個人的には、若手ながらスーパーフォーミュラーで優勝するくらいすごい事だと感じています。
『やりました!! フジヤマケンザン!! 六番人気の伏兵が、果敢な逃げで勝利を決めました!!』
実況が高らかに、勝者の名を叫んだ。
ケンザンはアナウンスを受け、観客たちに向けて控えめに手を上げて応える。
「やったな!!」
「さっすがケンザン先輩っす!!」
応援に駆け付けていたレガシーとタニノは、我が事の様に喜んだ。
「……まずまずの走りだ。だが、まだ一つ目だぞ」
二人に向け、そう釘を刺す戸山。
プレオープンクラスの2200メートルを制したと言っても、まだ来週には重賞でのレースが控えている。
ケンザンの表情に安堵の色は無い。
ウイニングライブのセンターを務めながらも、張り詰めた雰囲気が醸し出されていた。
その夜。
同じ宿で、四人は夕食を取る。ささやかな祝勝会と言ったところか。
「ケンザン。まずは、復帰戦で一着……おめでとう」
「……ありがとうございます」
戸山に祝いの言葉を述べられても、ケンザンの表情はまだまだ固い。
「センパ~イ……折角の一着なんだから、もっとパーッと行きましょうよ~」
タニノは、能天気に言うが。
「……そう言う訳にもいかないさ。なんせ、まだ来週の嵐山ステークスも控えてるんだ。次は3000の長距離だし、今回みたく易々と逃げる事は出来ないよ」
ケンザンは既に、翌週のレースの事で頭が一杯だ。
「う~ん……確かにそうっすけど」
タニノは腕組みをしながら唸ってしまう。
そんな中、わき目も振らず黙々と食に有りつくレガシー。
「おい、レガシー……。食ってばっかじゃなくて、ケンザン先輩にこう……何か言うべきっすよ」
タニノに話を振られ、レガシーは茶碗と箸を持ったまま視線を送る。
「先輩なら別に大丈夫だろ?」
レガシーはあっけらかんとした態度で、そう言い放った
「かぁ~……気楽に言うっすね」
「だってオレより速いんだぜ? だったら負けやしねーって」
その一言に、一同は思わず吹き出してしまう。
「……くっくっく。いう事だけはG1級だな」
戸山は、あまりに過剰な自信に舌を巻く。
「……フフッ。そうだな……。気持ちだけでも勝つつもりで行かなきゃ、レースは走れないさ」
ケンザンも初めて、頬を緩ませた。
「そう言うセリフは、レースで勝ってからいうもんっすよ……」
「アホ言え。次からは連勝街道だっつーの」
呆れかえるタニノをしり目に、レガシーは再び食事を掻っ込んだ。
そして、翌週。
再び京都レース場での重賞、嵐山ステークス。ここで勝てば、菊花賞への参戦が可能となるだけあり、ターフに登場するウマ娘達は気合が漲っている。
当然ケンザンも、例外ではない。先週の勝利が効いているのか、このレースは一番人気に推されている。
(……怪我が完治してから、間違いなく一番走り込んできたのは私なんだ。
……勝てる。否……勝つ!!)
観客席で、戸山はケンザンの様子をジッと見つめていた。
(……ケンザン。己を信じて走れ。お前が積み重ねてきたことは……間違いじゃない)
祈る様に、念を送っていた。
選手全員がゲートに入る。
そして……スタート。
ケンザンは前目に付ける先行策で、周囲を窺う。
(……二……三人は逃げを打った。だけど、このレースは長い……逃げの作戦はリスクが多すぎる)
それでいながら、冷静にレースの流れを読んでいた。1コーナーを五番手で通過する。
まだまだ、長距離の序盤の為レースに動きは見られない。裏の直線でも各ウマ娘も様子を見ていると言った所。
(……まだだ。焦るな。足を貯めるんだ)
逸る気持ちを抑えながら、ケンザンは冷静にレース展開を読んでいく。
レースは後半へと差し掛かる。いよいよゴールまで1000メートル。
(……逃げていた子達はバテ始めてる。仕掛けるなら今だ!!)
ここまで冷静なレース運びをしてきたケンザンは、ここで仕掛ける。
集団から抜け出して、前方にジリジリと忍び寄る。
(よし……捉えた!!)
直線終わりで一人目を捉え、4コーナー出口で二人目をオーバーテイク。
(……あと一人!!)
最後の直線。ケンザンは全力のラストスパートで、トップに迫りくる。
だが、そう簡単に行かないのが、本番のレースなのだ。
「……っ!?」
ケンザンがトップに並びかけた瞬間、更に後方から追い上げるウマ娘が居たのだ。
(……私より、更に後ろで脚を貯めていたのか!!)
