勝てるかなぁ……。
レガシーがトレセン学園に入学して、月日が経過した。スパルタトレーニングを課せられても、チームアンタレスとしての活動は上々と言ったところだ。
そんなある日、アンタレスに朗報が舞い込んだ。
「……全員集まってるな」
妙に畏まった面持ちで、戸山はおもむろに口を開いた。
「何なんだよ、おっさん。改まって……」
レガシーは奇妙な雰囲気に、違和感を感じていた。
「全員、メイクデビュー戦が決まったぞ。それにケンザンも復帰戦が決まった」
チーム全員から、驚きの声が上がる。
「……マジか!!」
「おお!! やる気が出てきたっすー!!」
俄然気合が入る、レガシーとタニノ。
「デビュー……頑張りますよ~!!」
大人しい中に、闘志が漲るユート。
「……了解です」
相変わらずのポーカーフェイスのブルボン。
「…………はい」
そして、言葉少なく答えたケンザン。
一つ咳払いを入れて、戸山は告げた。
「レースをする以上、勝つウマ娘は一人だ。その一人になる為にはどうするべきか……。
俺自身は鍛えるしか無い。鍛えてウマ娘を強くする。そう思っている。
だからこそ、厳しいトレーニングをお前さん達に課している。
だが……それを乗り切ってきたお前さん達ならば、絶対に勝てる。そう信じている……」
「…………」
「皆……気合入れて行けよ!!」
「……ハイ!!」
戸山の号令に、アンタレスの心は一つにまとまった。
実際のデビュー戦ともなれば、気合が入らない訳が無い。幾ら模擬レースを経験してるとは言え、本番のレースでは勝手が異なる。
しかしだ。
アンタレスで、まず先陣を切ったのはユートジェーン。新潟でのメイクデビュー戦は二番人気。その声援に応えて、見事に勝利を収めた。
続くタニノボレロは、京都でデビュー戦を向かえる。六番人気ながら、好走を見せて二位をゲット。センターこそならなかったが、ウイニングライブのステージに立つ事となった。
そして、ミホノブルボン。中京レース場でのデビューレースは、1000メートルのスプリント戦。
スタートで大きく出遅れるも、全員を差し切って勝利すると言う離れ業を見せつける、圧巻の勝利を決めた。
ここまで、アンタレス全員が好走を見せる。加えて、レガシーは生まれ故郷の北海道でデビュー戦に挑む。
気合が入らない訳が無いのだが。
パドックを通り抜け、レースコースへ出る。
「……うっし」
他のメンバーに負けてたまるかと言う気持ちが、強く出ている。
と言うか、出過ぎている。
客席からレガシーを見つめる戸山は、その雰囲気をすぐに察知していた。
(……アイツ、完全に入れ込んでるな)
元より、気性が荒く負けん気が強いレガシーは、冷静さを完全に失っていた。
レース本番。レガシーも、出場者もゲートイン完了。
そして……スタート。
(……やべぇっ!!)
気合が乗りすぎて空回りしたのか、レガシーは見事に出遅れていた。
最後方から、追い上げる形でレースを展開。
(……くそったれ!! 待ちやがれ!!)
スタートの失敗を取り戻そうと、ペース配分を無視して全力で前に追いつこうとする。所謂“掛かり”と呼ばれる状態だ。
レガシーが幾らハードなトレーニングをしていたと言っても、相手も実戦で戦える程には鍛え上げてある。そう簡単に追いつける相手でも無いのだ。
3コーナーまでに中段グループには追いついた。しかし、4コーナーから全員スパートをかけ始める。
(……まだペースが上がるのかよ!?)
ここまで、ほぼ全力で走り続けてきたレガシーのスタミナは、ガス欠寸前だ。
再び前方の背中がジリジリと離れ始める。
(タニーも、ユートも、ブルボンも……。皆デビュー戦は決めてんだ……)
重く感じる足で地面を蹴り上げる。目一杯鼓動を早めている心臓に鞭を打つ。
(……オレだけ躓いてたまるかよ!!)
例えスタミナが尽きても、気力だけでレガシーは走り続ける。
ラストの直線。レガシーは、その末脚で前方との差を縮め始める。
(……届けぇぇぇぇ!!)
限界以上のスパートで、追い抜きにかかった。
(……どうだ!!)
