悪童ウマ娘   作:囃子とも

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個人的に推しキャラはアグネスタキオンです。

ミホノブルボンは、未だに引けません。


個人的にはウマ娘達は、アスリートと言うよりレーシングドライバーじゃ無いかと、個人的には解釈しています。


2R 雨中の選考会

 

 試験当日。薄暗い空には、分厚い雲がかかっている。

「……三十九度近いな」

 医務室に運び込まれたレガシー。体温計で示された熱を見る限り、調子は最悪だ。

「恐らく立ってるだけで精一杯だろ?

 まともに走れるのか?」

「……さぁな。ただ……やるだけの事はやれるぜ」

 口元をニヤリとさせるレガシーだが、瞳の焦点は明らかに定まっていない。

「もっとも、ダメだったとしても一年間は職員として、学園に在住する事は可能だ。その間に時間を見つけてトレーニングは詰めるだろうし……」

「……止めてくれ。そんなつもりでオレはここに来てる訳じゃないんだぜ」

 そう言ったレガシーの顔つきは、真剣そのものだった。

 

 

 そして、運命のトライアウトが始まる。

 

 学園内の競技場で行われるたった一人のトライアウト試験。

 この異例の事態は、理事長の秋川やよいが招いた事であり、自身の目で見るべき事態だとも理解していた。

「随分と調子を崩している……か」

 そう呟くやよいが少し肩を落としている事を、秘書である駿川たづなは見逃さなかった。

「理事長……少し残念そうですね」

「……肯定。

 長い間多くの逸材を見てきたが……あれ程負けん気の強いウマ娘は皆無。故に……反骨精神の強さには目を見張るべきと見た……。」

「…………歴代の多くのG1ウマ娘。天才と言われた彼女達も……気性は荒っぽい方々ばかりでしたよね」

 たづなは笑みを作りながら、懐かしむように言った。

「シンザン先輩にタケホープ……。カブラヤオーにTTGお三方……もとい三バカ。皆、天才と謳われたが……その武勇伝の多さも数知れず。人格がまともだったのは、ハイセイコーくらいだったか……」

 そう呟きながら、やよいは空を見上げた。

「……あの頃のウマ娘の面々と比べたら、今の子達なんて手がかかりませんよ。執務以外の仕事は、無いに等しいですからね」

 たづながクスッと笑う、上空から少しだけ雨粒が落ち始めていた。

 

 トライアウト試験が始まる時間になると、雨が芝を濡らしている。場は重くなり、路面状況は悪くなる一方だ。

 

 そして、試験内容を伝える為に、学園の生徒会執行部が競技場へとやってきた。

「生憎の天候になってしまったか」

「…………っ!?」

 レガシーの目の前に現れたのは、国内で最強と謳われるウマ娘。

「今回、伴走試験を務めさせてもらう、トレセン学園生徒会執行部“シンボリルドルフ”だ。よろしく頼むよ」

「……こちらこそよろしく」

 そう言って、立ち上がるレガシーだが……。

「……あれ?」

 しかし、立ち上がる事が出来ず、再び地面へとへたり込んでしまう。

「……随分と調子悪そうだが?」

「あ~……待ちくたびれて、アップに全力で走りすぎただけだ」

 ルドルフの問いに、レガシーは減らず口を叩いた。

「そうか……。だが、試験では一切手は抜かない。それだけは覚悟しておいてもらおう」

「……上等」

 

 トライアウト試験でもっともハードルが高い試験は、伴走試験と言われる実技試験だ。

 本来は基礎的な試験を行ってから何名かを選抜するのだが、今回はレガシー一人だけなので一発目から伴走試験を開始する運びとなったのだ。

 

 伴走試験とは、先行するウマ娘についていくと言う簡単な内容である。

 問題は、その伴走を務めるウマ娘が、尋常では無く速いという事だ。大体はG1優勝や、それに準ずるほどの実力のあるウマ娘が務める事が通例だが。

 今年に限っては、最強と言える伴走者に当たってしまったのだ。

 

 観客席から見守るやよいは、思わず口を走らせる。

「仰天……。まさかルドルフ自らが伴走を行うとは思いもしなかった……」

「昨日、ルドルフさんに試験のことは打診しましたけど……。まさか彼女が走るなんて……」

 たづなも、驚きを隠せない。

「この秋川……。責任をもって、試験を見守る事にしよう」

 

「では……始めよう」

 先行のルドルフが、ゆっくりと走り出す。

 それにならう様に、レガシーもついていく。だが、まだジョギング程度のスピードだ。

 

 直線から、1コーナーへ差し掛かった所で、ルドルフのペースが僅かに上がる。

(……ニャロッ!!)

