悪童ウマ娘   作:囃子とも

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チーム所属のウマ娘は、レガシワールドと同時期に戸山厩舎に所属していた競走馬を参考にしています。


4R アンタレスの意味

 

 練習も終わった所で、チームアンタレスの面々も寮に帰宅するのだが。

「さて、今日の終わった事だしさ。これから、レガシーの歓迎会でもしようか?

 幸い、トレーナーの方から明日の練習は午後からにすると、許可は貰っている」

 年長者のケンザンがそう提案した。

「あ、それだったら私の実家から送られてきてるお菓子が有りますから、丁度お菓子パーティーが出来ますよ」

 ユートは右手を上げて提案した。

「やりぃ!! ユートの実家は、老舗の和菓子屋だから、羊羹とか絶品なんだ」

 タニノは分かりやすいくらいに、テンションが上がっていた。

「……非常に良いと思います」

 淡々とした様子だが、ブルボンも乗り気の様だ。

「…………羊羹」

 そのキーワードを呟きながら、レガシーはジュルリとよだれを拭った。

 

 何を隠そう、レガシーは和菓子。特に羊羹が大好物だった。

 

 シャワーを浴び、夕食も腹八分で済ませて、全員がケンザンの部屋に集合した。

「……さて、皆お茶で良かったか?」

 ケンザンが紙コップとペットボトルの緑茶を準備していた。

「いいっすよー」

 タニノがコップを全員に手渡した。

「私も持ってきましたよー」

 今度はユートが、段ボール一杯の和菓子をテーブルに広げていく。

「オレは、たぶん無いと思って飲み物は持って来たぜ」

 そう言ってレガシーはブラックコーヒーを取り出した。

「え~……和菓子にコーヒー?」

「なんだよタニー。意外と合うんだぜ?」

 タニノの反応に、レガシーは不満気だ。

「……後で試してみましょう」

 ブルボンは若干の興味を示している。

 

 全員に飲み物とお菓子が生き渡った所で、ケンザンは改めて号令をかけた。

「では……改めて。ようこそ、レガシーワールド!! 我がチームアンタレスへ!!」

「おう!! よろしく頼むぜ!!」

 全員が乾杯をした所で、ブルボンは羊羹を一口頬張る。そして、ブラックコーヒーで流し込んだ。

「……な? 結構合うだろ?」

 レガシーは聞きただすが。

「……私はお茶の方が好き。そもそも、コーヒーはあまり好きじゃない」

 ブルボンは淡々と答える。

「じゃあ、何で試したんっすか?」

 タニノは思わず突っ込んだ。

「興味本位。物は試し」

 ブルボンはそう言って、再び羊羹を一口。

(……案外面白い奴だな)

 レガシーは、ブルボンに対して最初とは違う印象を抱いていた。

「羊羹だけじゃなくて、どら焼きとか柏餅もわらび餅も有りますからね~。どんどん食べてください」

 ユートは段ボールから次々とお菓子を出していく。まだまだ、お菓子パーティーは始まったばかりだ。

 

「……そう言えばさ。トレセン学園って皆チームに入ってんじゃん。あのチーム名って、何か意味でもあるのか?」

 レガシーはふと口に出した。

「あー、そういうばそうっすね。確か、どのチームも星の名前って聞いた事あるんすけど、詳しい意味は考えた事無かったっすね」

 タニノもそれにならった。

「由来とか有るなら、私も少し興味あります」

 ユートも、そそられるようだった。

「うむ……。

 私もトレセン学園の広報で読んだだけの話だから、本当かどうかは分からないが……。

 

 そもそも、チームを組む事自体が、トレセン学園の前身である“全日本ウマ娘競技会”の時からの名残らしいんだ。

 星の名前を付ける様になったのも、当時の“全日本ウマ娘競技会”の会長が夜空に輝く一等星の様なウマ娘を目指す、と言って決めたそうだ。

 それ以来、トレセン学園と名前を変えても、星の名前を付ける伝統は変わっていないそうだ」

 ケンザンの言う話は、丸でおとぎ話を聞いている様だった。

「リギル、シリウスと言った強豪。カノープス、スピカと言った新興チーム。これらも、皆星の名前から来ているし、何かしらの意味を含んでいるそうだ」

「……じゃあ、“アンタレス”も星の名前って事か」

「ああ。アンタレスの意味は、私自身がトレーナーから聞いている。

 

