ガバガバなところあると思いますが、よろしくお願いします
さらさらと、風の音が聞こえた。
ゆっくりと目を開けると、そこに広がるのは黒い塗料をぶちまけたような暗い空が目に入る。
唯一とも言える光源である月がとても不気味に映った
すぐ隣へと視線を動かせば崖が高く聳えている。
ここからはよく見えないが、その上は舗装された道となっているようだ。
頭を動かすと、頬に草の擦れる音と感触。
加えて、どうやら水捌けが悪いようで背中は水溜りに浸かってしまっているようで、濡れて気持ちが悪い。
そこで自分が地面に仰向けに寝ているということを認識した。
だが、何故だ? という問いが頭で反復する。
夜、しかもこんな場所で寝転がるなんていう趣味を無意識で始めた……なんていうことはないはずだ。
考え事をしていると、先程から頭に鈍い痛みがズキズキと走りだした。
そういえば、この間……大仕事を終えた後に祝杯と称して、酷く酔いつぶれてたというこを思い出す。
そして、そのまま道端で一夜を明かした……なんてことがあったな。
今回もそれだろうか。
あの時は彼女に酷く叱られてしまったな……。
本気で怒っていた顔を思い出して、背筋に寒気が走る。
というよりも、本当に寒気が……。
早く帰らないと。
ともかく、ここがどこかハッキリさせる必要がある。
痛む頭を押さえつつ、上体を起こした。
そこで初めて。
下半身が無くなっていることに気付いた。
代わりにと、潰れた果実を彷彿させるひしゃげたそれは、赤い肉と白い骨、黄色い脂肪層が見える肉体と遅れて理解。
そこに自身が身に着けてたであろう靴やズボンと思わしき物体が、肉塊と混ざり模様を作っている。
ズタズタになっている鞄から荷物が散乱しており、それらも赤く染まっていた。
反射的にそれらを拾おうとして、頭から手を離すと、突き出した掌に、べっとりと血と粘度の高い何かがこびり付いているのが分かる。
腕を伝ってゆっくり垂れて、零れていくそれは自分の脳漿だった。
前のめりになることで、背中にビチャリと張り付く感触。
その隙間を縫うように、生暖かい液体が背中へ通って腰まで流れていく。
先程まで泥水と思っていたそれらは、自分から洩れていた命の水であった。
見れば、両手を合わせても三本の指しか残っておらず、残りは全て根元から千切れている。
口からは悲鳴の代わりにと、血泡が零れた。
堪らず再び仰向けに転ぶ、動く度に体中からジャリジャリと砕けた骨の合唱が聞こえる。
嗅覚からは周囲に漂う鉄の匂い。
救いようのない死が、ここにはあった。
職業柄、死というものは覚悟してきたつもりであるが、その殆どが即死を想定。
だから、ますます恐怖心が募っていくとそう思っていた。
だが、次第に、この状況に対する疑問が上回る。
これから死ぬ人間ならではの反省会というものだろうか。
不思議と痛みはない。
頭痛も既に引いていた
視界の隅に映る携帯端末は見事にひしゃげて、最早通信機能など持ち合わせないただの歪な板切れとなっている。
そこでじゃり、と耳元で土を踏む音。
視線だけそちらへ向けると、顏の横に誰かが立って見下ろしていた。
黒服の男性ぽい何か。
いや、男性というよりかはスタイルは女性にも見える。
黒のスーツに白いシャツ、青と銀色であしらった縞ネクタイ。
後ろで束ねた黒髪に、青白い肌と切れ長で黒目の大きい目。
片手に人を撲殺できそうな大きさの本を開いて持って、こちらの顔を何度か見比べていた。
瀕死の奴をジロジロと観察するそいつに不快感を覚えていたが、それ以上に安らぐ印象が優っていく。
不思議な気分であった。
しばらくして、本に何かを書き込むと本を閉じて、ソイツは自身のがま口鞄に、ちょっと手間取りながら本を押し込んだ。
引いていたはずの再び痛みが戻ってきた。
蘇ったそれは先程とは比べものにならないもので、ガンガンと爆発するような頭痛。
それは頭だけではなく、身体全体がバラバラに千切られていくような錯覚。
殺してくれ!!!
叫んでも声は出ない。
代わりに響いたのは浴槽から栓を抜いた時のような音。
ソイツはその様子を何とも言えない表情で見ていた。
ジッと見ていたソイツは、汚れた地面に片膝を付いて、こちらに手を伸ばしてくる。
近づく度に痛みが増し、掴まれないように身体を捩じるも砕けた骨同士が削り合う音と共に脳に強烈な痛みが貫くだけだ。
ソイツの手がこちらの顔を鷲掴むと、痛みが爆発した。
声にならないと分かっていても、俺は叫んでいた。
吐き出される血や体液で顔や衣服が汚れるのを気にした様子はなく、ソイツは掴み続ける。
抵抗も出来ずに、逃げることも叶わずに俺はただただ声にならない絶叫を響かせた。
猛烈な嘔吐感や、潰れていく意識の中、ふと痛みが完全に消えていることに気付く。
俺の声が止むと、掴んでいた手も離されていた。
もう呼吸することも忘れて、意識が遠のいてく中で、ソイツは俺の捩じれて乱れていた服を掴んだ。
脇の下を少し引っ張って、皺を伸ばして整える。
自らの黒い上着を脱いで、俺に掛けた。
そうして、上着の上からポンと軽く肩を叩いてくる。
そこで俺は意識が消えた。