 ついていくレガシーも、ペースを上げる。

(これ位はまだ序の口……)

 裏側の直線を抜け、3コーナーへ。ここで、再びルドルフのペースが上がる。

「……クソッ!!」

 レガシーも、ペースを上げて喰らいつく。

 

 この伴走試験の中で最も苦しいとされるポイントは“ゴール”が無いと言う事に尽きる。

 例えば2000メートルなら、その距離なりのペース配分を自分自身で考えるのが普通である。

 しかし、前を走るウマ娘のペースに合わせて、ひたすら延々と走るという事は、終わりが全く見えないと言う事だ。仮にジョギング程度の速度なら兎も角、レーシングスピードで走るとなると、肉体的にも精神的にもその負荷は想像を絶する。

 

 トラックを一周半。距離としては、マイル程度のレースを一本消化した程度は走っただろう。

(……まだついて来るか。ならば……)

 意外と粘るレガシーを見て、ルドルフは更にペースト上げていく。ここまでペースが上がるとなると、本番レースさながらの速度域に到達する。

 

(……まだ、速く走れるのか!? クソッ……バケモノめ!!)

 内心で毒付きながら、レガシーは気合と根性でルドルフを追走する。

 

 

 たづなは、たった二人しかいないトラックを見つめ、一言呟いた。

「……彼女、本当に熱を出してるんですか?」

「……私は戸山くんからそう聞いている。確かに、顔色も悪かった……。

だが……」

「……あそこまでペースを上げているルドルフさんに追走できる子なんて、何人も居ませんよ」

「……見上げた精神力。すなわち……根性!!」

 やよいの視線は、既にレガシーから離れない。

「……ええ。卓越した精神は、どんな肉体をも凌駕する……」

 それは、たづなも同様だった。

 

 周回は三週目へと突入した。ルドルフは、既に全力に近い速度で走っている。

(……まさか、この私が伴走試験でここまでペースを上げる事になるなんて……思いもしなかった)

 最近は、レースに参戦していない。とは言え、ルドルフは鍛錬を欠かしていなかった。

 

 それでも、レガシーはルドルフを射程圏内で追走する。

 

(……負けねぇ)

 

(オレは……負けねぇ!!)

 

 その走りを支えているのは、間違いなく根性だけだった。

 

(オレが……一番速いんだ!!)

 

 

 その気迫は、ルドルフの背中に突き刺さるようだった。

(……見上げた精神力だ。もはや彼女は、一介のウマ娘ではない……)

 それ故に、“皇帝”の本気を引きずり出す事となったのだ。

(こちらも……全力で走らせて貰おう!!)

 

 ついに、ルドルフはその伝家の宝刀を抜いた。

 

「……ッ!?」

 

 数々の栄誉を手に入れ、多くのウマ娘達を屈服させてきた、その末脚がついに解き放たれた。

(……は、速えぇ!!)

 レガシーは捉えられそうだったと思っていた背中が、一気に離れていく。

 

 しかし、レガシーはそれでも全力で走る事を止めなかった。

(……まだだ。まだ……オレは走れるんだ!!)

 

 たとえ、ルドルフの背中が遠ざかっても。

 

(だから……諦めねぇ!!)

 

 レガシーは走り続けた。

 

 

 

「…………」

 レガシーの視界に飛び込んできたのは、白い天井だった。

 薬品の様なツンと突き刺さる匂いが、嗅覚を刺激する。

(……ここは何処だ? オレは……さっきまで競技場を走ってた筈だぜ……?)

 体を動かそうとしても、鎖で縛りつけられてる様に、手も足も動かない。それに加えて、酷く頭が痛む。

「どうやら、目は覚めたようだな」

 声のする方へ視線だけ移すと、そこには戸山が座っていた。

「おっさん……ここは何処だ?」

「最寄りの病院だ。お前さんは、試験で走り終わったと同時にぶっ倒れて、丸々一日寝てたって訳よ。

 もっとも、三十九度も熱が出てる体で、あれだけ走れば倒れるのも無理はないだろうがな」

「……そうか」

「それと、理事長からの伝言だ」

「……伝言?」

 

 

「レガシーワールド。トレセン学園への入学を……許可する。

 トライアウト試験の結果は……合格、との事だ」

 

「……ッ!?」

 

 戸山のニヤリとした口元が、レガシーの目にはしっかりと焼き付いていた。

 




秋川理事長のセリフを考えるのが、案外難しいと思う次第であります。

名馬と呼ばれるサラブレッドは総じて気性に難が有るって話ですが、世に居る天才達も大体変人だと言う話も良く聞きます。
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