回やる授業内容が『戦闘訓練』であること、そしてクラスメイト個人達が要望した『被服控除』という制度の下、各人の趣味や個性に合わせて製作された『
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更衣室でそれぞれが着替えていると出久は赤髪の男子に声をかけられた。
「なあ…お前の
「あ、ありがとう」
出久は自分の戦闘服をみながら褒められたことに礼を言った、出久が着ている戦闘服はダイゴが所属していた組織の制服…GUTSスーツである。白をベースに赤、灰色の装飾が施された制服で耐熱、耐寒、耐衝撃性に秀でた特殊繊維でできている。そして背中には大きな白色のローマ字で名前が書いてある。
「俺、切島鋭児郎!よろしくな!」
「僕は緑谷出久、切島君の戦闘服もかっこいいよ」
そう言いながらお互いに自分たちの戦闘服を褒め合っていると他の男子達も話しかけてきた。金髪の上鳴電気、尻尾を持つ尾白猿夫、しょうゆ顔の瀬呂範太、どこか影がある雰囲気の常闇踏陰などある程度のクラスメイトと自己紹介をし終えると、ロボットのような鎧の戦闘服をきた飯田がそろそろ時間だと言われ、演習所βに向かった。
「形から入るってことも大切なことなんだぜ!」
数分後、指定された場所に集合した僕たちにオールマイトが告げる。
「そして自覚するのさ! 今日から自分は『ヒーローなんだ』と!!」
様々な戦闘服を着たクラスメイト達と共にオールマイトの前に集合した出久は、麗日に声をかけられた。
「緑谷君かっこいいね、なんか地に足が着いた感じ!」
「ありがとう麗日さん、麗日さんの戦闘服は…その、宇宙飛行士がイメージ?」
「あ、あはは……ちゃんと要望書けばよかった〜ぱつぱつスーツだから少し恥ずかしいんだよね」
そう言いながら麗かは頭をかく。麗日の戦闘服は宇宙飛行士をイメージしたような装飾がなされたぴっちりしているスーツにヘルメットと少々異性に耐性のない出久には少し刺激的だった。周りもよく見てみるとと女子のクラスメイト達の中にも体のラインがはっきりしている戦闘服を着ている人が多い。
「まあ、私はまだ良い方なんよ。他の子は露出度が高くなってる子もいるみたい」
「どうりで…」
そう言って出久は一際露出が激しいポニーテイルの女子、八百万をみてすぐに目を逸らす。
だが麗日の言葉に出久は固まることになる。
「いやいや、実はヤオモモは注文通り。むしろ逆に隠されちゃってるんだって!」
その後、クラスメイトの一人である峰田が『ヒーロー科最高!』とサムズアップを向けて同意を求めて来たが、出久は何も言えなかった。
「では戦闘訓練を開始するぞ!内容はヒーローとヴィラン二人ずつ分かれての屋内対人戦だ!」
オールマイトが説明した内容はクラスメイト達が予想していた屋外での訓練ではなく、屋内の戦闘訓練だった。なんでも、世間ではよく屋外の戦いが注目されることが多いが、統計で言うなら凶悪ヴィランの出現率は屋内の方が高く、監禁・軟禁・裏商売など『ヒーロー飽和社会』と呼ばれるこの現代において、真に賢しいヴィランは屋内と言う名の闇に潜むのだという。
「基礎訓練もなしに?」
「その基礎を学ぶための訓練さ!」
ダイビングスーツ風のコスチュームの蛙っぽい女子生徒、蛙吹の質問にオールマイトはにこやかに答えた。
そこからオールマイトによる詳しい今回のルール説明、クラスメイト達からの質問の嵐を経て、早速一試合目が始まる。
対戦カードが……
ヒーロー:Aチーム 出久&麗日。
ヴィラン:Dチーム 爆豪&飯田。
初っ端から面倒臭い組み合わせに、出久は少し神様を恨んだという。
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〈出久side〉
