練習も終わった所で、チームアンタレスの面々も寮に帰宅するのだが。
「さて、今日の終わった事だしさ。これから、レガシーの歓迎会でもしようか?
幸い、トレーナーの方から明日の練習は午後からにすると、許可は貰っている」
年長者のケンザンがそう提案した。
「あ、それだったら私の実家から送られてきてるお菓子が有りますから、丁度お菓子パーティーが出来ますよ」
ユートは右手を上げて提案した。
「やりぃ!! ユートの実家は、老舗の和菓子屋だから、羊羹とか絶品なんだ」
タニノは分かりやすいくらいに、テンションが上がっていた。
「……非常に良いと思います」
淡々とした様子だが、ブルボンも乗り気の様だ。
「…………羊羹」
そのキーワードを呟きながら、レガシーはジュルリとよだれを拭った。
何を隠そう、レガシーは和菓子。特に羊羹が大好物だった。
シャワーを浴び、夕食も腹八分で済ませて、全員がケンザンの部屋に集合した。
「……さて、皆お茶で良かったか?」
ケンザンが紙コップとペットボトルの緑茶を準備していた。
「いいっすよー」
タニノがコップを全員に手渡した。
「私も持ってきましたよー」
今度はユートが、段ボール一杯の和菓子をテーブルに広げていく。
「オレは、たぶん無いと思って飲み物は持って来たぜ」
そう言ってレガシーはブラックコーヒーを取り出した。
「え~……和菓子にコーヒー?」
「なんだよタニー。意外と合うんだぜ?」
タニノの反応に、レガシーは不満気だ。
「……後で試してみましょう」
ブルボンは若干の興味を示している。
全員に飲み物とお菓子が生き渡った所で、ケンザンは改めて号令をかけた。
「では……改めて。ようこそ、レガシーワールド!! 我がチームアンタレスへ!!」
「おう!! よろしく頼むぜ!!」
全員が乾杯をした所で、ブルボンは羊羹を一口頬張る。そして、ブラックコーヒーで流し込んだ。
「……な? 結構合うだろ?」
レガシーは聞きただすが。
「……私はお茶の方が好き。そもそも、コーヒーはあまり好きじゃない」
ブルボンは淡々と答える。
「じゃあ、何で試したんっすか?」
タニノは思わず突っ込んだ。
「興味本位。物は試し」
ブルボンはそう言って、再び羊羹を一口。
(……案外面白い奴だな)
レガシーは、ブルボンに対して最初とは違う印象を抱いていた。
「羊羹だけじゃなくて、どら焼きとか柏餅もわらび餅も有りますからね~。どんどん食べてください」
ユートは段ボールから次々とお菓子を出していく。まだまだ、お菓子パーティーは始まったばかりだ。
「……そう言えばさ。トレセン学園って皆チームに入ってんじゃん。あのチーム名って、何か意味でもあるのか?」
レガシーはふと口に出した。
「あー、そういうばそうっすね。確か、どのチームも星の名前って聞いた事あるんすけど、詳しい意味は考えた事無かったっすね」
タニノもそれにならった。
「由来とか有るなら、私も少し興味あります」
ユートも、そそられるようだった。
「うむ……。
私もトレセン学園の広報で読んだだけの話だから、本当かどうかは分からないが……。
そもそも、チームを組む事自体が、トレセン学園の前身である“全日本ウマ娘競技会”の時からの名残らしいんだ。
星の名前を付ける様になったのも、当時の“全日本ウマ娘競技会”の会長が夜空に輝く一等星の様なウマ娘を目指す、と言って決めたそうだ。
それ以来、トレセン学園と名前を変えても、星の名前を付ける伝統は変わっていないそうだ」
ケンザンの言う話は、丸でおとぎ話を聞いている様だった。
「リギル、シリウスと言った強豪。カノープス、スピカと言った新興チーム。これらも、皆星の名前から来ているし、何かしらの意味を含んでいるそうだ」
「……じゃあ、“アンタレス”も星の名前って事か」
「ああ。アンタレスの意味は、私自身がトレーナーから聞いている。
アンタレスとは、さそり座の中で最も明るい恒星の事。所謂“アンチテーゼ”と言う言葉の語源となった星だそうだ。
トレーナーはいつだか言っていたよ。アンタレスと名付けたのは、才能へのアンチテーゼだと」
「…………」
「戸山トレーナーは、トレセン学園のトレーナーでもスパルタとして知られている。
しかし、それはトレーナーの持論に基づいていると、私は聞かされたんだ。
“トレセン学園に入れるウマ娘は、根本的に才能が有る。後はそれを伸ばせるかどうかが、トレーナーの腕の見せ所。だからこそ、鍛えて才能を作る”とね……」