 アンタレスとは、さそり座の中で最も明るい恒星の事。所謂“アンチテーゼ”と言う言葉の語源となった星だそうだ。

 トレーナーはいつだか言っていたよ。アンタレスと名付けたのは、才能へのアンチテーゼだと」

「…………」

「戸山トレーナーは、トレセン学園のトレーナーでもスパルタとして知られている。

 しかし、それはトレーナーの持論に基づいていると、私は聞かされたんだ。

“トレセン学園に入れるウマ娘は、根本的に才能が有る。後はそれを伸ばせるかどうかが、トレーナーの腕の見せ所。だからこそ、鍛えて才能を作る”とね……」

 ケンザンの言葉に、皆自然と耳を傾けていた。

「……もちろんトレーナーの課す練習量は、他のチーム比べたら相当に多い。ただ、その分アフターケアには気を回してくれるし、怪我をした時のフォローもしてくれる。

 万が一、再起出来ない程の故障だった時……。その際の進路も、親身になって世話をしてくれる。

 実際、怪我で再起出来なかった先輩達の為に、トレーナーが全国を駆けずり回って、就職先を探してくる姿を見てきた。

だからこそ、私はこのアンタレスの為に走りたい。そう思ってるよ」

 ケンザンはそう語ると、お茶を一口飲み込んだ。

 

 実際、レースで活躍できるウマ娘など、極々一握りの選ばれし者だけの領域。

その下には歯を食いしばってあがき続けるウマ娘や、志半ばで夢破れ涙ながらに田舎に帰るウマ娘は幾らでもいるのだ。

 

「……さ。湿っぽい話もここまでだ。まだまだ、お菓子が残ってる様だし。今日は思いっきり食べようじゃないか」

 切り替える様にケンザンはそう言った。

「そうっすね!! 太ったって、明日から走ればいいんっすから!!」

 それにならって、タニノもどら焼きに手を伸ばした。

 

(……華やかな部分が眩しけりゃ、それだけ影の部分は暗くなるって事か)

 

 レガシーは、ふと思いながら羊羹に口を付けていた。

 

 翌朝。

 まだ朝日が出始める位の時間に、レガシーはトレーニングウェアで寮の前に居た。

(……まぁ、練習は昼からだけど朝の内に軽くジョギング位しとくか)

 昨日ケンザンに話を聞かされたから、と言う訳でも無いがなんとなく朝から体を動かしたい気分だった。

「……あれ? レガシー?」

「ん……タニーじゃねぇか」

 軽く準備運動していると、タニノがジャージ姿で寮から出てきた。

「何してんだよ、こんな朝っぱらから?」

「そりゃ、こっちのセリフっす……」

 すると今度は。

「……タニノにレガシー?」

「ブルボンまで何してんだ……?」

「私は、朝のジョギングはルーティーンだから。貴方たちも同じ?」

「まぁ……そうっすね」

 そうすると、またまた。

「……皆、何で朝からトレーニングウェアで外に居るんだか」

「あら~……。皆さんおはようございます」

 今度はケンザンとユートが、揃って合流してしまった。

 朝市から、チームアンタレスが揃い踏みとなった。

 

「まあ、折角皆揃った訳だし。アンタレス全員で、軽くランニングと行こうか」

 ケンザンの号令に合わせて、チーム全員でジョギングする羽目になったのだった。

 

 

 その日の生徒会室。

 シンボリルドルフともう一人は、ある動画を見ていた。

「…………」

 その動画は、レガシーのトライアウト試験の物だった。

「……私が全力を出した時。彼女の意識はほぼ無かったに等しいだろう」

 引き離されても、なお食い下がろうとするレガシーの姿を、カメラはきっちり捉えていた。

「……闘争本能だけが、彼女を突き動かしていたのだろうな」

「…………ふーん」

 しかし、もう一人のウマ娘はあまり興味を示していない様だ。

 

 直線の真ん中付近から、ゆるゆると速度を落としていくレガシーは、ついに停止してしまいそのまま地面に倒れ込んでしまった。

「……君はこの走りをどう思う?」

「…………たしかにカイチョーの本気には、ボクだって着いていけないもん。気合と根性はみとめるかなぁ~。

 だけど……その子とレースしても、勝つのはボクだからね~」

 そのウマ娘は、自信有り気に答えた。

「……そうかい。ただ……一つだけ伝えておこう。

 過去に選考会を突破したウマ娘は、二人だけ存在する。

 一人は私の先輩にあたる“グリーングラス”。もう一人は“タマモクロス”。

 どちらも、G1戦線で活躍したウマ娘なのは言うまでもない……」

「…………」

「君の才能は認める。

 ただ……故に狙われる立場だという事は、重々承知しておく必要がある事は伝えておこう……。

 グラス先輩もタマモも、競り合いでは絶対に引き下がらなかったからね」

「…………ボクが目指すのは、カイチョーの偉業“無敗の三冠ウマ娘”だからさ。

 例え相手が誰でも……全力でぶっちぎるだけだよ」

 そのウマ娘は、ニッと笑みを作っていた。

「ふふ……。期待しているよ……“トウカイテイオー”」

 

 レガシーはまだ知らない。

 このトレセン学園。並びに、トゥインクルシリーズはバケモノ達の巣窟だという事を……。

 




フジヤマケンザンは、アニメ二期にモブウマ娘として出演はしています。
詳しくはネタバレになるので伏せますが……。

チームのアレコレには独自解釈を多く含んでいます。
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