僕は自分の試合が一回戦目で、なおかつかっちゃんが相手にいる神様が悪戯をしているのではないかと思ったが、際は投げれたのだから腹を括るしかない。
ヴィランチームは先に会場であるハリボテの核兵器が設置されているビルに入り、五分後に僕と麗日さんのヒーローチームが突入する。突入するまでの時間は他のクラスメイト達やオールマイトがモニタールームに移動したりそれぞれのチームが作戦を立てる時間だけど、きっとかっちゃんや飯田君は個性の関係上接近戦が主になる。僕は緊張を落ち着かせようと深呼吸をしていると麗日さんに話しかけれた。
「大丈夫?緑谷君」
「え、ああ、うん……ちょっとね」
「爆豪君のことかな?」
「まあね、幼馴染なんだけど…色々あって。今回が初めてなんだ、正面からやり合うの」
そう言って僕は右手に装着している黒いグローブを付け直す。
今まで、かっちゃんと真正面からやり合うことなんて、一回もなかった。
個性がないと診断されて、ダイゴさんに夢の中で認めてもらってから無個性のことを馬鹿にしてくる連中なんて目もくれずにがむしゃらに努力してきたから僕は、学生時代に常に中心にいたかっちゃんとはほぼ会話はなかった。でも、時々衝突することはあった。中学3年の時の進路のことや、ヒーローに関する出来事のたびにかっちゃんは僕につっかかってきて、僕も時々言い返したりしたけど、個性を使用した『脅し』はあっても『やり合い』はなかったのだ。
「あれかな?男子の因縁的なやつ?」
「まあ、そんなところ」
そんな話をしていると、オールマイトからそろそろ始まるという通信が来た。
僕は寄りかかっていたガードレールから離れて、軽く体をほぐす。
「じゃあ、行こうか麗日さん」
「うん、ガンバロー!」
僕と麗日さんはそう言って会場のビルの入り口に向かってった。
やり合うのは初めてだけど、勝たせてもらうよかっちゃん。
〈出久side out〉
『それでは時間だ!AチームvsDチーム、屋内戦闘訓練……スタート!』
オールマイトの宣言を聞いて、出久と麗日はビルの中に入っていった。まずは核兵器のハリボテを探そうと麗日と移動していると徐々に爆発音が一近づいてきた。出久はすぐにその爆発音を出している正体に気がついた。
(かっちゃんだ…!)
気がついた出久はすぐに迎撃をできるように『光』を引き出し足に纏って、爆豪の奇襲の瞬間に麗日を横抱きに抱え飛び躱す。
目線は爆豪から離さない出久は麗日をおろした後、腰を落として構えを作る。
「デク……よけんなや」
そう言った爆豪は鋭い目を出久に向け、冷静な表情で手のひらでボボボボと爆発を小さく断続的に発生させていた。
出久は構えた状態で爆豪を観察すると、一つのことに気がついた。
(顎が引けてる……)
出久の記憶にある爆豪は常に自信満々で感情的に人を見下すように顎が上に上がっているイメージが強かった。だが、今の爆豪は顎が引けていて冷静にこちらを見て次の動きがどうなるのか観察している。一筋縄ではいかないだろうと、出久は麗日に声を掛ける。
「麗日さん」
「ひゃい!?」
「悪いけど、先に行っててくれるかな……あとで合流しよう」
「う、うん!わかった!頑張ってね、緑谷君!」
そう言って麗日はサムズアップして先に進んでいった。顔や耳が赤かったのはご愛嬌である。
制限時間がある以上、出久は早く先に行かせた麗日と合流したい。だが、爆豪が目の前にいる以上そう簡単にはいかないだろう。
「勝負だ…デク」
爆豪は一気に出久に接近し、出久が
出久は最小限の動きでその攻撃を躱したあと、光を右手に収束させ、ガラ空きの胸部に掌底を放って吹き飛ばした。