一気に並ばれると、そのまま後塵を拝する。その背中が遠ざかっていく
(畜生……)
ケンザンは二番手でゴールラインを通過。
一位とは差を付けられた。それでも、三位とも差は付いている。
「……悔しいな」
作戦も走りもケンザンはベストだった。それでも勝てるウマ娘は、一人なのだ。
控室への通路。ゆっくりと戻るケンザンは、待ち構えていた戸山の姿を見つけた。
「……トレーナー」
「お疲れさん……良い走りだったぞ」
「…………」
声をかけられても、ケンザンは何も答えない。
「ケンザン……胸を張れ。
……これでレースは終わりじゃない。例えクラッシックに出れなくても、まだレースは続くんだ。
そんな情けない顔で、ライブステージに立つ訳には行かんだろ?」
「トレーナー……それでも、私は悔しいです」
ふり絞る様に出した声は、かすれる様に小さかった。
「……お前さんは最高の走りをした。
今回勝てなかったのは、お前さんの走りが悪いんじゃない。フジヤマケンザンを勝てる様に指導できなかった、この俺に責任がある。
だから……泣くな」
そう言われ、吹っ切れた様に目元を拭い、ぎこちない笑顔を見せるケンザンが居た。
「……はい。
これからも、ご指導の方よろしくお願いします!!」
翌日。
レース明けにも関わらず、ケンザンはアンタレスの部室へと顔を見せた。
「ユートか。おはよう」
「あれ? ケンザン先輩? 昨日レースだったから、今日は休みの筈じゃなかったんですか?」
部室に一番乗りしていたユートは、驚きを隠せない。
「いいさ。昨日負けて菊花賞への参加は不可能になったからと言って、まだまだレースには参戦するんだ。
普段よりは軽めの調整位にするよ。それに、体を動かしていた方が気はまぎれるからね」
「そう……ですか」
ユートはぎこちなく笑うしかなかった。
ケンザンのレースから二週間後。
アンタレスのトレーニングは、相変わらずのスパルタぶりだ。
レガシーはブルボンとの並走トレーニングの真っ最中。
(……くそったれ。また、ちぎられた……)
しかし、やはりブルボンにどうしても途中から引き離されてしまう。
「…………ふぅ」
並走を終えたブルボンは、大きく深呼吸をして息を整える。
「レガシーも懲りないっすねー。毎回ブルボンと張り合ってる割に、全然ぶっちぎられてるじゃないっすか……」
タニノは呆れた様に呟く。
「アホ言え……。同じウマ娘だし、同じ二本足だろーが……」
呼吸を整えながら、レガシーは反論とばかりにまくし立てる。
「大体、オーバーワーク過ぎてるっすよ……。そんなんだから前の新人戦も二位で……」
「タニー!! てめぇそれを言うんじゃねぇ!!」
そうぼやいたタニノに、レガシーはすかさずヘッドロックをかました。
「アタタタ……ッ!? ギブッ……ギブッ!!」
タップするタニノだが、レガシーは容赦なく頭蓋骨を締め上げる。
ちなみに、レガシーのデビュー二戦目は大差をつけられた二位に終わっている。その上、タニノはデビュー二戦目で見事に初優勝を上げているので、僻みもそれなりに入っているだろう。
「二人とも……。遊んでないで、ちゃんと水分を補給しないと倒れますよ?」
ユートはそう言いながら、スポーツドリンクを差し出す。
「ブルボンさんも、どうぞ」
「……ありがとう」
取っ組み合ってる二人をしり目に、ブルボンは受け取ったドリンクに口を付けた。
そんな中、ケンザンだけはある一点を見逃していなかった。
(……ブルボンの実力は、アンタレスの中でもずば抜けてる。彼女と並走するのは私も本気で走らないと厳しいのだけれど……。
レガシーとの並走だと、ブルボンも息を整える様になってきているか……)
着実にレガシーが、実力を身に付けている事を見抜いていた。もっとも、足りない部分も察しているのだが。
“秋の日はつるべ落とし”と言う諺がある様に、日が落ちて始めるとあっという間に真っ暗になる。
アンタレスの面々が部室に戻るが、いつものプレハブは真っ暗のままだ。
「……あれ? おっさんが居ねーな」
「おかしいっすね。この時間は、大体部室に居るんすけどねー」
若干の違和感を覚える、レガシーとタニノ。
「皆が走り込んでる時に、電話をしていたよ。その後に、校舎の方へ急いで向かって行っていたけど……」
ケンザンは顎に手を当てながら、そう答えた。
「……では、少しセンセイの事を待ちますか」
「そうですねー。そうしましょう」
ブルボンの意見に、ユートは同意した。
十数分もすると、部室に戸山が戻ってきた。
「……お? 全員残ってるか。ちょうどいいな……」
戸山は改まった様子である。
「どうしたんだよ、おっさん?」
「……どうかされましたか?」
立て続けに聞く、レガシーとブルボン。
「実はな……。
ケンザンに菊花賞に出場要請が出た。その話を聞いてきたんだ」
フジヤマケンザンも戸山氏が調教した競走馬の中でも、好成績を残したのですがクラッシク戦線までは怪我に泣かされていました。
個人的には、巨乳のイメージです(笑)
割と体格に恵まれた競走馬は、ウマ娘化に伴い巨乳になっている気がします。