竜の尾を噛む死にぞこない   作:ミ景

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第一章 Ⅱ

 声の意味もわからずに距離を詰めていた大男は槌を振り下ろし、細身の剣士の刃が横に振り抜かれる。

 強盗たちと双剣を携えた男が交錯。

 男の右の刃が剣士の刺突を受けて、回転。

 受けた男の禍々しい刀身の先に術式の光が放たれると同時に、剣士の胸板から顔までを串刺しにする。

 その正体は重ねられた翼が伸び、合計十六本の槍となっていた。

 巨漢が下ろす大槌を翻った刃が受ける。

 大槌と柄、巨漢の胴体ごと両断。

 凄まじい量の内臓と血液が跳ねると、轟音。

 仲間二人が一瞬で死んだために、双剣の男ごと爆破に巻き込んだのだ。

 白煙が晴れていく中で、男は平然と立っている。

 背に回した三角形の刃が盾としての機能を果たしていた。

 強盗は後退しながらも、弾帯から次弾を装填し、引き金に指を掛ける。

 間合いを取れば、この路地では遠距離攻撃の方が有利───そう、常識的には。

「死ねっ!」

 強盗の声は空中高くから発せられていた。

 頭部は首で切断され、路地の三階の高さまで飛んでる。

 首が落下し、断面から雨に濡れたアスファルトへ血を滲ませていく。

 転がり血の軌跡を生み出すその顔は勝利の確信が浮かんだままであった。

 前に掲げた左の剣は、細く長く伸びており、三角形が連なり鞭のように伸びた刃が男の首を切断したのだ。

 双剣の男が手を捻ると、長い円弧となった刃が戻っていき、畳まれ元の三角形の刀身に戻る。

「やはり、魔剣《ヴェスペルト》と《量契のトリアングロ》だ!」

 術士は自らの得物を掲げて震えていた。

「この双剣に見覚えがあるということは……オーレリア共和国のものか」

 雨に濡れつつ、双剣の男は立っていた。

 雨が零れる庇の下で、凍えるような氷雪の青い目がそこにはあった。

「お前は……いや、貴方様は──」

 オーレリア出身の男はその場に右膝をついた。

 腕を交差させて、感涙に声が震える。

「オーレリアの勇者、アグへロ様!」

 アグへロと呼ばれた男は答えない。

 周囲に仲間の死体はあっても関係なく、術士は畏怖と尊敬で目を輝かせていた。

「今ではこのクロマトに逃れて、このような生活を送っていますが、私は第一次と第二次のリェチエイ紛争に従軍しておりました! オーレリアの勇者と栄えある双剣を見間違うはずありません!」

 そこで一転して男は項垂れる。

「申し訳ありません! 一国民として、貴方に刃を向けることになろうとは……なんという無礼を! この場で斬ってくださっても構いません!」

 再び、男が顔を上げると、目には疑問が宿っていた。

「しかし、何故貴方様がここに……?」

 男の語尾は次第に小さくなっていく。

「確か……ザガリアのトーレプンテ大虐殺で投獄されたはずでは……?」

 アグへロは答えない。

 ただ、そこに立っていた。 雨に打たれて、立っていた。 

「俺はもはや勇者などではない」

 男の肩には怒りが溢れていた。

「今では単なる虐殺者、脱獄者として追われる身である」

 アグへロの左手が掲げられていく。

 その瞳は酷薄な蒼氷色となっていた。

「だから、俺がここにいる事実を知られることを好まない」

「アグへロ様!」

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