だが、爆豪も諦めずに吹き飛ばされる瞬間に出久の顔面に爆破を叩き込んだ。二人ともダメージを相手から貰い少し顔が歪む。
「あっつ!」
「いってぇなあ!」
二人はそう愚痴りながらまたお互いに向かっていく。
そこからは、二人が今まで培ってきた技術を使った、一進一退の攻防が続いた。
爆豪のスタイルは自身の持つ才能や訓練で鍛え上げた感覚で攻め続ける攻撃を主体にした技。
出久のスタイルは今までの分析を頭の中で引き出しながら相手の行動を予測し、攻撃を受け流しながら重い一撃を与える攻撃を主体にした技。
方向性には違いはあるものの、お互いに一歩も引かずに打ち合いを続けている。だが、それもすぐに終わった、出久が爆豪の攻撃の隙をついて、強烈な右ストレートを腹に叩き込む。そのモロに入った一撃に、爆豪は少しふらつく、ふらついている間に出久は確保テープを巻こうと動いたが、持ち前のタフネスで反撃をされ出久は吹き飛ばされてかなり距離が離される。
「……やってくれるじゃねえか、デク」
「そりゃあ負けられないからね。特に君には」
出久はそう言ってまた『光』をまた引き出し、今度は右腕だけに光を収束させて構え、手裏剣状の光線を繰り出した。
「ハンドスラッシュ!」
入試の実技試験でも使用した手裏剣状の光線は、今回は連射する形で爆豪を狙い飛んでいく。
その連射された光線を見た爆豪は冷静に最小限の動きで躱し、お返しとばかりに自身の戦闘服の装備品である手榴弾の形をした手甲のピンに指をかける。
(かっちゃんの個性はニトロのような汗を爆発させる個性、もしかしてあの手甲は…まさか!?)
何をするつもりかわかったその瞬間に、ゾクリと嫌な感覚が出久の背中に奔る。
それと同時に、オールマイトの静止の声が聞こえた。
『爆豪少年、ストップだ!殺す気か!?』
「死にやしねえよ、せいぜい気絶程度だ」
そうオールマイトに返事をして、ピンを抜く爆豪。そのタイミングは、出久が両腕に光を収束させたのと同時だった。
ドオオオオオオオオオオオオン!!!!!!
爆豪の手甲から放たれた爆炎は、出久もろともビルの壁ごと破壊する……そう思われた。
だが、その爆炎は出久より後ろにいくことはなかった。
「……ウルトラシールド」
出久が両手を大きく開きながら前に突き出し金色に輝く膜を張っていた。
その膜は全く傷つくこともなく、巨大な爆炎を受け止めた。流石に爆豪も、そのことに動揺する。だが、それは別の場所で見ているクラスメイト達も同じだった。
「すげえ!緑谷のやつ爆豪のどでかいやつ防ぎやがった!」
「あいつの個性万能だな……どんな個性なんだ?」
「あの膜…どんな強度をしてますの……」
モニターに映る映像を見ながらクラスメイトたちは出久の能力に舌を巻いていた。
個性把握テストで優秀な成績を収めた出久は、クラスメイト達からも注目の的だった。光を纏いながら行動をしていたらそれは目立つ、尚且つ光線なんて撃てるところも一部の男子からしたら憧れのようなものだ。個性黎明期前にあった特撮のヒーローのような「ヒーローらしい個性」である出久は推薦入学者以外では注目度一位である。
一方で、オールマイトも出久のことに注目していた。
あの「ヒーローになれるか」という質問の後、ヘドロヴィランで活躍した出久。
光を纏って人を救いに行った姿に、自身の秘密の後継者の候補として記憶していた。
本格的にその後継者の候補へと見据えたのは入試の実技試験の時。同じ受験者を助け、逃げずに0ポイントに立ち向かった出久の姿に別室で他の教師達とモニターを見ていたオールマイトは次代のヒーローとしての才能を見抜いたのだ。
そして現在、オールマイトは教師として、出久は生徒として雄英にいた。
(見極めさせてもらうぞ……少年!)