もつれる様に、ゴールラインを駆け抜けた。
無我夢中で走り続けた。追い抜いた手応えは感じていた。
しかし。結果を表示する掲示板は、無機質にレガシーのゼッケンを点灯させていた。
「…………」
結果は、僅かな差の四位。ライブのステージに立つ事は出来なかった。
控室に戻る通路を歩いていると、戸山がレガシーを出迎える様に立っていた。
「……おっさん」
「……スタート出遅れ。それを取り戻そうとして、ペース配分を無視した走り。そんな走りで勝てる程、トゥインクルシリーズは甘くない」
「…………」
レガシーは思わず目をそらした。
「……普通、そんな走り方だったら中盤で潰れて、シンガリ負けするパターンがオチになる。
だがな。お前さんは、四位まで突っ込んできた。
スピードもパワーもスタミナも根性も、十二分。後は、レースの走り方を覚えるだけだ。
またハードなトレーニングが始まるから、覚悟しとけよ」
そう言い放ちながら、戸山は口元を二ッとさせていた。
「……おう。わーったぜ」
レガシーは静かにそう答えた。
ルーキー達のデビュー戦が終わると、今度は一年先輩であるフジヤマケンザンの復帰戦が待ち構えている。
アンタレスのトレーニングも、自然と熱を帯びる。
「……ふぅ」
コースのランニングも終え、一息ついてドリンクを飲むケンザン。
「しっかし、ケンザン先輩も気合入ってるっすねー」
タニノは並々ならぬ気迫を感じ取っていた。
「……オレらもケンザン先輩に着いていくので精一杯だわ」
レガシーでも、そのトレーニング内容はハードだと感じていた。
「……次は2200メートルのプレオープンクラスだけど、その次の嵐山ステークスは3000メートルだからな。
二週連戦だけど、ここを二連勝すれば……菊花賞に参戦できるんだ。気合が入らない訳が無いさ」
「……菊花賞に参加っすか!?」
タニノは大きなリアクションを見せる。
「クラッシックは、ウマ娘にとっちゃ夢の舞台……」
レガシーは、今一つ現実味が無いといった様子だ。
「おいおい。まだ、出れるって決まった訳じゃないからな。
……ただ」
その瞬間、ケンザンの表情は少し強張ったと、レガシーとタニノは感じた。
「……ただ?」
「私は、元々脚部がそんなに強い方じゃない。そのお陰でデビューもクラシッククラスになってからだったし、たった二戦しただけで脚部の炎症で半年間を棒に振ったんだ」
「…………」
「王道のクラシック路線の中で、菊花だけは何とか間に合いそうなんだ……。
チャンスが有るなら、何としても参戦したい……。それだけの話さ」
ケンザンはそう言いながら、強張った笑みを作っていた。
「……でも、今年のクラッシック路線となると」
レガシーの脳裏に、ふとあるウマ娘が過った。
「トウカイテイオー……か」
ケンザンはそう口に出した。
「……今年のクラシック戦線で、無敗の二冠ウマ娘っすね。
あんなスピードで走るウマ娘、初めて見たっすよ……。あれこそ、天才って言葉が似あうっすよ」
タニノはそうぼやく。
「バカ言え。何が天才だっつーの……」
レガシーは反論とばかりに、口を尖らせた。
「……確かに彼女の走りは天才的だ。
だからと言って、じゃあ勝てません等と言うつもりもない。仮に、同じレースに出るとしても、私は一歩も引く気はない」
そう断言したフジヤマケンザンの目つきは、刃物の様に研ぎ澄まされていた。
話し込んでいると、別のメニューをこなしていたブルボンとユートが合流した。
「ケンザン先輩。それに二人も。センセイが部室に来てくれと」
ブルボンは伝言を頼まれているようだ。
「なんでも、ケンザン先輩の次のレースの事で話があるんだって」
ユートも戸山から直々に言われているようだ。
部室では、戸山が既にパソコンとモニターをスタンバイさせていた。
「……よし。全員来たか」
チーム員皆がパイプ椅子に座った所で、戸山はある動画を再生した。
「これは……今年のダービーですよね?」
ユートの一言に、戸山の首は縦に動いた。
チーム全員が、動画を食い入るように見つめる。
そして、レースも後半へと差し掛かる。
「……ここからだ」
戸山が呟くと同時に、一人のウマ娘が一気に先頭へと踊り出る。
一気にリードを広げて、ぶっちぎりのトップでゴールラインを駆け抜けていった。
優勝したウマ娘の名は、言うまでも無くトウカイテイオーだ。
ここで、戸山は動画を停止した。
「……お前さん達。この、トウカイテイオーの走りを見てどう感じた?」
続けざまに、メンバー達にそう聞きただす。
「……どうって言われても……ただ速いとしか言えないっす」
タニノは、ただその走りに圧倒されるばかりだ。
「あんな走りをするウマ娘……とても同じウマ娘と思えません……」
ユートも同様に、トウカイテイオーの走りに呆然としていた。
「…………」
ブルボンは何かを思案しているのか、一言も発さない。
「……確かにありゃ速えーわ。でもよ……」
レガシーは少し間を置いてから、こう言い放った。
「……気合で並びかけりゃ、何とかなるんじゃねーか? こういう天才肌の奴って、何か競り合いに弱そうなイメージ有るんだけどよ?」
レガシーの言う事のデカさは、G1級だった。
「ほー……。レガシーも中々面白い事を言うな。ブルボンはどう考える?」
戸山に言われ、ブルボンは少し考えてから答えた。
「……その並ぶ速度が速いから、そもそも競り合う事が難しい。ただ、レガシーの言う事も的外れとも言えない」
ブルボンは、肯定とも否定とも言えない意見を述べる。
「……菊花賞は3000メートルとレースの距離が長いです。そう考えると、ダービーの時と同じようにスパートをかけるのは難しい筈です。
ケンザン先輩がトウカイテイオーと同じスピードで走るのは難しいとしても、仮に2600メートルを走った後で同じ末脚は出ない筈。
後半のスタミナ勝負に持ち込めれば、トウカイテイオーと競り合えると思います。そうなれば勝機は有るかと……」
ブルボンはそう考察していた。
「……やはり、結論は同じようだ」
ケンザンは、フッと笑みを溢していた。
この辺は、アニメ2期の2話でやってた辺りです。
フジヤマケンザンとトウカイテイオーは同期の競走馬だったりします。