ケンザンの言葉に、皆自然と耳を傾けていた。
「……もちろんトレーナーの課す練習量は、他のチーム比べたら相当に多い。ただ、その分アフターケアには気を回してくれるし、怪我をした時のフォローもしてくれる。
万が一、再起出来ない程の故障だった時……。その際の進路も、親身になって世話をしてくれる。
実際、怪我で再起出来なかった先輩達の為に、トレーナーが全国を駆けずり回って、就職先を探してくる姿を見てきた。
だからこそ、私はこのアンタレスの為に走りたい。そう思ってるよ」
ケンザンはそう語ると、お茶を一口飲み込んだ。
実際、レースで活躍できるウマ娘など、極々一握りの選ばれし者だけの領域。
その下には歯を食いしばってあがき続けるウマ娘や、志半ばで夢破れ涙ながらに田舎に帰るウマ娘は幾らでもいるのだ。
「……さ。湿っぽい話もここまでだ。まだまだ、お菓子が残ってる様だし。今日は思いっきり食べようじゃないか」
切り替える様にケンザンはそう言った。
「そうっすね!! 太ったって、明日から走ればいいんっすから!!」
それにならって、タニノもどら焼きに手を伸ばした。
(……華やかな部分が眩しけりゃ、それだけ影の部分は暗くなるって事か)
レガシーは、ふと思いながら羊羹に口を付けていた。
翌朝。
まだ朝日が出始める位の時間に、レガシーはトレーニングウェアで寮の前に居た。
(……まぁ、練習は昼からだけど朝の内に軽くジョギング位しとくか)
昨日ケンザンに話を聞かされたから、と言う訳でも無いがなんとなく朝から体を動かしたい気分だった。
「……あれ? レガシー?」
「ん……タニーじゃねぇか」
軽く準備運動していると、タニノがジャージ姿で寮から出てきた。
「何してんだよ、こんな朝っぱらから?」
「そりゃ、こっちのセリフっす……」
すると今度は。
「……タニノにレガシー?」
「ブルボンまで何してんだ……?」
「私は、朝のジョギングはルーティーンだから。貴方たちも同じ?」
「まぁ……そうっすね」
そうすると、またまた。
「……皆、何で朝からトレーニングウェアで外に居るんだか」
「あら~……。皆さんおはようございます」
今度はケンザンとユートが、揃って合流してしまった。
朝市から、チームアンタレスが揃い踏みとなった。
「まあ、折角皆揃った訳だし。アンタレス全員で、軽くランニングと行こうか」
ケンザンの号令に合わせて、チーム全員でジョギングする羽目になったのだった。
その日の生徒会室。
シンボリルドルフともう一人は、ある動画を見ていた。
「…………」
その動画は、レガシーのトライアウト試験の物だった。
「……私が全力を出した時。彼女の意識はほぼ無かったに等しいだろう」
引き離されても、なお食い下がろうとするレガシーの姿を、カメラはきっちり捉えていた。
「……闘争本能だけが、彼女を突き動かしていたのだろうな」
「…………ふーん」
しかし、もう一人のウマ娘はあまり興味を示していない様だ。
直線の真ん中付近から、ゆるゆると速度を落としていくレガシーは、ついに停止してしまいそのまま地面に倒れ込んでしまった。
「……君はこの走りをどう思う?」
「…………たしかにカイチョーの本気には、ボクだって着いていけないもん。気合と根性はみとめるかなぁ~。
だけど……その子とレースしても、勝つのはボクだからね~」
そのウマ娘は、自信有り気に答えた。
「……そうかい。ただ……一つだけ伝えておこう。
過去に選考会を突破したウマ娘は、二人だけ存在する。
一人は私の先輩にあたる“グリーングラス”。もう一人は“タマモクロス”。
どちらも、G1戦線で活躍したウマ娘なのは言うまでもない……」
「…………」
「君の才能は認める。
ただ……故に狙われる立場だという事は、重々承知しておく必要がある事は伝えておこう……。
グラス先輩もタマモも、競り合いでは絶対に引き下がらなかったからね」
「…………ボクが目指すのは、カイチョーの偉業“無敗の三冠ウマ娘”だからさ。
例え相手が誰でも……全力でぶっちぎるだけだよ」
そのウマ娘は、ニッと笑みを作っていた。
「ふふ……。期待しているよ……“トウカイテイオー”」
レガシーはまだ知らない。
このトレセン学園。並びに、トゥインクルシリーズはバケモノ達の巣窟だという事を……。
フジヤマケンザンは、アニメ二期にモブウマ娘として出演はしています。
詳しくはネタバレになるので伏せますが……。
チームのアレコレには独自解釈を多く含んでいます。