「なんとか防げた……」
一方出久は、なんとか爆豪の爆撃を防げたことに内心ホッとしていた。
今使った技「ウルトラシールド」はダイゴが変身した光の巨人が使っていた防御技だ。本来なら広げた両腕のサイズの程のものしか出久は作ることができなかったが、自身の引き出した光をエネルギーに変換して防壁を作る工程をすっ飛ばし、『光』を薄く大きく張ることに爆炎を受ける直前に変更して成功させた。
出久はウルトラシールドを解除し、自分の自慢の一撃でもある攻撃を無傷で止められたことに動揺している爆豪に駆け出す。
だが、『才能マン』としての称号をいずれクラスメイトから頂戴する爆豪、すぐに対応しようと構えるが一瞬遅かった。
「終わりだ、かっちゃん!」
「なっ……」
爆豪が構えを終える前に出久が爆豪の右腕に確保テープをすれ違いざまに引っ掛けて、体勢を崩し手刀で首を叩き、気絶させる。そしてそのまま胴に確保テープを巻き付けた。
それと同時にオールマイトから爆豪確保の通信が入る。
出久は爆豪を壁に寄り掛からせるように体を動かし、先ほど入ってきた麗日からの通信で、核のハリボテがある場所に向かう。
「今回は僕の勝ちだ。また勝負しようよ、かっちゃん」
♢♢♢
そこから出久はすぐに麗日と合流し、飯田を撃破。
その後に推薦入学者の一人である八百万の好評でオールマイトが言いたいことをあらかた言ってしまったり、もう一人の推薦入学者である轟焦凍が圧倒的な『個性』を披露したりなど個人個人気合の入った初のヒーロー基礎学の授業をやり切った。
そして場面は変わり、教室。
現在誘いを断った轟と爆豪以外のクラスメイト達が今回の授業のことで反省会を行っていた。
「じゃあの時すぐに突っ込むんじゃなくて一旦止まったほうがよかったのか?」
「でもそれじゃあ本当のヴィランの時はどう動くかな?」
「ならあの時の行動は…」
それぞれの試合の内容を振り返り、反省点や改善点を話している。
そんな中、一人ひたすらノートに書き込む男子がいた……出久である。
ガリガリガリガリガリガリガリガリ…………
出久は今回の試合で見たクラスメイトの個性や戦い方を分析し、ノートに書き込んでいた。
自分なりに考察し、クラスメイトの個性の弱点や現在の改善点を書き起こしている。
そんな出久に話しかける人間が一人、切島である。
「なあ緑谷、何書いてんだ?」
「あ、切島君。今日の授業で見たみんなの個性に関しての自分なりの分析をしてみてるんだ。今まで書いたやつとかもあるけどみる?」
そう言って出久は切島に書いているノートを見せた。
「おおサンキュ!…ってすげえ細かく書いてあるな?!」
出久からノートを受け取った切島は、ノートに書いてる内容に思わず声を上げた。
今見せてもらったのは切島自身のページ。自身の試合内容から考察された個性の性質、弱点、改善点、成長させるなら自分はこうすると言った内容が綺麗なイラストとともにびっしりと書いてあった。
「スゲェよ緑谷!」
「あ、ありがとう」
切島が出久を褒めていると、他の話をしていたクラスメイト達が寄ってきた。
「なになに〜?どしたの切島?」
「おお芦戸!緑谷のノート見せてもらったんだよ」
ピンク肌の派手な女子、芦戸三奈が切島が持っているノートを覗き込んだ。
「おー!たくさん書いてある!」
ノートを覗き込んでそういった芦戸。
そこから戦闘服の件で仲良くなった男子も集まってきて、遠巻きに見ていた女子達も出久の周りに集まってきた。
「すげぇ分析してんな緑谷」
「あの授業一回だけでここまでわかるものなのね……すごいわ」
「あ、ありがとう?」
出久は自分の日課になっていたノート分析がここまで高評価をもらうとは思ってなかったのか、少し戸惑いながら返事をする。
正直、引かれると思っていた出久は少し嬉しくなった。
「プロヒーローとかの分析ノートも家にあるけど……今度持ってこようか」
「マジで!?興味あるわ!」
それからは出久のノートで分析した内容の解説やクラスメイトと達の質問に答える時間となった。
後にこれが毎週放課後週一のペースで行われる研究会のようになるのは少し先の話。